13
時は遡る。
「あのおっかない鉄の塊、いつまで居座るんだろうねぇ…。そろそろ街に買い出しに行きたいんだが…。」
よくわからない鉄の塊が村の近くに居座り、村を出ようとすると爆音を立てて攻撃してくるので、出ることもできない。ただ、積極的にこちらを攻撃してくる様子はないし、鉄の塊の中から人が出入りしている。
「しっかし、あれが魔物をとっちめてくれるのはありがてぇんだよな。」
午前の農耕作業を終え、田畑から戻ってきた住人たちは、大鍋を囲いながら昼食をとる。
変わらぬ日々を過ごしていた彼らのもとに、聞きなれない声が聞こえてきた。鉄の塊こと戦車からである。
「我々はアートルカルム皇国西方統治院である。バートル王国及びバートル王家、並びに首都バートルは滅亡し、我々は旧バートル王国領を支配下に置くことを決定している。既に、旧王国内の全ての都市、街や村は我々による監視下にある。本日、西方統治院は、バートル王国領の住人に対する帰順の呼びかけを開始した。我々に帰順する者に対しては、十分な食料と安全を約束する。個人での帰順及び村単位での帰順のいずれも認める。帰順する者は、1週間以内に申し出ること。なお、1週間以内に申し出のない者は、実力で領外に追放する。現刻より、戦車に接近する者に対する無差別攻撃は停止する。」
「…お、王国が滅亡したァ?」
村人たちは、困惑した様子である。
「滅亡ってぇのはよくわかんねぇが、外から助けも来ねぇし、外にも出られねぇし、あのでっかいのに従わねぇと死んじまうんでないか?」
この村は、既に物資が細くなりつつあり、どうにかしないと滅ぶのは目に見えている。第一、国民国家などという概念のないこの国では、愛国心などというものは農民にはほとんど存在しない。日々の生活が第一である。
「要は、あの皇国って連中がこのあたりを占領したって話だろ?領主が変わっただけさ。俺らにはどうしようもねぇ。せいぜい税が重くならねぇように祈るくらいだな。」
「こき使われたらどうする…?」
「よく考えてみろ、このままじゃ俺たちは全員飢え死にだ。あいつらにこき使われたって、全員が死ぬことはねぇさ。全員死ぬにしても、このままいくのとおんなじだ。希望があるほうがいいだろ。」
「そうさ、明日の飯もなくなるんだよ!」
既に余裕のない村人は、速やかに結論を出す。状況も言語もわからないから監視しているだけだった皇国軍だが、その間にも物資が減っていく村人たちにとっては、兵糧攻めを受けているようなものだ。ただの村人である彼らにとってみれば、戦っているという意識もなければ、戦うなどという考えもない。すぐに帰順するのは道理である。
「よし、じゃあ村長行ってきてくれ!」
「わ、わしかぁ…?」
「村長だろ、頼むぜ村長!」
「怖いのう…。」
全員で昼食をかきこんで、おっかなびっくり村の外に出る村長を見守る。
鉄の塊に近づくと、再び変な声が聞こえてくる。
「止まれ、何者か。」
村長は驚いて尻もちをつき、村人たちがぷっと吹き出す。村長はキッと村を睨み、立ち上がって鉄の塊のほうに向きなおる。
「ポール村の村長をやっとるジョーです。その…アーなんたら皇国に従いますんで、よろしくお取り計らいください。」
すると、鉄の塊の上部から人らしき者が出てきて、降りてくる。
「ポール村のジョー村長ですね!小官は、アートルカルム皇国西方統治院のボリー・ベン軍曹と申します。陸軍第六軍団第4005戦車大隊第七分隊の隊長を務めております。ポール村については、当面の間は小官が担当となりますので、よろしくお願いいたします。早速ですが、村の皆さんに現在の状況についてご説明したいと思いますので、ご案内いただけますか。」
「は、はぁ。」
やけに物腰の低い軍人だなと思いながら、村長は軍曹を村に案内する。
