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2日目 清々しい朝

 プルルル、プルルル……


 電話の音が鳴る。きっと会社からの電話だ。

 …寝坊した。

 今何時だ?


 起きなければ。

 でも起きたくない……


 でも……



 ガバっとベッドから飛び起きる。


 おれは辺りを見渡した。

 外から日の光が入ってきている。


 そうだ。おれはホテルに泊まったんだった。


 じゃあ電話は?

 そう思えば、外からピピピっと鳥の声が聞こえる。


 もしかしてそれで錯覚した?

 夢だったのか。


 ……よかった。


 安心して時計を見ると、その短い針は10を少し越したあたり。


 よく寝たな。久々だ。


 ベッドの白いシーツを触ってみる。

 さらさら。その感触がここが天国のホテルだと保証してくれている気がして、心地いい。


 枕に思い切り頭を下ろしてみる。

 スベスベのシーツでふかふか。


 最高の朝だ。



 おれはのんびり、パジャマから着替え、ジャケットを羽織って、静かな廊下に出た。


 一晩寝て、気分が良かった。


 この廊下を駆け抜けたいぐらいの気分だ。

 もちろん、駆け抜けたりはしないが。


 床が絨毯なので、足音も声も吸収されて静かだった。


 カチャカチャと響く鍵の音が目立った。

 もう11時になりそうだった。


 いくつもドアの並ぶ廊下を、その落ち着いた空気を楽しみながら進む。


 なんかこういうの、いいな。

 朝の、皆が動き出す前の静けさというか何というか。


 もう11時だけど。

 そんなツッコミはさておき。


 50階ロビーに上がる階段の手前で、子供を抱っこした男性がいた。


「ママは?」

 子供が男性に聞いた。

 

 男性は答えた。

「ママはエステに行ってるよ。今日はパパと遊ぼう」


 どこに行きたい?


 そんな会話を流し聞きながら、横を通り過ぎた。


 子供の頃を思い出す。


 子供の頃は何も考えなくてよくて、楽しかった。


 嫌なこともあっただろうが、楽しかった気がする。


 またそんな生活に戻れるだろうか。


 階段を登り、50階ロビーに出ると、途端に天井が高くなる。


 観葉植物の間から、待ち合いのソファ、大理石の床が見え、光っている。


 ビュッフェ会場に向かう途中、右手には小さなショップがあった。


 その前にある柱の近くで、

 スーツ姿の男性達がバッタリ話し込んでいる。


「どうもこんにちは」


「こんにちは。今日は?」


「いや〜。今日は休みですよ。部屋でゆっくりのんびりします」


「おたくもですか。うちもです」


 彼らは天国に来てまで何の仕事をしているのだろうか。

 若干の興味はあったが、そのまま歩く。


 仕事をしている人がいるというのは、少し悲報だ。

 しかし分かっていたことではある。


 働く人がいなければ、おれはどうやってここに来れた?


 役所の人やホテリエさんがいて、さらにこのホテルを作った人がいて、だからここに来れたのだ。


 大抵のものがタダ。


 それはいいが、しかし、仕事をしている人がいるというその事実に、注意しなければならないだろう。


 もしかしたら、無給で働くからこそ、物価も無料なのかもしれない。


 そんなおれの横を、子供達が駆けていく。


「今日は学校休んで遊ぼうぜ」


「そうだな。今日は遊ぶか」


 そんな会話が耳に入った。


 子供達は元気だ。


 なら、そう悪い世界ではないだろう。


 そんなことを思った。



「こんにちは。お一人でしょうか?」


 ビュッフェ会場に着くと、ホテリエさんに話しかけられる。


 どうやら席まで案内してくれるらしい。


 昨日はこんなことなかった。

 混雑時のサービスかもしれない。


「お食事が終わりましたら、お手数ですが、こちらのボタンを押してからご退席ください。では、ごゆっくりどうぞ」


 さて、朝食兼、昼食を取りに行く。


 今日は昨日結局食べなかったカレーを取った。


 ご飯と合わせて食べる。


 具材の旨みがしっかり溶け込んだ、ドロっとしたルーが最高に美味しかった。


「今日の晩ご飯どうする?」

 近くの席で子供が母親に聞いている。


 母親らしき人物が言った。

「どうしよっか」


 やはりここでも、目につく範囲の人々は幸せそうだ。

 なら、大丈夫だろう。


 何より、カレーが美味いしな。

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