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22日目 川を追いかけて

 22日目。

 その日、おれは外に散歩に出ていた。


 天国の街は、まるで外国の街に来たかのようで、歩いているだけでも面白い。


 しかし、こんなことしていていいのだろうか。


 階段を登って、歩道橋を歩いていると、何やら大きな船が遠くに見えた。


 近くまで歩いていく。

「こんなところに海なんてあったかな」


 おれがそう呟くと、後ろから話しかけられる。


「海じゃなくて川だよ」


 見ると、船から橋がかけられ、人がどんどん降りてきていた。

 そしておれに話しかけてきたのは、子供である。


「川なんてあったっけ?」

 子供に尋ねる。


「今朝、流れてきたんだ」

 子供は言った。


「へー」

 潮風が吹く。いや、海じゃないからただの風か。


「着いてきなよ」


 下流の方に向かって歩くと、確かに川は今、出来始めているようだった。


 乾き切った横溝に水を流した時のように、川の水が流れていく。


「ぼくらの船はこれを追ってきたんだ」

 少年が言った。


「どうして?」

 おれは少年に尋ねた。

「さあ?」


 その時、船の方から声が聞こえてきた。

「おーい。まさと〜」


「君の名前?」

「そう。もう戻るね。じゃ」


 そう言ってまさとくんは走って行った。


 ──────


 おれが散歩を終え、

 ホテルに戻ると、中々賑わっていた。


 ソファに座って、聞き耳を立ててみるとどうやら船の人たちらしい。今日はここに泊まるようだ。


 つまり、ビュッフェが混むかもしれない。

 今日は早めに行こうと心にメモ。


 それを横目に、エレベーターを待つ。

 待っている間に、人はさらに増えてきた。


 チェックインを終えた人達がおれと同じく、エレベーターに乗りに来たのだ。


 チリン、とエレベーターが到着し、ドアが開く。

 おれは後ろの人たちも入れるように、奥へと乗り込んだ。

 ボタンは奥にも押す場所があるので問題はない。



 チリン、と


 エレベーターを降りて、一息つく。

 人が多いと大変だ。


 この後どうしようかと考えながら歩いていると、追っかけ君が前から歩いてくる。


「あ、加藤さん。探してたんですよ」


「どうした?」


「今この近くにすごいでっかい船が来ているんですよ」


「ああ、知ってる。さっき見てきた」


「え!? どうでした?」


「でかかった。川を追ってきているらしい」


「川を? そんなことより加藤さん、今日その船でパーティを行うそうなんです。一緒に行きませんか?」

 川を追ってきているというのは、おれ的には大ニュースだったので、流されて少しショック。


 追っかけ君は目先のパーティに夢中だ。


「おれたちも参加できるものなのか?」


「ええ。誰でも参加できるみたいです。ロビーでそう言ってました」


「そっか。じゃあ行ってみようかな」

 おれもパーティには興味がある。

 というか、あのデカい船に乗り込めるというのは楽しみだ。


 生前、フェリーや豪華客船に乗ってみたいとずっと思っていたが、結局乗れずじまいだった。


「じゃあ、18時にロビーに集合で!」


「オッケー。じゃあ、また」


 その機会をくれた追っかけ君には感謝しないとな。


「また後で」


 ──────


 18時に追っかけ君と無事合流し、船の前まで来た。


 潮風を感じる。

 いや、ここは川だが。


「確かに。でっかいですね」


「だろ?」


「あ! あそこが入口みたいです。行きましょう!」


 入り口には、人がずらりと集まり、順番待ちしていた。


 まさにイメージ通りだ。

 と、そこで引っ掛かる。


「チケットとかいらないのか?」

 イメージでは入場にはチケットが必要な感じだ。


「大丈夫みたいです。太っ腹ですよね」


「へぇ」

 この街の全員が来たら、さすがにこの船でも入りきらないと思うが……どうするのだろう。


 まあ、全員は来ないか。



「ようこそ。中へどうぞ」

 ほぼほぼ素通りで中に通してもらった。


 中は明るく、煌びやかだ。


「へー。船の中ってこんな感じなんですね」

 追っかけ君が辺りを見回しながら言う。


「追っかけ君も初めてか」


「いえ。子供の頃に一度校外学習で乗ったことがあります。昔すぎて、ほとんど覚えてないですけどね」


