第1話 ガチャと少しの正義感の為に戦え!
魔法少女である宗寺茶々子は、自分の部屋で力尽きていた。
肩まである緩いまき毛の紫髪は下敷きとなった赤いクッションと一体化している。
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ある日、臨界に達した人々のマイナスな想像力が具現化したモノ、悪魔が人々を襲い始めた。
しかしプラスな想像力もまた臨界に達していた!
プラスな想像力によって具現化したモノ、精霊が現れたのだ。
精霊と悪魔は生まれが生まれなので敵対しており、悪魔よりも弱い精霊はプラスの想像力の強い年若い少女達に悪魔に抗う力を貸す事によって悪魔に対抗する。
それが人々を守る者達、魔法少女だ。
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そんな魔法少女がなぜ自分の部屋で力尽きているのか?
その答えを知るモノが力尽きた茶々子の前に音も無く具現化した。
全身を体毛で覆われたその者は空中に浮いたまま、ぱっちりと丸い漆黒の目を半目にして、力尽きた茶々子へ問いかける。
「また……爆死したポン?」
力尽きていると言っても無傷に見える茶々子に対して、物騒な言葉を問いかける口には立派な白い前歯が二本飛び出しており、柔らかな語尾では隠しきれない呆れがその声からは滲んでいる。
声を掛けられた茶々子は、顔を上げてその紫の眼を半開きにして復活すると、悔しそうな声で返事をする。
「ポン太~! ガチャが! したいです!」
「諦めたらポン? 貢献点が尽きてるポン」
ポン太と呼ばれた二十センチほどの空飛ぶハムスターは、虚空から取り出したスマホをつついて何やら確認した後、茶々子に対して雑に返事をすると占領から解放された赤いクッションに収まった。
貢献点とは悪魔を倒す事で付与される得点だ。
魔法少女たちが命がけで戦うのに無報酬ではあんまりだと考えた精霊達が魔法少女の貢献、悪魔の撃破に対しての報酬として付与している得点である。貢献点を使って色々なサービスを受けることができる。
「貢献点! 手頃な悪魔はいないですか!?」
半開きだった紫の眼を見開いた茶々子は巨大ハムスターのポン太に縋りつくが、そのピンクの前足で額をぺチンと叩かれて退散する。
「ちょっと待つポン。精霊スマホで見てみるポン」
「うう……ちょこっと痛いのです」
額を抑える茶々子を尻目にピンクの前足でスマホを突いていたポン太は、クリっとした黒い眼を細めるとスマホを茶々子に向けて提案した。
「近場に悪魔が出ているポン。こいつを倒しに行くポン」
「やっつけに行きましょう!」
その提案を両手を上げて快諾した茶々子はピンクのカーペットからようやく立ち上がり、ドアを開くとドアにぶら下がっている部屋のプレートを茶々子外出中に変えて、一階へ降りていく。
「おかあさ~ん! ちょっと出かけてくるね~!」
「行ってらっしゃい。車に気を付けるのよ」
「あ~い!」
玄関で靴を履いた茶々子はさっと鏡で身だしなみを整え、振り返って居間に居るであろう専業主婦な母親に声を掛けてから、玄関ドアを押し開いて外出した。
玄関を出た茶々子は手慣れた様子でポン太とハイタッチをすると、その場でくるりと回るだけという、ガチャの外れ演出のごとき素早さで変身。両手を広げてその服装を新たにした。
「ガチャ魔法少女チャコ参上!」『もう少しこだわるポン……』
その姿は青のシスター服に赤いマントを羽織った不思議な格好で、慎ましい胸元に特徴的な金色ガチャレバーのペンダントがぶら下がっている。
なんで家を出てすぐに変身したかといえば、魔法少女には精霊によって認識阻害の加護がかけられている為、玄関先で変身しても身元がバレる事が無いのだ。
チャコは腰の黒いカードホルダーからカードを引き抜いて掲げた。
「【アドラメレク】! 飛んで行っちゃうよ~! 待っていて! 私のガチャ!」
『少しは気を使うポン……』
