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交錯する文明の新秩序  作者: the chair
第一章 諸国の混乱
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「我が国の商業、特に貿易によって生計を立てていた企業というものへの影響は極めて大きいものがありましてですね、経済的損失は国家予算の軽く10年分にも及ぼうというほどであるということは先ほどお話した通りでありますが、今、ここで、こういった事態に政府として救済と解決を最大限行うと、言明していただきたいのです。商務大臣。」


庶民院商務委員会では、有事における花形の軍務委員会で議論が白熱している裏で、こちらもまた白熱した議論が行われている。


「議員ご指摘のような事態について、政府としては当然承知しておりますし、極めて憂慮しているところでございます。しかし、ちょうどいま議員が指摘された通り、経済的損失は我が国予算規模の10年分にも及ぶわけであります。現在、この会議とも並行して本省で検討を進めておりますが、どの程度政府として救済を行うのか、ということに関してはお答えを致しかねます。」


「委員長!動議を提出します」


「おーい他人の質問中だろうが!ルールを守れよルールを!」


「無駄な議論はやめてとっとと結論を出さねぇと話にならんだろうが!」


「無駄とは何だこの野郎!」


「この野郎とは何だこの野郎!」


白熱した議論が行われている。


「静粛に、静しゅk…」


「動議を提出します!朗読します!ただいまより朗読するような趣旨の議案を直ちに審議されることを望みます!政府においては、昨今我が国が転移したことにより発生した外需の欠乏及び海洋の変質による経済的損失について!まず、当事者への救済に関する検討を速やかに行い、近日中に本委員会に救済の案を提示すること!次に、当事者の業務がなくなることを解決するため方法に関する検討を速やかに行い、本日中に本委員会に解決の案を提示すること!特に、第三国との国交樹立及び通商協定の早期成立、新たな周辺海域の探索及び水産資源の研究については、必ず結論を提示すること!右決議する!以上!」


全く予定外の動議提出に苛立ちを抑えきれない商務委員長であったが、現時点で予定の倍以上時間を消費していること、議論が平行線で埒が明かないことなどを勘案して、今まで出された意見がまとめられているこの動議はさっさと決めてしまうことにした。


「…えぇい。諸君!!!黙って席に着きたまぇ!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!着席!」


余りの勢いに全員着席する。


「ただいまの動議は予定外でありましたが、会議の進み具合を見るに、この動議を速やかに可決して本日の無駄な議論はこれにて終局としたいと思います。ただいまの、誰提出か知りませんが、動議の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。賛成多数、よってその通り決まりました。続けて議案の審議に移ります。質疑及び討論はこれにて終局し、採決いたします。本案の通り決するに賛成の諸君の起立を求めます。賛成多数、よってその通り決まりました。本日はこれにて散会いたします。お疲れ様でした!さぁ散った散った!とっとと家に帰って頭を冷やしてこい!行け!出ていけ!この部屋を!家に帰れ!」


一気にまくしたてると、商務委員長は自ら先陣を切って扉を蹴り開けて帰って行った。


5日後、政府報告と一部議員からの提言を審議した結果、商務委員会は恐るべき結論を出すに至った。


一、新世界における国家ないし勢力との国交等の樹立等を進めるべきこと。

二、周辺海域における地形及び水質の調査並びに水産資源等の調査を進めるべきこと。

三、国交等の樹立等をした国家ないし勢力との通商関係の構築を進めるべきこと。

四、貿易関係事業の一切を商務省による任意の許可によらねばならないものとすべきこと。

五、商務省に国家通商事業局を創設し国家の事業として行うべき貿易関係事業を国家通商事業局に行わせ併せて貿易事業者等に雇用されていたが失業した者等に職を与えるべきこと。

六、農務省に海洋調査局を創設し周辺海域における地形及び水質の調査並びに水産資源等の調査を行わせ併せて水産事業者等に雇用されていたが失業した者等に職を与えるべきこと。

