表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘆きの天使  作者: 山河はんこ
7/8

痛み―Trauma―

第7話です。実生活が忙しくて時間が取れない、という言い訳をします。その分今回長いかもしれません。

――分断より一時間経過――

 「ここもハズレか」

地上より更に暗い坑道を、アルゥルと共に歩む。探索は二人分のライトで行っているが、無いよりはまし、程度のもので数メートル先がぎりぎり認識できる程度の頼りなさだ。そんな暗闇を、お互いの存在を確認しながら歩く。

「ノゾムさん!」

アルゥルが不意に呼びかける。彼女のライトが照らした先には、錆にまみれた重厚な鉄の扉があった。今までの探索で発見した坑道独自のものと比較して、『なにかある』と思わせるには十分な代物だった。

「ここに何かの手がかりがあればいいのですが…」

「敵がいるかもしれない。一応注意しよう」

扉に近づいて中の物音を確認する。扉の向こうからは物音どころか、生き物の気配すらなかった。何かあれば未来視が危険を察知するだろう、そう思いながらドアノブに手をかける。ゆっくりと、細心の注意をはらって扉を開いた―――


 結論から言うと、生き物気配すらなかったのは正解だった。ここに『人』はいない――――――『人だったもの』で部屋中埋め尽くされていた。

「「ッ!?」」

部屋には二対ずつ並んだ八つの診察台と中央には見たことのない機械が鎮座し、それらを覆いつくさんとばかりに『赤』が広がっていた。床は血と肉片が溢れ、壁や天井にまで飛び散っていた。天井の電球にライトが反射して、どこの物かは分からないマークが照らされた。いつからこんな状態だったのか。部屋に入った瞬間噎せ返るほどの死臭と凄惨な光景に視界が歪むが、何とか正気を保つ。だが―――

「―――ぅおえぇ‘‘」

アルゥルは耐え切れず入り口から離れて吐いた。当然だ。常軌の逸した、非人道的行為。心臓の弱い人が見ればショック死しかねないほどの地獄だった。そしてこれは『悪魔』のような野性的な虐殺ではない。明らかに人間が行ったものだ。何故あれほどまで残虐なことができるのか、まったく理解できない。ドアを閉めて深く息を吐く。

「ぅぇ、すみませっ…」

ひとまずアルゥルを介抱するため、背中をさすって落ち着かせる。華奢な体がせりあがる嫌悪感に震えている。守護天使(エクシード)であるとはいえ、13歳の少女であることは変わらない。カタカタと震えながら涙を流すアルゥルは、もう一度鉄扉を見て顔を引きつらせる。彼女がもう一度あの部屋に入るのは難しいだろう。苦しい思いはさせたくない。

「アルゥルは、ここで待っていてくれないか。部屋の探索は俺がやる」

今のアルゥルには落ちつく時間が必要だ。少しでも離れるのは些か不安だが、こうするのが得策だろう。

「でっでも、ノゾムさんも」

「俺は大丈夫だから。もし何かあれば呼んでくれ」

苦しい思いをするのが俺一人なら問題ない。アルゥルの吐き気が収まったのを見計らって部屋へと向かう。アルゥルもついてこようとはするが体が動かない。無力さに歯噛みながら近くに座り込んだ。探索を終えたらもっとケアをしよう。「すぐ戻る」と声をかけてドアと向き合う。深呼吸をして、今度は素早く中へと入る。

 先ほどと変わらない真っ赤な部屋を歩く。踏みしめるたび床の血と肉片の感触が、足から全身へと伝わって気持ちが悪い。できるだけ速く、かつ見落としの無いように隈なく痕跡をたどる。

 診察台には、血に染まって全部は判別できないが、見たことのない文字がびっしりと書かれていた。文字の一部は司令室で見たあの黒い鍵に近しいものだった。台の下から伸びたコードの先は謎の機械へとつながっており、他の診察台も同様につながっている。肝心の機械だが、血を浴びた影響なのか、その前からなのかは分からないがすでに壊れていた。この機械にも見たことのない文字が刻まれていた。

