不意打ちの破壊力
おじいさんと梢さんは、席を取りに行ってくれたので、私と真実さんで、注文に向かう。
ルーブル美術館内のマクドナルドには、店員さんがいるカウンターもあるけれど、他に大型のモニターが10個くらい設置されている。
「モニターを操作して、セルフで注文するみたいですね!これなら、店員さんとフランス語で話さなくて良いから、注文できそうですね!」
「僕たちのフランスで初めての外食だね!」
私たちは顔を見合わせて、少し笑ってしまう。
フランスに来て、これまでに食べたものといえば、機内食と、日本から持ってきたカロリーメートとペットボトルのお茶だけ。それで、夕飯はマクドナルドって、、、。日本での普段の食事より質素なくらいだよね。ここまで来ると、ちょっと面白くなってきてしまう。
モニターを操作すると、まず言語が選べるので、英語に設定する。文字表記なら英語が分かるかと言えば、なぜか受験英語は役に立たず、全然分からないけれど。ただ、フランス語は、英語と同じアルファベットなのに、ニュアンスすらもつかめないので、英語の方が多少はましだ。
受験生の意地を見せてやる!
「私はチーズバーガーにします。というか、チーズバーガーしか読めないんで、全員分これでいいですかね?」
「同じく。うん、安全に、みんなチーズバーガーにしておこうか。飲み物は、エスプレッソ、、コーヒーかな。あとは、、、コーラ!あとは、なんとかティー、、何かしらのお茶くらいかな、読めるのは。僕はコーヒーにしようかな」
「私は”なんとかティー”にしてみます!お茶なら大丈夫だと思うんで!梢さんとおじいさんは、安全にコーラにしておきましょうか」
私たちは、英語に四苦八苦しながら、どうにかクレジットカードで支払を済ませた。支払までモニターでできるのは、すごいなあ。
「商品はカウンターに取りに行くのかな」
「カウンターに商品を取りに行っている人はいないみたいですね。どうしているんでしょうか」
私はキョロキョロと他の客の様子をうかがってみる。すると、私たちの隣のモニターで注文を終えた人が、レシートを手に、モニター横に置いてある番号の書かれたプラスチック製のスタンドを持って席についた。
「もしかして、このレシートに書かれている番号と同じ番号のスタンドを持って、席に着けば良いんじゃないですかね」
「なるほど、この番号を見て、店員さんが製麻で商品を持ってきてくれるのかもしれないね」
「多分そうですよ!ほら、店員さんが商品を運んできてます!それにしても、店内はこんなに席があって、番号札を探すの大変じゃないんですかね」
「確かに。ぱっと見た感じだと、100席くらいはありそうだよね」
店内を見回すと、ショッピングモールにある大型のフードコートくらいの面積がありそう。こんなに広かったら、スタンドに書いてある番号を見て回るのに、時間がかかってしまいそうだな。
フードコートだと、注文したときに番号のついたブザーを渡されて、商品ができあがるとブザーが鳴って、カウンターまで商品を取りに行く仕組みがあるkらいいけど、これじゃあ大変じゃないかな。と考えていて、ひらめいた。
「もしかして、このスタンドに、GPSが入っているんじゃないですか?店員さん、あちこちのテーブルの番号とか確認せず、目的のテーブルまで迷わず歩いて行っていますし」
「それだ!商品を運びに行く前に、番号札を持った人が何処のテーブルに座っているのか確認しているのかもね」
そんなことを話しながら、私たちは梢さんとおじいさんが待つテーブルに向かう。
「お待たせしました!」
「梢と師匠には、コーラを注文しておきましたよ」
「お、ありがとう」
「おおきに!どうせ、コーラしか読めんかったんやろ、お二人さん」
梢さんが私たちをニヤニヤ顔でからかうので、私はついムキになって、真実さんに同意を求める。
