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エランフェリア・テンペスターズ  作者: 織重 春夏秋
第二章『快晴の章』
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第三十五話『あはははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!


 歪む地面、回転する壁と波打つ空。ラングの拳によって一時的に正常な視界を取り戻したが、ハーツの世界はまた徐々に歪んでいった。

 それでも意識だけははっきりしている。ならばもう揺らぐことはない。


 辛うじて原形をとどめる世界を、記憶と直感を頼りに進んでいく。室内へ入り、壁沿いに進めばどうにかたどり着けるはずだと信じて。


「───」


 ランは今、抵抗という名の『狂気』の中にいる。

 何かに狂わず、常軌を保ち続けるというのはとても難しい事だ。そして同時に、狂気を支配する事も。


 でも、それで許してくれるほど世界は甘くない。どんな狂人だって、常人だって、チエがそうであったように──人はいずれ自分の根底と向き合わなければいけない。

 例え『怪物』だとしても、人間であろうとする限り。ランもまた、その時を迎えようとしているのだ。きっといつか、ハーツさえも。


 ───思考を回せ。


 ランを救う方法を考える頭を止めてはならない。

 ふと思い浮かぶのは、人格が暴走する前の笑顔と、暴走してからの笑顔の違いだった。


 ───あんな風に笑う子じゃなかった。


 暴走して以降、ランの笑顔は完璧だった。表情の見本を載せた教科書があれば『笑顔』の欄にあるぐらい。けれど、ランの笑顔というのは、もっと照れ臭そうで歯を見せたものだったはずだ。


 ───無理をしている。でも、それだけじゃない・・・・・・・・


 意識して笑顔を浮かべているほかにも、きっと様々な感情が渦巻いている事だろう。それを言葉にする事は、今のハーツには完璧に出来ていない。

 けれどハーツは見てきたのだ。だから、リアを悲しませて以降、少なくとも真正面から見つめ続けようと考えてきた。

 そこで得た認識は間違っていないはずだ。


 ハーツは改めて、拳を握る。


 ───例えどんなに精神が狂っていても。生まれた理由が、悪だとしても。


「あの日の笑顔は嘘じゃない。寄り添うと決めた意志は曲げない」


 そうして、ハーツは辿りついた図書館の扉を、勢いよく開け放った。


「っ───」


 ───図書館だと思ったそこは、一面の花畑だった。


 一瞬反応が遅れた。場所を間違えたのかとも思ったが、そんな事はなかった。確かにそこは図書館があるはずの場所だ。

 だというのに、感じる風も、広がる花弁と匂いも、まさに花畑そのものだ。


 外の世界とは違い、まるで現実のように、あまりに綺麗に形が形成されている。明らかに図書館の敷地には収まらぬ大きさだが、これを幻覚であるとはハーツの五感が否定できなかった。


「───」


 否、最早ここまでくれば現実か幻想かは関係ない。ハーツはゆっくりと花畑へ足を踏み入れ、その中央で躍る少女───ランの元へ歩みを進める。


「あはは! あはははは!★」


 花弁を両手に持ち、甘やかな風と舞う花の中で躍るラン。

 平穏な一日と勘違いしてしまいそうなほどに穏やかで、優しくやわらかな光景だった。


 (元々、ランはこんな風に花が似合う少女だ。エランフェリアの誰よりもよく笑い、よく悲しむ。願わくばそんな花と一緒に少女を柔らかく見守るような一日を過ごしたいとハーツは願っているのだ。)


