翻訳アプリがあれば語学なんて要らないんじゃない?
私と真実さんは、シャルルドゴール空港内のベンチで今後な計画を確認している。というのも、梢さんは、入国審査を終えるなり、私たち二人を残して颯爽とどこかに出発してしまったから。
「うち、今日はこのあと行かなあかんところがあるから。今日は解散で、夜にまたホテルで集合ってことにしよう。予約しておいたホテルの場所は、さっき2人に送ったから!じゃあ、そういうことで!」
そう言い残して、軽やかに歩いて行く姿は、まるで台風みたいだったなあ。
「梢はどうしてあんなに元気なんだ・・・出発前はあんなに眠そうでふらふらだったのに・・・」
「梢さん、飛行機で14時間ぶっ通しで爆睡してましたからね。回復力が半端ないです!」
パチパチと拍手する私を横目に、真実さんは腰をさすっている。
「座りっぱなしだったから腰が痛い・・・」
「私は機内の乾燥のせいでで目が乾燥して霞んじゃってます・・・」
二人して、ふう、息をつく。
梢さんがいないと、真実さんのお師匠さんでもある、梢さんのおじいさんを探す当てがない。今は現地時間で朝の6時ごろだから、丸一日の予定が空いてしまった形だ。
「とりあえず、行く当てもないし、梢が予約してくれたホテルに向かおうか」
「そうですね。真実さんも私も、この荷物を持って観光するのは大変ですしね」
真実さんは、リュックサック、ボストンバッグ、キャリーケース、私は、ショルダーバッグと、着替えの入った大きなリュックサックを持ってきていて、ショルダーバッグ一つでやってきた梢さんのようには身軽に動けない。
「ところで私、フランス語はおろか、英会話すらまともにできなくて・・・どうしよう!」
「僕もだよ。大学で勉強した第2外国語は韓国語だったし、フランス語は全く分からないんだよね。英語も受験勉強で使った長文読解しかできないと思う」
私と真実さんは、梢さん不在のこの状況に青ざめる。私たち、無事にホテルまで行けるのかな。梢さんや梢さんのおじいさんがいるから、フランスに来たとはいえ、困る事なんてないと思っちゃってたよ。私ってば他力本願すぎたなあ。普段は兄貴が過保護すぎるくらいに世話を焼いてくれるのに甘えて、ついつい甘えすぎだったんだろうな。初めて海外に行くんだから、梢さんや真実さんが一緒とはいっても、ちゃんと自分でも準備していかないといけなかったな。
「薰ちゃん、気休めにしかならないかも知れないけど、翻訳アプリを入れておこう。あと、ここでもインターネットが使えるようにデータローミングの設定もしておこうか。それから、日本でガイドブックを買っておいたから、これで電車の乗り方を確認して、ホテルに向かう準備をしよう」
真実さんは、てきぱきと自分のスマホと私のスマホを操作して、データローミングと翻訳アプリの設定をしてくれた。
そっか、モバイル通信って、日本国内でないと使えないんだ。そんなことも全然知らなかった。それに、真実さん、いつの間にフランスのガイドブックを買ってたんだろう。梢さんに誘われて急にフランスに行くことになったからといって、準備を人任せにせず、自分で考えてできる限りの準備をしてるところ、さすが大学生だなあと思う。私が高校生のくせに他人任せすぎなのかも知れないけれど。私も真実さんに頼り切りになるんじゃなくて、自分の出来ることを少しでも良いから考えてちゃんとしよう。そう決意してスマホを握る。
「私、ホテルまでの生き方マップアプリで調べてみますね!」
「ありがとう。二人で力を合わせて、無事にホテルまでたどり着こう!」
「はい!2人ならきっと出来ます!」
真剣な表情でうなずき合う私たち。
なんだか時差の影響もあるのか、2人ともいつもよりちょっとテンションが高い気がする。もしかしてこれが徹夜明けのテンションってやつなのかもしれないな。