23日目 何か
今日はなぜか、早く目覚めた。
早く目覚めたので散歩に行くことにした。
スゥーと深呼吸をする。
朝の空気は美味しい。
外にはランニングをしている人や、ベンチに座ってゆっくりしている人、犬の散歩をしている人、学校に登校中の学生。スーツ姿の人もいた。仕事に行くのだろうか。
色んな人がいた。
朝は涼しくて、噴水の水がみずみずしく見える。
散歩しているだけで中々気持ちいい。
空気が澄んで、空が綺麗に見える。
仕事をしていた時はもっと早起きだったが、そんなこと感じなかった。
「おはようございます」
ホテルに戻ると、ホテリエさんが出迎えてくれた。
彼女も朝から大変だ。
バイキング会場に行くと、思っていたよりも盛況だった。
朝からここまでの人がいるとは。
最近毎日、早くて9時起きだったので知らなかった。
適当にパンを選んでいると、追っかけ君とバッタリ会った。
「おや、加藤さん。どうも」
せっかくなので一緒に食事することになった。
「加藤さんはこの後どこか行くんですか?」
「いや、まだ決めてないよ。追っかけ君は?」
「ぼくはサークルに行きます。朝は比較的天使が出やすいので」
「そうか。大変だな」
「そうですね。ですが、楽しくもあります」
「やりたいことだもんな」
ひと通り食事を終えて、追っかけ君は天使を探しに行った。
おれはどうしようかな……
──────
どうしようかとホテルをぶらぶら歩いていると、ジム帰りの女性とすれ違った。
おれもジムで筋トレでもしようかな。
しかし、そんな気分ではなかった。
会議室の前も通った。
扉は閉まっていて、中から会議の声が漏れ出て聞こえた。
大変だなあ。
40階の作業スペースを通ると、子供達が宿題をしていた。
自主勉している青年もいた。
おれも何かしようかな。
そんな考えが頭によぎった。
──────
図書館の空気はいつも変わっている。
本屋の空気とも違う。
静かで乾いた、本を捲る音だけが響く空気だ。
ここにはたくさんの本があって、その本すべてに可能性がある。
1階には文庫本が多そうだ。
だから2階に上がる。
勉強したいから、2階に上がる。
階段は広く、青いラインが入っている。
2階に上がって、適当に本を見ていく。
『未来社会に生きるための新常識』
『空の向こう側 –旅人たちの物語』
『神秘の植物 –知られざる癒しの力』
『無限に広がっていく世界』
面白そうな本はたくさんあるが、
『天国探訪 – 究極のリラクゼーションスポット巡り』
『心の平穏を育む – 天国式瞑想』
『天国初心者のためのやりたいこと入門 --エメラルド社』
とりあえずこの3冊を取った。
少し歩いて奥に行くと、そこには丸く段々になった場所になっていた。
中心から同心円上に、いくつもテーブルと椅子が並び、周りの丸い段の部分は、座ったり、リラックスして本を読めるようになっている。
寝転んでいる子供もいる。
あちこちに下への階段と上への階段があり、まるでアスレチックのような、そんな感じである。
ずっと奥へ進んでいくと、右に大きくカーブして、半円状に美術館と繋がっているようだ。
おれは空いてる席に座って、『天国初心者のためのやりたいこと入門 --エメラルド社』を開いた。
やりたいこと。
まさに今、おれが意識しているものである。
『前書き
みなさん、学校の授業や卒業論文などで、将来の夢について、書かされた経験はありますか?
その時、自分の本当の夢を書きましたか?
あるいは、将来の夢自体持っていませんでしたか?
私は持っていませんでした。
だから、将来の夢の作文なんて下らない、他人の作文を見ては綺麗事を書きやがってと思っていました。
例えば、人の命を助けたいから、医者になりたいというのは、嘘っぽいと思いました。
安定しているから公務員になりたいです。
これはよくわかりました。
やりたいことがないから、できるだけ楽で安定したものを求めるのです。
少なくとも私はそうでした。
しかし、そんな私にも不意に、将来の夢が見つかりました。
将来の夢があると、考え方や価値観が大きく変わります。
本章では、それについて、私の経験を述べます。別にそれが正しいとかそういうことは一切なく、何かの参考程度にでもなれば幸いです。』
おれも、この本の筆者と同じだ。
将来の夢がない。
そして下らないと思っていた。
でも───
その時、後ろから声をかけられた。
「あれ? 加藤さん。図書館に来るなんて珍しいですね」
追っかけ君だ。
「追っかけ君」
追っかけ君こそ珍しい。
……いや、おれが知らないだけでいつもここに来ているのか。
外で天使を追っかけてばかりだと思ったので意外だ。
「天使を探すために色々文献を読み漁っていたんです。加藤さんはどうしてここに?」
「…おれも何かやりたくなってな」
「何か? 何かって?」
何かといえば、何かだ。
追っかけ君。畑中君。
そしてクルーズ船の人達をみて、おれも何かやりたいことを探したくなったのだ。
多分、彼らがとても充実して見えたから。
人生、やりたいことがあるというのは良いことだ。
おれもそれを見つけたい。
まあ、だからといってホテルでゆっくりするのをやめるわけではないが。
ゆっくりと、本当にゆっくりのんびりと自分のやりたいことを探すのだ。
追っかけ君にとっての天使のような、熱中できるものを。
「? どうしました?」
「いや。なんでもない」




