第29話 無垢なる者の手でガチャを回せ!
ピンクのカーペットが敷かれた部屋に突然青いシスター服を着た紫髪の少女、チャコが現れた。《《執行任務》》から無事帰ってきた彼女は軽く伸びをすると、低レア演出の様にくるりと回って変身を解除する。
「さて、今日もガチャりますよ~!」「目的に一直線ポン……」
変身を解除した茶々子は呆れたようなポン太の声を無視して赤いクッションに座ると、精霊スマホ片手にガチャの用意を始める。紫の半目を細めて貢献点の残高を確認した後、小さくガッツポーズをした。
「……どれだけ回すつもりポン?」「今回の貢献点を全部使ってガチャります!」
半ばあきらめたような声音の質問に当然のように無茶な答えを返す茶々子、強敵との戦いでハイになった彼女は貰った貢献点を全てガチャに注ぎ込もうとしている。
「だったら先に麒麟のエサやりをやるポン」「例の想像力をあげるという奴です?」
ポン太が言い出したことについて首を傾けた茶々子は、前に説明されたことを思い出すと顔を青くした。
「そういえば、一日経つのに何もしてないです!?」「大丈夫ポン」
慌てる茶々子を落ち着かせる為にポン太は、器用にもピンクの前足に備わった指を鳴らす。
すると低いテーブルの上に麒麟入り水晶が具現化した。
水晶の中では、切り立った山を角の生えた白黒の馬が元気そうに飛び跳ねている。
「どうやって想像力をあげればいいんです?」
「触れるだけポン。だからこの中に入るポン」
元気なのを見た茶々子が想像力の与え方を尋ねると、ポン太は名案だと言わんばかりにピンクの前足を使い手を打つようなポーズを取ったかと思えば、茶々子の手を取り水晶に触れさせた。
水晶が光り輝く!
「ちょ! 変身していませんよ!?」「大丈夫大丈夫ポーン」
ポン太の雑な返事に紫の半目を細めてちょっと不審そうな顔をした茶々子だったが、有無を言わさず光に飲み込まれた。
#####
茶々子が生身で現れたのは、地面から遠く離れた空の上だ!
異空間の中空に現れた茶々子は、何となく感じ取っていた嫌な予感が当たった事に眉を寄せ口をへの字に曲げると、落ち着いて加速の指輪を発動する。
「あっ、空中だったポン」「【加速】です! むむむ、よいしょ!」
茶々子の認識ではゆっくりと流れる時間の中で、身体をひらりと回転させる空中低レア演出の如き動きをすると、魔法少女チャコに変身して人心地ついた。
その時、加速の効果時間が切れる。
「魔法少女チャコ参上です! ふぅ……」「流石ポン」
真っ逆さまに落下するチャコを頭を下にした急降下で追いながら感心した様に拍手しているポン太を紫の半目で睨んだチャコは、腰の黒いカードケースに触れると悪魔の力を発動した。
「【アドラメレク】! なーにが大丈夫なのです? 空中に放り出されましたよ?」
「僕はチャコなら大丈夫だと思っていたポン。あ、麒麟がこっちを見ているポン」
どすの効いた声で詰め寄るロバ耳を生やし極彩色の魔法陣を背負う魔王の如き姿のチャコへ白々しい言い訳をするポン太は、何かに気が付いたようにピンクの前足を向けてチャコの関心を逸らす。
「えっ、どこです?」「あっちの山頂ポン」
素直な反応を返したチャコへ方向を指し示すと先導するように先に飛んで行き、先ほどの失敗を無かったことにした。
ポン太は現代人の想像力で生まれた存在なので、大変に狡猾なのだ。
山頂で近づいて来るチャコ達の事を見ていた麒麟は、前足を持ち上げて後ろ脚で立ち上がって見せるといななく様にその頭を振って見せた。
額から生えた音叉の様な白い角を共鳴させ、山頂に不思議な音色が響き渡る。
「歓迎してるポン」「不思議な響きです」
その近くに着陸したチャコは、前足を地面に降ろして四つ足で立つ麒麟を見上げた。チャコの事を見つめる深紅の目は少々輝いており、真白の体には稲妻のように黒い模様が走っている。
精霊に近いと言われていたのは伊達ではなく、明らかに普通の生物ではない。
「結構大きいですね」「まあ、騎乗戦闘に適した大きさではあるポン」
