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24.馬鹿と煙は高い所にのぼる

 「見えてきましたよ!エッフェル塔!」


 私は、エッフェル塔を指さして叫ぶ。


 「なんや、隅田川沿い歩いてたらスカイツリーが見えてきた、って状況と似てる気がしてデジャヴやな」


 梢さんは、肩をすくめて言う。


 「セーヌ川とエッフェル塔を、隅田川とスカイツリーって、、、。いや、ちょっと分かるかも。どちらかというと、エッフェル塔って外見は東京タワーぽいから、なぜか、隅田川沿いに東京タワーがある、みたいな感じがする」


 はじめは梢さんの発言にあきれていた真実さんだけど、なんだか納得してしまったみたい。私たちは、フランスまで来て情緒もへったくれもない会話に花を咲かせる。


 私たちの住む街は、上野や浅草まで電車ですぐに行くことができる。だから、私も隅田川沿いって好きで、よく散歩する。そういえば、セーヌ川のクルーズ船と、隅田川の屋形船も似ているかも。


 「せっかくやし、登ってみよか」


 梢さんは、くるりと私たちの方へ振り返り、エッフェル塔を指さす。

 確かに、せっかく来たし、高いところからパリの街を見られて楽しそう。


 「いいね!私も登ってみたい!」


 私も梢さんに賛成すると、真実さんが、すかさずチケットを手配しようと調べ始めてくれる。


 「当日だと、エレベーターで最上階まで登るチケットは完売みたいだよ。階段で登るチケットならまだ空きがあるよ。二階部分と最上階までの二種類のチケットがあるけど、徒歩なら二階部分までかな。二階部分とはいっても、かなりの高さがあるし。師匠は僕と広場で待ちましょうか」


 「いや、わしも登ろうかな。高いところからの眺めは、いつでもどこでも最高だからね」


 真実さんは、おじいさんを気遣って提案したみたいだけど、おじいさんはあっさりと自分も階段で登ると宣言する。

 そういえば、タワーマンションの部屋を持っているくらいだから、高いところや眺めの良い場所が好きなんだろうなあ。


 そして、10分後。


 「うう、きつい、、、」


 エッフェル塔のらせん階段で、うめき声を上げているのは、おじいさんではなく、真実さんだった。


 「真実さん、そんなに体力ないんですか?意外ですよ!」


 「ちょっと、長時間のフライトの疲れが今どっと来てる。梢と無事に合流できて気が抜けたのかも。もともとインドア派だし。そう言う薰ちゃんは、意外に体力あるね。すごく足取り軽やかだし」


 「私はマンションの六階に住んでていつも階段で上っているので、これくらいの階段は楽勝ですよ!」


 そして、意外といえば、おじいさんだ。おじいさんは、らせん階段を小走りで登り始めたと思ったら、そのままずっと小走りで登り続けて、姿が見えなくなるほど先に行ってしまった。梢さんのおじいさんてことは、きっと七十歳代だろうに、健脚すぎてびっくりする。

 

 「じいちゃんは、三十階の部屋まで、階段を走って登るような奴やからな。毎日やで?じいちゃんが定住してたのは、十年以上前やけど。自分で買うたマンションの細部まで味わい尽くしたいとか、訳分からんこというとったわ」


 おじいさん、そんな高層階に住んでいたのか。三十階まで階段で登ったら、一体何分かかるのかな。


 そんなこんなで、私、真実さん、梢さんは、やっと二階部分の展望台へたどり着いた。着いた頃には、足が疲れてしまった。マンションの六階どころの高さじゃなかった。たぶん、マンションで言えば、十五階くらいの高さはあるだろうな。きっと、明日は筋肉痛かも。



 「うわー!すごい!眺めがいい!風が気持ちいい!」


 エッフェル塔の二階部分は基本的に骨組みだけで、屋外になっていた。だから、気持ちの良い風が吹き込んでくるし、ガラス越しではなく直接外の景色を眺めることができる。屋外スペースには、ゆっくりとくつろいで景色を眺められそうな、リクライニングチェアや、ソファがおいてあって、とてもおしゃれな雰囲気。内側には室内もあって、カフェや土産物屋があるみたい。


 セーヌ川はもちろん、エッフェル塔近くの広場の芝生も見える。そして、中世ヨーロッパな雰囲気の建物がひしめいている。

 風が髪をすーっと揺らして、すごく気持ち良い。

 東京タワーやスカイツリーの展望台は完全に屋内だけど、ここは屋外な上に、柵は胸の高さほどしかなくて、身を乗り出したら落ちてしまいそうと思うほど開放感がある。これ、スマホを落としたら大変だな。


 先に着いていた梢さんとおじいさんは、土産物屋を見に行っているみたい。


 「あー・・・。風が気持ちいい。生き返る」


 真実さんは、私の隣で展望台の柵に腕を組んで寄りかかって、深呼吸している。階段を登って上がってしまった息を整えているみたい。

 そのまま二人で景色を眺めていたけれど、不意に真実さんが私に尋ねる。


 「初めて会った日、薰ちゃん、魔法で空を飛んでみたいって言っていたよね」


 そう。それが全ての始まり。私の小さい頃からの夢。


 「はい!ついに、魔法を教えてくれるんですか?」


 食い気味に返事をする私に、真実さんは、人差し指を立てて言う。


 「それでは、第一歩として、初歩の魔法を教えよう。この階段を降りるのに役立つ小技を。薰ちゃんは、バンジージャンプってしたことある?」


 「無いです。怖くてできないですよ!」


 「そっか。ちなみに僕もやったことないんだけど、もしかして空を飛びたい薰ちゃんならやったことあるのかなと思って」


 「空を飛ぶではなくて、落下ですもん、あれは」


 「じゃあ、ちょっと今、その場で跳んでみて」


 「え、ここでですか?いいですけど」


 意味が分からなくて怪訝な顔になりながらも、私は素直に、指示通りその場で軽くジャンプしてみせる。


 「こうですか?」


 「そうそう、一番高いところにいるときの、ふわっとした無重力の感じを意識してもう一度!」


 もう一度、今度はさっきよりも少し高く跳んでみる。


 「たしかに、一瞬、ふわっと浮遊感があるかも」


 「いいね、いいね!魔法ってイメージが重要だからね。どんなに些細良いんだけれど、感じた感覚を増幅させるイメージが大切なんだよ。薰ちゃんは筋が良さそうだね。階段を降りるとき、この浮遊感をイメージすると、ほんの少し、足の疲れが軽減されるよ」


 「なにそれ!めちゃくちゃささやかですね!もはや、魔法とは言えないんじゃないですか?」


 私の突っ込みに、真実さんは笑って答える。


 「正直だね!そうだね、歩き方のコツといっても良いくらいかも。でも、これが簡易的な重力操作の第一歩なんだよ。だから、だまされたと思って、空中浮遊のために帰りにやってみて」


 「おおー!重力操作、空中浮遊かっこいいですね!うん、帰りにやってみます!」








 

 

 

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