第三十六話『ラン』
「『狂気』が方法の一つだって言うのなら、死ぬことだって方法の一つのはずだ! それでもなお生きる事を選んだからには──死を選ばなかった理由があるはずだろう!!」
「─────」
そう、それだけがずっとハーツの中で疑問だった。
リアはかつて死を求めた。それは八方塞がりだと思っていた現実の中で、唯一救いの道だと認識していたからだ。
だがきっかけを与え、リアは前を向く事を選んだ。それは新たな手段と理由を手に入れたからに他ならない。
それに比べ、ランは『死』を選ぼうとしなかった。他者を蹴落とし、自分以外の世界を歪め、それでも生きる事を選んだのだ。
性格だとか、気質だとかの理由ではない。もっとはっきりとした、言葉に出来る理由があるはずだ。
「君の『狂気』は『死』という終わりに対する抵抗の証だ! 例え狂ったとしても死にたくないと、譲れないものがあると思っているから君は生まれたんだろう!?」
「ッ、縺れは本能だよッ!! 生きているから"死""に"■""く""な""い"! 根源的な欲求からアタシは生まれた!」
「ならッ!!」
それでも。
ハーツは、『否』を叩きつける。
「今はどうなんだ!! 夕暮れの町を綺麗だと言える君に! 照れ臭そうに好意を伝えてくれる君に……ッ! 生き続けるほどの理由がないって言うのか!」
「ッ───貴方に何が分かるって言うの!?」
ランもまた感情を爆発させて、それを物理的な熱に変換しぶつけてくる。
全身を炙られながらも、ハーツは前へと、例え極小さな一歩だろうと進む。
「アタシは人を食べてきた!」
「───」
「ここは顔かな、ここは腹だったのかななんて思いながら、捧げられた人間を食べ続けた!! ただ生きるために、死なないために人を食べた事ない貴方に───強い人にアタシの何が分かるって言うの!!」
「分かるよッ!」
感情の火は絶やさない。間髪入れずに答えて、緩んだ業火の中を更に進む。
こんなにも火炎が充満しているのに、ハーツの肉体は完全に灰になっていない。ならば、例え燃えていたとしても、視覚そのままの勢いではないのだろう。
ならばそこに勝機はある。
「君の事はずっと見てきた! 過去の事はこの前初めて聞いたけれど、それ以外の君を僕は知っている!!」
「───」
「君は悲しい事があると泣ける人だ! でもそれ以上に、周りへ心配をかけないために笑おうとする人だ! 反対に良い事があると、少しだけ笑い方が変わる! 目を細めて、歯を見せないでにっこり笑うだろう……!?」
「そんなのッ、アタシが分かる訳!!」
「あぁそうだ。君には分からないだろうな! 君を大切だと思う僕だから分かるんだ!」
進む。
「それに僕は君の悲しみを理解できる!! 生憎と分かりにくい性格だけれど、僕だってチエとは友達だったんだ!」
進む。
「チエが亡くなって悲しい……! でも『劇的』な最後を迎えられた事だけは、それだけは救いだったって思う! でもそれは君の『狂気』があったからだ!」
「───」
「僕はようやくチエの死を───ただの諦めではないって思えたんだ!!」
あの時。チエが友人として、ハーツに本音を話してくれた時。
ハーツはチエの『劇的な死』を望む選択を、諦めていると批判した。
それはハーツにとって命とは存続するものであり、劇的である事こそが救いだとは考えられなかったからだ。
でも今は違う。
チエの死を経て、『狂気』を体験して。そうやって数々のお膳立てを経て、ハーツはようやくそこまで来られた。
───あぁなるほど、これは醜悪だ。
ハーツは自分の事を笑った。
ここまでしなければ、友人の選択を、抵抗を、諦めだなんて一言で済ませてしまうのだから。
───ごめん。でも、ありがとうチエ。君がいたから、僕は大切な人を救う事が出来る。
「君の『狂気』を否定しない! でも肯定も出来ない!」
体を前に進める。心と距離が詰まっていく。
『狂気』そのものと呼べる少女の本質に、触れていく。
「もう一度言う。───『正気』を諦めるな……!」
「───」
「生まれた理由が悪だったとしても!!」
手を伸ばした。
「例え消えてしまうとしても! 『劇的』だったと思える人生を───君が過ごせるように、手伝わせてくれ……ッ!」