「このマークは、『悪魔』信仰者のものか?」

天井を見ながら呟く。結局、この部屋は『悪魔』信仰者が関わっていた、程度のことしか分からなかった。

 もう一度部屋をぐるりと見渡す。一人や二人じゃない、何十人分の死がこの部屋に詰め込まれている。何が起きれば、いや、どんな非人道的な行いをすればこれほどの惨状になるのか。

「人の善性を信じろ」

父が生きていたころ、何度も言い聞かせられてきた言葉だ。人には必ず『善いこと』をする、善性の部分がある。どんな悪人でもそれは変わらない、というのが父の考えだった。そう言われて育った俺も人に完全な悪はないと認識していた。ニュースで扱われる犯罪者たちも、動機がどうであれ、人道に沿った善性は必ずあると信じていた。だって『善いこと』をしない人などいないのだから。だがG.S.Wに入って、『悪魔』信仰者、そして今のこの状況を知って、自分の思想に疑問が湧いた。世界を滅ぼしかねない存在に縋って、他人を、そして自分を犠牲にするなんて間違っている。しかし、『悪魔』を信仰する人はもちろん、『悪魔』を知らずに破滅を願う人は決して少なくないようだ。なら父の言葉は間違っていたのか?俺が信じていた人の善性は、いわゆる綺麗事だったのか?根底から何かが揺らぎそうで、頭が混乱する。

 「……出よう。気が滅入りそうだ」

出たらアルゥルをケアしよう、なんて思っていた自分が恥ずかしい。兵器であることに努めていた俺が、まさか信念が揺らいで動揺するなんて。踵を返して外に出ようとして、機械を蹴り飛ばしてしまった。ぐちゃり、と嫌な音を立てて倒れる機械を見つめる。不意に、機械の溝――というより、穴――から何かが出ているのを見つけた。

「ッ!これは―――」

『悪魔』を呼び出す呪物、黒い鍵が機械の中に入っていた。


 部屋から出るとアルゥルは目を閉じて手を組んでいた。祈るように強く、強く。

「アルゥル?」

声をかけると、アルゥルはこちらに気付いて祈るのをやめた。顔色は先ほどより良くなったが、まだ少し辛そうだ。

「あまり有用な情報は見つからなかった。けど黒い鍵は見つかったよ」

「そう、ですか…」

力なく返事をしてそのまま沈黙が流れる。その暗い表情を見て、昨日今日のアルゥルがフラッシュバックする。彼女はこの坑道に来るまでずっと怯えた顔をしていた。

 「ノゾムさん」

話しかける前に、アルゥルの方から呼びかけられた。

「私が昨日言ったこと、覚えてますか…?」

昨日彼女が言ったこととは、部屋にやって来た時のことだろう。もちろん覚えている、と返事をした。

「いま、そのことについて話してもいいですか」

「……いいのか?もう少し落ち着いてからでも…」

「…多分、今じゃないと話す勇気すら出ないと思うから」

そういうのであれば止める理由もない。彼女の眼前に腰掛ける。お互いのライトが相手を照らす。

「ここは、私が知っている施設によく似ている」

彼女はそう言うと、少しためらった後、上着を少し脱いだ。彼女の左脇腹には部屋の中で見たマークと同じ刺青が彫られていた。

「それは…」

「三年前、私の家族はこの印をつけた人たちに殺されました」

アルゥルは苦い記憶を呼び起こしながら彼女の過去を語り始めた。

「お父さんとお母さんが殺されて、お姉ちゃんと一緒に変な施設に誘拐されて、お姉ちゃんと引き離されて、真っ白な部屋でたくさんの人たち、に監、視されて、ました」

アルゥルの息が荒くなり始めた。肩を抱きながら嗚咽する。止めるべきかと思ったが、かける言葉が出なかった。

「ずっとずっと、痛くていたくて、意識が飛んじゃうくらいの拷問をされて、そのたび起こされて。辛いのがおわらなく、て、泣いてるわたしを、みんな笑ってた」

彼女の体に大きな傷はない。だがそれはきっと『天使』の回復力が理由だろう。傷ができても、空気中のエンジェニウムが『天使』の体を癒す。よほどの大けがでなければ死に至ることはないとされる。

