第53話 ガチャと少しの関心味の為に試せ!
学校ダンジョン第三階層。点々と存在するガス灯の照らす墓地にて。
巨大な山羊の頭部から手足の生えた悪魔もどきの魔物が、明るく照らされた場所を目指して進んでいく。
その先に待ち受けるモノを知らない悪魔もどきは、羽虫が電灯に集まるように突き進む。
ついに明かりの出所まで到着した悪魔もどきが墓の影から飛び出すと、三本の青白い閃光が彼を歓迎した。
元ネタの雑魚悪魔アバターと違い耐えられなかった悪魔もどきは、体を黒い砂に変えて散っていく。
後に残された魔石は、体を赤く光らせながら高速で駆け回るチエが回収した。
青白い閃光を放ったのは、車内で魔戦銃を構えた茶々子だ。
その左右には、ゴブリンとデブ猫が窓枠から顔を覗かせている。
ゴブリンは光り輝く丸盾を掲げており、これが悪魔もどきを引き寄せた光源である。丸盾は光りっぱなしで、薄暗い第三階層では大変に目立ちそうだ。
敵から寄ってくるので暇そうなデブ猫は、繰り返される一方的な戦闘をあくびしながら観戦している。
「中々良い感じに狩れました。ゴブリン、もう良いです」
「ゴブゥ」
茶々子に言われたゴブリンは光り輝く盾を逆さまにしてザルに乗せた。
竹製のザルは盾にフィットしており、隙間から光を漏らすザルの照明に早変わり。
光源が遮られたので、周囲を照らすのはガス灯のぼんやりとした明かりだけとなり、光を目指す悪魔もどきで少々騒がしくなっていた第三階層は、元の様子に戻っていく。
魔石を回収して戻ってきたチエは盾が乗せられたザルを撫でながら、感心する。
「本当にピッタリ」
「ハズレのガチャ景品にも使い道があって良かったのです」
ゴブリンはザルON盾を嬉しそうに眺めている。
分かりやすい魔法の装備が欲しくて輝く盾を譲ってもらった彼的にも、これはこれで良い感じらしい。見る方向を変えたり、手をかざしてみたりとご満悦である。
「大漁だね」
「そろそろ行きますか? ガチャへ!」
ゴブリンを横目に拾ってきた魔石を戦利品箱に放り込んだチエは、ジャラジャラと山になっている魔石に目を細めた。
魔石の山を前にした茶々子も、両手を握りしめてリベンジに燃える。
ポン太の持つ紫の精霊スマホから、特徴的な声が聞こえてきた。
:少々危険だが、火力さえ有れば入れ食い状態だな。悪くない手だ。
:おじさんとしては、他の生徒さんが心配だなぁ。
:デーモンヘッドは光に夢中みたいだからな。奇襲をされなくなる分、安全だ。
:へ~あの魔物、そんな名前なんだ~。
「光に集まってくるなんて虫みたいな奴らポン」
ポン太から辛口な評価をうけている悪魔もどき、デーモンヘッドであるが、彼らは仲間の放った火球に集まる厄介な性質を持っている危険な相手だったりする。
今回はその性質を逆利用されてしまったので、魔戦銃を構える茶々子の前に飛び出すという、飛んで火に入る夏の虫になってしまった。
大漁の魔石に期待大な茶々子達を乗せた車は、薄暗い墓場の第三階層を点々と照らすガス灯沿いに進んでいく。
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三階層の薄暗い墓地を点々と照らすガス灯。
それらを辿り最後の一本に到着した茶々子達を待っていたのは、大口を開けた下り階段だった。
奥を見通せない闇は人間の本能的な恐怖を刺激するが……。
ここにいる純粋な人間は歴戦の魔法少女である茶々子一人だけなので、何の問題も無い。
しかし問題は別のところにあった。
下り階段は……車が入れるほど広くなかったのだ。
「先へ行くには、車から降りる必要があるポン」
「小さくできるなら……。車を半分にすれば、行けませんか?」
