第4話 ガチャと少しの義務感の為に戦え!
魔弾さんに引っ張られるチャコは精霊城内まで連れてこられて赤カーペットの廊下を小走りで進む。キョロキョロと周りを見渡すチャコ。
「お城の中はあまり来たことが無いです」
『チャコはガチャにしか興味ないポン』
「会議室を予約してあるんだ~。知り合いばっかりだから安心してよ簒奪さん」
上位の魔法少女は数が少ない上、上位の魔法少女が戦う敵は、上位の悪魔なので共闘などで自然と知り合いになることが多い。狭い業界なのだ。
「なんだか本格的ですね? 魔弾さん」『用意したのに誰も使わないポン』
「だよね~。広場で十分だと思うんだけどさ、鬼謀さんがボウチョウは大事なんだって~」
その廊下は会議室の密集した場所で、使われていないのか人通りは少ない。
同じようなナンバープレートの付いたドアが等間隔で並んでいて、魔弾さんが指差しては確認していたが、ついに立ち止まった。
「ここだね! 手紙に書いてある。もしも~し! 簒奪さんも連れてきたよ~」
「どうぞお入りください」
魔弾さんがドアをノックして、声を掛けると入室を許可されたのでチャコも一緒に入っていく。
部屋の中では二人の魔法少女が円卓に座って待っていた。
「鬼謀さんの言う通り、本当に来たな? 簒奪さん」
二人とも青いシスター服を着ていて、チャコと知り合いの魔法少女だ。真正面の円卓を挟んだ場所にに座っているのは肩までの金髪に碧眼の魔法少女で鬼謀さん、手前の席で振り返って笑っている赤いショートヘアに赤い眼の魔法少女は灼熱さんだ。
鬼謀さんは席を立つと、軽くお辞儀をしてチャコ達にも着席を促す。
「よく来てくださいました魔弾さんと簒奪さん。どうぞ席に座ってください。」
言われて二人が席に座ったのを確認すると、最後に座った鬼謀さんが語りだす。
「では、作戦の説明をします」
鬼謀さんの碧い目が輝いた。
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悪魔の領域であるマーブル模様な異空間の空を極彩色の魔法陣を背負ったチャコが落下するように突き進んでいく。ついに防空網に引っ掛かったのか対空機銃の嵐がチャコへと殺到しようとする。
悪魔は現代人の想像力から具現化した為、拠点を近代装備で固めているのだ。
しかしこの対応は鬼謀さんに読まれていた。相手の対応を鬼謀さんから説明されていたチャコは、対抗策として手に握っていたカードを掲げる。
「【レヴィアタン】! ちょっと怖いけど、痛くないよ~! 反撃もしちゃう!」
『全くもって理不尽な光景ポン』
レヴィアタンには飛行の権能は無いので、自由落下する蒼い全身鎧のチャコへ対空機銃が殺到するが、機銃の直撃に何も感じていないように振舞うチャコは実のところ何の衝撃も受けてはいない。
理不尽なことに、レヴィアタンには攻撃を受け付けない権能が備わっているのだ!
