37.知らない天井は二回目
「おお!結構広いね!」
今日から私と梢さんが一緒に住むことになるこの部屋は、五十平米ほどの2LDKだ。ひとまずリュックサックとボストンバッグは玄関に置いておく。
「ここの玄関入ってすぐ左側の部屋が薰の部屋な。右側はウチが使てるわ」
「六畳くらい?部屋も結構広いじゃん!嬉しい!」
「それで、こっちがトイレ、風呂。突き当たりがリビングダイニング」
梢さんに続いてリビングに入るなり、ベランダへと続く窓に駆け寄る。
「すごい!!窓から秋葉原の街が見える!ヤバイ!最高!」
「受験生やろ。もっと語彙を豊富に使うて喜びを表現したまえ」
「無理無理!ヤバイしか出てこないよ!この後、アニメイト行って、ラジオ会館行って、ふれあい橋や万世橋も散歩したいし」
「薰、普段からアキバには月二くらいで来とったやろ。何を今更感動しとるん」
梢さんは、私の感激度合いに若干引き気味で、呆れたように肩を竦ませている。
「分かってないなあ、梢さん。秋葉原に住めるんだよ!ふらっと散歩する街が秋葉原なんだよ?私、絶対これから毎日ラジオ会館行くから!」
「好きにしたらええやん。ただし、片付けのあとでな」
「はーい」
私の部屋には、あらかじめ小さい木製の天板のテーブルと椅子、同じく木製のシングルサイズで小さめのベッドが置いてある。ベッドには布団も備えられていて、これには助かった。お布団一式を家から持って来ることはできないし、だからといって、お小遣いから布団一式を買うのは難しいから。
リネン類やカーテンは、白に近い淡いグレーで統一されていて、薄い色の木製家具と相まって、シンプルでとても居心地の良い部屋だ。
今日、家から持って来たのは、洋服と学校の教科書や問題集。収納できそうな家具は無いけれど、部屋には一畳ほどの広いクローゼットがついている。開けてみると、ハンガーポールが付いていて、床にはプラスチックの空の収納ケースが三つ置かれている。洋服は余裕でクローゼットに収まりそう。ただ、教材の類の量が多いから、何処に置こうかな。この部屋、本棚がないんだよね。
しばらく腕組みして考えて、不意にテスト前日に梢さんの部屋を掃除したときの光景が頭に浮かんだ。そうだ。クローゼットにあるこのプラケースの上に教材を並べればいいんじゃない?何しろ、梢さんのアパートでは、本からPCまで全てクローゼットに収納していたんだから。
そうと決れば、リュックサックとボストンバッグの中身を全てクローゼットに収めていく。私が昔引っ越しを経験したのは、小学二年生だったから、荷ほどきという作業が新鮮で楽しい。
「終わったー!」
荷ほどきは三十分ほどで終わって、私はベッドの上に大の字に寝転んで、作業終了と今日で定期テストが終わった開放感を今更ながら全身で味わい尽くす。
自分の声が少し反響して聞こえてなんだか不思議。荷物が少ないからなのかな?前に引っ越したときも、そう思った気がする。
「薰、お疲れさん」
「梢さーん!荷ほどき終わったよ!一緒にアキバ散歩に行く?」
「それもええけど、そのまえにじいちゃんの所に挨拶に行くで。薰が引っ越して来るの楽しみにしとったからな」
「そうだった!おじいさんへの手土産にお菓子を買ったんだよ!」
「さすが、景の教育やな。こういうところ、あいつ、見かけによらずきっちりしとるんよな。まあ、じいちゃんはむしろ薰にお菓子を用意してそうやけど」
「まあまあ、例えプレゼント交換になってしまったとしても、手土産を渡すという行為自体に意味があるので」
そういうわけで、私と梢さんは、二人の部屋のある六階から、おじいさんの部屋のある十階へと向かう。