頭からロバの耳を生やした魔法少女チャコは、ロバの耳に念仏と極彩色の魔法陣を背中に背負い飛び立った。その姿は魔法少女というより倒すべき魔王だ。
認識阻害が無ければ大変なことになっていただろう。
勢い余って雲に突入して、びしょ濡れのチャコは標的の悪魔が暴れる市街地を目視すると、そこに向けて急降下した。市街地は悪魔が連打する火炎弾と巨大なつららによって炎上、氷結していて大変なことになっている。
降下の勢いに水っ気がはじけ飛んでいく。
みるみる市街地で暴れる悪魔に突撃するチャコは、胸元の金色ガチャレバーなペンダントを掴み、それを悪魔に向けて叫んだ。
「ガチャレーヴァテイン!!」
その言葉と共に捻られたペンダントは姿を変え、ガチャレバー裏側から一メートルほどの鉄杖が突き出した状態となりチャコの手に収まって続く言葉に姿を変えていく。
「【悪魔の技】!必中の呪い」
螺旋状に捻じれた鉄杖は、吸い込まれるように山羊の姿をした雑魚悪魔へと突き込まれる。
高速飛行の勢いが乗った不意打ちの突きは、雑魚悪魔を貫通して地面に縫い留めた。
自分達を襲っていた悪魔が、突然現れた魔王の螺旋槍で磔になったので、市民たちは戸惑い混乱している。至近距離で激しい動きをすると、認識阻害も意味が無いのだ。
「どもー! 魔法少女チャコ、お助けに参りました!」『印象悪すぎポン……』
炎上する街を背景にして、市民たちへ笑顔で自己紹介したロバ耳で極彩色の魔法陣を背負ったチャコは、自然にガチャレーヴァテインの柄頭についたガチャレバーを回転させ始める。
黒い血を流して苦しむ悪魔が段々と薄れて消えていく。
後に残ったのは山羊の姿をした悪魔が描かれたカードで、それをチャコが回収すると悪魔は居なくなったが、暴れた跡は見事に残っていて町は燃え上がり所々で氷結している。
それを見回したチャコは腰にある黒いカードホルダーから一枚のカードを引き抜いて掲げた。
「【レヴィアタン】! 消火しないとね!」『何をする気ポン!?』
ロバ耳と魔法陣の代わりに、頭の横からヒレが生えて蒼い全身鎧を身に纏ったチャコが、杖の代わりにガチャレーヴァテインの先から伸びた鞭を振り回して、続く言葉に周辺は大量の海水に飲まれた。
「【悪魔の技】! タイダルウェイブ!」『……もしもし魔法少女保険ですポン? 悪魔災害からの原状復帰をお願いしたいポン。……またなんだポン。内容は主に大量の海水ポン。よろしくお願いしますポン』
「【アドラメレク】! 市民は無事ですね。ヨシ」『まあ、命は助かったポン……』
海水によって一瞬で鎮火した火事に頷いたチャコは、再び別のカードを掲げるとロバ耳を生やして魔法陣を背負い、呆然としている市民たちを指差し確認した。
「それでは皆さんお元気でー!」『雑ポン……』
ペコリと青いベールに包まれた頭を下げ、用事は済んだと赤いマントを翻しさっと飛び立ったチャコを見て、実は魔王が粛清に来ただけなんじゃないかと海水でずぶ濡れの市民は訝しんだ。ファンサービスをしないのでチャコは実力ほど有名では無いのだ。
そんなことを知らないチャコはポン太に向かって楽しげにしゃべりかける。
「人助けをして、ガチャも回せる……最高です!」
『もう少し印象も大事にした方が良いポン』
「?」
市民の様子を何となく察しているポン太が苦言を呈するが、あんまり伝わっていないようだ。悪魔の力を奪う関係で、もしかしたら呪われているのかもしれない。
ガチャ魔法少女チャコはガチャレーヴァテインで突き刺した悪魔をカードにして、能力を奪うことが出来る。
強力すぎる力だが、強い力には代償がつきものと言う事で感性が普通からちょっとズレてしまったのかもしれない。
「今日こそURの身長+一センチを当てますよ〜!」
『闇鍋UR一点狙いは無理筋ポン……』
今のチャコは百四十八センチ! あと二センチが欲しいお年頃なのだ……!
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