「G.S.Wに助けられて、あの人たちは捕まって、やっと解放されたとおもった。たぶん、おねえちゃんがG.S.Wに頼んで、記憶の処理をしたん、だとおもう。でも、いまでも夢にで、るし、痛むんです。ずっと、あのときから」

たどたどしく、幼い口調で話し続ける。

「あのへやに入ったとき、あの印を見てわたし、こわくなっちゃった。またあれがかかわってるかもって、それで…」

そこまで言って、アルゥルはしゃくりをあげて泣き始めた。昨日の彼女の言動、今日の彼女の表情、全ての疑問に答えが出た。幼い少女に降りかかった絶望と苦しみは誰にも計り知れない。この刺青は彼女にとって心身ともに消えない傷。昨日俺に見られたとき、彼女にとっては恥辱を晒してしまったと考えたのだろう。

 人が人を殺す、それは昔から変わらない。そんな人にも善性はあると思っていた。だが、こんなことをする人に善性は本当にあるのか?他人の命を弄び、痛みつける。そんな人が『善いこと』をするなんて、今の俺は信じられるのか?いかに今までの自分が綺麗事を信じていたのか、それを痛感するには十分だった。

 「たすけて…」

泣き続けるアルゥルが、不意にそんな言葉をつぶやいた。過去を思い返すなかでとっさに口をついて出たのだろう。それでも俺は彼女の手を握っていた。

「えっ…?」

アルゥルは赤くなった目をこちらに向ける。俺の目指した善性は崩れた。ならば俺はどうするべきなのか?そうして自分の信念を見直す中で、一つだけ分かったことがある。俺は『天使』として誰かを守りたい。今まではこれを使命として定義し、『天使』だから当然と考えていたが、今は自分の意志で誰かを守りたいと強く思った。誰かが苦しんでいるなら、真っ先に手を差し伸べられる人でありたい。それが俺自身の『善』、いや『正義』だと思う。

「話してくれてありがとう、アルゥル。そしてごめん、辛い思いをさせた」

心からの言葉が意識もせずに出てきた。

「そんな、ノゾムさんのせいじゃ…」

「俺は…苦しむ人を助けたい。それが俺の理想だ。もっと早く俺が助けられていればアルゥルが傷つくこともなかったのに」

過去は覆らない。故に過去のアルゥルを助けるなんて、「もしも」に過ぎない。それでも俺は本気で助けたかった。未来が見えるなら、未来で後悔しないためにも、現在(いま)行動すべきだ。

「…へんなの、ノゾムさん」

心なしか、アルゥルの顔がほころぶ。彼女の苦しみを少しは和らげられただろうか。

 「・・・い、きこ・・て・るか?アルゥル、望?」

放置していた通信端末に、クロトからの無線が入る。ひとまずお互いの無事を確認しあう。

「とりあえず、情報共有といかないか」


 どうやら分断されてから一時間程度経っていたらしい。俺は発見した部屋および機械と黒い鍵についての情報を伝えた。黒い鍵については万が一があるので厳重に持ち帰る。クロトたちは他の隊の援助を受けて、『悪魔』のデータを集めていたらしい。俺たちを襲った『悪魔』はスネークⅤではなく、ヒュドラⅡと言うそうだ。この『悪魔』も本来なら大掛かりな儀式が必要な『悪魔』のようだ。

