旅行の荷物が少ない人って格好いい
午後5時、羽田空航第3ターミナル。
日本を思いさせる雰囲気なみやげ物売り場、その脇の和菓子屋の店先にある椅子に腰かけて、私は各航空会社のカウンターがある一階フロアとながめている。ここからならば、京急線で来るだろう真実さんや梢さんを見つけやすいだろうという考えだ。
、、、主な理由はそれだが、正直に言うと実際は.少し違う。真実さん、梢さんとの待ち合わせ時間の6時までまだ余裕があったので、空港内のファストフード店に入り、わずかながら持参した参考書で受験勉強をしようと考えていたのだ。だが、ファストフード店を探す途中、本屋が目に入り、つい立ち寄ったのだ。
言い訳をさせてもらうと、好きな漫画の英語版というものを見つけ、一人のファンとして、いや一人の受験生として、どの程度英語が理解できるか、また、セリフのニュアンスは変わらず伝わるのか確認していたのだ。結局、小1時間立ち読みし、その後、足休めに手近にあった椅子に座って二人を待っていたのだ。ああ、このままだと今日、受験勉強はおろか通常の勉強さえしていない。私はどこかの大学に入れるのだろうか。
そんな心配はいつものことなので、脇に置いておく。ところで、私にとってはじめての海外旅行であり、しかも、たった4時間前に決まった突然のスケジュールにより、たいした準備ができなかった。
いや、それには少し語弊がある。私はそもそも旅行自体、修学旅行くらいしか行ったことがないのである。だから、何を準備すべきかよく分からなかったのだ。
結局、3泊4日の京都修学旅行を思い出して荷物の準備をしてみた。当時の旅のしおりをひっぱり出し、持ちものリストにチェックを入れながら用意したのだ。
修学旅行では、小さめのキャリーバッグとレンタルして持っていったが、今日に関しては、レンタルも購入も問に合わない。だから、いつも高校に持って行っている通学用の大きめリュックサックを使うことにした。
ゆえに、私の今の持ち物は、貴重品の入ったショルターバッグと、着替えなどの入った通学用リュックサックの2つのみである。
高校3年生の受験生である私が、高校をサ术って魔法の師匠を追いかけ大学に押しかけた後、2人目の魔法使いと出会い、その後なぜ羽田空航にいるのか、ことの発端は4時間前の梢さんの一言である。
ー4時間前、南西橋大学にて。
「薰も魔法使いになるんやったち、師匠、ちゅうかうちのおじいちゃんに会うとくべきやな。ちゃちんぼらんな奴だけど、うちゃ真実とか、弟子はきっちり取っとるし、魔法に関しては真剣な男なんや。少しは薰の役にも立つかもしれへん。
「 ちょうどあいつから久しぶりに連絡がきて、居場所が分かったところやねん。今、関西国際空港におって、これからバリに向かうらしいわ。ピジネスクラスだとか自慢しとって、ほんま憎たらしいわ。まあ、それは置いといて、うちらもこれからバリに向かえば、あいつに会えるいうことや。
「あいつから連絡がきたのなんて、うちが高3のとき以来やから、3年ぶりや。あいつ、勘の良い所あるけん、薰が魔法使いになること、何か感じとって気まぐれでうちに連絡よこしたんかもしれんな。
「そんなわけで、ちょうど明日から4連休やし、これからパリに行くで。」
梢さんは、真実さんと私を目の前にして、宣言した。