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第50話 ガチャと少しの共感味の為に戦え!

 住宅街の路地に描かれた魔法陣が光り輝くと、その場に大型の車が現れた。


 茶々子達の乗っているポン太印の自動車だ。


「本当に乗ったまま行けたのです。……もし人が居たら、どうなりますか?」

「人の居ない位置に飛ばされるから問題ないポン」

「なるほど、それなら安心です」


 周囲を見回して二階層であることを確認した茶々子が怖い想像をすると、ポン太がアダムの帽子から床へ降り立ち、ピンクの前足で足元を指し示しながら実際の所を説明した。


 自動車が乗っている魔法陣を指し示しているようだ。


「アダム、邪魔になるから発進するポン!」


 ポン太の指示でクラクションを鳴らしてから動き出した自動車。


 その様子は二階層が市街地なので自然であり、ダンジョンであることを忘れてしまいかねない長閑のどかな光景だ。


 しかし長閑のどかな光景は長続きしない。

 ここはダンジョンである。


 住宅地の間にある狭い道を自動車が通り抜けようとすると、塀と塀の隙間から何者かが飛び出してきた。


 この階層のモンスター、猫又だ!


 両前足を金属ハンマーに変身させ、後ろ足で駆けてくる。


 元々が四足歩行の獣が二足歩行という無茶をしているので、その速度は少々ゆっくりだが奇襲により、かなり近づいている。


「心の準備は出来ていませんが……撃ちます!」


 魔戦銃のセーフティを外して銃口を猫又に向けた茶々子は、引き金を引き絞る。

 夢の中でマーマンの放つ泡のアートを何度も打ち抜いた彼女に迷いはない。

 見物の魔法少女達に何度も悲鳴を上げさせた思い切りの良さは伊達ではないのだ。


 青白い閃光が猫又に対して放たれる!


 次の瞬間、瞳孔をカッと開いた猫又が金属ハンマーと化した前足で閃光を弾き飛ばしてしまった。

 閃光を弾いた金属ハンマーは段々と肥大化していく。


 どこにそこまでの力が有ったというのか猫又はカッと開かれた目を煌めかせながら、巨大ハンマー腕を振り上げて飛び上がった。


「ええ!? 何事です?」

「不味いポン。アダム! アクセル全開ポン!」


 愛車の危機を悟ったポン太の指示によりアクセルをベタ踏みにされた自動車は一瞬その場でタイヤを空転させた後、凄い勢いですっ飛んでいく。


 ――轟音が鳴り響いた!


 車があった場所は猫又の振り下ろした巨大ハンマーの一撃により、周囲の塀ごと叩き潰されていた。


 巻き込まれた家は木っ端みじんになっており、危機一髪である。


 ポン太の持つ精霊スマホがコメントを読み上げる。


 :ええ!? 猫ヤバ!

 :遠距離攻撃へのカウンターですか、良い訓練相手ですね。

 :そうだ。しかし少々危険だな。威力に上限を付けるように進言しておくか。


「危うく改造したばかりの車を廃車にされるところだったポン」


 猫又は自分の腕の大きさに対応できず、地面に突き刺さったハンマー腕にぶら下がりジタバタとしている。


「私がやる。『全速力』!」


 停車した車から飛び出したのはチエだ。


 彼女は手元に黒い三つ叉の槍を具現化すると、スキルで赤く輝きながら突っ込んでいく。


 三つ叉槍の具現化能力は、彼女の持つ精霊としての力だ。


 槍に貫かれた隙だらけの魔物は青いモヤを噴出しながら消えていき、後には青い石が残された。


 青い石を拾ったチエが戻ってくる。


「さっきみたいに、変なことをしてこなかった」


「まさか遠距離攻撃に対する罠があるとは、可愛らしい見た目なのに危ないです」


 車内のカゴにセーフティをロックした魔戦銃を放り込んだ茶々子は腰に差していた剣の留め金を外し、いつでも抜刀できるようにした。


「面白いです。この階層では魔戦銃は封印して剣で戦おうと思います」


 学校のダンジョンなので不測の事態への対応力を高めて貰おうと、管理している精霊が色々と手を加えているのだろう。


 消費を無視しての連射モードならカウンターを無視して倒しきることも可能だが、茶々子は剣をとる決断をしたのだ。


 魔法少女のチャコとしてではなく、人間の茶々子としてダンジョンに挑戦している彼女は、普段の力押しで押し通そうとするやり方を控え、今回はダンジョンを管理している精霊の狙いに付き合うことにしたらしい。