それは。
気が合う友人の死を経て、『狂気』を経て。ようやくたどり着けた、少女のための結論だった。
「───」
あまりにも愚直で、素直で──『真面目』なお願い。
少女は声を遮るように両手を頭にやり、差し出された手をじっと睨んでいた。目は潤み、見開かれ、どうしていいか分からないように時々逸れている。
「ッ───」
全身が、激情で震えていた。
葛藤するように荒い呼吸を繰り返し、段々と、表情が、ゆっくり、と。
「───バカだなぁ……」
大粒の涙が頬を伝い、止まらない嗚咽を隠さず、ただ感情のままに吐露して。
泣いているのになんとか、くしゃくしゃの──照れくさそうな完璧とは呼べない笑みを浮かべた。
「ハっち、そんな熱血なの似合ってないよ……っ」
指先が微かに掠れて。
それは、理性が触れた瞬間だった。
指先、掌、腕、全身。
ゆっくりと手繰り寄せて、再生の完了した肉体で抱きしめる。
深紅の空は変わらなくとも、いつの何か悍ましい暴力的な現象は、消え去っていた。
「アタシね」
ハーツの胸に体を預けながら、まるで懺悔でも始める様に、呟いた。
「チエちーが死んじゃって、とっても悲しかった。あんなに強くて、あんなに綺麗で、あんなに可愛い人が……」
「うん」
「何も出来なかった。助ける事も、強くあり続ける事も……チエちーね、アタシの事、『一番愉快だ』って言ってくれたの。こんな『狂気』から零れたみたいな性格してるのに、それが楽しいって」
ランが騒いで、チエが爆笑する。そんな光景をハーツは何度か見てきた。チエはそんな姿、積極的に他人へ見せたがらなかったから、ハーツの知らないところで、ランは彼女を何回も、何十回も笑わせてきたのだろう。
「チエちー、アタシを逃がそうとした時、とっても綺麗に笑ってたんだ」
「うん」
「───羨ましかった。あんな風に、自分の『狂気』と向き合えるのが」
「まだ遅くない」
胸に抱く思いを、そのままに伝える。
「君もそんな風に、笑って過ごせばいい。何も終わってなんかない。君だってそうなれるはずだ」
「……そうかもしれない」
ぼんやりと呟いて、ランはハーツの胸をゆっくりと押した。
抱きしめていた腕を緩めれば、微かに離れて、少女はハーツへ笑いかける。
「でも、ごめんね。チエちーとアタシの『狂気』はやっぱり違う」
「……」
「それでもアタシは『狂気』を完全に捨てられない。『狂気』はアタシを生み出してくれた。エランを生きながらえさせてくれた。貴方と巡り合うきっかけになった」
一つ一つ、大切な物を拾い上げるように、ランは続ける。
「『狂気』を悪だともう言いたくない。例え最後に消えてしまうとしても、アタシはアタシで在り続けるために、生きてるの」
それは歪で、きっと常人には理解されないのかもしれないけれど。曲がっているよりも、よほど綺麗で鋭い刃だった。
一度その過程を経ていて、一端を理解できてしまうハーツだからこそ、言葉を詰まらせた。
「……参ったな」
「……」
「それが君の考えなら、僕はもうお手上げだ」
ハーツに出来るのは、自分の過去に苦しむエランフェリアの手助けだけだ。意思が完全に固まっているのなら、それを歪める事は本意ではない。
例え後ろ向きでも、人に理解されない考えでも、確固たる意志による行動には、ある種の正解が宿るはずなのだから。
『狂気』という、会話が出来ない状態ではなく。正気を保った状態で、本音の会話が出来た。ハーツはとりあえず、それだけで満足しているのだ。
「でもね、アタシ、ハっちの言葉にだって一理あると思ってるの。『狂気』に身を委ね続けて満足していたのは、紛れもないアタシだから」
「……」
「だからね」
とんっ、と少し後ろに下がり、ランはハーツの両手を握ると、にっこり笑った。
「──デートしよっ!!★」
「……え?」
「例え消えてしまうとしても、最後のアタシが可愛くない子のままなのはや! だからデート!♥」
「でも、外は凄いありさまだろう? それにみんな正気を失っているし、とてもデート出来る状態じゃ……」
「堕としたのはアタシだよ? だいじょーぶ、みんなの事すぐには治せないけど無力化は出来るから!★」
ね?