「ラン」


「あっ、ハっち!♪」


 声が届く場所まで近づくと、彼女は動きをゆっくりと止めた。そして両掌に持つ花弁を空へと旅立たせて、にこやかに笑顔を浮かべ、こちらへ振り返る。


「やっほ~~~~~~ハっち! よくここが分かったね!? いやいやいや辿り着くとは思ってたけど、もうちょぉ~~っと時間かかるかと思ってた!★」


「ラングが起きて協力してくれたんだ。色々と大変だったけれどね」


「ほほう! そっかぁ起きれたんだラングちゃん! 良かったよかった!!★」


 歯を見せながら彼女は笑った。長い髪が風に靡き、ランは片目を閉じて髪を抑える。その一瞬の間の間にハーツは更に一歩、前へ踏み込んだ。


「なあ、ラン。僕の話を───」


「ハっち」


 言葉を遮られて、思わずハーツは口を閉じてしまった。

 そんな様子を見てランはもう一度笑うと、まるでこちらを覗き込むように下からの視線を送ってきた。


 瞬間、空がはちみつ色に変化した。


「───アタシと一緒に逃げようよ!」


「……え?」


「チエちーがそうしたかったように、こんな場所から逃げ出そ! 『破滅の運命』にアタシたちはいない! 逃げれば、全部丸っと解決じゃん!」


 言って、顔を真っ赤にしながら、ランはゆっくりと掌を差し出した。


「お願い、手を取って?」


「───」


「貴方がアタシの・・・・手を取ってくれるのなら──アタシ、世界なんて救ってあげる」


 それはあまりにも過激で、衝撃で、強力で、『劇的・・』な提案だった。

 思わず思考が停止してしまうほどに。


 でもそれを告げるランの笑顔は、あまりにも完璧・・で。

 完璧、すぎて。

 だからこそ。


「無理だ」


「───」


「僕は君と一緒にいけない。僕の命は──君と生きるためではなく、君を救うために使うと決めているんだ」


 否応なく、拒否を叩きつけた。


「次は僕の番だ、ラン」


「……なに?」


諦めるな・・・・


 その言葉が、神経を逆撫ですると分かっていても。


「本能と欲望に揺れて──『狂気』に堕ちないでくれ……!」


「……面白い事を言うね」


 ───焼けていく。


「このアタシに向かって、『狂気』に堕ちるな?」


 花畑が、焼けていく。


「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く」


 はちみつ色の空が、破れていく。


「死に死に死に死んで死の終わりに冥し」


 深紅の空が、最奥から現れていって。


「生かすも殺すもアタシ次第」


 世界が、堕ちていく。


「堕ちるんじゃない、このアタシが堕とすんだよ」


 弾けた。


「あああああッhahahああああああああああああああああああああああああああッhahahあああああああああッhahahあああっははахахахахаはははははははははははははッhahahはははははは縺ッ縺ッ縺ッ縺ッはははははは縺ッ縺ッ縺ッ縺ッははははははははははははは縺ッ縺ッ縺ッ縺ッはははははははははははははHahaha縺ッ縺ッахахахаха縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッッhahah縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッhahahahahaha縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッahahha縺ッ縺ッ縺ッ縺ッhahahaッhはははははахахахахаはahahhahahahaはは縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ縺ッhははははhahahahahaは縺ッ縺ッahahha縺ッ縺ッははははは───ッ!!!!!」


 まるで血が広がるように、深紅が空を支配する。

 それは肉壁の様にグロテスクで、崩れていて、この世の物とは思えないほどに冒涜的だった。


「───ッ」


 思わず気分が悪くなって、下を向きながら口元を抑える。

 自分の根底が崩れてしまうような、常識ではない常識が流れ込むような異物感。自分が『そうだ』と主張する言葉に、『違う』と百回、百万回と否定をされ続けてるような、痛み。


「───あ、”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!」


 頭が割れる。いや、もう既に割れているのかもしれない。

 割れてしまったかもしれない頭の中身を戻そうとして掻き毟り、再生する事で安寧を取り戻す。

 

 今度は全身の毛穴から血液が噴き出しそうになって、転がりながらそれを消そうとするけど消えてくれない。

 地面の土が皮膚に付く感覚が心地よくて、蚯蚓みみずみたいに地面を這った。


「過ぎた時髢薙□縺を考えてる! 朽ちなaaaaaaaい折れた簪とばれないлач амалжеだけが、アタシにとってのたttttった一つの殺啊啊啊啊人衝動なの!」


 じわり、じゃくり、じゅわり。

 