「一緒に頑張ろう」


「頑張りましょう!」


 フンスと力を入れたチエが三つ叉槍をかかげると、紫の半目を精一杯キリリとさせた茶々子も剣に鞘を付けたままかかげる。


 武器をかかげる二人を乗せた車は、猫又との戦いを繰り広げる生徒達の横を徐行で通り過ぎていった。


 突然の乱入車に猫又と生徒達は一時休戦して目を丸くする。


 車に乗って攻略している時点で精霊の狙いからは大きくはずれていると思われるが、チャコとしての持ち物をちょっと使うのは彼女としてはセーフ判定である。


 何事もバランスが大事なのだ。


 #####


 学校ダンジョンの第二階層。緩やかな傾斜のある屋根の上にて。

 カコンカコンと牧歌的な戦いが繰り広げられている。


 一方は後ろ足で立ち上がった猫又。

 猫又はその両前足を金属ハンマーに変えていて、ハンマー付きの前足を振りかぶり、時々バランスを崩しながらも猫背気味な体勢で振り回している。


 もう一方は鬼猫一体のゴブニャンライダー。

 デブ猫に乗った兜付きゴブリンが、両手の棍棒を駆使して戦う姿は勇ましい。デブ猫もグルルとうなり騎手を援護している。


 屋根の下では茶々子達が猫又と打ち合うゴブニャンライダーに声援を送っている。

 二人は車から降りた状態で武装しており、その目的は明らかである。


「そこです! バランスを崩せば勝ちですよ!」

「がんばれ」


 この第二階層は変な場所に魔物がいる。

 例えば住宅街風の地形を意識してか屋根の上で丸くなっていたり、狭い路地に隠れていたりと近づきにくい場所にいるのだ。

 近づかないと戦闘状態にならないので接敵するのも一苦労である。


 屋根の上に魔物を見つけた茶々子達は上るのは危ないということで、召喚した魔物に落として貰う作戦をとっている。


 打ち合っていたゴブリンと猫又だが、四つ足と二本足の差は大きかったらしく、ついに猫又がバランスを崩した。

 好機とみたデブ猫が騎手を落下させながらの頭突きを敢行かんこうする。

 両手に棍棒を持っていたゴブリンには、どうすることもできない。勢い余って突っ込んだ彼は、敵もろとも屋根を転がった。


「ゴブゥ!?」


 もつれ合いながら屋根からゴロゴロと転がり落ちた猫又とゴブリンは、仲良く地面へ落ちていく。

 仲良く落ちていった二体だが、結果は対照的なモノとなった。

 猫そっくりな猫又は空中で体制を立て直して美しい着地を決める。

 しかしゴブリンは大きな兜が災いし、頭から地面に衝突してしまった。


 両手をハンマーに変えつつ、二本足で立ち上がった猫又。

 ゴブリンにとどめを刺そうというのだろう。凶器を振り上げた。


 次の瞬間、茶々子達の横やりが入る。


「そこまでです」

「おつかれ」


 ゴブリンには仲間が居て、猫又には仲間が居なかったのだ。


 不意打ちと数の暴力により、あっという間に猫又は青いモヤを噴出して消えていき、あとには青色の魔石が残された。


 オマケにデブ猫も降ってくる。


「治してあげます。【いやしの手】! ……ただの気絶だったみたいですね」


「ゴブブ!」

「ニャウ」


 チエが魔石を拾う間に、茶々子が軽く触れる事でスキル『癒しの手』による回復を施してあげると、すぐに元気になったゴブリンはデブ猫に文句らしきことを言いつつ飛び乗った。

 神妙な様子のデブ猫は二股に分かれた尻尾を使い、兜ごしにゴブリンの頭をでてやっている。モフモフである。


「屋根から落ちたのに頑丈」


「私たちもコートのお陰でケガはしないらしいですよ? 一度上ってみます?」


 茶々子が言っているのは、探索者学校指定の白いコートのことである。

 彼女たちの着ているコートは、このダンジョン限定だが、想像力によるダメージ肩代わり機能を持っている。

 どうやら茶々子は、前にラースの赤ぶどう酒で自分が暴走した時の話を聞いていたらしい。


「ケガはしないけど、とても……とても疲れる。オススメはしない」


「私も疲れるのは困りますね」


 茶々子の提案は、激しく首を振ったチエにより却下された。

 必死に激しく振るので、金色のツインテールも激しく揺れている。悪魔に操られていたときに敵の攻撃でも受けたのだろうか?


「想像力を酷使すると、次の日にも影響する事があるって学校付きの精霊も言ってた」


「やめておきましょう。ダンジョンに行けなくなります」


 提案を取り下げた茶々子に、チエは何度も頷いている

 よっぽどひどい目にあったのだろう。昨日のことを思い出しているらしい彼女は、赤い目を遠くさせている。


 広めの道に出てきた茶々子たちは、路肩に止めてある車へ乗り込む。

 車はスペースが広いので、ゴブニャンライダーも一緒だ。


 彼女たちを乗せた車は、なめらかに発進する。

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