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交錯する文明の新秩序  作者: the chair
第一章 諸国の混乱
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「えぇい、どうなっておるのじゃ!」


石造りの部屋で木製の豪奢な机を囲んでいる初老の男たち。中でも最も豪奢な服を着た男の拳が机を打った。


「む、無人島開拓の予定だったのですが…想定外の強敵が突如出現した…というところでしょうか…」


「連絡は取れぬのか!儂の子や孫がおるんじゃぞ、あの船には!王子1人と王孫3人じゃ!」


「…無人島と報告した者の首は用意してございます。どうかお気をお鎮めなさいませ。王よ、既に追加の艦隊を派遣する手筈は整えさせております。ご命令とあらば、私も出向きましょう。」


室内では比較的若く、立派な黒髭を蓄えた騎士らしき男が言う。男の言葉に、王が少し冷静さを取り戻す。


「…うむ。増援を送れ。総大将は…いや、万が一があってはならん。替えが効く程度かつ優秀な…あるいは逃げるのがうまいものが良いか。敵の力を測らねばなるまい。」


数日後、王国の港を数十隻の鋼鉄の船が出港した。



―――――



王国水軍には、艦隊指揮艦、戦艦、盾艦、高速艦、輸送艦の5種類の艦が存在する。


艦隊指揮艦は、文字通り艦隊の指揮を行う専門の船であり、古代文明(ロストテクノロジー)()遺産(アーティファクト)と呼ばれる、古代文明の遺跡から発掘された強力な魔道具が登載されている。ロストテクノロジーとあるように、現代の魔導研究では解析することも複製することもできない一品物である。艦隊指揮艦に登載される古代文明(ロストテクノロジー)()遺産(アーティファクト)は、艦隊に所属する艦との連絡を取る類のものである。王国には2籍だけ存在する。艦隊指揮艦以外の船が艦隊の指揮を執ることがほとんどである。


攻撃を行う全ての艦は戦艦とされ、その大きさと火力によって1~3級に分類される。

1級戦艦は、攻撃特化の古代文明(ロストテクノロジー)()遺産(アーティファクト)が登載されている船である。そのため、1級戦艦は、登載される古代文明(ロストテクノロジー)()遺産(アーティファクト)を最大限発揮するために建造されるこれまた一品物の船なのである。王国には5艦存在する。

2級戦艦は大型の戦艦で、量産可能な魔道具を主に登載している。登載する魔道具は、厚み100mm程度の装甲を粉砕できる大型魔導砲、厚み50mm程度の装甲を粉砕できる中型魔導砲、厚み10mm程度の装甲を粉砕できる小型魔導砲、厚み300mm程度の装甲に相当する結界を戦艦周辺に発生させる結界装置など。

3級戦艦は小型の戦艦で、乗艦者による魔術攻撃を中心に、非魔法的兵器もいくらか登載している。


盾艦は、攻撃に耐え他の艦を守るための船、厚さ1,000mmの装甲を持つ箱舟である。加えて、結界装置を5個登載しているため、2,500mm分の装甲が存在すると考えてよい。また、中は細かい部屋に区切られており、穴が開いてもめったに沈むことはない。装甲が分厚く極めて重たいため、動力室以外は何も置かれていない。まさに動く盾である。


高速艦は、動力を魔道具で強化した船であり、装甲も武装もほとんどないが、その最高時速は150kmに到達する。なお、戦艦は最高時速60km程度、盾艦及び艦隊指揮艦は最高時速40km程度である。


今回の出撃では、旗艦として艦隊指揮艦1隻、主力艦として1級戦艦5隻、準主力艦として2級戦艦11隻、哨戒艦として3級戦艦33隻と盾艦20隻、偵察艦として高速艦8隻が参戦している。ちなみに、本国に残っているのは艦隊指揮艦なし、1級戦艦なし、2級戦艦8隻、3級戦艦6隻、盾艦5隻、高速艦7隻であり、先の不明な勢力との交戦では、艦隊指揮艦1隻、2級戦艦11隻、3級戦艦10隻、高速艦20隻を撃沈されている。今回の出撃で指揮を執る総大将は、海軍大将軍、すなわち海軍の最高職である。海軍将軍も全20名中15名が出撃している。