七、侵略国に対して賠償金を払わせるべきこと。賠償金の支払いに応じないときは、応じさせるためにあらゆる措置を講じるべきこと。


「貿易事業の独占と、未知国家Aに対する事実上の宣戦布告及び植民地化決定、か。恐ろしいな。」


若干引き気味である様子を隠さない首相と、頭を抱える与党総務委員長。


「国防法改正の事後承認のため、少々煽ったのですが、煽り過ぎましたかな…。こうも易々と可決されてしまうと、庶民院会議も当然のように通ってしまうやもしれません。」


「まあ、確かに植民地が手に入れば…。」


「…首席大臣殿?代表殿?」


「通そう、これ。やっちゃおう。」




―――――




「第一艦隊から第五艦隊は国防を固め、第六艦隊と第七艦隊を未知国家Aに対して派遣し、第八艦隊による情勢把握は継続、第九艦隊を国交樹立のため派遣。空軍第一軍団…いや、第一航空団に改称されたのか。第一航空団を国内配備、第二航空団及び第三航空団を第六艦隊と第七艦隊に随行させて未知国家Aを攻撃、第四航空団は念のため第九艦隊に随行させて国交樹立のための材料に、第五航空団は第八艦隊に随行させて情勢把握。陸軍の第一軍団から第五軍団は国内配備、第六軍団から第九軍団は第六艦隊と第七艦隊に随行させて未知国家Aに派遣、第十軍団は第九艦隊に随行させて国交樹立のための材料に。第十一軍団から第二十軍団までは将来的に未知国家Aに派遣、第二十一から第三十までは待機か。」


「そのうえで、第九艦隊を派遣する未知国家Bについては、既に上陸地点まで決めてありますが、その上陸地点に極めて迅速に『見せる』設備を建設するため、第二十一から第三十の工兵を第九艦隊に随行させます。なお、第六から第九軍団の工兵は、当該設備の建設完了後、速やかに原隊に復帰させます。また、国内の言語学者を最大限徴用して、未知国家Bの言語解明を進めます。ファーストコンタクトは絵での会話になるでしょうが、以降10日以内に言語形態の大枠を明らかにすることを目標とします。」


「可能なのか?」


「可能か不可能かでいえば不可能ですが、無理が通され道理が叩き潰されるのは世の常でございます。予算に糸目をつけなければ、やってのけましょう。」


「よろしい。やりたまえ。未知国家Aについては…ふむ、まあ、()()()()。」


「はっ」




―――――




「チッ、丞相閣下もお人が悪い。もうちょっと粘れば大臣まで行けたというのに…」


ぶつぶつと文句を言う文官らしき男は、数時間前から揺れがひどくなってきた馬車に乗って、新たな赴任先へと向かっている。周囲に人影はなく、荒れた草原を夕陽が照らしている。


この男は、先日まで王都の国庫長官として働いていた官僚である。国庫長官といえば、この国で丞相と大臣に次ぐ十代長官職の一つで、官僚ポストとしては最高職である。丞相や大臣にまでなると、特定の業務に従事する官僚というよりも、森羅万象に対応する政治家といった様相になる。

しかしながら、先日、丞相が辞職したことで軍閥による中央政府の独占が一気に進み、職を追われてしまった。貴族としても、便宜上だけの非常に小さな領地を与えられて主に政府で官僚として働く中央貴族から、普通の領地を与えられて領地の運営をする地方貴族に転封され、政府の官職としても、地方監察官なる何の仕事もない閑職に左遷させられた。便宜上は、丞相直轄で任意の数だけ設置される独任制の特殊機関なので、昇任でも降任でもないという扱いである。

本来であれば、領地の運営をする地方貴族と、地方貴族を監視する地方監察官という対置構造があるはずなのだが、地方監察官は完全に左遷するための職でしかなくなってしまったため、今や問題視するものはない。


日が暮れてきたので、野営の支度をすると御者や護衛から報告があったので、適当にさせておきながら空を見上げていると、東の空から流れ星のようなものが飛んでくるのが見えた。はるか上空を飛翔する…