「タイヤも小さくなるから、階段で車の下側がこすれるポン」
「なら仕方がないのです」
「異議無し」
荷物を持った茶々子達が車から降りると、ポン太が車の裏側にあるボタンを押してミニチュアサイズに戻してみせた。
ポン太はそのままミニカーを精霊スマホの荷物収納ストレージに回収する。
精霊スマホはRPGのアイテムボックスじみた機能も持っており、精霊や魔法少女に大変人気なアイテムなのだ。
魔法少女として活動している時は茶々子も便利に使っているのだが、今は使用を自粛しているために長い槍を重そうに持ちつつ、精霊スマホを見せびらかすポン太にジト目を向けている。
「すごい便利」
「ポン太、私の槍も持って欲しいです」
「ダメポ~ン」
胸を張ってチエからの称賛を受けたポン太。
彼はピンクの前足をチッチと振りながら、流れるように差し込まれた茶々子のお願いを拒否した。
「むぅ。……ゴブリン、階段の先を照らして欲しいです。さっさと通り抜けて、もう一度車に乗りますよ!」
「ゴブ!」
茶々子は仕方なさそうに槍を構えると、ゴブリンに先行して貰いながら暗い階段を下っていく。
階段の先は光の灯されていない石造りの通路となっており、第一階層を暗くしたような場所だ。
その後をチエがついてくれば、先頭にゴブニャンライダー、その後ろから二人の槍持ちが援護するという新たな隊列が完成した。もし火炎弾が飛んできても、茶々子がスキル『聖なる血』のドリンクサーバーで壁を出すので、最前列のゴブリン達も安心だ。
先行するゴブリンはデブ猫に騎乗しつつ、光る盾で真っ暗闇を切り開いていく。
しかし茶々子の槍が頭上でユラユラと揺れており、気が気では無さそうだ。
ギラリと輝く穂先は、自らの重さで地面に埋まるほどの鋭さを披露していたので、持ち主にその気が無くても、刺されればタダでは済まないだろう。
「茶々子、もう少し高めに構えたほうが良い。ゴブリンに刺さりそう」
「こうです?」
「良い感じ」
その様子を見かねたチエが助け船を出したお陰で、頭上以外にも気を配れるようになったゴブリンが暗い通路の先に何かを発見した。
「ゴブ!」
第三階層の再奥には大きな扉があり、まるでボス部屋の前だ。
先頭を進むゴブリンが固く閉じられた扉に手を押し当てると、デブ猫も体で押すことで扉を開く手伝いをしようとする。
しかし扉は見た目ほど固く閉じられていなかったらしく、扉を開けようとした力はそのまま推進力となり、ゴブニャンライダーは部屋の中へ突っ込んでいってしまった。
部屋の中は明るいらしく、通路の闇は開け放たれた扉から差し込む光に切り裂かれ、残された茶々子達のぽかんとした顔を照らす。
ゴブリンを追い部屋に入った茶々子達を待っていたのは、長い金の髪を背に流した赤い目の少女。
髪型は違うがチエをそのまま大きくした様な少女が、広い部屋の中心で待っていた。
勢い余って少女へ突っ込んでいったゴブニャンライダーは、三叉槍で器用にデブ猫ごと地面に押さえつけられて、すでに無力化されてしまっていた。
二匹を無力化した少女の視線はチエに集中しており、どうやら彼女に用があるらしい。
「まさか本当に君が探索者学校にいるなんて、純粋な人に比べると戦いへの興味は薄いはずが……。大変に興味深いのね」
「あなたは誰?」
「我はアルティ。君の片割れなのね」
「私はチエなのね」
「真似するんじゃないのね!」
「ごめん……ところで片割れって何?」
「わかれば、いいのね。片割れは片割れなのね。生まれる前の君と混ざった精霊が、我なのね」
「あなたが私の成長が遅い元凶!?」
胸元に手を当てながら答えられたチエは目を見開いた。