村に入ると、不安げな様子で皆が様子を伺っている。軍曹は、村人たちに現状の説明をはじめた。
「つまり、バートル王国がアートルカルム皇国に戦争を仕掛けたけど、アートルカルム皇国のほうが強かったので、逆に滅ぼされた、ということですかい?」
「えぇ、そういうことです。」
「で、新しい領主様になるのは、アートルカルム皇国っていうところってことですか?」
「そうです。アートルカルム皇国の西方統治院と、そこから派遣される行政官によって統治されます。現段階では、行政官ではなく軍人が派遣されており、この村の統治は小官に任されています。ありていに言えば、この村の領主が小官になったということですね。」
「はー、なるほどね。じゃあ領主様、俺たちはどうなるんで?」
「皆さんは農耕をされていると思うのですが、そこで収穫されたものは全て西方統治院が召し上げます。また、皆さんが所有している物品も全て西方統治院のものになります。そのうえで、皆さんの食料や衣服などは、西方統治院から配給します。」
村人たちが固まる。語る軍曹の笑顔は、ひどく恐ろしいものに見えた。
村落については、大抵の場合、各大隊指揮官が降伏勧告一発のみで落とせると判断し、ほとんどの場合、これで済んでいたのである。
―――――
「なんちゅーやり方だよ…勘弁してくれって。」
皇国陸軍の第六から第九軍団に属する工兵旅団は、全て焦土と化した旧バートル王国王都に集められている。というのも、焦土にした王城の地下に、とてつもない量の財宝が埋まっていることが判明したからである。重機を大量に航空輸送して、以前に撮影した上空写真から王城の位置を割り出し、掘り進める。
「というか、何でここに財宝があるのがわかったんだ?」
作業の手を休めて兵士が呟く。
「どうも、どこかの地方に左遷された宝物庫の元管理人にたまたま遭遇して、聞けたらしいぜ。」
「はえー、すごい偶然だな。」
「どうも、うちが攻めている間にもこの国では政争をやっていたらしくて、中央官僚の大粛清がついこの前あったんだとさ。それで、地方に左遷された役人が、既にうちが占領している都市にやってきたもんで、検問で見つけられたんだと。」
兵士たちは、何とも言えない表情を浮かべる。
「おい、そこ!しっかりやれぃ!」
「「「はっ!申し訳ありません曹長殿!」」」
現場監督から叱責され、兵士たちは再び重機を動かし始める。
数日後、積み重なった瓦礫をどかして十数メートルほど掘り進めたあたりで、大量の金銀財宝が発見された。それらは、速やかに集積されて本国に送られ、ただちに鑑定が行われた結果、皇国が緊急に支出した全ての金銭を補って余りある価値があることが判明した。皇国は、通貨の信用は失われないことを極めて大々的に告知しながら、順次物価統制の解除を開始した。皇国の緊急経済政策は、一定程度の成功に終わった。なお、転移によって収益を損失した企業に対する多額の補助金支出はなおも続いている。
―――――
皇国軍は、旧バートル王国において、都市には歩兵2中隊と砲兵2中隊を、街には歩兵2中隊と砲兵1中隊を派遣している。
「うえは何を考えているんだろうな、俺らみたいな対空戦闘専門を街の占領部隊にしてさ。」
彼らは、第65006高射砲中隊の兵士である。彼らの主たる業務は、高射砲を用いて上方から接近してくる敵航空機を撃墜することだ。断じて対地戦闘などではない。
もちろん、最低限の自動小銃などで武装はしているし行使もできるが、市街でのちまちまとした戦闘は彼らの得意分野ではない。
「まあでも、この世界に来てから対空戦闘なんてないし、遊ばせておく余裕もないんだろ。」
一応持ってきている高射砲の周囲に固まって周囲を監視しながら兵士たちが愚痴る。
「普通に対市民だし、俺らみたいなのが持ってる自動小銃だけでも十分に効果があるって話?あと、高射砲でも頑張れば対地も撃てなくはないし。その程度で十分なんじゃない?」
