飛行機が離陸するときの急激な眠気って何だろう
搭乗時間の21:00になり、私たちは飛行機に乗り込んだ。
梢さんは、安くチケットを予約するため旅行会社を通して予約したので、私たち三人の座席は二人と一人で分かれている。3席のうち2席は、窓際の座席の列の3つの座席のうち、通路側と真ん中の隣合う席。あとの1席は他の2席と離れていて、機内の真ん中にあたる座席の列の、いちばん窓際だ。
「僕が離れた座席を使うよ。梢も薫ちゃんは、隣の席に座って。梢はずっと寝るだろうから真ん中の座席が良いと思う。薫ちゃんが通路側の席に座るといいよ」
といって、真実さんが私と梢さんに二人続きの席を譲ってくれた。
梢さんは飛行機の席に着くなり、うつらうつらし始め、5分経たないうちに寝息を立て始めた。
私たちの乗った飛行機はエールフランス、パリのシャルル・ド・ゴール空港行き。機内には、これからフランスに帰るのであろうフランス人と、これからフランスへ向かう日本人が半分ずつくらいといったところだ。私の二人先の右隣(梢さんの隣)は、30代くらいに見えるフランス人の女性、通路を挟んで隣の人もフランス人みたい。客室乗務員の人たちも、日本人とフランス人が半分ずつといったところだ。
飛行機に乗るのも初めてなのに、いきなり海外に行くことになるなんて昨日までは思いもしなかったよ。通路側に座ってしまったから、客室乗務員さんや他の座席の人に、フランス語で話しかけられたらどうしよう。英語なら分かるのに、と言えるほど英会話もできないのだけれど。そもそも、定期試験のための勉強しかしてこなかったから、英語ですら外国の人と会話なんてできそうにないよ。
と、私が弱気になっている間うちに、飛行機は滑走路を走り始めたようだ。窓からチラリと見える夜の空港の明かりがとても綺麗。いよいよ飛行機が離陸するんだとドキドキしてくる。
真実さんの座っている席に目をやると、ちょうど真実さんもこちらを見たところで、小さく手を振ってくれた。私は嬉しくなって、ついつい大きく手を振り返す。
観光目的じゃないし、急に決ったことだけど、これは私の初めての海外旅行なんだ。しかも、真実さんと梢さんが一緒にいて、二人は私の魔法の師匠になってくれて、これから二人の師匠に会いに行く。
そう考えていると、不安な気持ちがすうっと小さくなっていって、わくわくする気持ちがむくむくと大きくなる。むずむずするような、こんなに楽しみでどきどきする気持ちは久しぶりだ。
昨日真実さんに出会って、魔法への憧れについて初めて人に話したり、初めて魔法使いに出会って、大学に潜入してまで真実さんに会いに行ったり、梢さんが魔法使いだって知ったり、初めてのことづくしだったなあ。昨日と今日だけで1年くらい経ったような気がする。
昨日からの出来事を思い出して、ワクワクする気持ちを噛みしめるように目をつぶると、ふいに睡魔が襲ってきた。このドキドキわくわくする気持ちをもっと味わっていたいのに、私の意識は眠りへと吸い込まれていった。