「なんだか、雰囲気が変わったな、望」

情報を交換した後、クロトはそう言った。

「少し…人生を見直す機会があって、あなたの助言も役立った」

なんとなく、程度のものではあるが自分でも、日本に居た頃よりかは変わった気がする。悪い変化ではなく、良い変化をした、と。

「いや、ならいいんだ。思ったより早くチームに馴染めそうだなと思ってな」

「おーい、二人ともダイジョブかー?」

「アルゥル!返事して!!」

無線の奥からゼータとエルトの声が聞こえる。

「お姉ちゃん…うん、大丈夫」

「アルゥル…」

エルトはアルゥルの声色から何かを察したのかそのまま黙ってしまった。彼女もアルゥルと同じ、凄惨な拷問を受けたのだろう。

 声をかけるべきか迷っていると、突如として地響きが鳴り響いた。

「!!ヒュドラⅡだ!」

地響きで壁が崩れると巨大な空洞と九つの首をもつ『悪魔』が現れた。それぞれの首が一斉に咆哮を上げこちらを睨む。蛇に睨まれた蛙のように、逃げ場のない状況に追い込まれた。

「見つかった…!!合流前にっ!!」

紫色の息を吐きながら巨大な九つの顎が迫る―――俺ではなくアルゥルに。

「なっ!?」「うそ…?」

九つの首が地面をえぐり、土煙が舞い上がる。本来なら二つの染みが出来ていたところだろう。だが二人の死体はそこにはなく、へこんだ地面だけが衝撃を物語っていた。

「間一髪躱せた…だが」

そう、間一髪だった。『未来天使(The Vision)』を発動して最適なルートを選択した。しかしあの物量を捌ききることは叶わず、俺は右腕に牙が貫通、アルゥルは足に牙がかすった。

「ノゾムさん!」

「平気だ…早くこの場を脱して、三人と合流しよう」

貫かれた右腕を手早く縛って、左手に銃を構える。

 「……!?」

だが、異変が起こった。銃を握る手に力が入らない。慣れ親しんだはずの武器がやけに重く感じた。体が弛緩して動きが鈍くなり、まるで吹き荒ぶ雪原に放り出されたように体温が奪われていく。アルゥルも同様の症状が出ているのか顔から血の気が引いている。

「まさか……毒、か?」

『悪魔』にそれほどまでの毒性を有する個体がいるとは知らなかった。傷口から伝う血すら、氷のように冷たく感じ、心臓の鼓動だけがやけに速く、大きくなっていく。視界の半分が赤く染まった。どうやら目から血が流れだしたようだ。ヒュドラⅡはもう一度狙いを定め、牽制か、それとも勝ちを確信したおごりからか今度は二頭だけを伸ばした。アルゥルは何とか力を振り絞り俺の体を引き寄せる。そこで気づいた。同じ毒を受けても、アルゥルは俺より動けていることに―――

 言うことを聞かない体を無理やりひねってアルゥルを庇い、『未来天使(The Vision)』で攻撃を予知する。俺の仮説が正しければ、二人が死ぬ前に『悪魔』を倒せるかもしれない。『滅魔閃光』を起動し、頭部目がけて撃ち放つ。一発は頭部を一つ消し飛ばしたが、二発目は急所を避けさせる程度にしかならず、そのまま壁面を貫通した。死の毒牙が肩と右足に突き刺さった。毒がさらに流し込まれていくのを感じる。ヒュドラⅡは体をよじって牙を抜き、潰された一部をまじまじと見つめた。今度はもう銃すら握れない。意識も消えかけそうだ。

「ノゾムさん!なんで私を庇ったの…!!だめ…死んじゃうよ…!」

アルゥルが近づいて傷を抑える。さすがに無茶をしすぎたかもしれない。流れ出る血は止まることなく溢れ続けている。

「これが一番良いと思ったんだ…アルゥルはまだギリギリ動けるだろ?」

何とか口を動かして声を発する。ここで俺が戦闘不能になっては、アルゥルの心身に少なからず影響が出る。アルゥルが本来のポテンシャルを発揮することが必要条件だ。()()()()()()()()()

「さっき言ったように、俺は人を助けたいんだ…もし、誰かを助けるために…誰かが苦しまなきゃいけないのなら、俺がその苦しみを受ける…!」

きっとこれから先も今回と似たような場面が来るだろう。その時も、俺は迷わず他を助けるために動く。きっとそれが、俺にできる人の守り方なのだと、強く確信していた。

 ヒュドラⅡは眼前の死にぞこないに止めを刺そうと、三度目の噛みつきを仕掛けた。だが、先頭の頭部が一つ、一筋の閃光によって貫かれた。発射方向は先ほど俺が撃った壁面から放たれた。自然と目線を向けた瞬間、三人の天使―――クロト、ゼータ、エルトが舞い降りた。