普段から巨大で危険な悪魔の相手をしているチャコは、恐れることなく麒麟に近づいて首をなでた。するとその場所が光り輝き、白黒の馬も自分と比べれば小さなチャコへ慎重に横顔を擦りつけた。
その様子を見ていたポン太が頷きながら問いかける。
「これで想像力の補給は出来たポン。試しに乗ってみるポン?」「騎乗具は?」
上機嫌そうな麒麟から一歩離れたチャコが聞けば、角の根元に乗ったポン太が角を叩きチャコを見下ろして答える。
「そんなものは無いけど、コイツが何とかするポン」「ならやってみましょう!」
ポン太の直近にやらかしたことを忘れたチャコは、麒麟の滑らかな鬣が生えた背に飛び乗った。
角の生えた白黒の馬が歩きだすと、チャコは半目を見開き歓声を上げて喜ぶ。
割と簡単に乗れているのは、麒麟が想像力で補助しているお陰だ。
「おお! これは背が伸びた気分です!」
「……土台に乗っただけで幸せになれそうポン」
嬉しそうなチャコを返り見た角の付属品は声に呆れをにじませて、対照的に麒麟はもっと楽しませてやろうと崖の様な山道を駆け抜けた。
チャコを乗せた白黒の馬体が、道なき急斜面を駆け下りたり駆け上がる。
普通なら絶叫モノの体験だが、攻撃にさらされながらの自由落下に慣れているチャコにとっては、高身長気分を体験できるアトラクションみたいなもので大喜びだ。
「キリンさんは大当たりですね!」
「そうだけど……そうじゃないポン」
一通り山の中を駆けまわり満足したのか、再び山頂まで戻ってきたチャコはするりと麒麟から降りた。
そして良いことを思いついたと言わんばかりの満面の笑みで精霊スマホを取り出した彼女は妙な事を言いだす。
「大当たりのキリンさんなら、当てられるかもしれません!」「何言ってるポン?」
チャコの言う事に二重で首を傾けた想像力から生まれたモノ達は、開かれたガチャ画面を麒麟の鼻面に押し付けるという彼女の凶行に固まった。
山頂に軽い音が鳴り響き、ガチャるボタンを上手くタッチされたらしいガチャ画面はカプセルを吐き出し始める。
チャコは画面を流れ行く大量のカプセルを眺めるのに夢中だ。
「ヨシッ! UR来ましたよ~!」
その中にUR確定の紫カプセルが混じっていたので、飛び跳ねて喜ぶチャコ。
切り替えの早すぎるチャコに紅い目を丸くして呆然としていた麒麟は、先に立ち直って浮遊したポン太から慰めにもならない実感のこもった言葉と共に優しく首を叩かれる。
「まあ……その内慣れるポン」
そんな二体の反応に頓着しない彼女は早速出たものについて画面をスクロールする事で確認し始めると、紫色の文字を見間違いでは無いか何度も目を擦ったりして再確認している。
そして画面を慎重にタップすると、その手に紙切れが現れた。
チャコは紙切れに書かれた文字を読み上げる。
「身長+一センチ……! 身長+一センチです!!!」
「あ、本当ポン」
二度繰り返し読んだチャコはこれが夢ではない事を確認する為に頬を魔法少女として強化された力でつねり、痛みと喜びで滂沱の涙を流す。
そんなチャコに浮遊して近づき手元を覗き込んだ巨大ハムスターであるポン太も、まさか出るとは思っていなかったので驚きの声を上げた。
ちょっと赤くなった頬を気にすることなく、チャコは喜びを表現する。
「おめでとうだポン」「やったー!!!」
よく闇鍋で目的のURを当てたという感心とよく頑張ったという祝福が半々なポン太の声に、気持ちの追い付いてきたチャコの叫びは山彦となって山々に響き渡った。
叫んだだけでは飽き足らなかったチャコは麒麟の前足を持ち上げ、踊るように回りだす。展開について行けない白黒の馬は、その見た目からは想像できないチャコのバカ力に紅い目を丸くして成されるがままになっている。
その様子は魔王が神聖な生き物を振り回して遊んでいるようだが、ポン太も今くらいは好きにさせてやるかと思っている為に、この場にそれを突っ込む存在は居ない。
ついに目的の身長+一センチを手に入れたチャコ。
しかし、身長百五十センチが彼女の目標なのであともう一センチだ。
チャコの身長+一センチを求める戦いはまだまだ続く。




