21日目 存在感
ある晴れた日。
広場の噴水前のベンチに座っていて、そこから動き出そうとしたら、声をかけられた。
「あっ、ちょっと待って」
「悪いんだけど、動かないでもらっていい?
もう少しで絵が完成しそうなんだ」
「まあいいけど」
彼が絵を描いているのは、ベンチに座りながらも見ていた。
「ありがとう!」
つまり、おれが絵の中に入っているということだよな。
少し恥ずかしい。
──────
「いやー、ありがとう。おかげでいい絵が描けたよ」
あの後、割とすぐに絵が描き終わって、そう話しかけられた。
「絵、見る?」
「もちろん」
「OK。噴水の水飛沫で存在感を表現したんだ。ここの色合いとか、よくできてるだろ」
基本は広場の全景だが、ベンチに座った男が存在感を醸し出している。
これがおれ?と思うと、思わず笑ってしまった。
こんなに存在感を醸し出している覚えはないからだ。
しかし顔などがアップじゃなくて良かった。
──────
それから数日後。
広場を、今度は歩いていると、また画家の青年に話しかけられた。
「お!やっと見つけた」
「この前の」
「この前ここで、描いた絵が美術館に飾られることになったんだ。良かったら観に来ない?」
「この前のあの絵が?」
「そう。タイトルは、ベンチに座る男」
そのままじゃねえか。
「じゃあせっかくなら観に行こうかな。」
「オッケー! 案内するよ。着いてきて!」
そう言って青年は広場の端の階段を降りていく。
美術館はそっちじゃなかった気がするんだが、まあいいか。
「美術館ってこっちだったっけ?」
青年の後を追いながら尋ねる。
「そう。この前の絵を館長に見せたら、館長のお眼鏡に適ってね。まあ、僕の中では最高傑作だから当然だけど」
「へー、そうなの」
すごい自信だ。
「そう。あの絵はすごい良く描けたんだ。点と点が繋がったって感じで」
「ほう」
ちなみにおれは絵が苦手である。
昔ドラえもんの絵を描いたら、鉄腕アトムみたいと言われてしまったことがある。
「あ!見えてきた。あの赤い屋根の建物がそうだよ」
見えてくる赤い屋根の建物。この前行った美術館とは違うようだ。
「おー!立派な建物だな」
「まあね。中もすごいよ。館長はストーリーを感じさせる絵が好きでね。色んな世界を作っているのさ」
「あの、広場の近くにある美術館とは違うんだな」
「あー、神立美術館のこと?」
確かそうだった気がする。
「うーん、多分そう。最近"天国"っていうタイトルの絵が飾られてるのを見た」
「あー。じゃあやっぱり神立美術館だ。あそこはね、とてもじゃないけど無理だよ。神様に選ばれた絵しか飾られないんだ。僕なんかじゃとてもとても」
口ではそう言うが、半分茶化すその態度には自信が感じられた。
───
中に入ると、館長と出会った。
「畑中君。そちらは?」
「あの絵のモデルになってくれた人です。館長」
「そうか。あの絵の。それはそれは、どうもありがとうございます」
「いえ。こちらこそ。良い絵を描いてもらったようで」
「本日は当館の絵を存分に楽しんでいって下さい」
───
”ベンチに座る男”は、天国の絵のコーナーに展示してあった。
道路に寝転がる猫や、図書館帰りの群衆の絵と同じコーナーだった。
その中で、ベンチに座る男は、異様な雰囲気を醸し出していた。
おれは外からはこんな風に見えているのか…?
おれは首を捻ってみる。
そんなおれに、畑中君が話しかけた。
「どう?他の絵もすごいけど、これも負けてないでしょ」
「ああ。…すごい存在感だ」
「噴水の水飛沫でね。こんな風に見えたんだ」
「なるほど…」
なるほど…?
その後いくつかの絵を見て、外に出た。
絵を見終わって、畑中君が徐ろに話し出す。
「ぼくもいつか、神立美術館みたいなでっかい美術館に飾られるのが夢なんだ」
「そっか」
「加藤さんの夢は何?」
おれの夢か…
「…何だろうな」
「教えてよ」
青年は純粋に聞いてくる。
「まだ考え中」
「そうなの?」
「そう」
「そっか! 見つかるといいね!」
彼は元気よくそう言った。
夢か……




