一人暮らしだと独り言が多くなる
スマートフォンのタイマーの電子音で目を開ける。
あれ、ここ、私の部屋じゃない。あ、そうだ。パリに来てたんだっけ。
「知らない天井だ」
一度は言ってみたかったので、あえて声に出してつぶやいてみた。アニメや漫画に出てくる台詞って、自分も同じような状況になると、実際に言ってみたくなる。実際に声に出してみると、非日常感が体に染み渡って、わくわくしてくる。一人で部屋にいると、独り言が多くなっちゃうな。
真実さんとまた部屋で待ち合わせしている14時までは、あと1時間ほど時間がある。待ち合わせ前に、身支度を整えたかったから、少し早めにアラームを設定した。
仮眠前は眠すぎて、靴はベッドの近くに脱ぎ捨ててある。服は、眠る前にジャンパーを脱いだだけで、昨日真実さんの大学に忍び込んだときから着ているワンピースのままだ。ただ、時差の影響もあるので、実際には2日間くらいたってるんじゃないかな。飛行機で一晩明かしたということは、すなわちお風呂にも入っていないし、着替えていないわけで。
「髪もベタつくし、お風呂入って着替えて歯磨きもしたいな」
ホテルにはシャワーしかないこともあるみたいだけど、このホテルはどうだろう。
窓際に置いてあるテレビの黒い画面に反射して、私のボサボサの髪と、しわくちゃのワンピース、明らかに寝起きの顔が写る。真実さんとの待ち合わせ時間までに、身だしなみ整えたいな。持ってる荷物とホテルの設備できる範囲で。
まだ眠い目を擦りながら、ベッドから起き上がると、バスルームに向かう。入り口のドアを入ってすぐ左手にドアがあったから、たぶんそこがトイレかバスルームなんじゃないかな。
「お、バスタブがある!」
バス、トイレ、洗面所が集まっている3点ユニットバスみたい。栓を閉めればお湯を溜めて、湯船に浸かれるんじゃないかな。でも、喜んだのは束の間。
「栓はあるのに、ボタンを押しても栓が動かない、、」
バスタブの栓が、シンプルな栓を置くタイプだったら良かったんだけど、ボタンを押すと栓が閉まるタイプだから、ボタンが壊れてるならどうしようもない。
「仕方ない。シャワーだけでも浴びて、髪洗ってサッパリしよう」
ドライヤーは洗面台の上の作り付けの棚に置いてある。でも、バスタブの栓が壊れてるくらいだし、念のためドライヤーが動くのか確認しておこう。うん、ちゃんと暖かい風が出る。シャンプーやボディーソープと思われるものもバスタブ上の棚にあるし、タオルも1枚あるみたいで、シャワーは浴びられそう。良かった。
「サッパリしたなあ」
シャワーを浴びて髪を乾かした後、持ってきた服をリュックサックから全て取り出して、ベッドの上に並べてみる。何を着ようかな。そもそも持ってきた服が少ないから、さっき着ていたワンピースも合わせて3パターンくらいなんだけれど。