そしてアルティと名乗った少女を頭のてっぺんからつま先まで観察すると、険しい目で睨む。
「私と違って平均くらいはある。不公平」
「当然の差なのね。混ざった時点の我は、すでに十年ほど活動していたのね。成長速度は普通の人間の半分程度と見て……君も十年後には同じくらいになってると思うのね」
「じゅ……十年……半分……」
彼女程度まで成長する為にかかる時間を聞いたチエは、気が遠くなってしまったのか額に手を当ててフラリと倒れそうになる。
そんな同士を支えたのは茶々子だ。
「それで……アルティは会いに来ただけなのですか?」
「いや、片割れが戦いの道に進んでいると聞いたから、力の使い方を教えに来たのね。アフターケアは大事なのね」
「そんなことより成長する方法を……」
「そんなモノ無いから、大人しく十年待つのね」
藁にもすがる様子のチエをアルティは一言でぶった切った。
これが持てるものの傲慢か。すがった藁ごとぶった切られたチエは顔を押さえながら、自分と生き写しな相手と相対する。
「くっ……」
「チエ! 諦めるのは、まだ早いのです!」
「でも十年って、半分って……」
「なんの為にダンジョンへ来たのか、思い出すのです!」
茶々子の励ましにより、なんとか自力で立ち上がったチエ。
話しているだけなのに、もう満身創痍である。
そんな彼女にアルティはカードを具現化して投げてきた。
勢いよく回転しながら飛んできたカードをチエが受け取ると、カードには金髪赤目の少女、アルティ自身が描かれている。
「渡しておくのね。無理に代わってもらったから、ここに居られる時間は少ないの。力の使い方が知りたいと思った時、このカードで我を呼んで欲しいのね」
「ゴブリンを呼ぶカードと似てる」
「どちらも、とあるカードを参考に開発されたものなのね。だから似ているのは当然なのね」
茶々子をチラリと見ながらの言葉に、見られた本人は明後日の方を向いた。
アルティの姿が段々と薄くなっていく。
「我の見立てでは、君達なら第四層でも大丈夫。試練は合格にしておくのね」
「試練?」
「学校側に聞いて欲しいのね。じゃあ、またなのね」
「バイバイ」
似た姿の二人が手を振り合っていると、大きい方……アルティは謎の言葉を残して完全に消えてしまった。
長話の間ずっと押さえつけられていたゴブリンとデブ猫は、床に転がり完全にダウンしている。
部屋の中心には。彼女の代わりに光り輝く魔法陣が現れた。
階層移動用の魔法陣である。
「今のはアバターの応用っぽいポン。中々に色々と取り入れている柔軟な精霊みたいポン」
ポン太がピンクの前足を組みながら消えた精霊について評していると、彼の持つ精霊スマホから山崎先生の声が聞こえてくる。
:本当は試練を受けてほしいところだが、合格は合格か。
:試練ですか、精霊が中ボスとして相手をするといったところですね。
:そうだ。悪魔に操られた彼女のように、全部無視して進まれると困るからな。試練に失敗すれば、当然一日休みだ。
:誰かがやりそうではあるよね全力ダッシュ。良い抑止力、なのかな?
「なるほど」
ポン太の精霊スマホから流れる音声でアルティが残した言葉の意味をチエは理解し、手のひらをポンと叩いた。
自分が悪魔に無理矢理やらされたので、彼女はその危険さと速さを誰よりも理解しているのだ。
「チエ! ガチャがあります! 集めた魔石の出番ですよ!」
「わかった」
部屋の隅にガチャマシンを発見したらしい茶々子から呼ばれたチエは、大量の魔石が入ったポーチに触れながら、自分の目的でもあるガチャマシンの前へ行く。
十年後に成長すると言われても、彼女が成長したいのは今なのだ。




