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エランフェリア・テンペスターズ  作者: 織重 春夏秋
第二章『快晴の章』
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第三十六話『ラン』


「『狂気』が方法の一つだって言うのなら、死ぬことだって方法の一つのはずだ! それでもなお生きる事を選んだからには──死を選ばなかった理由があるはずだろう!!」


「─────」


 そう、それだけがずっとハーツの中で疑問だった。


 リアはかつて死を求めた。それは八方塞がりだと思っていた現実の中で、唯一救いの道だと認識していたからだ。

 だがきっかけを与え、リアは前を向く事を選んだ。それは新たな手段と理由を手に入れたからに他ならない。

 

 それに比べ、ランは『死』を選ぼうとしなかった。他者を蹴落とし、自分以外の世界を歪め、それでも生きる事を選んだのだ。

 性格だとか、気質だとかの理由ではない。もっとはっきりとした、言葉に出来る理由があるはずだ。


「君の『狂気』は『死』という終わりに対する抵抗の証だ! 例え狂ったとしても死にたくないと、譲れないものがあると思っているから君は生まれたんだろう!?」


「ッ、縺れは本能だよッ!! 生きているから"死""に"■""く""な""い"! 根源的な欲求からアタシは生まれた!」


「ならッ!!」


 それでも。

 ハーツは、『いな』を叩きつける。


今はどうなんだ・・・・・・!! 夕暮れの町を綺麗だと言える君に! 照れ臭そうに好意を伝えてくれる君に……ッ! 生き続けるほどの理由がないって言うのか!」


「ッ───貴方に何が分かるって言うの!?」


 ランもまた感情を爆発させて、それを物理的な熱に変換しぶつけてくる。

 全身を炙られながらも、ハーツは前へと、例え極小さな一歩だろうと進む。


「アタシは人を食べてきた!」


「───」


「ここは顔かな、ここは腹だったのかななんて思いながら、捧げられた人間を食べ続けた!! ただ生きるために、死なないために人を食べた事ない貴方に───強い人にアタシの何が分かるって言うの!!」

分かるよ・・・・ッ!」


 感情の火は絶やさない。間髪入れずに答えて、緩んだ業火の中を更に進む。

 こんなにも火炎が充満しているのに、ハーツの肉体は完全に灰になっていない。ならば、例え燃えていたとしても、視覚そのままの勢いではないのだろう。


 ならばそこに勝機はある。


「君の事はずっと見てきた! 過去の事はこの前初めて聞いたけれど、それ以外の君を僕は知っている!!」


「───」


「君は悲しい事があると泣ける人だ! でもそれ以上に、周りへ心配をかけないために笑おうとする人だ! 反対に良い事があると、少しだけ笑い方が変わる! 目を細めて、歯を見せないでにっこり笑うだろう……!?」


「そんなのッ、アタシが分かる訳!!」


「あぁそうだ。君には分からないだろうな! 君を大切だと思う僕だから分かるんだ!」


 進む。


「それに僕は君の悲しみを理解できる!! 生憎と分かりにくい性格だけれど、僕だってチエとは友達だったんだ!」


 進む。


「チエが亡くなって悲しい……! でも『劇的』な最後を迎えられた事だけは、それだけは救いだったって思う! でもそれは君の『狂気』があったからだ!」


「───」


「僕はようやくチエの死を───ただの諦めではないって思えたんだ!!」


 あの時。チエが友人として、ハーツに本音を話してくれた時。

 ハーツはチエの『劇的な死』を望む選択を、諦めていると批判した。


 それはハーツにとって命とは存続するものであり、劇的である事こそが救いだとは考えられなかったからだ。

 でも今は違う。

 チエの死を経て、『狂気』を体験して。そうやって数々のお膳立てを経て、ハーツはようやくそこまで来られた。


 ───あぁなるほど、これは醜悪だ。


 ハーツは自分の事を笑った。

 ここまでしなければ、友人の選択を、抵抗を、諦めだなんて一言で済ませてしまうのだから。


 ───ごめん。でも、ありがとうチエ。君がいたから、僕は大切な人を救う事が出来る。


「君の『狂気』を否定しない! でも肯定も出来ない!」


 体を前に進める。心と距離が詰まっていく。

 『狂気』そのものと呼べる少女の本質に、触れていく。 

 

