第11話 ダンジョンで魔石ガチャを回せ!
青いベールの横からヤギの耳を生やした魔法少女チャコが、慎ましい胸元に下げてある金色ガチャレバーなペンダントを掴み、それを天に向けて叫んだ。
「ガチャレーヴァテイン!」
いつもの言葉と共に捻られたガチャレバーペンダントは姿を変えて、チャコの両腕を包む武骨なガントレットになった。
黒いガントレットの右手甲には金色ガチャレバーが輝いていて、黒一色の中で大変目立っている。
上げていた手を降ろして紫の半目で見つめるチャコ。
具合を確かめるように黒いガントレットに包まれた右手を握りしめたチャコは、自分を鼓舞する為に叫びながらダンジョンの入り口である魔法陣に飛び込んだ。
「とりあえず、とつげーき!」『ボーナスはいただきだポン』
黒猫ぬいぐるみなネロはチャコの一定ではない変身に驚き赤い目を丸くしていたが、飛び込むチャコに置いて行かれまいと急いで追いかける。
「いろんな姿に変身して忙しないナー。待て! 案内するからボーナスは山分けだナー!」
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ダンジョン内の石レンガで造られた小部屋にある魔法陣上にチャコが現れた。
後から現れたネロが肉球だけで爪も無い前足で額を突いて、未来を予見し終わったのか先導を始める。
「こっちだナー」
「探す手間が無いのは良いですね~」『便利な奴だポン』
チャコは、ネロの先導で高さと幅が二メートルほどの小部屋と同じく石レンガで造られた通路へと進んでいく。
基本的にダンジョン内は閉所になっていて、チャコが普段使う【アドラメレク】の飛行や広範囲攻撃である【レヴィアタン】が使いにくいので、この【バフォメット】の出番だ。
【バフォメット】は雑魚悪魔と呼ばれている存在から奪った悪魔の力だが、雑魚といっても通常は魔法少女複数で対応する悪魔であり炎と氷を操る強力な権能を持つ。
ネロの先導で進むチャコ達へ駆けよってくる影がある。
通路の先から向かって来る影は身長一メートル程度の緑色な体を腰蓑一つで包んだ存在で、黄色の眼を見開きその手に持つ棍棒を振り回して突っ込んで来た。
小鬼と呼ばれているモンスターだ!
このダンジョンを作成した精霊、ダンジョンマスターが人々の想像力を使って作り出したモンスターと早速遭遇したチャコは、その黒ガントレットに覆われた右腕の掌を開いて小鬼へ突き出した。
「【悪魔の技】上位火炎術式! 燃えちゃえ!」『中位で十分だポン!?』
叫びと共にガントレットの掌が赤く輝き、そこから溢れた炎は小鬼を炎上させて吹き飛ばし、ダンジョンの壁に叩きつける。一撃で倒された小鬼は黒い砂となって消えていき後には激しく燃える炎と青くきらめく石が残された。
炎に向けて左腕の掌を開いて突き出すチャコ。
「【悪魔の技】上位氷結術式! 火が邪魔です!」『床がカチコチになるから気を付けて歩くポン』
再びの叫びと共にガントレットの掌が青く輝き、そこから噴出した吹雪が炎を消火して、ダンジョンの壁や床を凍り付かせた。
「魔石です!」
嬉しそうに霜の付いた青くきらめく石を拾うチャコ。
モンスターを倒せば使っていた武器等の遺物や芯になっていた想像力の結晶である青くきらめく石、魔石を残して黒い砂になり消える。
「もしかしたら魔石ガチャが設置されているかもしれないですからね!」
『まあ、ガチャが無くても精霊城で買い取るから無駄では無いポン』
「ふむふむナーるほど、魔石ガチャとやらはこっちみたいだナー。」
二人の話を聞いて未来を予見したネロの案内で、次々にモンスターを火達磨にしたり氷像にして打ち砕いたチャコは合計十個ほどの魔石を手に入れて、魔石ガチャの前に立つ。
妙に手慣れているが、魔石ガチャのラインナップにも身長+一センチが混ざっているとの噂で、チャコはダンジョンを見つけると苦手なのを我慢して潜っているのだ。
魔石ガチャは青色のガチャマシンで、R以下のCやUCも出てくる仕様。
チャコは腰に付けている魔法の巾着から魔石を取り出すと、青色のガチャレバーに手慣れた様子でセットする。
「よし! やりますよ!」『一階層の魔石でも二十貢献点にはなるポン』
ポン太がボヤくのを無視して紫の目を細めたチャコが青いレバーを回転させると、当然のように白色のカプセルがマシンから飛び出す。
「白はCですね。一応開けてみましょう」『中身はお察しポン』
手慣れた様子でチャコがカプセルを開くと光り輝いて、チャコの手には刃渡り三十センチほどの短剣が握られていた。
紫の半目で短剣を見つめるチャコ。
『特に何の変哲もない短剣だポン』
「やっぱりダンジョンのハズレは物騒ですね……」
「刃もしっかりしていて実用品だけど、特に効果は無さそうだナー」
『邪魔だろうから精霊スマホの保管庫機能で預かっておくポン』
