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交錯する文明の新秩序  作者: the chair
第一章 諸国の混乱
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5

村人の一行は、村に帰って作戦会議を開いた。途中で村人の何人かが村に戻り、どうも友好的であるらしいということを伝えたので、村長たちが帰ったころには、結果的に長老の言葉通り皆で囲む飯が用意されていた。


「さて、今日わかったことを整理するか。

とりあえず、向こうさんは遠くにあるでっかい島からやってきたらしい。ただ、そのでっかい島は最近まで全然違うところにあったんだけど、最近、突然島ごと移動してしまって、困っているらしい。今回ここにやってきたのは、たまたま船を出していたら陸地が見つかったから、交易をしたいと思って来たんだと。そんで、まあもちろん敵対するつもりはないって。あと、たぶんあの人らは俺らでは想像もつかないくらいすごい技術を持ってる。最初に村長が飲み物出してもらってたんだけど、色んな飲み物がアツアツだったりキンキンに冷えてたりしてた。

向こうさんは、しばらくあそこらへんに陣取るつもりらしくて、こっちが領主様に使いを出したと伝えたら喜んでいた。少なくとも領主様の使いに会ってから帰るだろうな。それと、あの海岸に建物を建てたいらしい。いいかって聞かれたけど、良いって言って領主様に怒られると嫌だから渋っていたら、勝手に建てるから無視する、ってのはどうかと聞かれたので、それで頼んでおいた。明日からもあそこに来て欲しいらしい。そんなもんかな。」


村の夜は、更けていった。



―――――




「いやー、良かった良かった。到着と同時に人が集まってくるし、蛮族みたいなのでもなくちゃんと絵で意思疎通ができたし、幸運だ!」


司令官の機嫌は好調である。


「はっ!辺境の村でも飢餓状態になく、第八統合軍からの報告通り一定以上の経済力があるものと思われますし、たいへん素晴らしいことでありますな。」


「あまり驚くべき情報はなかったけれど、領主に使いを出してくれたのは良かったね。もう日も暮れたし、静音ヘリ飛ばして探査はじめようか。可能であれば、領主に出された使いを特定して追跡できるといいね。」


「はっ!第950航空作戦隊及び第951航空作戦隊に作戦開始を命じます!」


「準備していた計画は全て始めよう。」


「はっ!」


闇夜に工事の音が響き渡る。山を越えた向こうにある村には届かない程度の音だが、進められている工事の速度は尋常ではない。「白銀の竜」と呼ばれた航空戦力や、山岳地帯にぴったりの擬態色の服を着用した特殊部隊も展開していく。軍の長い夜が始まった。




―――――




「なっ…なんじゃこりゃ…」


翌朝、村人の一部を連れて村長が海岸に訪れると、そこには宮殿のような建物ができていた。

白亜の石でできた道は、村から繋がる道の海岸への入り口まで敷き詰められ、その先には白亜の石と透明な板でできた3階建ての立派な建物があった。

実際のところは、鉄筋を組み立てて板を打ち付け大理石風の壁紙を張り付けただけであるうえに、使用する予定のある1階中央部分以外は完全にハリボテであるが、外から見ただけではわからない。


建物から昨日の黒服が出てきて、村人たちを手招きする。村人たちは、生まれて初めて、いや、一生で一度たりとも経験することがあり得なかったはずの贅沢なもてなしを受けながら、一日を過ごした。


その日は、言葉による会話を目指すため、色々な絵や物を指さして村人たちがその名前を言ったり、簡単な文章を喋ってみたり、という作業が行われた。また、翌日の朝に黒服たちの一行が村を訪れ、しばらくそちらに滞在するということに決まった。黒服たちは、この海岸でびっくりするようなものを用意するらしく、その準備の過程を見せるのはもったいないので、ということらしい。


翌日の朝に村を訪れた一行に黒服はいなかったが、黒服以外で交流していた人たちはほとんどいた。さらに驚くべきことに、昨日の会話から、かなり片言で間違いも多いが、一行が村人たちの言葉を少し話せるようになっていたのである。それから10日間程度、一行は村に滞在していた。