「もう一度言う。───『正気』を諦めるな……!」


「───」


「生まれた理由が悪だったとしても!!」


 手を伸ばした。


「例え消えてしまうとしても! 『劇的』だったと思える人生を───君が過ごせるように、手伝わせてくれ……ッ!」


 それは。

 気が合う友人の死を経て、『狂気』を経て。ようやくたどり着けた、少女のための結論だった。


「───」


 あまりにも愚直で、素直で──『真面目』なお願い。

 

 少女は声を遮るように両手を頭にやり、差し出された手をじっと睨んでいた。目は潤み、見開かれ、どうしていいか分からないように時々逸れている。


「ッ───」


 全身が、激情で震えていた。

 葛藤するように荒い呼吸を繰り返し、段々と、表情が、ゆっくり、と。


「───バカだなぁ……」


 大粒の涙が頬を伝い、止まらない嗚咽を隠さず、ただ感情のままに吐露して。

 泣いているのになんとか、くしゃくしゃの──照れくさそうな完璧とは呼べない笑みを浮かべた。


「ハっち、そんな熱血なの似合ってないよ……っ」


 指先が微かに掠れて。

 それは、理性が触れた瞬間だった。


 指先、掌、腕、全身。

 ゆっくりと手繰り寄せて、再生の完了した肉体で抱きしめる。


 深紅の空は変わらなくとも、いつの何か悍ましい暴力的な現象は、消え去っていた。


「アタシね」


 ハーツの胸に体を預けながら、まるで懺悔でも始める様に、呟いた。


「チエちーが死んじゃって、とっても悲しかった。あんなに強くて、あんなに綺麗で、あんなに可愛い人が……」


「うん」


「何も出来なかった。助ける事も、強くあり続ける事も……チエちーね、アタシの事、『一番愉快だ』って言ってくれたの。こんな『狂気』から零れたみたいな性格してるのに、それが楽しいって」


 ランが騒いで、チエが爆笑する。そんな光景をハーツは何度か見てきた。チエはそんな姿、積極的に他人へ見せたがらなかったから、ハーツの知らないところで、ランは彼女を何回も、何十回も笑わせてきたのだろう。


「チエちー、アタシを逃がそうとした時、とっても綺麗に笑ってたんだ」


「うん」


「───羨ましかった。あんな風に、自分の『狂気』と向き合えるのが」


「まだ遅くない」


 胸に抱く思いを、そのままに伝える。


「君もそんな風に、笑って過ごせばいい。何も終わってなんかない。君だってそうなれるはずだ」


「……そうかもしれない」


 ぼんやりと呟いて、ランはハーツの胸をゆっくりと押した。

 抱きしめていた腕を緩めれば、微かに離れて、少女はハーツへ笑いかける。


「でも、ごめんね。チエちーとアタシの『狂気』はやっぱり違う」


「……」


「それでもアタシは『狂気』を完全に捨てられない。『狂気』はアタシを生み出してくれた。エランを生きながらえさせてくれた。貴方と巡り合うきっかけになった」


 一つ一つ、大切な物を拾い上げるように、ランは続ける。


「『狂気これ』を悪だともう言いたくない。例え最後に消えてしまうとしても、アタシはアタシで在り続けるために、生きてるの」


 それは歪で、きっと常人には理解されないのかもしれないけれど。曲がっているよりも、よほど綺麗で鋭い刃だった。

 一度その過程を経ていて、一端を理解できてしまうハーツだからこそ、言葉を詰まらせた。


「……参ったな」


「……」


「それが君の考えなら、僕はもうお手上げだ」


 ハーツに出来るのは、自分の過去に苦しむエランフェリアの手助けだけだ。意思が完全に固まっているのなら、それを歪める事は本意ではない。

 例え後ろ向きでも、人に理解されない考えでも、確固たる意志による行動には、ある種の正解が宿るはずなのだから。


 『狂気』という、会話が出来ない状態ではなく。正気を保った状態で、本音の会話が出来た。ハーツはとりあえず、それだけで満足しているのだ。


「でもね、アタシ、ハっちの言葉にだって一理あると思ってるの。『狂気』に身を委ね続けて満足していたのは、紛れもないアタシだから」


「……」


「だからね」


 とんっ、と少し後ろに下がり、ランはハーツの両手を握ると、にっこり笑った。


「──デートしよっ!!★」


「……え?」


「例え消えてしまうとしても、最後のアタシが可愛くない子のままなのはや! だからデート!♥」

「でも、外は凄いありさまだろう? それにみんな正気を失っているし、とてもデート出来る状態じゃ……」


「堕としたのはアタシだよ? だいじょーぶ、みんなの事すぐには治せないけど無力化は出来るから!★」


 ね?

