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交錯する文明の新秩序  作者: the chair
第一章 諸国の混乱
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「陛下…例の国から、とうとう直接使者が来ました。」


国の象徴である水が装飾に組み込まれた部屋に、その清涼な雰囲気に似合わぬ重苦しい空気が満ちている。


「うむ…。」


数ヶ月前、北方で多少国境を接していた隣国が突如未知の勢力に滅ぼされた。国交もあり、かつて西方の大国から分離独立したという建国の経緯も共通している。極めて親密ということはないが、どこか親近感のある国だった。

それが、突如滅ぼされたのである。ある日、国境の兵が見覚えのない軍隊らしきものを見たと言い、確認を取ろうと部隊の一部が国境を渡っていったが、貴様らが行こうとしているのは既に滅びた国だと言われて追い返された。陸から調査を入れようとしたが、何か訳の分からない恐ろしい攻撃を至近距離に落とされ断念せざるを得なかった。海からも調査を入れようとしたが、海岸に近づくことすらできなかった。わかったのは、隣国を滅ぼした勢力は、長くとも数日のうちに隣国の全土を掌握したということだ。


「ミル王国から使者が来たのは、先月のことだったな。」


南方の、これまた国交のあるミル王国からは、隣国を滅ぼした国と接触し、友好的な関係構築への道筋が立ったので、貴国も接触してみないかという使者が来た。

使者も、いや、ミル王国も、その国の素性はよくわからないということだった。ただ、海上に大勢力を展開してやってきたが、戦闘は一切なかったこと。交渉に来た人物は、物腰も柔らかく、押し付けがましいということもなく、国交を結ばずとも敵対さえしなければ戦わないと言ったそうだ。また、その国が有する戦力や技術は凄まじく、外務卿の要請に応じて派遣されたその国最大の大きさという船は文字通り山のような巨大さで、それとは別に最初から展開されていた海軍の船も、外務卿が演示を求めたところ、比較的小型な一隻の戦力だけで十数キロ離れた地点の地形を変えてしまうほどの大火力を示して見せたという。いずれについても、その国は圧力をかけるような外交はしたくないと言って固辞したうえで、なおミル王国の外務卿が頼んでようやくやったそうだ。もっとも、外務卿を使った自作自演である可能性も否定できないが…と使者は付け加えていた。


「無碍に追い返して敵対的と思われればどうなるか…。」


「一方的にこちらを消し飛ばせる可能性がある国…。会うだけでも会わねば、というか寧ろ下手に出るべきなのか…?」


「…。」


部屋は再び重苦しい沈黙に包まれる。しかし、使者は既に王都に着いているという。機嫌を損ねては、どうなるかわからない。恐ろしい大戦力を携える謎の国家と対峙したこの国は、ミル王国とは少しだけ違う。すなわち、すぐ隣にある国が目の前で実際に滅ぼされているのだ。

彼らの心中には、ミル王国のそれよりも遥かに大きな恐怖が渦巻いている。そしてそれこそが、この場にいる誰しもの脳裏に浮かぶ、そして誰も口にしない結論に誘導している。

王が深呼吸をした。


「会おう。できるだけ有利な、できるだけ現状を保てる条件になるよう努力しつつ、下に付こう。身の安全が第一だ。」


アートルカルム皇国が示した対極的な二面性、すなわちバートル王国を滅ぼした苛烈さと、ミル王国に対する友好的な姿勢。その落差が、レッグ湖水国にとってもアートルカルム皇国にとってもある程度良い結論を生ませた。刃向かいさえしなければ悪いようにはならないのかもしれない、という期待が少しもなければ、双方共に悪い夢を見たことだろう。

幸いにも、レッグ湖水国は豊かな水産資源を管理する王家と、それに付き従って恩恵を受ける貴族、という構図が成立しているために、政争らしい政争もなく王家を中心にまとまっている。民のレベルまでは潤っていないがある程度は安定している構図と、豊かさから来る王家や貴族の理性は、()()()()()()()に欠かすことのできないものであったに違いない。