「そんなことないよ!エスプレッソとティーも読めたよ!ね、真実さん!」
「薰ちゃんの注文した”なんとかティ-”だけ、何のお茶なのか、分からないままだったけどね」
「分からんもん、注文したんか!あほやなあ。コーラにしとけばええのに」
「大丈夫だよ!ティーってことは、普通にアイスティーとかだよ!きっと!」
「変なとこで雑やな、薰」
「いや、梢さんには言われたくないよ」
と、言ったところで、店員さんが迷い無く私たちの前に持ってきたのは、めちゃくちゃ大きいハンバーガー5つ。
これ、絶対、他のお客さんの注文の品と間違えてるよ。
あわあわと慌てながら、私たちは手でバツを作ってみたり、手を横に振って見たりとジェスチャーで間違っていることを示した。すると、私たちのジェスチャーが伝わったようで、店員さんは、くるりと方向を変えて、斜め向かいのテーブルに品物を運んでいった。あっちのテーブルのお客さんの注文の品だったみたい。
「なるほど、GPSには多少の誤差があるってところなのかな?」
と、真実さん。
「GPSで大体の位置は確認してきたけど、スタンドの番号までは確認していなくて、近くのテーブルと間違えちゃったってところですかね?」
うんうん、と納得してうなずきながら、私は応える。
「大分、大雑把だね、この国は」
あはは、と笑う私と真実さんを見て、梢さんはあきれたように言う。
「日本がきっちりしすぎとるだけやろ。海外に行ったら、何処の国も、大体こんなもんやで。少しくらい雑な方が、見てるこっちも肩の力を抜いて楽しめてええと思うけどな」
「それもそうか。僕も嫌いじゃないな、この感じ」
「私もです!なんか、いいですよね!この感じ!」
「気が合うねえ、三人とも。わしもこのゆるゆるな雰囲気が好きなんだよ」
私たちの会話をニコニコ顔で聞いていたおじいさんが言う。
私たち四人は、顔を見合わせて、クスッと笑ってしまう。
言葉は分からないし、予定調和じゃないけれど、そんなところが面白いし、肩の荷が軽くなるし、なにより楽しい。
そこに、店員さんが、今度こそ私たちの注文の品を運んできてくれた。
「これは、コーラだから、師匠と梢の分。これが薰ちゃんのお茶。このコーヒーは僕。なんだか、コーヒーが小さいような気がするんだけど」
真実さんは、運ばれてきた品物をテキパキと分けながら、疑問を示す。
「エスプレッソやから、この小ささなんやろ。アメリカンコーヒーとかなかったん?」
「いや、コーヒーっていう表記が見当たらなくて、エスプレッソしか見当たらなくてさ。この量に対してこの値段は高すぎじゃないかなあ」
「コーヒーとか、普段の飲まんから、うちには分からへんわ。じいちゃん、薰、知っとる?」
「わしは、甘いもんしか頼まないから、全然分からないな」
「私は、お茶か水にしちゃうから、分からないな」
私たち三人は肩をすくめる。
ポテトを手際よく四人分に取り分けてくれる真実さんへ、とりわけ用のティッシュを渡しながら、私はお茶を少し口を付ける。一口飲んだところで、吹き出してしまった。
ゲホゲホと咳き込む私の背をさすってくれる梢さんが私に尋ねる。
「なんや、なんや。なんとかティ-って、変な味やったんか?」
私は、やっと落ち着いて、あと一口お茶を飲んでみる。
「このお茶、めちゃくちゃ甘い。アイスティーに、何だろう、フルーツのシロップがたっぷり入っているみたいな味かな。いや、どっちかというと、シロップをお茶で薄めた感じかな」
「あはは、そら災難やったな。薰、普段甘いジュースとか飲まんもんな」
「薰ちゃん、僕の珈琲と交換する?まだ口つけてないし」
「いや、大丈夫ですよ。甘いと分かって飲めば、これはこれでいけます。普通の無糖のお茶だと思って飲んだから、びっくりしただけで」
「アメリカでは、緑茶に砂糖とかレモン入れて飲むらしいで」
「うわ、邪道すぎる。でも、味がちょっと気になるかも」