ファーストコンタクトから12日後、領主の使者一行数名が、村に到着した。


「コンニチハ。領主様、ノ、使者、会う、嬉しイ。私タチ、海、ノ、向こウにアル、新シい、大きナ、島の国、来タ、軍隊、ダ。私タチ、あなたタチと、戦ウ、しナイ。取引、すル、欲しイ。」


「う、うむ。私はこの地域を治める領主様の使者である。貴殿ら…いや、あなたたちと会えて嬉しい。あなたたちは、我々と違う言葉を使うと聞いていたが、話せるのか?」


「村、ノ人タチ、と話ス、勉強、しタ。話ス、上手なイ、ごめンなさい。」


「いやいや、とんでもない。とてもこの10日間で学ばれたとは思えないほどだ。」


「アー、今のハ、10日間で勉強しタ、早い、ということカ?」


「む…勉強したのが10日間なのに上手、ということだ。」


「わカった。ありがとう。私タチ、知らナい言葉、調ベル、詳しイ人。」


「なるほど、あなたたちにはそういう仕事もあるのか。興味深い。」


「私たち、山、ノ、向こウ、いル。行く。来テ欲しイ。」


「わかった。少し待って欲しい。」


使者は、従者の1人に領主への伝言を言いつけて、言語学者のほうに向きなおった。


「ありがとう。行こう。」


言語学者たち一行と、使者の一行、そして村長の一行たち、あわせて数十名は、山の中を進んで行った。


「使者、ごめンなさい。」


唐突に言語学者が謝罪を口にしたので、まさか殺されるのかと身構えた使者であったが、どうもそういう様子ではない。


「どうされた?」


少し硬い口調で問うと、


「私たち、山、ノ、向こウ、アー…勝手に?、使っていル。」


と返ってきた。


「あぁ、まあもともと使われていなかったので、そこまで気にされずともよい。」


「ありがとう。」


山の稜線までたどり着くと、そこに兵士らしき者が立っていた。言語学者が、恐らく彼らのものであろう言葉で何事かを伝えると、兵士が脇によった。きびきびとした動きである。

言語学者たちに続いて稜線を超えた使者は、あっけにとられて立ち止まり、言葉を失った。後ろからやってきた他の者たちも、全く同じ反応をした。1人を除いて。


「あぁ…美しい自然が…青い海…新緑の山…広い空…」


その言葉に言語学者の目が若干泳いだが、他の者はそういった反応でないことをみて安堵したのか、しばらく放心状態の一行を見守った。

そこに広がっていたのは、完全に石で固められた海岸と桟橋、湾内に停泊する甲板の広いあまりにも巨大な船、どうやら山の中をくり抜いて施設を建築したらしく、その巨大な入口が湾の左右に2つと山肌からところどころ飛び出す煙突らしきものがある。眼下にある道は階段になっており、下に降りていくと中には山肌を削って作られたらしい白亜の宮殿が建てられている。


甲板の広い巨大な3隻の船、すなわち航空母艦の甲板は正装した兵士に埋め尽くされており、その数は数千人に及ぶように見える。また、当然湾外にも巨大な船が大量に停泊している。


「こ、これを10日間で…。」


「行きましョう。」


心なしか先ほどよりも流暢なように聞こえる声に従って、一行は階段を降りて白亜の宮殿に向かった。

白亜の宮殿は山肌を削って作られているようだが、その前方にも石畳で覆われた広い庭のようなものがあり、それはどうも山肌に土を盛って作ったものであるらしい。庭には塀があり、階段は塀の外側の通路に繋がっている。一行は、半円の塀の周りをぐるりと回り、宮殿の正面にある門から中に入った。そこには、軍楽隊を含む正装した兵士がずらりと並んでおり、一行が門の中に入った瞬間に演奏が始まった。

門のすぐそばに、村人たちの見知った黒服の男が立っており、一行に声をかけた。


「なっ…!?なぜ私の名を…!?」


騎士団長の驚嘆する声が響いた。

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