 ランの世界が広がっていく。侵食され、掻き出され、狂った民族たちの祭りが始まりそうだ。

 このままではいけない。そう思考しても、映し出された砂時計を価値を抱くのだろう。晴れやかな君の声が、ハーツを呼ぶことは、きっと遠い古の伝承なのだろう。


「ꯑだꯑꯥっテꯑꯥ全部靴がsssssssssssせるほどꯑꯥꯑꯥ余dwr poethない”■”ꯑꯥ”。狂ってる? それ誉未授权转载禁止め言葉ね!」


「ッ……そうやって、逃げるなッ!!」


「───ッ」


 思考が支配されそうになった。

 ランを説得するように、自分へ言い聞かせるように叫んで、ハーツは注射器を取り出すと、自分の首元へ突き刺した。


 中身を注入する。それは、エランフェリアように作られた魔力を利用した鎮静剤だ。

 本来なら魔力に作用し、対象を即座に昏睡状態へ追い込む薬品だが、『廻壊者』を持つハーツは気絶しない。ただ薬品が体内で消えるまで───激痛によって苦しむだけ。


「───ッッッ!!!!」


 歯を食いしばり、全身から血が噴き出しそうなほどの激痛が襲う。

 だが、その激痛は根底が否定されるような、根源的苦痛じゃない。だったら『不死身』であったハーツにとっては慣れ親しんだものだ。


 この痛みがあれば、対抗できる。

 死ぬほど苦しいが、おかげで正気を保てる。


 つまり後は、ハーツの気合い次第だ。


「痛……苦しッ、ぁああああアアアアアアアアアア……ッ!!」


 ───ここからが本番だ。


 崩れかけた肉体を意志の力でなんとか繋ぎ、砂利ごと拳を握りながら顔を上げ、眼前を睨む。空中に浮かび、形容しがたいナニかを従わせ、空間を支配するランがそこにいる。


 ───あの日の笑顔は嘘じゃない。

 

 何回も、何度でも。意識が崩れそうになれば思い出せ。

 本質を、事実を、過去を忘れるな。


 見ろ。

 見ろ。

 見ろ。

 見ろ。


 ───見続けろ、ハーツ・ローレリアスッ!!


「頑蠑オ縺」縺ヲもらってrrrrrrrrrrrrrruところ悪いけど★」


 ノイズ混じりの声のまま、頭に銃口を突き付ける様に指の形を変え、ランは嗤う。


「今サr手花す事なんて出来■いkあら!!」


「な……ッぜ……!!」


「アたシは『◎気』によ縺」縺ヲ生溘れた! 『 』だけがアタসি এবং ইランを生かした! 手放せばホiカgイする! またどうせ苦しむ事になる! 『正キ』に戻るぐ繧峨なら───世界に狂ってもrrrrrrrrrrった方が、百倍生きや猜い!!」

 

 完全に発音が伝わっている訳ではないが、不思議と理解できる。

 だから痛みで揺らぐ視界の中でも、ランの声だけはまるで透明の様にすっと入ってきた。


「『アタシ』の■めと言うのなら、アタシノタめに狂っテ豫!」


 呼応するように熱風が噴いた。

 悍ましい思想と高温が、内側と外側からハーツの体を焦がす。燃え尽きた花々が灰となって空気を汚し、肌へぶつかって来た。


「───」


 開いた口が高熱で乾いた。それでも唾を飲み込んで、何とか絞り出す。


「それは、きっと……ッ! 間違ってはいないッ!!」


「───は?」


「そうしなければ生きてこられなかったというのなら、きっとそれは間違いじゃないッ! 生き延びる事を一番だと考えている僕には、それが良く分かる!!」


 眉を顰め、ランは更に温度を上げる。精神を折り、諦めさせることで、本格的に狂気へ堕とそうとしているのだ。

 それでも。剥がれそうになる皮膚を、ハーツは魔法で補強する。


「僕は君を否定できない!! きっと『狂気』というのは選択肢の一つなんだ!!」


「そうdよ!! 『狂気』は■解の一つ!! だったら───!!」


「でもッ!!」


 歯を食いしばり、痛みに耐えながら、ゆっくりと膝立ちのまま前進を進める。


「なら、なぜ狂ってまで・・・・・・・生きようとした・・・・・・・!」


 その言葉は、ランの感情に空白を生み出した。

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