25.騒音問題は切実
「薰、見てみ!エッフェル塔のオブジェ買ってみたわ!」
「わしからは、差し入れだよ。カフェラテ買ってきたから、皆で飲もう」
梢さんとおじいさんが、それぞれお店から戻ってきたので、展望台の内側にあるソファに座って休憩することにする。
「真実、この置物無くしたらあかんから、うちの代わりに家に帰るまで持っておいてくれへん?」
「真実くん、ハンカチ貸してくれないかい?さっきトイレで手を洗った後、拭くものがなくてね」
「はいはい、ちょっと待っててくださいね」
真実さんは、梢さんのお土産を鞄に入れ、ついでにハンカチを鞄から出しておじいさんに手渡す。
甲斐甲斐しく世話を焼く姿は、なんだか二人のお母さんみたいだ。
「薰ちゃん、アルコール配合の除菌お手拭きあるから、飲む前に良かったら使ってね」
「ありがとうございます」
私までお世話されてしまった。なんだか、自然な動作すぎて、何も考えずに世話を焼かれてしまった。兄貴に過保護にされてきたので、世話されるのに慣れてしまっているというのもあるけれど。
「このカップは使い捨てなのやろか。それにしてはえらい立派やけど」
先に飲み終わったらしい梢さんが、つぶやく。私もほぼ飲み終わったカップを見てみると、透明のプラスチック製だけど、厚みがあってしっかりした造りだ。確かに、一回で捨ててしまう容器では無いような気がする。
「店員さんは、デポジットがどうとか言ってたような気がするね。フランス語でよく分からなかったけど。店の外で、ちょうどあの当たりを指さしていたような」
おじいさんが、梢さんの問に、首をかしげながら答える。
「もしかして、返却口が店の外にあるんじゃないですか?私、行ってみますよ!」
私は残りのカフェラテをぐいっと飲み干すと、梢さん、真実さん、おじいさんのカップを受け取る。
おじいさんの指さした方向へ歩いて行くと、自動販売機くらいの大きさの機械があった。説明は何も書いていないけれど、カップが置けそうな大きさのくぼみと、ボタンがある。
このくぼみにからのカップを置いて、このボタンを押すのかな。恐る恐るボタンを押してみると、、、おお!コインが出てきた!これは面白い!
みんなの元に戻ると、梢さんが私を手招きする。
「これ見てみ!スーベニアメダル売ってるで!薰、集めてたやろ」
「いいね!パリのお土産にやっていこうかな!」
一回、一ユーロで、柄は三種類から選ぶことができる。
エッフェル塔と男女のシルエットの書かれたデザイン、エッフェル塔から見える景色のデザイン、パリの文字とフランスパンの書かれたデザイン。
エッフル塔に登った記念だから、やっぱり、1つめのデザインがいいかな。
コインを機械に入れて、デザインを選ぶと、金属の小さな塊が、型に挟まれて型押しされて、ほかほかの状態で出てくる。
うん、やっぱり素敵!パリのお土産だ。
そうこうしていると、夜の7時前になったので、私たちはひとまずホテルへ向かうことにした。
らせん状の外階段を一歩一歩降りていく。
真実さんが教えてくれたとおり、後ろの足が階段から離れるたび、空中に浮いていることを意識すると、なんだか足取りが軽い気がした。
「じいちゃんは、真実と同じ部屋を使うたらええわ。じいちゃんが合流する前提で、四人分で予約しとったし」
「わー、真実君と一緒に過ごすの久しぶりだね!まさか、またこん機会があるとは思わなかったよ。長生きはするものだね」
相好を崩すおじいさんに、真実さんは目を細めて答える。
真実さん、おじいさんには遠慮がないなあ。
「師匠はいびきが本当にひどいので、静かにお願いしますね」
「いやーすまんすまん。妻にも子ども達にも梢にもずっと言われていたんだよね。でも大丈夫!ホテルに着いたらわしはすぐに寝て、真実君が寝る頃には起きることにするから。5時間も寝られれば大丈夫。ショートスリーパーだからさ」
それを聞いた梢さんはすかさず突っ込みを入れる。
「いや、じいちゃんはショートスリーパーなんやなくて、昼寝するから、夜にあんまり眠れへんだけやろ」
「そうとも言うね」
「じゃあ、僕は1時ごろに寝ることにします。それまでは大学のレポートやりますよ。休み明け提出期限レポートが、あと1日しかないので。あと1日で三千字のレポートって地獄ですよ、、、」
真実さんは、忘れていた課題を思い出して遠い目をしている。
三千字っていうと、作文用紙7枚以上かな。大学生って大変そうだな。私も受験勉強という現実を思い出してしまって、天を仰ぐ。
「あ、ライトアップが点滅してる。綺麗!」
見上げた空に、エッフェル塔のシャンパンゴールドのライトが点滅してキラキラと輝いている。
ふと周囲を見回すと、この光景を見るために集まったのか、たくさんの人で溢れている。たくさんの人達は、それぞれカメラを向けたり、一緒に来た人同士でこの光景に見とれている。
「19時のライトアップだね。1時間ごとに見られるみたいだよ」
おじいさんが隣から教えてくれた。
夜空にキラキラと輝くエッフェル塔は幻想的で、私は釘付けになる。
「本当に綺麗ですね」
「道が明るくなって歩きやすくて便利やな。1時間ごとと言わずずっとやって欲しいわ」
「LEDを使っているのかな?節電も考えると1時間ごとが妥当じゃないかな」
「ライトを赤に変えたら、東京タワーになってしまうね」
私たち四人は、それぞれ好き勝手に感想を口にする。
私がロマンチックすぎるのか、あとの三人が現実的すぎるのか、どっちだろう。