 と、続けて。


「ハっち、デートしようよ」


「───」


「そうすれば、アタシ……」


 お願いの様で、脅迫の様で、寂しそうな笑みで、それでも有無を言わせぬ強さを秘めていて。

 ハーツはその隙間を埋めたくなって、自然と頷いていた。


「分かった。デートしよう」


「♪」


 にっこりと、少しだけ恥ずかしそうに笑って、ランはハーツの手を引っ張ると、勢いよく歩き始めた。


「さ、行こ~~~~~!!★」


~~~~~~~~~~~~~~~~


 それは、一つ一つ大切な物を拾うような懐古デートだった。


 図書館を出て、研究所の横を通って、基地から出て、街を歩いて。

 共に歩いた道を、同じ立ち位置で進み、前よりも綺麗な笑顔で進む。


 周囲の人々は意識を失い、倒れていたが、命に別状はなかった。それに空もずっとはちみつ色だったけれど、ハーツ自身の意識だけはランへ向いていて。

 それだけが今は甘美で、二人を囲む法だった。


「恋人に間違われたり、美味しいもの食べたり!★」


 両手を広げ、躍るように歩きながら、ランが笑う。


「あの時のデート、楽しかったよねっ!★」


「ああ。あの時は色々あった直後だったから、僕としても気分転換になって楽しかったよ」


「癒しだった?★」


「癒しだった」


「そっかぁ~~~~~!!♥」


 はちみつ色の世界で少女が躍る。


「そういえばピクニックなんてあったよね! アタシいなかったけど!★」


「見てたのか」


「もち! エランと勝負したんだよ? アタシが行く! いや、私が~~~! って!!★」


「エランが勝ったんだな」


「ん! じゃんけんで負けたの! テンション上がっても出てこないようにするの大変だったんだよ!?★」


 渋そうな顔で逆さピース(ギャルピース)を出すラン。チョキで負けたのか、それとも単純にはしゃいでいるのかは分からなかったが、楽しそうならいいかとハーツは置く事にした。


「でもね、それも楽しかった」


「そうなのか?」


「うん! 全部楽しい! ハイフロントに来てから楽しい事だらけ!★ 悲しい事もあるけどね」


 ゆっくりと前を歩いていく。

 靴の音と体を揺らすランの音だけが木霊して、まるで世界に二人しかいないようだった。


 やがて予行練習の様に一度口を開いて、唇を湿らせて、意を決したように、ランが振り返る。


「アタシね、四人の中で一番、外れてるんだ。生まれた理由だって一番おかしいし、力だって一番人を不幸にする。この太陽は存在してるだけで誰かを『狂気』に堕とすから。制御できるとしても、根本の性質がそうなの」


「……」


「そんなアタシでも、貴方は見捨てないでくれたね。理解できなくて、許容できなくても、向き合ってくれたね」


「……約束もあったけれど、それ以上に、君が魅力的だったからだよ」


「魅力的?」


 恥ずかしそうに、不思議そうにランがオウム返しをする。


「魅力的で、素敵な人だから、僕は見続けたいと思ったんだ。義務でも偽善でもなく、君の隣に立つ『ハーツ・ローレリアス』として」


「……そっか」


 ぴょんっ、と跳ねた。


「ねえ、またアタシがデートしよって言ったらさ、なんて返す?」


「ぜひ行こう」


「手を繋ごうって言ったら?」


「今繋ごうか。はしゃぐのは分かるけど逸れると大変だ」


「───なんで」


 握られた手の体温を感じて。

 抱きしめるように、もう一度掌に重ね直して。


 『快晴』の少女は、上目遣いで尋ねた。


「なんでそんなに、アタシたちに良くしてくれるの?」


「───」


 顔が赤いのは太陽のせいか。

 耳が熱いのは太陽のせいか。

 いくら理由を誤魔化しても、ハーツは取り繕う事ができなかった。


「……君が」


「───!」


「君が、大切だからだ」


 ぷくううううううううううううう!!!


「も~~~~~!!!!! 合ってるけどそうじゃないっ!!!」