「おれは初めてだ。校外学習で船に乗れるなんていいな」

 おれの校外学習の記憶といえば、ごみ収集場とかしかない。いや、一応高校では、京都に行ったんだったか。


「そうですね。子供の頃は特になんとも思わなかったけど、今思えば豪華だったと思います」

 追っかけ君が感慨深げに言った。


 珍しい。



「パーティ会場はこっちみたいですね」

 案内の立て札があり、それを見て追っかけ君が言った。


 おれ達はパーティ会場に入る。


 船の中も十分豪華だったが、パーティ会場はさらに豪華だ。


 でっかいホールのような場所で、食事が並べられ、自由にそれを取って食べる方式らしい。


「わあ!すごい……」


 追っかけ君がつぶやいた。

 その呟きに、おれも同意だった。


 パーティ会場の天井の高さは、ホテルのビュッフェ会場とは比べものにならないほどで、机や椅子、調度品の全てに至るまで豪華だった。


 ───


 美味しい食事に舌鼓を打ち、腹もそこそこいっぱいになった頃、辺りが暗くなり、上からスクリーンが降りてくる。


「なんだ?」


「なんでしょう」

 追っかけ君がローストビーフを食べながら言う。


 スクリーンに映像が映った。

 それと同時に、スピーカーから音が流れ出す。


『皆様、本日は船上パーティにようこそいらっしゃいました。只今より、当クルーズの旅の軌跡を映したいと思います。ぜひご覧下さい』


 そうして音楽と共に、この船がこれまで訪れたであろう場所の写真が流れ始める。


『〇月□日日この船は、広大な海に出ることを目指して、エリドナの港を出港しました』


『そこから川を追って、西へ進み、最初の街、カリナパールに辿り着きます。ここには多くの建築家が集まり、塔の高さを競っておりました』


『次に訪れたのは、巨大な図書館を有する都市、アルバン。訪れた日には、ちょうど詩の朗読会が行われており、詩人たちの語りに耳を傾けました』


『そこからさらに進み、芸術の土地、ザンブルグに到着。

 ここでは建築物によるアート作品を見ました!』


『そして最後に、この街、フェルソンです。

 ここでは大きなホテルを中心に、まるで迷路のような複雑な街並みを楽しみました』


『これまでの旅の軌跡。如何だったでしょうか?』


『パーティは今夜、12時まで続きます。まだまだお楽しみ下さい!』



 ─────


「いつもこんなパーティをやってるんですか?」

 追っかけ君が近くにいた人とにこやかに話す。


「いや。1週間に一回ぐらいかな。でも、パーティ以外にも色々やるぜ。宝探しゲームとか、犯人当てゲームとか」


 その時、酔っ払いが絡んできた。


「おい君たち! 飲んでるか⁉︎」

「今日はパーティだぜ? もっと飲もう!」


 追っかけ君はそれをあしらい、会話を続ける。

 中々強い。


「え? 田中さんあの塔にチャレンジしたんですか?」


「ああ。だが全然ダメだった。やっぱりプロは違うな」


「そうですか」

「だが、おれはそこまで気にしてない。人には向き不向き、長所短所があるからな。おれの長所はなんだと思う?」


「腕っぷし?」

 いかにもムキムキな身体を見て、追っかけ君が言った。


「違う。おれの長所はチャレンジ精神だ。脚本家になるのが夢なんだ」


 酔っ払いが話す。

「追っかけ! お前の夢は何だ?」

「天使に会うことです!」


 そしてこっちにまで飛び火してきた。

「君は?」


「…まだ、探し中です」


「そうか。なら、脚本家がおすすめだぞ」

「考えておきます」


 ──────

 その後もパーティは続き、食事を取るため歩いていると色んな会話が聞こえてくる。



「あの街は楽しかったなぁ」

「な」


「歌います。ららら」


「♪」

 ステージで歌が始まる。



 追っかけ君は色んな人に船に乗った理由を聞いていた。


「山田さんはどうしてこの船に乗ったんですか?」

「うーん。成り行き?」



「渡辺さんは?」

「なんか新しい景色を見たくなって」



「あなたは?」

「おれは建築画家をやってだが、少し行き詰まって気分転換にな」


「おれは海が見たくて」


「おれは一回こういう豪華な船に乗ってみたくてな」



「色んな理由があるんだな」

 おれはそう呟いた。


 皆、色んな理由がある。

 ただ、天国の人たちは自由気ままに生きているんだなぁと、そう思った。


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