第28話 ガチャと少しの期待感の為に成せ!
面影も無くなったガレキの街で紫の雲が形を作っている多頭の龍が、長大な龍の如き巨大な鞭とぶつかり合っている。
雲龍が鞭龍に叩き切られれば即座に元に戻り、鞭龍は雲龍の攻撃では何のダメージも受けないという膠着状態だ。
「実体が無いのは厄介です!」『キリが無いポン』
何故チャコが崩壊した街で強力な悪魔と戦っているのかといえば《《執行任務》》だ。
出ることがわかった身長+一センチを当てる為に割りの良い仕事で一気に稼ごうと考えたチャコは、執行官として街を崩壊させるような悪魔と決闘している。
#####
この紫煙の悪魔は協定を無視した規模の攻撃で街を半壊させた上、討伐に来た魔法少女を何度も撃退した危険な悪魔だ。
手に負えないと《《執行任務》》扱いとなり、ポン太の目に留まった。
半壊していた街はチャコと悪魔の戦闘で全壊してしまったが、魔法少女が撃退されている間に投入された精霊達の活躍により人々は避難済みなので問題無い。
#####
鞭龍の根元に居る青い全身鎧を着た魔法少女、チャコが鞭を振るって一気に無数の雲龍たちを一瞬散らすと、腰の黒いカードケースからカードを引き抜き掲げた。
「【アドラメレク】! まとめて焼いちゃうよ~!」『現世では上位術式までポン』
ロバ耳を生やして背中に極彩色の魔法陣を背負ったチャコは、早々に復帰して繰り出される雲龍の多頭連撃を高速飛行することで回避する。
避けられた雲龍たちはガレキに衝突すると散り、即座に形を作り直してはチャコへ再び突っ込んでいく。
「ガチャレーヴァテイン!!」
それを回避しながら慎ましい胸にぶら下がるガチャレバー型ペンダントを掴み逆手に持ったチャコが叫べば、その裏から鉄杖が飛び出して手に収まった。
その鉄杖で極彩色の魔法陣の上下左右の端を叩くと、叩いた場所を中心として追加の魔法陣が描かれていく。
「【悪魔の技】! 上位核熱術式!」『気軽に使うポン……。まあ上位ではあるポン』
空中で包囲されかけているチャコが鉄杖を軽く回転させながら宣言すると、チャコの周囲を回りだした追加の魔法陣から白光が照射された。
迸る光が包囲しようとしていた雲龍たちを想像力へ還していく。
チャコが鉄杖を回転させるのをやめて雲龍の根元である紫の雲の集合体がある方向を鉄杖で指し示すと、彼女を中心として周遊している魔法陣から多方向へ照射されている白光はその杖の向く先へ集中照射される。
光の四連刃がガレキの街を引き裂きながら雲の集合体へ集中する!
閃光の中で雲の集合体が想像力へ還っていく。
「っと、下ですか」『……ガレキの隙間に隠れているポン』
その様子を油断なく紫の半目で観察していたチャコは、その目を更に細めるとその場から後退する。
次の瞬間チャコの居た場所の真下から槍形の紫雲が突き抜ける。地面という照射の範囲外に、一部の紫雲が逃げていたのだ。
地面から雲が再び湧き出し、今度こそ刺し貫かんと雲の槍を伸ばしてくる。
「一つ試してみますか……」『相性の良い魔法少女に譲ったほうが楽ポン』
それを鉄杖で払ったチャコが呟いた。
払われた雲も小さな針に変わり突っ込んでくるが、チャコの腕にはめられた緊急障壁の腕輪が輝き半透明の障壁が展開されて細かい攻撃をはじく。
ポン太が進言している譲るというのは、《《執行任務》》を他の魔法少女と交代するという事なので貢献点は諦めることになる。
ガチャ関連だと諦めの悪くなるチャコは、ポン太の進言を無視して最近奪った悪魔の力を発動した!
「【ベヒモス】! 出番です!」『《《執行任務》》以外では絶対に使えないポン』
ロバ耳と魔法陣が無くなりベールの左右から巨大な白い角を生やして灰色のマントを纏ったチャコが、杖の代わりに持っていたゾウ鼻型ハンディ掃除機の真ん中に取り付けられたガチャレバーを捻ると、周辺の物をガレキも紫雲も関係なく吸い込み始めた。
チャコへ攻撃してくる雲もまとめて吸い込まれていく!