「えっ、えぇ!?」


「ばかばかばかばかばか!!!! ハっちのばか!! ばか真面目ばか!!」


「ば、ばか真面目ばか!?」


「こういう時はちゃんと言ってほしいものなの~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」

 

 至極全うで相応しい言葉を選んだつもりだが、女心のわからぬハーツはどうやら失敗してしまったらしい。

 胸をぽかぽかと叩かれ、痛くないはずなのに心が痛んだ。気が付けばランの髪が逆立っている。

 

「唐変木!! 分からず屋!! 天然真面目ばか!!」


「いて、いてっ、いてててててててて……」


「ふんっ! もう知らない!」


 頬を膨らませ、腕を組みながらハーツへ背中を向けてしまう。

 強くはないが何度も胸を叩かれ少し痛かったハーツは、自らの胸を撫でながらそれを目で追っていた。


「───」


 軽い音が鳴って、視界の中央で揺れる物がある。

 ずっと分かってはいたけれど、機会がなくて言葉に出来なかった事を思い出した。


「ラン」


「……なに!」


「言い忘れてたけど」


 だからハーツは、自らの耳を指差して。

 ランの耳元に着いた、同じものを示して。


「───耳飾り、ずっと付けてくれてありがとう」


「ぇ……」


「ランは僕と会う時、ずっと付けててくれてたよな。一度も外してるところ見た事ないから。大切にしてくれてるんだなって」


 デートの時も。 

 戦いの時も。

 『狂気』に苛まれている時も。


 彼女はずっと、ハーツがエランたちに贈った耳飾りを付けてくれている。単に気に入っているからなのか、それとも思い出を大切にしてくれてるのかは分からない。

 それでも、その耳飾りは、ずっと少女を彩り続けているのだ。


「ありがとう。やっぱりよく似合ってるよ」


「───」

  

 笑い、心の底から感謝する。

 するとランは、目を見開き、口を小さく開けたままハーツを見つめていた。


 不意に、目元に大粒の涙が溜まると、頬を伝って地面へ零れ落ちる。


「──好き」


「え……?」


「大好き……っ」


 少女の体が小さく前へ跳ねて、ハーツの首に両腕が回される。

 驚くハーツを気にせず、二人の顔が近づいて───唇が重ねられた。


 熱い。

 太陽の熱でも、『狂気』の熱でもなくて──ただひたすらに、心が。


 数秒、二人は固まったまま唇を重ねていた。やがて体勢が崩れるようにランが離れる。


「はぁ……はぁ……っ!」


 荒い息を繰り返しながら、少女は感情のままに涙を流し続けた。

 両手で拭い、それでも止まらぬ嗚咽を繰り返して、少女は声を大きくする。


「あぁ……っ! 馬鹿だなぁ、アタシ……! 何やってんだろっ、キスなんかして。好きだって言ってほしかったのに……!」


「───」


「だめ。だめだ……っ、消えちゃう・・・・・……っ! もう少し色々するつもりだったのに……!」


 零れ落ちる雫とは真逆に、彼女の体から、光が溢れ出した。

 ハーツは覚えている。忘れるはずがない。その光は、リアが消えてしまう時と同じ光だ。


「あはは……っ、チエちーの言うとおりになっちゃった。あきらめきれなかったなぁ……っ!」


「……消えてしまうのか」


 分かっていた。

 分かっていたのだ。

 

 ランがデートをしようと言った時、この子は自ら消えようとしているのだと。自分の正義があり、『狂気』を悪と断じず。それでも、エランやハーツの事を考えて、終わりを選んだのだと。

 可愛くありたいというのは、彼女なりの死化粧だったのだ。


「勘違いしないでね。これは決して、『狂気』を捨てた訳じゃない……」


「──」


「貴方を愛してしまった……っ! 『正気』のアタシがいいって、そう思っちゃったの……!!」


 人と歩むために、ハーツを愛するために。

 ランは、『狂気』ではなく『正気』を選んだ。