王は、使者をこの部屋に招き入れるよう命じると、玉座から立ち上がり、重臣たちもそれに倣って立ち上がる。

王は、重臣たちが着いていた席の一つに着く。それを見た重臣たちは、意図を理解して数歩下がった、

しばらくして部屋に入ってきた見慣れぬ服装の男は、促されるままに王の向かいにある席に着く。そして、流暢なヨーク語で話し出した。


「レッグ湖水国国王陛下とお見受けいたします。本日は、御面会の機会をいただき、深く感謝申し上げます。小職は、アートルカルム皇国において第一枢密卿にして西方統治院総裁を務めるプレイス・ゴードン侯爵と申します。第一枢密卿は皇帝陛下の相談役として直接お仕えする最高位の官職であり、西方統治院総裁は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()官職でございます。先日までは国政を預かる首席大臣を務めておりましたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()及びミル王国との国交樹立に関する功を認められ、皇帝陛下にお取り立ていただきました。本日は、陛下の御下命と、首席大臣の依頼と全権委任により、貴国を訪問させていただきました。何卒よろしくお願い申し上げます。」


無駄に長い自己紹介は、部屋に静かな衝撃を走らせた。

言葉通りに理解すれば、目の前にいる男が、隣国を滅ぼし、今も隣国を統治しているということだ。この場の誰もバートル王国に共感して恨むことまではしていないが、緊張のボルテージは最大に達していた。


「レッグ湖水国国王の、アルフレッド・ジョン・レッグである。貴下の我が国への来訪を歓迎する。」


緊張をうまく隠し、落ち着き払ったように短く答える。


「ありがとうございます。まず、直近の我が国の行動についてご説明しましょう。」


第一枢密卿は、笑みを浮かべ、皇国がこの世界に転移してきたことから、それ以降に皇国絡みであったできごとを話し始めた。


「…ふむ。とりあえず確認したいのだが、バートル王国が攻めてきたから報復した、という認識でお間違いないか。」


「左様です。バートル王国が攻めてきた際の映像記録がありますので、ご覧ください。」


エイゾウキロクという聞き慣れない言葉に疑問を抱いた様子の国王を気にせず、内ポケットから小型の携帯端末を取り出し、何やら操作して画面を国王に提示した。そこには、バートル王国の海軍が着岸してそこから兵が出てくる様子、バートル王国兵が市街地に流れ込んで民を攻撃する様子などの防犯カメラ映像が複数表示されていた。


「…うーむ、なるほど。…臣下に見せてよいか?」


「構いません。」


集まってきた湖水国の重臣たちが、数人で動画を覗き込み、唸り声を上げる。そのうちの一人が、こう口にした。


「このエイゾウキロクというものは、どのように作られた…のでしょうか。その、作るというのは捏造という意味ではないですが、どのように記録して作ったのでしょう。」


「細かい仕組みは私もよくわからないのですが、1秒に数十枚の写真を撮り、それを連続して流すことで、物が動いている様子を記録しています。写真というのは、撮影する機械のレンズというものから見える範囲のものを、そっくりそのまま描写するようなもの、と言えば良いでしょうか。…この端末でも撮れますので、やってみましょうか?」


国王が興味深そうに頷き、枢密卿が写真と動画を撮影し、それを見せると、湖水国側から感嘆の声が上がる。それをにこにこと眺めた枢密卿は、再び話を始めた。


「さて、そこで我々の求めるところですが、」


緩んでいた空気が再び引き締まる。




―――――




「大王様、レッグ湖水国が彼の国と国交を樹立し、彼の国が画策している同盟とやらへの参加を表明したとの知らせがございました。」


バキッと何かが砕ける音がした。大王と呼ばれた人物が、手元にあったナッツの類を握り潰した音だ。


「おのれ彼奴等め、愚弄しよって!」


大王の部屋にいるのは、女中が2人と報告してきた家臣が1人だけだ。


「大王国の大王国たる所以を思い知らせてやれ!レッグ湖水国に軍を差し向ける!」


家臣は、困惑したような表情を浮かべる。


「しかし大王様、我が国は湖上に逃げたレッグ湖水国に勝てた試しがありませんが…。それこそ我が国がレッグ湖水国の独立を認め、友好的関係を構築しようとした理由でございます。」


「黙れ!」


ヒステリックに叫んだ大王は、家臣にナッツを投げつける。そして、我に帰ったようにぼそぼそとすまぬと口にすると、家臣を下がらせた。女中しかいなくなった部屋で、大王は大きなため息をつく。


「大王様。」


女中の一人が大王に声をかける。


「なんじゃ?」


「彼の国は、バートル王国を一瞬で滅ぼすだけの力がある国です。レッグ湖水国も、その力に惹かれて同盟を結んだのでしょう。ならば、大王様もそれに乗っかり、その力を借りて国内を平定してしまえばよいのではないですか?」