「なるほどなぁ、まあ言われてみれば。」
突如、怒鳴り声が聞こえてきた。
少し離れたところから、少年がこちらを睨みつけている。
「どうする?あれ。」
「子どものやることさ。気にすんな。」
少年は、しばらく何か騒ぐと、石を投げてきた。
「…どうします?軍曹。」
「…舐められるのはまずい。かといって撃ち殺すのも顰蹙だな。制圧しよう。俺が行く。お前らは銃を構えて周囲を牽制してくれ。…今!」
黙っていた軍曹が、そう言ってばっと駆け出す。
分隊の他の兵が銃を構えて周囲に向けると、何事かと見ていた市民がばっと顔を背ける。
フル兵装の軍曹に、子どもが投げる石つぶてなど何の効果もない。あっという間に間合いを詰めた軍曹は、子どもの首根っこを掴んで持ち上げる。暴れる子どもをものともせずそのまま持ち続けるが、振り返って眉を顰める。
「どうすんだこれ。何言ってんのかよくわかんねえし、翻訳機持ってる本部に、こんな野暮用で押しかけるわけにゃ行かねえよな。」
結局、大人しくなるまで持ち続け、大人しくなったところでそのあたりに転がしておくも、親らしき人影はない。結局、夜になって夜勤と交代になるまで誰も迎えには来ず、少年もそのあたりで蹲っていたので、夕食と休憩のために本営地に向かうついでに少年を回収していく。
「少佐殿、この少年が昼間に小官らに石を投げてきたので、適当に転がしておいたのですが、どうも親らしき人影も行く宛もないらしいので連れてきました。いかがしましょうか。」
本営の奥のほうで休憩している少佐のもとに、少年を連れていく。少佐は、ちらりと目をやると、ため息を吐いた。
「戦災孤児だろうなぁ。」
「はっ…。」
「上層部から、こちらに来たいという現地人がいたら連れてこいという指示が来ている。まあ、それで良いだろう。悪いようにはされないさ。私が預かろう。」
「承知しました。」
軍曹たちは去り、あたりには少佐と少年だけが残った。少佐は、少年を手招きして自身の執務スペースに連れていく。そして、取り出した翻訳機を使って少年に話しかけた。
「親御さんは?」
「…死んだ。お前らが殺した。」
「そうか。これからどうする?」
「…」
「行く宛はあるのか?」
「…」
「そうか。なら、我々が拾ってやろう。」
「…」
「沈黙は肯定と見做す。小僧、とにかく生きることだ。生きて、復讐をしたければすれば良い。止めはせん。返り討ちにはするがな。」
黙り込んでいる少年にそう言うと、側近を呼んで風呂に入れて服を与え、西方統治院本部に送るよう命じた。
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「仕事がなくなった貿易業者の支社を旧バートル王国領に置かせて、そこを介して金品を本国に販売させる。そして、貿易業者を通じて本土から肥料を購入する。それと、鉱山があるらしいから、重機と徴用した現地人で掘り進める。これも貿易業者を介してやりとりする。収益が溜まってきたら、農具を生産する工場を建てる。街にいる無学な人間はそこに放り込む。農村は農業。学のある人間は、全て連行して知識を仕入れるのに使う。物心のついている子どもはそのまま、物心のついていない子どもは取り上げる。」
「「「承知しました。」」」
「最終的には、西方統治院は撤退しつつここへの投資を極限まで減らして、あとは搾り取れるだけ搾り取ることになる。そのために、徹底管理社会を作り上げる。本国の技術を投入して、既存の全ての街や村を破壊し、巨大アパートと田畑と工場しかない国に作り替える。工場はローテクで単純作業ばかりのものが良いな。」
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