 きっと彼女は──あるいは最初から、ずっとそう決めていたのかもしれない。


「……自分を否定してまで、僕の隣にいたいと願ったのか。戦う事を選んだのか……!」


「そうだよ……っ。貴方に救われた時から、アタシたちもうほんっとに貴方の事大好きで……! 優しくしてくれて、見続けてくれて! そんなの無理に決まってんじゃんッ! もうほんっっと……ばかぁ!!」


「っ……!」


 勢いよく抱きしめた。強く強く、このまま消えてしまうランを繋ぎとめるように、強く。


「戦う事を選んだのか……! 君は……!」


「うん。でも、それはエランに任せないとだ……アタシは『狂気』。例え『正気』に憧れても──そっち側にはいけないからさぁ……!」


 チエがそうであったように。ランもまた、生まれ故に、ここまでこなければその覚悟が持てなかった。

 なんて悲しくて、なんて儚くて、なんて『劇的』なのだろう。


「ッ……!!」


「あは……あはは……! あったかいなぁ……」


「───」


「ねえ、ハっち……『狂気』はね、敵じゃないんだよ」


「───」


「多くの人は『狂気』に冒されて死んでしまうけれど、アタシたちのように救われた人もいる。ハっちも言ったとおり、狂う事は自分を救う事だから」


 顔を歪めるハーツの頭を、ランは宥めるように撫でながら。


「ハっちだって逃げてもいいんだよ……『狂気』と『死』だけは平等なんだから。苦しくなったらアタシが迎えに来てあげる……」


「……それもいいかもしれないな」


「にへへ……嬉しいなぁ。アタシの信じる『狂気』を、ハっちが嫌わないでくれて……っ」


 徐々に、少女の輪郭が薄くなっていく。肉体は消えない。消えるのはランというこの世にたった一人しかいない人格だけ。けれど、明確に──薄れていく。

 光の量が増えてきた。限界が近い。


「リアは凄いなぁ……あの子、最後まで笑ってた。消えちゃうの怖いよ……」


「……うん。なあ、ラン」


「なぁに?」


「一つ言わせてくれ」


 だが、消えてしまう前にハーツは伝えなければならない事がある。


「今までずっと勇気が出なかったんだ。君たちは四人いて、まだフェリアとは仲が良いとは言えないし」

「……」


「どう言い表したらいいか分からないから、ずっと迷ってた。それでも後悔はしたくないから」


「───」




「───君の事が好きだ・・・・・・・




「……嬉しいなぁ」


 感動に体を震わせて、抱きしめているハーツの方に顔を埋めて。例え見えなくても分かる満面の笑みを浮かべて、ランは言った。


「あーーあーー……女の子の事泣かせちゃうし、四人いるのに好きとか言っちゃうし。ハっちばか真面目なのに今だけ不真面目過ぎるでしょ……」


「それは……申し訳ない」


「でもそんな貴方が大好き」


 ゆるりとランはハーツの抱擁から離れると、もう一度胸に手を当てて、キスを交わす。

 それも終えて、ランは勢いよく前へ跳ねると、両手を広げ───口角を上げ、歯を見せて、とびっきりの笑顔を浮かべた。


「──だいっっまんぞく!!♪ 友達作って! 恋をして! キスもして! 好きも貰って……! アタシの人生、『劇的』だった!」


「───」


「ねえハっち! アタシの事、忘れないでね! 貴方の事大好きで、最後まで明るくって──そんな、『太陽』みたいな子がいたって事!★」


 夕焼け空に少女が跳ねる。

 はちみつ色の太陽に照らされて、ランは両手を天へと掲げ、ピースを作った。


「以上!! 『快晴』担当、ランでした! ───またね・・・っ!★」


 エランフェリアの体から、光がきらきらと舞って。

 世界を覆う『狂気』は、空の彼方へ消えた。


 それでも、彼女の残した熱は。


「───あぁ、また会おう」


 いつまでも、少年の心を灯し続けていた。

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