「つまり何か、そちは、王命に背いたというわけか。」


先に命令を受けた騎士風の男、王国軍の最高司令官である元帥は、落ち着き払った様子で自らの主上たる王と目を合わせ、口を開く。


「はて。」


王の口元は先ほどからわなわなと震えており、その手は今、腰の剣にかけられようとしている。元帥は、王の顔をじっと見つめている。数瞬の膠着状態を経て、王はゆっくりと周囲を見渡した。誰も口を開いてはいない。しかし、その空気が何を物語っているかは、明らかであった。


「…王命は、撤回したのだったな。あの後、そちに下した王命に、従って、こうなったのだったな。」


「そうでございますな。」


「…よきにはからえ。報告は怠らぬようにせよ。」


「は、不肖の身なれど、我が王に必ずや勝利の美酒を献上いたしましょう。」


王は部屋を去って行った。元帥は、口の端に薄ら笑いを浮かべ、近くにいた文官らしき男に語りかけた。


「『報告を怠らない限りにおいて全権を委任する』という王命をいただいたように思うが、どうかね。」


文官の男は、「貴様…」と小さく呟いた。その顔は、無表情のようでありながら、隠しきれない歪みを孕んでいる。元帥は笑みを深くし、「どうかね」と繰り返す。文官の男は、ため息を吐き、短く答えた。


「そうだな。」


「おぉ我が丞相よ、然らば我に協力したまえ。」


「断る。そして貴様の丞相ではない。」


元帥はわざとらしい演技を続け、嘆き悲しむような素振りをする。丞相はそれを一瞥もせずに出口へと歩き出す。騎士らしき何人かが動こうとするが、元帥が手で制する。


「私は丞相をおりて隠居する。好きな人物を就けて好きにやりたまえ。こうなってはもう適わん。」


元帥の顔から、わざとらしい表情が抜け落ちる。


「何…?」


床に何かが落ちる音がして、扉が閉まる。無表情の元帥は、扉の前に落ちた何かを拾い上げた。それは、黄金に輝く短杖、丞相の証であり、王笏をそのまま小さくしたものである。


「…そう来たか、なるほど。」


一瞬苦い顔をした元帥だったが、すぐに思考を切り替えて丞相に誰を付けるかを思案しはじめる。



―――――



「執政官、とな。」


元帥が興味深そうに相槌を打つ。話しているのは、元帥と懇意にしている外交官である。


「左様です。古くは我が国でかつての大貴族が、権勢を振るうために、王の権限を事実上行使する官職として臨時におかれた職で、軍と官の双方の上にあります。これを復活させて、それに就任されればよろしかろうと。さすれば…」


「正式に指揮命令系統上の上にいれば、人選の幅も広がる、か。」


顎に手をやる元帥と、ずいと身体を乗り出す外交官。


「えぇ。執政官と元帥を兼ねて軍は今まで通り自ら掌握され、執政官として官を動かさせれば、見事に現状の上位互換となりましょう。」


元帥は何度か軽く頷いて、にやりと笑みを浮かべた。


「それでいこう。細かい処理は…」


「無論、お任せください。」


外交官は、満足そうに退出していった。彼の足は、旧友である法曹のもとに向かっている。


元帥のもとには、新たな訪問者があった。


「閣下、計画の準備が整いました。割り振りも済んでおりますので、ご確認ください。」


今度は武官である。元帥の側近で、密命を受けてある計画を取り仕切っている。


「…大変結構だ、やはりお前は頼りになる。進めてくれ。」


「はっ!」



―――――



魔法の明かりで照らされた豪奢な部屋に、初老の男と青年がいる。


「父上…」


「もはやわしではアレに勝つことはできぬ。もはやわしは手足を奪われたも同然じゃ。アレの言うとおりに椅子に座っていることしかできぬ。それが一番犠牲の少ないやり方なのじゃ。」


