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8/20

兄嫁って言葉はなぜかサスペンスの香りがする

 私たち三人は、エールフランスのカウンターで航空券を受け取り、真実さんはキャリーケースを預け終わったみたい。

 

「まだ時間に余裕があるし、梢の言うとおりお茶にしようか」


「そうですね!夕飯時で少しおなかも空いてきたましたし、軽く何かたべたいですね」

真実さんの提案に私も賛成する。


「うちはとにかくどっか座りたいわ。大学の魔女仲間と2徹でゲームやっとって、今めっちゃ眠いねん。急に倒れそうなほど猛烈な眠気が襲ってきたわ。あーあ。10代までは3徹できたんやけどな。寄る年波には勝てへんわ」

梢さんは、眠そうに目をこすりながら答える。


「薰、無茶やるなら高校生の今やっとき。ゲームでも映画でも勉強でも何でもええけど、10代で体力抜群の今のうちに思い切って夢中なこと3徹ぐらいして思いっきりやっとき。自分の体力の限界を知るのも大事やしな」

 ほとんど寝言みたいに小さい声で梢さんは私に告げる。


「わかった!」

 私は梢さんの言葉に強くうなずく。


「梢、今もまだ徹夜とかしてたのか。体調崩したら危ないから徹夜はやめろって何度も言ってるのに。あと、薰ちゃんに徹夜を勧めないで。薰ちゃんが梢の勧め通り徹夜して体調崩しでもしたら、梢も僕も景にどやされるよ」

 真実さんは案の定、梢さんをたしなめた。


「へいへい。真実は相変わらずお堅いな。おまえは私のお母さんか」

 梢さんはいかにも面倒くさいという顔で答える。その声はまたもや寝言のようで、眠さが限界突破しているのか、さきよりも更に小さくなっている。




 私たちはファストフード店に入り、私と真実さんはハンバーガーのセットを注文した。

 梢さんは、

「眠すぎて気持ち悪い。何も食べたくない」

といって、席に着くなりテーブルに突っ伏して眠ってしまった。


 真実さんと私は、テーブルに突っ伏して寝息を立てている梢さんを横目に、ハンバーガーを食べている。


「梢さん、寝ちゃいましたね。」

「ほんとに三徹してたんだろうね。」

「そうですね。でも、すごく疲れているのに私のこと考えてパリまで連れてってくれて、それが嬉しいんです。これまでもずっと、ホントのお姉ちゃんみたいに思ってて、梢さんのこと私ずっと大好きなんです。」

「徹夜の理由はゲームだけどね」

「徹夜明けでも大学の授業にちゃんと出る梢さんはさすがだなぁって思います。私は今日真実さんに会うためだけに高校サボってますし。」

「こずえはバイタリティーがすごいよね。でも、高校生の時、推薦のかかった定期テストの前に三徹して、テスト終わった途端に倒れたことがあるんだよ。」

「梢さん、目的があるとなりふり構わず一直線ですよね。そんなところに憧れているし大好きですけど。あーあ。兄貴が梢さんに愛想をつかされず、いつか2人が結婚してくれたら、梢さんは私の本当のお姉ちゃんになるはずだったんですけどね。」

「薫ちゃんのお兄さんとこずえは恋人だったの?梢の交際関係なんてこれまで聞いたことなかったから知らなかったな。というか、こんなこと本人以外から聞くのは悪いなぁ」

「こずえさん、真実さんには恋バナとかしないんですね。知ってるかと思って、つい話しちゃいました。すみません。聞かなかったことにしてください」

「了解。薫ちゃんは徹夜とかしたらダメだからね。梢はテストが終わってから倒れたのが不幸中の幸いだけど、体調不良でテストが受けられなかったら元も子もないんだからね」

「わかりました。こずえさんの行動力は見習うけど、体調崩す真似は絶対にしません。兄貴にも心配かけたくないですし」


 真実さんは、食べ終えたハンバーガーの包みを畳みながら、私の言葉に満足げに頷いた。

 そろそろ搭乗手続きが必要な時間になったので、私たちは梢さんを起こして搭乗口に向かうことにした。

 

「あれ、真実と薫?なんで家にいるの?あ、そっか。これからパリに行くんだっけ?よっしゃ行くぞ。2人ともついてこい」

寝ているところを起こされた梢さんは1つしか持っていないバックすら持たずに、店を後にしようとした。


「梢さん、バック忘れてるよ!」

「梢、バック置きっぱなし!」

 私と真実さんの声が重なる。


 梢さんは、何をする時も絶対に荷物を身に付けたままにするべきだと思う。ここまで忘れ物が多いのに、これまで大きなトラブルなくこられた事は極端な忘れっぽさという欠点を上回る他の能力の高さがあってこそだと思う。

 真実さんや周りにいた人たちがフォローしていただけかもしれないけど、そんな人たちが周りにいてくれることも梢さんの力の力だと思う。

 梢さんは昔から勉強も運動もできるから、忘れ物の極端な多さや口の悪さといった欠点がなかったら、完璧超人すぎて近寄りがたいかもしれない。欠点すらも梢さんの魅力を高めているのかもしれない。


 梢さんは私たちに言われるがまま荷物を持って眠そうにフラフラと歩き出した。寝起きの梢さんは、私たちに言い返したりせず、素直に言うことを聞いていて少し面白い。

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