「な、なんだあれは!?」


ロケットエンジン搭載型遠隔操作式飛翔爆弾(巡航ミサイル)「飛雲」数十発が、王国上空高度30,000mを飛翔していた。


数分後、王国内の地上軍事施設は全て消滅、大都市周辺はどこも巨大な穴だらけになっていた。




―――――


「えぇい、どうなっておるのだ!」


石造りの部屋で木製の豪奢な机を囲んでいる初老の男たち。中でも最も豪奢な服を着た男の拳が机を打った。しばらく沈黙が続いたあと、扉を叩く音がした。


「入れ!」


「元帥閣下、ご報告申し上げます!」


「こんなときになんだ!」


「聞いたことものない国の使者が王都の城門前に来ており、使者は、先の海戦について賠償金として我が国国家予算の100年分に相当する金額を支払うように求めてきております。いかがされますか?」


「ふざけているのか!斬り殺せ!」


「き、斬り殺すのですか!?」


「どうせはったりだ!そんなふらっと王都の城門前に現れた人間が国の使者であるわけがないだろう!どうせただの戦争を嗅ぎ付けたバカだ!殺せ!」


「は、はっ!承知いたしました!」


その日、王都は消滅した。




―――――




「これは植民地政策ではないのか、我が国が過ちであると認めた植民地政策ではないのかと言っているんですよ!商務委員長!」


商務委員長は、既にやけっぱちである。庶民院会議で繰り広げられる舌論で集中砲火を浴びているのは、ひとえに商務委員会の過激なる同志委員たちによるものだが、商務委員会の決議について院に説明するのは商務委員長だ。


「商務委員会といたしましては、国難に際してなりふり構っていられない、反省は後からするものであって今すべきはいかなる手段を講じても国と民を守り抜く、そういう覚悟と行動を示していく必要がある、既にそういった極端な事態に遭遇しておるのだというふうに認識をいたしております。」


議場は直ちに尋常ならざる騒音に包まれる。誰も彼もが野次を飛ばし、罵り合っている。


「開いた口が塞がらぬとはまさにこのこと!議員諸君!こんなものを許してはならない!そうは思いませんか!続けますが、軍務大臣!…いないんですか、出席を要請したというのに。議長、どういうことですかこれは。」


「軍務大臣は多忙のため欠席され、軍務大臣筆頭補佐官が代理で出席するとのことであります。」


「軍務大臣は本院を軽視しているのではないか!後ほどじっくり追求させていただきますが、それはともかく、では軍務大臣筆頭補佐官でも結構ですが、既に国防軍、皇国軍は、この未知国家Aなる不明な国家と戦争状態であるというのは事実ですか。」


「我が国は未知国家Aによる侵略を受けましたので、当然、戦争状態であります。」


「宣戦布告の手続きは取ったんですか?だいたい議会で承認も得ずに戦争を始めるなどあってはならないことではないのですか。」


「我が国は未知国家Aによる侵略を受けた側でありまして、当然応戦をいたしますし、そこに法的な問題は一切なく、議会の承認も必要がないと理解しております。」


「そういう問題ではなくてですね…いやここで時間を食うほど余裕はないので続けますが、侵略に対する対処はどのように進んでいるのですか。」


「詳細は軍事上の機密にあたりますので差し控えますが、侵略された地域の奪還については完了しているほか、敵方が再度軍を展開したという観測結果に基づき、我が国に対する侵略を継続する意思のあるものと見做して『反撃』を行いました結果、敵国の地上基地と認められる構造物の一切を壊滅したほか、制空権を確保したうえで敵海軍の撃破と敵国本土への進駐に着手しており、既に最後通牒を突き付けております。ここでの最後通牒とは、現段階で降伏しなければ本土を占領し掌握するという意味でございます。」


「は!?」


芝居じみた大げさな喋り方をしていた議員が、明らかに素でこのリアクションを見せた。

議場の扉が開き、軍務大臣筆頭補佐官のもとに官僚が小走りに近づいて、何事かを囁く。軍務大臣筆頭補佐官は、頷くと、発言を求めた。

面白ければ、ブックマーク、高評価等いただけますと幸甚です。

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