「よ~し! みんな掃除しちゃいます!」『もう滅茶苦茶ポン』
楽し気なチャコがとんでもない吸引力のゾウ型掃除機で、逃げ惑う紫の雲を周囲のガレキごと吸い込んでしまう。
吸い込まれたモノは掃除機の透明な部分で小さくなり、新しく吸い込まれた物に押しつぶされて更に圧縮されていく。
しばらくすると周囲に紫の雲は無くなった。
「これで任務は完了です!」『材料が無くなったから街の修復が大変ポン』
ついでにガレキも無くなり、そこに街があった痕跡は無くなった。
するとチャコの目の前で地面を引き裂き、光沢のある黒い岩が飛び出してきた。
岩には二つの真ん丸な黄色い目と、光り輝く金歯の生え揃った口がある。
掃除機を止めていなかったチャコはそれも吸い寄せてしまい、大きすぎる黒岩のアゴっぽい所がゾウ鼻にくっ付いた。
黒岩の真ん丸な黄色い目と、紫の半目で見つめ合うチャコ。
「……」『何か言うポン』
「……」
地面から飛び出した存在は、手足を地面についていてもチャコを見下ろすほどの高さの人型。
チャコはこういった妙な存在について、よく知っている。
……悪魔だ。
相手が大きいのは良くある事なので、にらめっこを続行するチャコ。
威嚇ではチャコを排除できないと理解した黒岩の悪魔は、光沢のある黒い岩で構成された腕を彼女の立つ場所へ振り下ろしてくる。
「【悪魔の技】! 巨大化!」『願いが叶った気分はどうポン?』
無理やりゾウ型掃除機のノズルを引っこ抜き飛び退いたチャコは、掃除機をガチャレバーに戻すと宣言する。
チャコは望みの百五十センチを超え、どんどん大きくなっていく。
今度は立場が逆転して、黒岩の悪魔を見下ろすチャコ。
彼女は目標である百五十センチを超え、ビルの如き身長を手に入れていた……!
目標を達成しているチャコが、どうして危険な戦いを続けているのかといえば、この巨大化は調整が効かないからだ。
「これじゃあ高すぎます!」『でも願いは叶っているポン』
チャコはあと二センチが欲しいのであって、こんな行き過ぎた成長は望んでいない。
チャコがポン太と問答をしている間、黒い岩の人型は彼女の足元に殴りかかっているが、圧倒的なサイズ差のせいで青いシスター服のスカートにしわを作る事しか出来ていない。
『そんな事より《《執行任務》》を終わらせるポン』「むむ、仕方ないですね」
ポン太の言葉で意識を不自由な巨大化への不満から悪魔に戻したチャコは、再び金色のガチャレバーを握ると捻って声を上げた。
「ガチャレーヴァテイン!!」
再び現れたゾウ型ハンディ掃除機は今のチャコに相応しい巨大さになっていた。
そのゾウ鼻型ノズルを足元で暴れる悪魔へ向けたチャコは、ガチャレバーを回転させることで掃除の仕上げを開始する。
「大きなノズルで大きな悪魔も吸い込んじゃいます!」『ゴミ扱いポン』
巨大化したゾウ型掃除機は吸引力も強化されており、地面に縋りついて耐えていた悪魔を周囲の地面ごと吸い込んでしまった。
黒岩の悪魔は少し大きすぎたみたいで、通り道のゾウ鼻が風船の空気を入れるように変形していて、蛇が獲物を丸のみにした姿に似ている。
掃除機内の透明な所にたどり着いた悪魔は土砂に押しつぶされた。
それを確認して頷いたチャコは巨大化を解除してするする小さくなり、ガチャレバーを更に回転させていく。
ガチャレバーの回転と共に、掃除機の内部が混ぜられる!
すると内部にあるモノは消えていき、ゾウ鼻型ノズルの先からカードだけが吐き出された。
ひらりと出てきたカードをキャッチしたチャコは内容を読み上げる。
「てす……とり…………多分レアカードです」『テスカトリポカだポン』
チャコはポン太の訂正をスルーして読みにくい推定レアカードを黒いカードケースにさっさと収め、悪魔を逃がさないように張られていた転移妨害結界の外へと歩き出す。
「今度こそは当てますよ……!」『……少しは貯金するポン』
《《執行任務》》は貢献点がたくさん貰える上、街の損害は精霊の修復部隊が無料で対応してくれるので、もうチャコの頭の中はガチャでいっぱいだ。
更地になってしまった街に精霊の修復部隊が呆然としてしまうのはまた別のお話。彼らは街修復のプロなので、きっと何とかしてくれるだろう。