と、続けて。
「ハっち、デートしようよ」
「───」
「そうすれば、アタシ……」
お願いの様で、脅迫の様で、寂しそうな笑みで、それでも有無を言わせぬ強さを秘めていて。
ハーツはその隙間を埋めたくなって、自然と頷いていた。
「分かった。デートしよう」
「♪」
にっこりと、少しだけ恥ずかしそうに笑って、ランはハーツの手を引っ張ると、勢いよく歩き始めた。
「さ、行こ~~~~~!!★」
~~~~~~~~~~~~~~~~
それは、一つ一つ大切な物を拾うような懐古だった。
図書館を出て、研究所の横を通って、基地から出て、街を歩いて。
共に歩いた道を、同じ立ち位置で進み、前よりも綺麗な笑顔で進む。
周囲の人々は意識を失い、倒れていたが、命に別状はなかった。それに空もずっとはちみつ色だったけれど、ハーツ自身の意識だけはランへ向いていて。
それだけが今は甘美で、二人を囲む法だった。
「恋人に間違われたり、美味しいもの食べたり!★」
両手を広げ、躍るように歩きながら、ランが笑う。
「あの時のデート、楽しかったよねっ!★」
「ああ。あの時は色々あった直後だったから、僕としても気分転換になって楽しかったよ」
「癒しだった?★」
「癒しだった」
「そっかぁ~~~~~!!♥」
はちみつ色の世界で少女が躍る。
「そういえばピクニックなんてあったよね! アタシいなかったけど!★」
「見てたのか」
「もち! エランと勝負したんだよ? アタシが行く! いや、私が~~~! って!!★」
「エランが勝ったんだな」
「ん! じゃんけんで負けたの! テンション上がっても出てこないようにするの大変だったんだよ!?★」
渋そうな顔で逆さピースを出すラン。チョキで負けたのか、それとも単純にはしゃいでいるのかは分からなかったが、楽しそうならいいかとハーツは置く事にした。
「でもね、それも楽しかった」
「そうなのか?」
「うん! 全部楽しい! ハイフロントに来てから楽しい事だらけ!★ 悲しい事もあるけどね」
ゆっくりと前を歩いていく。
靴の音と体を揺らすランの音だけが木霊して、まるで世界に二人しかいないようだった。
やがて予行練習の様に一度口を開いて、唇を湿らせて、意を決したように、ランが振り返る。
「アタシね、四人の中で一番、外れてるんだ。生まれた理由だって一番おかしいし、力だって一番人を不幸にする。この太陽は存在してるだけで誰かを『狂気』に堕とすから。制御できるとしても、根本の性質がそうなの」
「……」
「そんなアタシでも、貴方は見捨てないでくれたね。理解できなくて、許容できなくても、向き合ってくれたね」
「……約束もあったけれど、それ以上に、君が魅力的だったからだよ」
「魅力的?」
恥ずかしそうに、不思議そうにランがオウム返しをする。
「魅力的で、素敵な人だから、僕は見続けたいと思ったんだ。義務でも偽善でもなく、君の隣に立つ『ハーツ・ローレリアス』として」
「……そっか」
ぴょんっ、と跳ねた。
「ねえ、またアタシがデートしよって言ったらさ、なんて返す?」
「ぜひ行こう」
「手を繋ごうって言ったら?」
「今繋ごうか。はしゃぐのは分かるけど逸れると大変だ」
「───なんで」
握られた手の体温を感じて。
抱きしめるように、もう一度掌に重ね直して。
『快晴』の少女は、上目遣いで尋ねた。
「なんでそんなに、アタシたちに良くしてくれるの?」
「───」
顔が赤いのは太陽のせいか。
耳が熱いのは太陽のせいか。
いくら理由を誤魔化しても、ハーツは取り繕う事ができなかった。
「……君が」
「───!」
「君が、大切だからだ」
ぷくううううううううううううう!!!