男の顔にはは悲しげな表情が浮かんでいる。青年は、その内には溢れんばかりの義憤を湛えていることがよく伝わってくるような様相である。


「生きよ、生きて多くの仲間を作り、復権するのじゃ。然らば、行けィ!」


「父上は、命を賭されるのですか。」


「いや、そこまでするつもりはないぞ。命あっての物種じゃ、せいぜい彼奴等の言いなりになる愚物を演じて、表向きはわしに権限があるかのように見せるわい。」


けろりと答えるこの男も、なかなかの食わせ者であるらしい。


「忠義の者どもは、既にほとんど野に下りた。必ずそなたの役に立とう。何、ちと帰れぬ時が長い市井での研修と思えばよい。よく励め。」


「かしこまりました。王に栄(God Save)光あれ(the King)!」


既に彼は旅支度を済ませた格好であった。出立の時は、まさに今である。

青年は部屋を出た。控えていた側近と護衛を連れ、闇夜の城で歩を進める。唇を噛みしめながら、脳裏に浮かんできた憎き男への報復を誓う。


「若君、気張られますな。疲れて早死にしますぞ。」


側近がぼそりと呟く。青年をちらりと見やって、返事がないのを見ると再び呟く。


「父君の願いは…」


「皆まで言わんでもわかっておる…わかっておるが…」


青年は、口を閉じてまた唇を噛む。一行は、再び静粛に包まれて歩く。大扉の隣にある小さな扉から出て、庭を進むと、じきに大きな門が見えてくる。門番に一声かけて、彼らのための小さな扉から外に出る。側近の先導に従い、生まれ育った城を振り返らず、振り返れずに、離れていく。

大通りを数十分進み、路地に入る。再び曲がり、三度曲がる。小さな路地だ。青年は、物珍しそうに松明で照らされる路地の周囲を見回している。


「あまり見回されますな、襲われますぞ。」


「何?都はそれほど治安が悪かったのか?」


「ここは格別です。貧民街ですぞ。」


「こ、ここが貧民街なのか…。」


青年は、貧民街のことを紙の上でしか知らない。一行は、小さな家に入った。中は案外掃除が行き届いている。少し奥のほうに入ったところで、護衛が剣を抜く。その切っ先は、真っ直ぐに床を、床石の隙間を穿った。力をかける向きを変えると、床石が持ち上がる。王子一行は、貧民街の床下に消えていった。



―――――



「元帥より通信!『鷹ハ羽ヲ休メタリ』、『鷹ハ羽ヲ休メタリ』!」


「よォし、やったか。本艦は、これより領海内の長期間巡回を開始する!ハドリー2世と4世、トニー1世から3世、ハミルトン1世と2世に、本艦への随行を命じよ。」


「はっ!本艦は、これより領海内の長期間巡回を開始し、ハドリー2世と4世、トニー1世から3世、ハミルトン1世と2世に、本艦への随行を命じます!」


「主力艦と準主力艦には、元帥閣下から直接通信が飛んでいるはずだが、念のため『鷹ハ羽ヲ休メタリ』を伝えよ。」


「はっ!主力艦と準主力艦に対し、『鷹ハ羽ヲ休メタリ』を伝えます!」


「哨戒艦と偵察艦には、各々に対して本艦隊の主力艦や準主力艦から通信が飛ぶので、それに従って行動するよう伝えよ。」


「はっ!哨戒艦と偵察艦に対し、主力艦や準主力艦からの通信に従うよう伝えます!」


艦長の指令に、副艦長が訝しげに声をかける。


「我々は、未知の国家に対する報復戦争に出向くのでは…?」


「未知国家の艦隊は、我が艦隊を撃滅した極めて危険な国家だ。下手に刺激するよりも、徹底防戦とそのための国内体制強化を図ったほうが良い、という元帥閣下の提言と、その通りの王命だ。」


「なるほど、元帥閣下の地盤固め、ということですな。」


艦長は苦笑し、肩をすくめた。


「ちゃんと1級戦艦と高速艦を中心として防御網も構築するから、まあ全部が全部そうというわけではないよ。」


「我々は領海内を巡回して、双方の指揮…いや、監督と監視をするということですか。」


「察しのよい優秀な部下を持てて光栄だよ。」


「恐縮です。」









王国水軍

旗艦   艦隊指揮艦アダムズ

主力艦  1級戦艦セドリック

 5艦  1級戦艦クリフ

     1級戦艦マキシマム

     1級戦艦ロバート

     1級戦艦ハワード

準主力艦 2級戦艦ドミニク1~5世

11艦  2級戦艦エドガー3世 (1,2撃沈、4~6残存)

     2級戦艦ハドリー2,4~6世 (1,3撃沈)

     2級戦艦ウォルター8世 (1~7撃沈、9~13残存)

哨戒艦  3級戦艦トニー1~15世

53艦  3級戦艦ジョンソン3,5~9世 (1,4撃沈、10~15残存)

     3級戦艦ハリー9~21世 (1~8撃沈)

     盾艦ハミルトン1~20世 (21~25残存)

偵察艦  1級高速艦ロイド15世 (1~14撃沈)

 8艦  2級高速艦ブライアン3,5,9~13世 (1,2,4,6~8撃沈、14~20残存)

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