第49話 ガチャと少しの共感味の為に挑め!
白い探索者学校のコートを着た生徒達で賑わうダンジョン棟で、茶々子は怒りながらも途方に暮れていた。
「全く! 全員が来れないなんてひどいです! しかし困りましたね。まさか全員に予定があるとは予想外です」
どうやら茶々子のパーティメンバー全員に予定があり、二日目にして茶々子一人になってしまったらしい。
一人くらいは目的の為に連日ダンジョンへいくはずだと思い込んで約束を怠った茶々子にも問題はあるのだが、全員がお互いに誰かが行くと思っていたがゆえのお互い様な事故である。
「茶々子、どうしたの?」
困っている茶々子に声をかけたのは金髪ツインテールの少女チエだ。
茶々子の周りにパーティメンバーが居ないので、意志の強そうな赤い目で周囲を見回しながら困惑している。
「チエですか。それがメンバー全員がダンジョンに来られなくて困っています」
「だったら迷惑をかけたお詫びとしてダンジョン探索に付き合う。美味しいメロンパンも貰ったから一飯の恩もある。恩返し」
「他にも目的があったので気にしなくても良いのですが、お言葉に甘えます! よろしくお願いしますね!」
チエの誘いに紫の半目を輝かせて飛びついた茶々子は、白いコートのポケットから『あるモノ』を取り出して手のひらに乗せた。
それは乗っている人物まで作り込まれた妙に精巧なミニカーだ。
「それ何? っわ!」
「よくぞ聞いてくれたポン! コイツは自分で走る本当の自動車ポン。迷宮内での使用が実験的に許可されたから、乗ってみて欲しいポン。ダンジョン用に想像力で動くように改造した……名付けて迷宮自動車ポン!」
小首を傾けたチエが質問すると、嬉しそうなポン太が急に現れて勢いよく解説する。
「こんなのに乗れるの?」
「前に見せて貰いましたが、こんなのが本物の自動車みたいな大きさになるのです」
手のひらに乗っている迷宮自動車をチエが指先でつつくと、大きく頷いた茶々子も紫の半目を更に細めながら一緒になってつつく。
この車両、ポン太の提供物としてダンジョン内での使用を許可されたが、実は茶々子の持ち物だ。以前に彼女がガチャで出したSR景品だったりする。
ポン太の作品だったので、作成者による魔改造済な一品である。
「一階層はコレに乗って一気に駆け抜けちゃいましょう。奥に詰まらせてしまわないように倒しながらですよ?」
「もちろん。あんな事はもうしない」
似たような状況なので一応の注意を茶々子がすると、激しく頷いたチエは平坦な胸の前で両手を使ったガッツポーズを披露し、気合い十分である。
世界初の自動車に乗った迷宮探索が始まる!
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かまぼこ板を二枚重ねたようなバレルの間から青白い閃光が三連射される!
閃光に頭部と胸を打ち抜かれた小鬼は黒い砂になって消え去り、後には青い石が残された。
走る車の上で魔戦銃を構えた茶々子の仕業だ。
「チエ、回収を頼みます」
「任された。『全速力』!」
転がる青い石、魔石をスキルの赤い発動光に包まれた金髪の少女チエが駆け抜けながら回収すると、チャコが上半身を天井から出した車がその後を追いかける。
ポン太作の真なる自動車はその姿を一新させていた。
後部座席を野ざらしにすることでピックアップトラックのような姿になった真なる自動車は、死角の少ない迷宮仕様にアップグレードされている。
色々な所に手すりが追加されており、つかまる場所には困らないだろう。
運転席に乗る木の人形も迷彩柄のキャップを被ってご機嫌である。
速度を落として車と併走したチエは、手すりにつかまりながら飛び乗った。
「お疲れです」
「それほどでもない」
車内に設置されたボックスに魔石を放り込んだ彼女は、茶々子の労りの言葉に遠慮しつつちょこんと革張りの座席に腰掛けた。
「チエはどんな目的でダンジョンに潜るのです?」
「私は半分精霊。成長が遅いから成長したくてダンジョンに来た」
チエのカミングアウトに驚いた茶々子は、周囲の警戒をアイコンタクトでポン太と配信の視聴者に任せて自分も座席に腰掛ける。バレルの廃熱で少しうるさくなっている魔戦銃は一応肩にかけておき、一時の休息だ。
半精霊は精霊が悪魔に対抗するために生み出したモノの一つで、取り替え子のように生まれる前の人間の赤ん坊と自分の半分ずつを交換し、人間の闘争心を手に入れつつ自らが想像力の供給源になり、優位を得ようとした手法である。
精霊のイメージダウンに繋がるため、現在は協定で禁じられている。
「半精霊の子とは珍しいです。成長したいのは私も同じなので共感できます」
「同士よ」
意外な場所で思わぬ同士に出会った二人は、お互いに手を差し出してがっしりと握り合った。
運転手役の木人形は話が長くなりそうなので車を停車させると、車を興味深げに見てくる生徒達に手を振って愛想を振りまいた。
「情報交換しましょう。最近、私は牛乳を試しているのです」
「私も試しているけど、効果無し……」
「やはりですか。うすうす分かっては、いました……」
その後も二人は情報交換を繰り返し、民間療法から精霊や悪魔による権能まで様々な方法についてお互いの失敗談を語り合い仲良くなった。
「お互い頑張りましょう!」
「うん。どちらが先に当てるか競争」
ダンジョンのガチャこそが最も有力だという結論に達した茶々子とチエは、お互いの健闘を祈りつつダンジョンの攻略を再開しようと立ち上がる。
そんな彼女たちにポン太が提案した。
「獲物が少ないから二階層へ行くポン」
「階層移動の魔法陣はどうしますか? 一旦降りるのです?」
「乗ったままで大丈夫ポン。きっとガチャも混んでいるから、帰り道にやるポン」
「凄い便利」
「お褒めにあずかり光栄ポン」
赤い目をキラキラさせたチエから純粋に自作品を褒められてポン太は鼻高々だ。彼は木人形の帽子の上に着陸すると、配信中で光る精霊スマホ片手にピンクの前足を前方へ向けて指示する。
「アダム、二階層に向けて発進ポン!」
「……」
ちょっと重そうにしている運転手の木人形改めアダムは、クラクションを鳴らして了承の意を伝えると再度発進した。
ポン太の精霊スマホとリンクしているらしく、大きなカーナビの画面に迷宮内の略図が表示されている。
車内のスピーカーから、それぞれの声に合わせた音声で配信に寄せられたコメントが読み上げられた。
ものすごい魔改造具合である。
:アダムて……。おじさんでも知ってる有名人だよ。
:アダムですか、ポン太らしいですね。
:音声入力のかけ声は常用外の言葉が良いので、妥当でありますなポン太殿。
「今日の反応は少ないですね」
「昨日は初日だったのもあるポン。あと『向こう側』で面白いモノができたポン」
反応の少なさに小首を傾けた茶々子へ、漆黒のつぶらな目を細めたポン太が答える。
「なるほど。そういう事だったのですか」
その言葉に色々と納得した茶々子は、革張りのイスに深く腰掛けながら魔戦銃のセーフティバーを安全のアに捻った。
すると特徴的なバレルの隙間が完全に閉じ、セーフティモードになる。
茶々子達を乗せた真なる自動車は休憩している生徒達を徐行で回避すると、そのまま二階層に繋がる魔法陣へ突入した。
魔法陣に乗り上げた自動車は白い光に包まれる。