各々で品評した後、精霊スマホの便利機能である保管庫行きとなった短剣。保管庫内はチャコがダンジョンガチャで手に入れたハズレ装備で、武器庫のようになっているぞ。
「今度こそ当てますよ~!」『絶対に魔石を精霊城で売って、貢献度ガチャをした方が良いポン』
「よくやるナー……」
気を取り直したチャコは今度はレバーへ一気に三つセットして三連する事にしたみたいで、青いレバーを握って意気込む。ポン太からのアドバイスをスルーしたチャコはレバーを捻った。
今度は黒いカプセルが二つと白いカプセルが一つ飛び出す。
「黒はUCですね。見ておきましょう」『UCからは、ちょっとした魔法がかかってるポン』
素早く黒いカプセルと開くとその手には刃渡り六十センチほどの剣が握られていて、チャコが柄頭を叩けば刀身に紫電が走る。
「これは見たことがありますよ~!」
『見た目だけカッコいい魔剣だポン』
「強そうだけど何の効果もないナー」
見た目だけカッコいい魔剣も保管庫に入れてもらったチャコは、羽休めに白いカプセルを開けることにした。
手慣れた様子でカプセルを開けるチャコ。
白いカプセルからは一メートル近い刀身の剣が現れて、それを握るチャコは思わぬ大物に驚き、銀に輝く刀身には目を見開くチャコの顔が映されていた。
『ロングソードもC枠だなんて太っ腹だポン』
「前にRで出たことがありますよね」
「質量ってのは力だからナー。てか平然と持ってるナー」
ダンジョンの主が太っ腹な事に希望を持ったチャコは目を輝かせ、UCの黒いカプセルを開けてみる。
今度の黒いカプセルからは白色の鞘が出てきて、期待に満ちた顔でポン太に目を向けるチャコ。
『これは……鞘型のマジックバックだポン。魔石ガチャの割には当たりポン』
「おお! これが噂の……」
有名すぎるマジックアイテムの登場に、目的は身長だけどちょっと嬉しくなっちゃたチャコ。精霊スマホの保管庫もマジックバックみたいな効果だが、不具合防止の為に戦闘中はロックされたり色々制限があるのだ。
だが次のネロの言葉で現実に戻される。
「これ剣の刀身専用だナー。重量は据え置きだし剣士用って所だナー」
「なんですか!? その微妙な効果は……」
『UCにしてはいい効果だポン。得物の重量が変わらないのも剣士には助かるポン』
良いのか悪いのか微妙な結果にちょっと表情を歪ませつつ、倒す予定のダンジョンマスターが太っ腹であることを信じて残りの魔石六個を投入するチャコ。
「太っ腹にURの身長+一センチ来い!」『太っ腹ならハズレURを抜いている気もするポン』
ポン太の嫌な予想を振り切ってガチャレバーを回転させたチャコの目の前で、ガチャマシンが大きな反応を起こし始める。ガチャマシン本体が回転しながら、赤、紫、青と期待させるように色の変化を繰り返し始めたのだ。
それを見つめるチャコは叫び声をあげた。
「紫! 紫! 紫!」『チャコ、あんまり大声を出すとモンスターが来るポン』
現実に引き戻すポン太の声に黙って色の変化を見つめるチャコ。
その流れを見ていた黒猫ぬいぐるみなネロは予見で一足先に結果を見てしまったようで、赤い目を半目にして何とも言えない顔をしている。
紫で色の変化を止めたガチャマシンはURの紫カプセルと白カプセル五個を吐き出すと、元の青色ガチャマシンに戻った。
紫のカプセルに飛びついたチャコ。
「キタァ!」『あ、モンスターが来たポン。言わんこっちゃないポン』
「まあ、これだけ騒げばナー……」
「……えいや」
二人の声に紫カプセル解放を妨害するモンスター達に気が付いたチャコは、転がっていた長剣を拾って雑に投擲。
上位魔法少女の強力な筋力を四倍にした力はチャコの雑なフォームでも威力を発揮した。強い力で投擲されて高速回転する長剣によりダンジョンの通路は一瞬にして殺し間と化し、モンスター達を上下に分割したのだ!
通路奥に衝突して砕け散る一メートル越えの長剣を背景にして開かれる宝。
紫のカプセルから出てきたのは豪華な装飾の金色に輝く長剣で、明らかにチャコの望みである身長+一センチでは無い。
剣を掲げる様に持ち、固まっているチャコへポン太とネロから祝福の声が届く。
『アスカロンのレプリカだポン。中々にいい切れ味だと思うポン』
「ドラゴン殺しの装備だナー。悪魔にも効きそうで怖いナー……」
「私の身長+一センチはどこ……?」
剣を掲げたまま膝を突いたチャコの目の前に、白旗を持った二頭身のおじいさんが現れて素早く土下座する。
チャコの暴れ具合に恐れをなしたダンジョンマスターが、やられる前に一縷の望みを託して降参してきたのだ。
「お命だけはご勘弁を……」
『これにて一件落着だポン』
「ボーナスが楽しみだナー」
「私の一センチはどこに?」
人知れず、その威によって迷惑なダンジョンを処理した魔法少女チャコ。
彼女の望みである身長+一センチは得られなかったが、その力は苦行により高まり続けている。
その望みを叶えるまで、彼女の戦いは続く!




