第61話 物欲探知機が現れた
光り輝く画面に表示されていたのは、茶々子の求める身長+一センチチケットだった。
茶々子の追い求めていた物の引換券が、特に演出もなくハラリと発行される。
「うわあああああ! やったああああああ!!!」
茶々子は目にも止まらぬ早業で引換券をひっつかむと、強く強く抱きしめて。
いつもは半目になっている瞳を見開き、喜びの叫び声をあげた。
その喜びようを見た周囲の人々は、微笑ましそうに祝福の拍手を送っている。場所が場所なのでよくあることなのかもしれない。
茶々子が早速景品を交換しようと、交換所の列に並んだ次の瞬間――彼女とレナの姿は消えていた。
人が消えたというのに、周囲の人々は騒ぐこともなく日常へと戻っていく。
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どこともしれない荒野にて。
急な状況の変化に対して目を鋭くさせた茶々子が周囲を見回せば、レナと彼女以外には誰も存在しない荒野にポツポツと黒い影が差し――二足歩行の黒いワニと雑魚悪魔の集団が、彼女たちを囲うように現れた。
「何事です……?」
「簒奪の魔法少女よ。その引換券を捨ててはくれまいか? 対価はいくらでも出そう」
「お断りなのです。どのような対価も引き換えには、ならない!」
悪魔達の申し出を勇ましく拒否する茶々子。
彼女が強く強く握っている紙切れこそが、彼女の戦っていた理由であるのだから当然の返答である。
「貴様が目的を達成した先に、未来がないとしてもか?」
「未来が……無い……?」
いぶかしむ茶々子の前に一体だけ進み出てきた黒いワニ。
どうやら彼こそがこの集まりのリーダーのようだ。
ワニが大仰に両手を広げてみせながら名乗ると、周囲の雑魚悪魔達も同調して口々に好き勝手な主張をする。
「我らは運命の調整者。未来を見つめ世界を偶然の破滅から守っていた」
「我らは時には助け、時には邪魔をして未来を調整してきた」
「貴様は我らが何度も、何度も何度も何度も邪魔をしても、目的を諦めなかった」
「貴様が目的を達成すると、未来を照らす灯火が消えてしまうのだ」
「どうか世界のために、|目的を達成してくれるな《あきらめろ》」
「頼む」「頼む」
「「「世界のために」」」
頼んでいるように見えて、その実自らの都合を押しつけているだけな悪魔達の願い
それを聞いた茶々子は平坦な声で「なるほど、よく分かりました」と言った後、続けて激怒しながら断言する。
「お前らの都合なんて知ったことじゃないのです!」
「我らの都合ではない。世界の……」
「さっきから聞いていれば、世界だ! 運命だ! 未来だ! とうるさいですね! そもそもの話、私の邪魔をし続けていたというお前達は、 私の敵なのです! この物欲センサー共! てっテシュっ! テシュッカ! ……ッ……ッ! 【テスカトリポカ】ッ! ガチャレーヴァティン! ぶっ飛ばしてやりますよ! 手加減無しの全力で!」
クルリと回り一瞬で変身した茶々子が、噛みながらも宣言すれば周辺に漆黒のアーマーが展開する。
同時に捻られたガチャレバーの裏には黒曜石の鏡が現れて、鏡から紫色の煙が噴き出した。
周囲の悪魔達は、暴れ狂うアーマーと強烈な勢いの煙に吹っ飛ばされる!
アーマーは手当たり次第に地を裂き、拡散する煙が悪魔達の体を荒野ごと蜂の巣にしていく。
「やむを得まい……。貴様の仲間を人質に取らせてもらう!」
激怒した無双の魔法少女を前にして、卑怯にも人質を取ろうとする悪魔達。
吹き飛ばされた悪魔の内一体が素早く復帰して、少し離れた場所に立っているレナに迫る。まさかこのために巻き込んだのであろうか。俯いたままである為に彼女の表情は見えない。
協定による人質戦法の禁止に縛られていないということは……。
どうやら運命の調整者を名乗るだけあり、協定締結前の古い悪魔達だったようだ。
何らかの方法でガチャマシンの強力なセキュリティーを抜いていたりと、紛らわしいことに雑魚悪魔のアバターを使っているが、全員が上位悪魔である事は間違いないだろう。
しかし、迫る魔の手は。なんとレナの振るった剣に切り払われた。
顔を上げたレナの目が青く輝く。
その手に握られた剣は青白いオーラを纏い、純白の刀身には曇り一つ無い。
「おいおい? 大当たりの大成功じゃねぇか、運が良すぎるだろ茶々子!」
「まさか、こんな連中が古い悪魔だったなんて……ちょっと意外なのです。まぁ、物欲探知機相手に手加減はしませんけど、というか【テスカトリポカ】は威力の調節が利かないのですが」
ニンマリとしたレナの声に、チャコは先ほどまでの激怒は何だったのかという平静さで返す。レナは一瞬でファンシーな赤い鎧を身にまとい。チャコの背後では、紫の煙が龍の形を成し、獲物はどこかと荒れ狂っている。
レナは魔法少女だったのだ!
レナの剣に切り裂かれ震えていた悪魔が、叫び声でレナの正体を断定する。
「その刃の輝き! この魂を裂く傷! 剣聖の魔法少女か!?」
「なぜ……。いや! そんなことはどうでも良い! 早く! 早く逃げなければ!」
「寂しいことを言ってくれるなよ? みんなも待ってるんだからさ! 【華子】【アンジェ】【ソフィア】行くぜぇ! 『魂の聖剣』!」
レナが名を呼ぶ度。
純白の剣には赤、青、黄と色が継ぎ足されて、混ざり合い。
魔法を宣言すれば、周辺に虹色の光を放つ!
剣を捧げ持ち、懐かしげに光を見つめる彼女。
その様子は剣の放つ強烈な光に反して、自然体。
親しい友と出会ったかのように、レナはニヤリと笑い、両手で剣を構えた。
不可視の重圧に荒野はひび割れていく。
「せっかく捕まえたのですから、逃がすわけがないのです! お前達みたいな奴らが残っていると、また面倒事を起こしそうです! 実際に、いままで散々邪魔をしてくれていたみたいですから! けして、けっしてガチャの邪魔をしていた恨みではないのです! 正々堂々と最後まで戦え! 【悪魔の技】! 戦士の闘技場!」
チャコの宣言に荒れ狂っていた龍は長く長く姿を変えて、魔法少女達と悪魔の周辺を取り囲んでしまった。龍の囲った円内に紫電が奔り、想像力の力場が形成されていく。
上位魔法少女の強大な想像力で満たされると、転移のような繊細な術式は乱されてしまうのだ! 精霊城に使われていた転移阻害みたいなモノである。
円内は逃亡を許さない牢獄と化した。
魔王からは逃げられないということである!
ポン太の考えた茶々子の探索者学園生活は、古い悪魔に対する罠でもあったのだ……!




