第56話 ガチャと少しの協力味の為に戦え!(1)
真夜中。月明かりの照らす寮内の寝室にて。
二つ並んだベットの一つから抜け出してきたのは、寝ぼけ眼をこする茶々子だ。
彼女がベッドで熟睡しているレナをジト目で見ながらリビングへ移動すると、テーブルの上で待っていた巨大なハムスター、ポン太から声をかけられた。
「準備は良いポン?」
「あい……」
言葉少なめに会話を切り上げた一人と一体は、次の瞬間にはその場から居なくなり、寮の部屋には安らかに眠るレナだけが残された。
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月明かりが薄雲に隠れた深夜。
どこかの海上にある赤い鳥居の上に現れた茶々子は、素早くその場でクルリと回転するだけというガチャの低レア演出のごとき動きで、その姿を青いシスター服姿の魔法少女チャコに変えた。
チャコはいつもの紫の半目で、予想外の現状に対して文句を言う。
「靴下が濡れたのです……」
「波の音もうるさいポン」
寄せては返す波の音に対して、クリクリとした漆黒の目を茶々子と同じく半目にしたポン太は、ピンクの前足で指を鳴らすことで周囲の雑音とチャコの靴下の水分を消しつつ、こんな場所へ転移した理由を語る。
「精霊城が失われている関係で、この通り目標地点まで一発で転移できないから、何度か変な場所への転移を繰り返すポン。その間に依頼の詳細をもう一度説明しておくポン」
「靴下を乾かしてくれて助かりますポン太。今回は確か……鬼謀さんからの頼みでしたか?」
次の瞬間、茶々子達の居る場所は険しい山々の山頂になっていた。
雄大な山々の山頂からは、夕日に照らされる高層ビルやポツポツと光る民家の明りが遥か遠くに見下ろす事ができ、周囲に流れ行く白い雲もその場の高さを示している。
「その通りポン。今回の仕事は鬼謀の魔法少女からの助力要請ポン。一応は《《執行任務》》扱いになっているから、魔戦銃のエネルギーパック代稼ぎにはなるポン」
「借りを返す機会が早く来て良かったのです」
一度目でで慣れたらしく周囲の変化をあまり気にしていないチャコは、先ほどまでベッドにいたので少し固まってしまっていた体を解すように準備体操をする。
そんな彼女の様子に遠慮をやめたのか即座に次の場所へ転移すると、周辺は激しい吹雪の吹き付ける雪山となっていた。茶々子とポン太の片側だけが白く染まっていく様子は、吹雪の激しさを物語っている。
「やる気があるのは、良いことポン。……次で到着するポン。海上での戦いになるから、【レヴィアタン】を推奨するポン」
「うぐぐ……。【レヴィアタン】!」
頭を振って雪を払った茶々子は全身を震わせて雪を払うポン太のオススメに従って、腰の黒いカードケースから一枚のカードをなんとか引き抜き――掲げながら宣言した。
宣言と共に青い全身鎧を身に纏ったチャコは不思議な力で守られているらしく、吹き付ける雪が積もることは無くなった。ポン太はその場から姿を消して、ちゃっかり難を逃れている。
次の瞬間、チャコは燦々《さんさん》と輝く太陽の下に現れていた。
煌めく海に青い空と白い雲、白で統一された建物達。観光地っぽい場所ではあるが、不思議なことに真昼なのに人が誰も居ない。
周囲を見回して小首を傾けるチャコにポン太が説明する。
『危険だから住民や観光客は避難済ポン。このまま海上を進んで迎え撃つポン』
「なるほど……。ガチャレーヴァテイン! 【悪魔の技】! 海神の一撃!」
周囲を気にする必要のなくなった茶々子が慎ましい胸元に下がっている金色のガチャレバーを掴み連続で宣言すれば、ガチャの裏側から鞭が伸び、巨大化して海へ一直線。その姿はまるで海へ飛び込む巨大な龍だ。
海上をかき分けて進んでいく龍のような巨鞭の上に飛び乗ったチャコは、時々ガチャレーヴァテインを振るうことで海上を高速で駆ける。
『簒奪さん、来てくれましたか』
「お待たせです鬼謀さん」
そんな彼女の胸元から光と共に飛び出した赤色の精霊スマホから、鬼謀さんの落ち着いた声が聞こえてきた。
突然の事態にも慌てることなく対応したチャコは、自分と併走して飛んでいるスマホへ普通に返事をする。これもまた精霊スマホの持つ機能の一つであるフリーハンド通話だ。思念入力の要領で通話可能なのである。
『……そちらの方面へ漏れてしまった敵がいるので叩いてください。外観は白い十字架、直射術式を使ってきます。高速で飛行するので注意してください。敵の数三』
「了解です。【レヴィアタン】のままだと素早い相手に難がありましたが、最近手に入れたちょうど良い奴があります。ポン太! ハープーンを出してください」
『コイツを使うポン!』
快く要請に応じたチャコはポン太に出してもらった三連の返しがついた槍を握りしめると、遥か遠くから突っ込んでくる真っ白な十字を睨み、大きく振りかぶって投げつけた。
「行って――来るのです!」
ハープーンは青い軌跡を残して海上を吹っ飛んでいく。
その軌跡は重力を無視したように海面と平行であり、あまりの速度に衝撃波が発生しているのか、通り過ぎた後の海面が切り裂かれていく。
「「「上位光学術式」」」
突然現れた存在を外敵に認定したらしい白い十字達は散開すると、別々の角度から真っ白な閃光――貫通力の高い上位術式を同時照射した。
迫り来る白光を槍先から展開した青い刃で易々と貫いた三連の返しがついた槍は、ちょこまかと逃げようとする白い十字の一つを追尾し――破砕した。
標的を討ち果たし満足げにその場で滞空した三つ叉の槍は、その性能の通りにチャコの元に返ってくる。その物々しい刃先には青い刃を展開したままである。
『あっ、悪魔を標的にする特性が暴走しているっぽいポン』
「ええ……」
想定されていない持ち主に牙をむいたUR装備が一直線に帰ってくる。