「も~~~~~!!!!! 合ってるけどそうじゃないっ!!!」
「えっ、えぇ!?」
「ばかばかばかばかばか!!!! ハっちのばか!! ばか真面目ばか!!」
「ば、ばか真面目ばか!?」
「こういう時はちゃんと言ってほしいものなの~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」
至極全うで相応しい言葉を選んだつもりだが、女心のわからぬハーツはどうやら失敗してしまったらしい。
胸をぽかぽかと叩かれ、痛くないはずなのに心が痛んだ。気が付けばランの髪が逆立っている。
「唐変木!! 分からず屋!! 天然真面目ばか!!」
「いて、いてっ、いてててててててて……」
「ふんっ! もう知らない!」
頬を膨らませ、腕を組みながらハーツへ背中を向けてしまう。
強くはないが何度も胸を叩かれ少し痛かったハーツは、自らの胸を撫でながらそれを目で追っていた。
「───」
軽い音が鳴って、視界の中央で揺れる物がある。
ずっと分かってはいたけれど、機会がなくて言葉に出来なかった事を思い出した。
「ラン」
「……なに!」
「言い忘れてたけど」
だからハーツは、自らの耳を指差して。
ランの耳元に着いた、同じものを示して。
「───耳飾り、ずっと付けてくれてありがとう」
「ぇ……」
「ランは僕と会う時、ずっと付けててくれてたよな。一度も外してるところ見た事ないから。大切にしてくれてるんだなって」
デートの時も。
戦いの時も。
『狂気』に苛まれている時も。
彼女はずっと、ハーツがエランたちに贈った耳飾りを付けてくれている。単に気に入っているからなのか、それとも思い出を大切にしてくれてるのかは分からない。
それでも、その耳飾りは、ずっと少女を彩り続けているのだ。
「ありがとう。やっぱりよく似合ってるよ」
「───」
笑い、心の底から感謝する。
するとランは、目を見開き、口を小さく開けたままハーツを見つめていた。
不意に、目元に大粒の涙が溜まると、頬を伝って地面へ零れ落ちる。
「──好き」
「え……?」
「大好き……っ」
少女の体が小さく前へ跳ねて、ハーツの首に両腕が回される。
驚くハーツを気にせず、二人の顔が近づいて───唇が重ねられた。
熱い。
太陽の熱でも、『狂気』の熱でもなくて──ただひたすらに、心が。
数秒、二人は固まったまま唇を重ねていた。やがて体勢が崩れるようにランが離れる。
「はぁ……はぁ……っ!」
荒い息を繰り返しながら、少女は感情のままに涙を流し続けた。
両手で拭い、それでも止まらぬ嗚咽を繰り返して、少女は声を大きくする。
「あぁ……っ! 馬鹿だなぁ、アタシ……! 何やってんだろっ、キスなんかして。好きだって言ってほしかったのに……!」
「───」
「だめ。だめだ……っ、消えちゃう……っ! もう少し色々するつもりだったのに……!」
零れ落ちる雫とは真逆に、彼女の体から、光が溢れ出した。
ハーツは覚えている。忘れるはずがない。その光は、リアが消えてしまう時と同じ光だ。
「あはは……っ、チエちーの言うとおりになっちゃった。あきらめきれなかったなぁ……っ!」
「……消えてしまうのか」
分かっていた。
分かっていたのだ。
ランがデートをしようと言った時、この子は自ら消えようとしているのだと。自分の正義があり、『狂気』を悪と断じず。それでも、エランやハーツの事を考えて、終わりを選んだのだと。
可愛くありたいというのは、彼女なりの死化粧だったのだ。
「勘違いしないでね。これは決して、『狂気』を捨てた訳じゃない……」
「──」
「貴方を愛してしまった……っ! 『正気』のアタシがいいって、そう思っちゃったの……!!」
人と歩むために、ハーツを愛するために。
