羽田離婚の意味が今なら少しだけ分かる
梢さんと真実さんは一緒に現れた。京急線で合流したようだ。
待ち合わせていないのに同じ電車、同じ車両に乗り合わせるなんて、息がぴったりだ。さすが兄弟弟子。
「お待たせ、薫ちゃん」
「よく来たな、薫」
「いえいえ、お待ちしてましたよ。梢さん、真実さん」
梢さんは、大学で会ったとさと同じスウェットとワイドデニムに、マウンテンパーカーを羽織っている。真実さんも、大学に着てきていたチェックシャツとバンツに、ラフなジャケットを着ている。
しかし、タイミングの良さとは対極に、荷物の量が2人で全然違う。
真実さんの荷物はすごく多い。60リットルくらいの容量のキャリーケースを手に持ち、大容量のリックサックを背負い、貴重品を入れるウエストポーチを身につけている。
梢さんはというと、おしゃれな肩掛けのミニバッグだけである。その辺のコンビニに行くような身軽さである。
あまりにも少ない梢さんの荷物にびっくりして、私は梢さんに尋ねる。
「梢さん、キャリースはもう頂けたの?」
「いや、キャリークースなんて持ってきてへんよ」
「じゃあ、荷物はこれだけなの?着替えとかはどうするの?」
「夏でもないし、今着てるので十分やろ」
「そ、そっか」
荷物の尋常じゃない少なさについて、全く気にしていない様子の梢さん。
そのショルダーバッグには、バスポートと財布とスマホくらいしか入らないのではないだろうか。そんな小ささなのだ。
梢さんがフットワーク軽くいくら旅慣れていたとして、それでも看過できる程度を越えていると思うのだけど。国内の一泊二日の旅行だとしても、もう少し荷物が必要なんじゃないのかな。
今度は真実さんが、あきれたような顔で梢さんに尋ねる。
「梢はいつも行き当たりばったり過ぎるんだよ。その鞄の小ささ、スマホの充電器すら持ってきてないんじゃないの」
「充電器なんか、必要になったら現地で買えば良いやろ。うちの忘れ物の多さ、真実も忘れた訳やないやろ。うちが荷物を色々持って行ったところで、電車か空港か、飛行機かホテルに忘れてきてもうて意味なくなるけん、荷物なんか最低限でええんよ」
なるほど、梢さんの荷物がいつも少ないのは、ミニマリストだからではなく、管理できる物の量が極端に少ないということなのか。
「まあ、確かに。小学校の修学旅行で、梢の荷物はボストンバック1つ分あったはずなのに、次々無くして、帰りはほぼ空だったもんな。久しぶりに思い出したよ。あれは本当にひどかった」
言いながら、真実さんは苦い顔をしている。真実さんは面倒見が良さそうだから、梢さんのフォローを引き受けていたのかも。
「そういうわけだから、うちが荷物用意しても無駄やねん。さっさと真実のキャリーケースを預けて、チェックインも済ませて、お茶でもしようや」
そんな真実の様子を気にせず、あっけらかんと言う梢さん。
そんなわけで、私たち三人は1回のロビーに向かうこととなった。