「…良、かった…気づい、てくれたか…」

未来視で合流する場所から逆算し、『悪魔』の迎撃と居場所を伝えるための一射だった。若干賭けではあったが、三人は見事その意図を組んでくれた。

「全く、初戦もそうだが、無茶がお得意のようだな、望」

すぐ近くに降り立ったクロトは懐から注射器のようなものを二つ取り出し、片方は俺に、もう片方はアルゥルへと渡された。

「衛生班からの天使用試作エンジェニウム補給薬だ」

体が動かないので代わりに注入してもらう。試作品でありながらその効果は絶大だった。痛みや寒気はだんだんと引いていき、流血が収まり始めた。ただ、俺は即座に戦える程には治療できず、体力回復のためか意識が朦朧とし始めた。

「俺とゼータは望の防衛を、ヒュドラⅡはエルトとアルゥルで対処する」

二つも頭部を潰され、怒りを纏って戦闘の体制をとるヒュドラⅡは、こちらの出方を伺っている。

「ねぇ、アザヤ」

標的を見据え、こちらを見ずにエルトが話しかける。

「…どうせ、アルゥルから色々聞いたんでしょ。…勝手に死なないでよね」

「……もちろん」

とりあえず、元気づけられているようだ。目線を動かすと、アルゥルと目が合った。「ここは頼む」もう声も出せないほど疲弊したので、なんとか目で伝えてみる。察したかは分からないが、覚悟を決めアルゥルもヒュドラⅡを見据えた。

「三十秒で終わらせるよ。アルゥル」

「うん、行けるよ、お姉ちゃん」

鏡合わせのように広がる光の翼が空洞内を明るく照らし出す。目が眩みそうな光を背に、双子の天使は疾走した。

 二人に与えられた『奇跡』、その名は『神速天使(Accelerate)』。自分たちを含めた周りの時間を加速し、縦横無尽に世界を駆け巡る力。

 二人は日本で見たあの時よりもさらに速く駆ける。天使の『翼』は、感情の高ぶりによって広がり、エンジェニウムの粒子を放出する。アルゥルの瞬間エンジェニウム放出量は平時の三倍まで増加し、エルトもアルゥルに合わせて『翼』に力を籠め、同じレベルへと達する。シンクロする二つの軌跡が『悪魔』の巨体を削り取っていく。二人の速度は同じでも、加速中は自分のみの時間となり、意思の疎通など不可能だ。それを可能にするのが、「双子」ということなのだろう。

 あっという間に七つあった首は一つになり、切り落とされた首は彼女たちの足場となって『悪魔』を取り囲む。二人は残骸を足場に『悪魔』の数十メートル上空まで飛び上がると、一旦『奇跡』を解いた。

「「『滅魔閃光(Punishment) 起動(on)』」」

起動を合図に再び『翼』が展開され、同じタイミング、同じ速度で急降下していく。エルトの短剣は刀身が光を纏って長大になり、アルゥルの槍は先端が開いて厚い光の刃が形成される。二つの軌跡と三つの光の束が『悪魔』と交わるとき、一際眩い閃光と共に、ヒュドラⅡは真っ二つに切り裂かれ霧散した。宣言通り、三十秒で決着がついた。塵となっていく『悪魔』を背に歩むエルトとアルゥルを最後に、俺の記憶はここで一度途切れた。

エルト・コールハート/アルゥル・コールハート

『奇跡』…『神速天使』(Accelerate)

 自分と周りの時間を加速させ、超高速で移動する『奇跡』。発動中は周りとの意思疎通が取れないので、周囲の状況判断が必要。また、加速中は体に負荷がかかるため、使いこなすのは難しい『奇跡』でもある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