ランは、『狂気』ではなく『正気』を選んだ。
きっと彼女は──あるいは最初から、ずっとそう決めていたのかもしれない。
「……自分を否定してまで、僕の隣にいたいと願ったのか。戦う事を選んだのか……!」
「そうだよ……っ。貴方に救われた時から、アタシたちもうほんっとに貴方の事大好きで……! 優しくしてくれて、見続けてくれて! そんなの無理に決まってんじゃんッ! もうほんっっと……ばかぁ!!」
「っ……!」
勢いよく抱きしめた。強く強く、このまま消えてしまうランを繋ぎとめるように、強く。
「戦う事を選んだのか……! 君は……!」
「うん。でも、それはエランに任せないとだ……アタシは『狂気』。例え『正気』に憧れても──そっち側にはいけないからさぁ……!」
チエがそうであったように。ランもまた、生まれ故に、ここまでこなければその覚悟が持てなかった。
なんて悲しくて、なんて儚くて、なんて『劇的』なのだろう。
「ッ……!!」
「あは……あはは……! あったかいなぁ……」
「───」
「ねえ、ハっち……『狂気』はね、敵じゃないんだよ」
「───」
「多くの人は『狂気』に冒されて死んでしまうけれど、アタシたちのように救われた人もいる。ハっちも言ったとおり、狂う事は自分を救う事だから」
顔を歪めるハーツの頭を、ランは宥めるように撫でながら。
「ハっちだって逃げてもいいんだよ……『狂気』と『死』だけは平等なんだから。苦しくなったらアタシが迎えに来てあげる……」
「……それもいいかもしれないな」
「にへへ……嬉しいなぁ。アタシの信じる『狂気』を、ハっちが嫌わないでくれて……っ」
徐々に、少女の輪郭が薄くなっていく。肉体は消えない。消えるのはランというこの世にたった一人しかいない人格だけ。けれど、明確に──薄れていく。
光の量が増えてきた。限界が近い。
「リアは凄いなぁ……あの子、最後まで笑ってた。消えちゃうの怖いよ……」
「……うん。なあ、ラン」
「なぁに?」
「一つ言わせてくれ」
だが、消えてしまう前にハーツは伝えなければならない事がある。
「今までずっと勇気が出なかったんだ。君たちは四人いて、まだフェリアとは仲が良いとは言えないし」
「……」
「どう言い表したらいいか分からないから、ずっと迷ってた。それでも後悔はしたくないから」
「───」
「───君の事が好きだ」
「……嬉しいなぁ」
感動に体を震わせて、抱きしめているハーツの方に顔を埋めて。例え見えなくても分かる満面の笑みを浮かべて、ランは言った。
「あーーあーー……女の子の事泣かせちゃうし、四人いるのに好きとか言っちゃうし。ハっちばか真面目なのに今だけ不真面目過ぎるでしょ……」
「それは……申し訳ない」
「でもそんな貴方が大好き」
ゆるりとランはハーツの抱擁から離れると、もう一度胸に手を当てて、キスを交わす。
それも終えて、ランは勢いよく前へ跳ねると、両手を広げ───口角を上げ、歯を見せて、とびっきりの笑顔を浮かべた。
「──だいっっまんぞく!!♪ 友達作って! 恋をして! キスもして! 好きも貰って……! アタシの人生、『劇的』だった!」
「───」
「ねえハっち! アタシの事、忘れないでね! 貴方の事大好きで、最後まで明るくって──そんな、『太陽』みたいな子がいたって事!★」
夕焼け空に少女が跳ねる。
はちみつ色の太陽に照らされて、ランは両手を天へと掲げ、ピースを作った。
「以上!! 『快晴』担当、ランでした! ───またねっ!★」
エランフェリアの体から、光がきらきらと舞って。
世界を覆う『狂気』は、空の彼方へ消えた。
それでも、彼女の残した熱は。
「───あぁ、また会おう」
いつまでも、少年の心を灯し続けていた。




