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脳内の予測変換がおかしい件

 私と真実さんは、電車に乗るとほっと息をついた。


 「どうにかホテルの最寄り駅までたどり着けそうですね!」

 「そうだね。駅ではどうなることかと思ったけど、薰ちゃんのおかげでたどり着けそうだよ。ありがとう!」

 「何言ってるんですか!ほとんど真実さんのおかげでここまで来られたんですから。こちらこそ、ありがとうございます!」


 フランスの地下鉄は、車両のドア付近に金属製のポールあり、立っている人が掴まることができるようになっていた。私は開閉しない方のドア付近で、ポールに捕まって立っている。真実さんは、私と並んで、ドアに寄りかかるように立っている。

 二人して、ショルダーバックとリュックサックを体の前に抱え、ファスナー部分を手で押さえて、周囲をキョロキョロと見回している。さらに、私と真実さん二人とも、お財布とスマホにリール式のストラップを付けて、それぞれのショルダーバックにつないで鞄にしまっている。これは、ガイドブックに載っていたスリ対策。

 ショルダーバッグが気づかないうちに開けられてしまって、貴重品が盗まれてしまうことがあるみたい。あと、電車の出入り口付近でスマホを使っていると、駅から電車が出発する際、電車のドアが閉まる直前にスマホをひったくられて、犯人がそのまま電車を降りてしまって逃げられてしまうこともあるんだって。

 たぶん、まわりの乗客からは、挙動不審と思われているんじゃないかな。もしかしたら、自意識過剰の思い込みかも知れないけれど。日本で旅行中の外国人が少しくらい変な動きをしていても、外国で勝手が分からないことは当たり前だし、私自身、気に留めないから。

 

 乗っている地下鉄には電光掲示板がない。ドアの上部についている路線図の駅名の上にライトが付いていて、そのライトが光っている駅が次の停車駅みたい。でも、おかしいな。乗ってから3駅は停車したはずなのに、まだ乗り込んだサン=ラザール駅のライトが光っている。もしかして、この表示板、けっこう大雑把であんまり正確じゃないのかも。あと何駅でホテルの最寄り駅のポルト・ド・クリシー駅に着くんだったかな。心配になって、周囲を警戒しながら、ショルダーバッグからスマホを取りだしてグーグルマップで経路を確認してみた。そして、私は凍り付いた。


 「真実さん!間違えた!どうしよう!」


 私は青ざめた顔で真実さんに叫んだ。真実さんは私の様子にびっくりしたみたいで、ちょっと慌てた様子で聞き返す。


 「え?薰ちゃん、間違えたってどういうこと?」

 「乗る電車を間違えたみたいなんです!私たちが行く駅って、ポルト・ド・クリシー駅ですよね!でも、綴りが間違っていて!」

 「落ち着いて、薰ちゃん。ゆっくりで大丈夫だから」


 早く伝えないといけないと思って、焦ってしまっていたことに気づいて、ふーっと長く息を吐き出す。動揺してしまったとき、呼吸を無意識に止めてしまう。でも、ちゃんと息をしないと。できるはずのこともできなくなっちゃうから。息を吸って吐いて、空気が体に行き渡ると、すうっと頭が冷えて少し落ち着いたみたい。


 「真実さん、あの表示板を見てください。私たちが向かっている駅がサン=ラザール駅から左に8つ目にあるんですけど、綴りは”Port de choicy"って書いてあります。でも、私たちのホテルの最寄り駅のポルト・ド・クリシー駅の本当の綴りは、”Port de chricy”なんです。つまり、この電車に乗っていてもホテルの最寄り駅にはたどり着きません」

 「本当だ!確かに、今僕たちが向かっているのはポルト・ド・クリシー駅じゃなく、・・・なんと読むのか分からないけど、ポルト・ド・チョイシー駅、かな?」

 「そうなんです!私のせいですみません!冷静に考えたらこの綴りでクリシーとは読めないですけど、なんでか早とちりしてしまいました」

 「いやいや、僕も薰ちゃんと同じだよ。一緒に見ていたのに、綴りが違うこと全然気がつかなかったんだから!とにかく次の駅で降りよう!」

 

  私と真実さんは、次の停車駅で電車を降り、もう一度サン=ラザール駅に戻るため、さっきとは反対方面行きのホームで電車を待つ。


 「真実さん、サン=ラザール駅からポルト・ド・クリシー駅は、3駅先みたいです。本当は大分近くて、8駅も乗らないみたいですね」

 「そうなんだ~薰ちゃんの調べてくれたグーグルマップの経路図で目的地までの駅数も確認しておけばよかったね。僕も全然気が付かなかったから助かったよ!」

 「いつもなら気づきそうなのに、うっかりしてました!ほぼ徹夜明けだからですかね」

 「絶対それもあるよね!早くホテルに着いてゆっくりしよう、、」


 私たちは疲れの滲む顔で頷き合った。


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