オタクがお洒落することはコスプレと同義
結局、袖がふわりと膨らんだ黒いブラウスと、ベージュのリネン生地のワイドパンツを選んだ。これは、私の持っている一番大人っぽい服だ。
私は身長が低いので、パンツ系は裾が長すぎてサイズが合わないことが多い。裾の長さを気にしなくて良い膝丈やロングスカートを着ることが多い。とは言っても、膝上丈やミディアム丈のスカートが、私が着ることで膝丈やロングスカートになってしまっているのだけれど。でも、そんな着方も私のオリジナル感が出てわりと好き。
そんなわけで、今日来ているワイドパンツは、珍しく私に合うサイズが見つかったもので、お気に入りだ。これを着て、髪を下ろして、イヤリングをすると、いつもより少し大人びて見える。
ひとりで電車で遠出したり、平日に学校をさぼって出かけたり、デパートで高い買い物をしたいときなど、この格好をする。私は小柄だからか、挙動不審だからか、普通にしていると、年相応より低い年齢に見られてしまうことがよくある。だから、子供に見られてしまうと居づらいシーンでは、この服を重宝している。
日焼け止めを塗って軽く化粧して、イヤリングをつける。これで5歳くらいは上に見えるはず。真実さんも、驚いてくれたら嬉しいな。それに、今日は髪型のアレンジを工夫してみた。真実さん、気づいてくれるかな。いつも漫画みたいなリアクションの真実さんが、どんな反応をするのか楽しみだ。
「今からロビーに行きますね」
電話をかけると通話料が高いので、モバイル通信で済むLINE通話で真実さんに電話する。
待ち合わせは、ホテル1階のロビーだ。高級なホテルではないので、ロビーと言えるほど立派な設備はない。ただ、わりと大規模なホテルなので、一階のスペースは広い。カウンターの斜め向かいにはテーブルと三、四人は座れそうなソファが置いてある。私と真実さんは、その一角で待ち合わせしている。
「お待たせしました」
「あれ、薫ちゃん、なんか今日の服大人っぽいね。もしかして、今やってるアニメの主人公をイメージした髪型?」
「さすが。分かってますね!そうなんです。この両側をハーフアップお団子にした髪型、主人公の薬師をイメージしてます!あと、ワイドパンツが主人公の着ている宮廷の仕事着ぽいかと思ってまして!どうしてもやってみたくて」
「なるほど、先週の園遊会シーンのイメージだね。主人公の雰囲気は、どことなく薫ちゃんの雰囲気と似てるし似合ってるよ」
好きなキャラに似せたコーディネート、これまではこっそり楽しんでたけど、分かってくれる人がいるのって、すごく楽しいし、嬉しい。兄貴や梢さんは、アニメや漫画を読まないから、この手の話はできないんだよね。梢さんは、ゲームなら廃人レベルで嗜んでいるけれど。




