第48話 制限されし救世主のスキル『聖なる肉』
探索者学校にある寮の一室にて――
ベッドで眠っていた紫髪の少女が、その紫の目をゆっくりと半分見開いた。
目を覚ましたのは茶々子だ。
いくつかの段ボールが置かれた部屋には他にもベッドがあり、こちらはもぬけの殻となっている。
「おかあさん、と……う~ん今日も一日頑張ります、と……送信!」
「適当ポン!」
茶々子はこの学校に通う条件である母親への毎日メールをポン太に突っ込まれつつスマホ片手に済ませると、暖かな毛布から脱出してベッドに腰掛けパジャマ姿でボーッとしている。
そうしていると、もう一人の部屋の住人が帰ってきた。
「おーっす。茶々子! 調子はどうだ!」
「おはようレナ。まずまず、ですね」
帰ってきたのは赤髪に青い目のレナだ。朝からランニングしてシャワーでも浴びたのか、赤いショートヘアは少し濡れている。
レナは茶々子の同室、いわゆるルームメイトという奴である。
この探索者学校はまだ未知の多いダンジョンが精霊の協力で設置されているため、世の中から隔離された場所にある全寮制の学校だ。
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半日授業の後、探索者学校の食堂にて。
茶々子達の視線は、前日の最後に回収した金髪ツインテールの少女に注がれる。
「あっ。昨日のダッシュちゃん」
「ダッシュちゃん違う、私はチエ。悪魔に操られて昨日は迷惑をかけた。ゴメン」
「チエは、もう大丈夫なのです?」
「うん。学校付きの精霊からのお墨付き」
茶々子が代表して言葉少なめのチエと話していると、授業が終わったらしい二層や三層で被害にあっていた生徒たちも集まってきた。
「あなた達にも迷惑をかけた。ゴメン」
「私等は学校から補償も受けたし、悪魔のせいって話やし、かまわへんよ。もう一回、やってほしいくらいや」
チエの謝罪に、二階層で帰り道を封じられていた女生徒は、冗談めかして再度の暴走を依頼した。
「俺達も補償をもらえた上、救助された事によるペナルティも無しで済んだから、気にしなくて良い。いや、初日にノンペナルティで敗北できたのは、得難い経験だったかもしれん」
三階層で吊るされていた生徒は快活に笑いつつ、プラス思考を披露ながら許してくれた。
「悪魔に操られるのは、もうたくさん」
被害を受けた生徒達からの許しを受けたチエは、深く頭を下げながら暴走の依頼は断固拒否した。
その、のんびりとした様子に何が起こるのか不安そうにしていた食堂内の生徒達は、安心して自分の食事に戻っていく。
「許可が出たので、皆に良い物をあげようと思います」
「良い物? 食堂だし食いもんか?」
「ご名答! 『聖なる肉』!」
レナの答えに頷いたチャコは空いている空間に手のひらを向けると、スキル発動を宣言した。
すると、その場に内部の見えない真っ白なオーブントースターが現れる。
その側面には、なんとガチャレバーが付いていた。
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茶々子のスキル『聖なる肉』で現れた真っ白なオーブントースターは横にガチャレバーが付いているだけという、スキル『聖なる血』のドリンクサーバーと違いシンプルな見た目だ。
当然のようにガチャレバーを茶々子が回すと、焼き上がりを知らせる快音と共にパンの焼ける香ばしい香りが周囲に放出される。
真っ白なトースターは独りでに開き、中には控えめなサイズのディナーパンが四つほど入っていた。
良い香りに食堂中から視線が集中する!
「こんな感じに焼きたてパンが出せるのです。普通の生産系職業スキルだったので、学校内で使うのを許して貰えました」
「ほー。金の節約になりそうだな」
「いえ、それがこのパンにカロリーは無いらしくて純粋に娯楽用です。食欲は満たせますが……」
「戦うなら体が資本だし、力が出ないのは困るぞ?」
「想像力で出来ているので、少しだけ力は付くらしいです」
「そうなのか。そんじゃあ、遠慮なくいただきます」
「どうぞ召し上がれ」
「あむっ。美味いぞ!?」
茶々子に勧められたレナがパンを食べると、あまりの美味しさに青い目を見開いて叫んだ。
話を聞いていた緑髪の少女が勢いよく立ち上がり、座っていたイスがバタンと倒れた。
彼女は茶々子のパーティーメンバーであるミユだ。その緑の目は戦慄に見開かれている。
「ノンカロリーでしっかりと力が出る食べ物ですって!?」
「ミユ、少し落ち着いて欲しいかな。イスが倒れちゃってるよ」
彼女の横に座っていた黒髪の少女。同じくパーティーメンバーのサキが、落ち着かせようと金色の目を半目にしつつ倒れたイスを指さした。
「あっ、ごめんなさい。サキちゃん」
「分かってくれたなら十分かな」
注意を受けたミユはイスを立て直し、顔を赤くしながら腰掛けた。
「二人もどうぞです。食べきらないと、もう一度回せないのです」
「そういう事なら、遠慮無く貰おうかな」
「ありがとう! 茶々子ちゃん!」
オーブンを両手で持った茶々子が二人にもパンを勧める。
焼きたてのパンが出てくるオーブンではあるが、オーブン自体が熱くなるわけでは無いらしい。
「さて……もう一度です!」
どうやら単なる親切心でパンを提供しているわけではなく、お目当てのパンを当てる為にパーティーメンバーに食べて貰うのが彼女の狙いだったようだ。
その様子はまるで、ガチャのリセットマラソンのごとし!
「『聖なる肉』! メロンパンですか……チエも食べます?」「ありがと」
「『聖なる肉』! 焼きそばパン……。食べませんか?」「わあ、ありがとな」
「『聖なる肉』! コロッケパン……。あなた方もどうですか?」「ありがたい」
その後も茶々子はお目当てのパンを求め、食堂内の知り合いに次々とスキルでパンを作っては配って回りパンガチャリセマラをしたが、中々お目当てのパンが出てくることはなく……。
「宗寺……。遊ぶために許可を出したわけでは無いぞ。多少の持ち込みはともかく、その場で作るのは他の者に迷惑だ。食堂での使用は禁止する」
「山崎先生。そこをなんとか」
「ダメだ」
「そ、そんなぁ……。私は好きなパンが食べたいだけだったのに……」
「……普通に買え」
「その通りでした」
ついには食事に来た先生に見つかり、食堂でのスキル使用が制限されてしまった。
そんな彼女達のゆるいやり取りに、前日に悪魔騒動があったので不安そうにしていた生徒達も肩の力が抜けたらしく、食堂内の空気は柔らかくなった。
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「あそこまで道化になる必要は無かったと思うポン」
普通に学校の購買で望みのパンを買った茶々子は、漆黒のつぶらな目を細めたポン太に食堂での件を指摘される。どうやら一部始終を見ていたらしい。
「あのスキルで出せれば焼きたてホヤホヤが食べられます。実利込み込みなのです」
望みのパン、チョココロネのどちら側から食べるのかを迷いながら歩く茶々子は、すっとぼけた様子で返事をした。
彼女は学校生活に問題が起きないように、先回りして問題の種を潰していたのだ。
知り合いの上位魔法少女『鬼謀さん』に借りを作ってでも作戦を立てて貰ったり、元悪魔の精霊ネロに頭を下げてでも予見で起きそうな問題を教えて貰ったりと、茶々子は目的の為に全力である。
「よし! 今日も頑張りますよ!」
気合い十分な彼女は仲間が待っているはずなダンジョン棟へ駆け出した。