自由落下のままに、慎ましい胸元にあるペンダントのガチャレバーを握ったチャコは叫びと共にレバーを捻る。
「ガチャレーヴァテイン!!」
その言葉と共に金色ガチャレバーの裏側から鞭が伸び、チャコの意志で動き出して、次の言葉で爆発的な反応を起こす。
「【悪魔の技】! 海神の一撃! やっちゃえ!」
ガチャレーヴァテインは段々と巨大化して、空を覆うほどの巨大な大蛇と化し、チャコを守る様にとぐろを巻くと悪魔の拠点へと襲い掛かる。その一撃は地表を薙ぎ払い、拠点に点在していた防衛設備を叩き潰した。
攻撃の反動で落下の勢いを殺したチャコが、基地の中心部に着地する。
着地したチャコへ銃やロケットランチャーを持った山羊悪魔の攻撃が集中するが、反撃として振り回された大蛇のごとき鞭がひき潰して沈黙させた。
巨大な鞭の先端が鎌首をもたげる様に持ち上がっている。
「えーっと……壊せば良いんでしたっけ?」『そうだポン。携帯トロイは便利ポン』
懐から小さな木馬を取り出したチャコは、それを頭上に掲げて片手で握りつぶした。
潰した木馬は光り輝き、チャコの足元に魔法陣が出現して、その場に魔弾さん、灼熱さんに鬼謀さんが現れる。
「喜ばしい事に、ここまでは順調ですね【自在盾】!」
順調な作戦に頬を上げた鬼謀さんは、紫色の水晶を掲げた。すると六枚の六角形が鬼謀さんの周囲を回り、こちらへの銃撃をシャットアウトする。
「よーやく出番だな! よっしゃ! 焼き払うぜ!【龍の息吹】」
先端に赤い宝石の付いた杖を悪魔の拠点へ突きつけた灼熱さんは、一歩前へ出て宣言すると杖を光り輝かせた。
杖から赤光が迸る!
赤色の光に灼かれた存在は次々と炎上していき、悪魔も建物もお構い無しに燃え上がらせていく。
周辺を火の海に変えた灼熱さんは、チャコに振り返るとちょっと困ったように目尻を下げてお願いしてくる。
「悪い、簒奪さん……。ちょ〜っと調子に乗っちまった……。消火を頼むぜ」
「お安い御用です! 【悪魔の技】! タイダルウェイブ!」
灼熱さんのお願いに答えたチャコは巨大な鞭を一振りすると大量の海水を呼び出して、火の海を鎮火した。業火を一気に消火したことで発生した水蒸気に周辺が真っ白になる。
燃え上がって脆くなっていた建物は、海水に押し流されていった。
「そして私の出番って訳ね! 【魔弾】! いけ!」
視界が悪い中、声を上げたのは魔弾さんだ。呼び名にもなっている魔法を発動すると、黄色い光弾が手の平に出現して号令に従い白い霧の中へ突っ込んでいく。
しばらくすると白い霧の中から、悪魔の絶叫が聞こえてくる。
魔弾さんの【魔弾】は必中なので、こういった視界の悪い場所だと無類の強さを発揮するのだ。
白い霧の中へ魔弾が連打されるのを見守っている鬼謀さんは満面の笑みを浮かべて満足げだ。
ここまでの戦闘は鬼謀さんの作戦通りに推移していて、恐ろしい悪魔の拠点は魔法少女の草刈り場と化した。
悪魔の拠点は危険な場所だが周辺地域に悪魔を供給してしまうので、早めに攻略する事が推奨されている。
推奨されているので貢献点が高めに設定されている為、上位の魔法少女にとっては美味しい獲物なのだ!
「流石は鬼謀さんです! またガチャが出来ますね!」
『もっと貯金するポン……』
鬼謀さんの作戦のお陰で、楽をして貢献点を得られる事にチャコはまたガチャが出来ると大変喜んでいる。
「そうだな! 久しぶりに全力で焼けて良かったぜ!」
チャコが居たおかげで思う存分焼き払うことが出来た灼熱さんも胸の前で腕を組んで上機嫌だ。
「ん~! 気持ち良いわね! 楽勝!」
魔弾さんは一方的に攻撃する状況を楽しんでいて、ちょっと危ない感じもするが悪魔という的が居る限り大丈夫だろう。
その様子を眺める鬼謀さんは油断なく六角形の盾を待機させた上で、ニコニコと楽し気にしている。
上位の魔法少女が揃っていると悪魔の拠点も狩場みたいなもので、マーブル模様の空には悪魔の絶叫が響く。
こうして魔法少女の手によって、悪魔から周辺地域の平和は守られた。
約一名は主にガチャの為に戦っているが、結果的に人々を救っている。
人々の為に戦え! 魔法少女よ……!