「愚か者め、大王国の大王国たる所以をゆめゆめ忘れるなよ。」


力なくそう呟きながら、進言した女中を抱き寄せる。この女中は、ただの側仕えではない。

もとはただの女中であったが、王太子時代の大王に見初められ、大王妃と王太子が結婚する前から今に至るまで、ずっと女中頭兼愛人として大王のもとに仕えている。寝物語に大王が国のことを語っていたところ、ふっと口にした考えを大いに誉められ、以降献策を求められるようになった。

大王の私室で夜半時までを過ごした女中は、大王が眠りに落ちた頃合いを見計らって部屋を出た。乱れた服を直し、少しふらつく足で、歩きなれた廊下を歩いていく。


「ご主人様。」


「計画は実行だ。必ず殺しきれ。」


「心得ました。」


「誰かいるの?」


数瞬後、廊下の曲がり角で2人の女中が鉢合わせした。


「誰かいました?」


「私ですか?」


「わかりません。何か気配がしたのですが…。気のせいかしら。」


「そうじゃないかしら?」


翌日、大王の側近が2名惨殺されているのが王城の裏口で見つかった。


「なんと、何ということだ…!」


大王はおろおろと歩き回っている。集まってきた臣下たちは、大王を無視してやいやいと騒いでいる。

そんななか、数人の家臣が大王にすっと近づいてきた。


「大王様。誰とはわかりませんが、大王様の側近を惨殺することで得をする貴族の魔手が、大王宮殿にも届こうとしているのです。そうとしか考えられません。」


彼らの声を聴いた大王が呟いた言葉は、「やはり…」であった。


「もはや我らに力はありません。これを阻止することすらできないのです。大王様、率直に申し上げます。位を譲り、お逃げください。」


いつの間にか静まっていた部屋に、尻すぼみになった彼らの声が響く。

臣下の1人が、顔に下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。まるで、大王の忠臣がその命を案ずる余りに退位を進言することを、待ち望んでいたかのように。


「大王様、彼らの言う通りです。お命を大事になさるべきです。権力の座を離れれば、狙われることもありますまい。」


大王を無視して騒いでいた臣下たちが、口々に同意を唱える。彼らは皆、国内の諸貴族が役人として推薦してきた者たちだ。数派閥にわかれる諸貴族だが、今の大王を引きずりおろしたいという点では全ての派閥が一致している。貴族にとっての疎ましさは、大王の口癖に現れている。


「大王国の大王国たる所以…。そこを考えれば、天寿を全うせずに退位することは考えられぬ…。」


弱弱しい声で、大王はそう口にした。


「しかし大王様、命あっての物種と言います。大王国のために、大王様はまず生き延びるべきです。」


「その時が来たら、再びお戻りになればようございましょう。」


心にもない言葉を、薄っぺらい笑みを添えて、口から放つ。大王は、少し考えるといって、ふらふらとした足取りで私室に戻って行った。部屋には、大王妃と、大王の息子である王子たち、そして女中兼愛人の女がいた。大王妃と愛人の仲は決して悪くない。いることを承知で結婚しているし、もう歴も長い。割り切って暮らすことができているらしい。今はとにかく、安全を守るために全員が集まっている。


「退位しろと言われた。」


大王は、ぽつりと呟いた。


「もはや、余に国を治めることはできぬ。1人で国は治められぬ。」


女中が口を開いた。


「大王様、1人ではありません。いずれにせよ、このままでは大王国は脆く崩れ去ってしまいます。ならば、できるだけ多くの大王国たる所以を守るために、他国の力を借りるべきです。レッグ湖水国を通じて、連絡を取りましょう。」


大王は、低くうめき声をあげた。


大王の去った広間では、先の"言い出しっぺ"数人が、それとなく称賛されていた。称賛される数人、大王の側近であったはずの者たちも、先ほどの真に王のためを思ってというような雰囲気は消え去っている。

そして数人は、その直後、口から血を吐いて倒れた。

彼らと話していた貴族は、驚いた様子で飛びのくが、悲鳴を上げる者はいない。今の時代、もはや人が死ぬことは日常茶飯事である。人死にが出たため、広間での集まりの熱は冷め、一同は宮殿の従僕を呼んで事の次第を伝えると、さっさと帰って行った。

面白ければ、ブックマーク、高評価等いただけますと幸甚です。

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