協力―Communication―
4話目です。就職活動でめちゃめちゃ遅くなりました。本編内では英語で喋っているというイメージです。
与えられた部屋へと向かう最中、司令室での会話について思考する。突如として浮かび上がった『虹色の人』。予知が起きるたび目に映るあの人を、自分は『女神』だと推測していた。
――『女神』――300年前、『天使』を引き連れて現れたその神は、戦いの後『人』へと転生した。守護天使が力を与えれた人間であるのに対し、『女神』は存在そのものが人間となり、輪廻転生しながらこの世界に存在している。
「『女神』…そうか、君になら『女神』の居場所も分かるのかな」
司令のネイン・ルキシオンは、自分が呟いた『女神』について聞きたいと他の皆に席を外させた。司令が言うには、先代の『女神』が死亡したのが8年前であり、以降『女神』と思しき存在が発見された事例はないそうだ。
「『女神』はエンジェニウムの光そのものを操ることができる。そして本能的に光の集まる場所、つまりこの地に現れるはずなんだが…現在まで何の痕跡もないんだ」
『女神』の存在がこの戦いに深く関わるかどうかは、その時の時世による。ある世代の『女神』は死の間際にこの地へたどり着いたそうだが、その時代は『悪魔』の侵攻に多少の変化――具体的には平均よりも頻度が低かったと記録されている。無論『女神』がいなくても『天使』とG.S.Wがいれば戦いに支障はないとされる。しかし、人間による『悪魔』の召喚がある今、『女神』は必要な存在だ。
「…残念ながら、自分は確証をもって答えられません」
あくまでその『女神』の転生体と思しき人は、自分の予知の中での話だ。そもそも彼、ないしは彼女が本当に『女神』であるかどうかすら不明だ。
「そうか。だがまぁ、『女神』の痕跡があればそれでいい。些細なことでも報告してくれたまえ」
了解、と返事をして司令室を後にする。広い廊下を歩きながら『女神』と『虹色の人』について思考を巡らせる。あの『虹色の人』について、自分は何ひとつも分かっていない。だが自分はなぜか、あの『虹色の人』に対して心を許してしまっているような気さえしてしまうのだ。
思考を続ける中で目的の部屋付近に到着した。一人一つ、部屋が割り振られ、必要最低限の生活用品は支給、個人的な物品も簡単に取り寄せられる好待遇だ。金属質のドアノブを回して部屋に入る――唐突だが、言い訳をする。まず、考え事をしながら碌な確認をせずにドアを開けるべきではなかった。長い一人暮らしがたたったか、結論として――部屋を一つ間違えた。
「…えっ」
部屋の中にいたのは、アルゥル・コールハート。双子の守護天使で13歳の少女だ。ドアに背を向けて立っており、振り返って困惑の声を上げた。間が悪かったのは、よりにもよって、彼女が着替えの最中だったということだ。
「~~~~っ!!」
予知が危険を察知したが、時すでに遅し。謝罪と弁明を告げるより先に、超高速の拳が自分の顔面へと迫っていた。
「なるほど、さっきの轟音はノゾムが吹っ飛んだ音だったのか。いやほんと、ふっはは」
件の部屋の一つ隣、つまり自分の部屋にやってきたゼータは、よほど面白かったのか涙を浮かべながら笑っている。
「ああ、共同生活だとこんなことがあるんだな。肝に銘じておくよ」
「いやいや仕方ないって。そういうのは時間をかけて慣れるもんだろ?」
ゼータは自室から持ってきたであろうコーラを飲みながら話を進める。
「クロトもさ、ノゾムが早くチームに慣れるよう、これからの作戦ではワンマンプレイよりチームとして戦うように動くって言ってたし」
クロトの言はおそらく、先の戦闘での単独行動についてだろう。「信じろ」とは言ったものの、あくまであの場において自分がクロトを納得させるためだけの言葉に過ぎないというのは、自分でもよく分かっている。別に密接になることだけがチームではない。だが、チームというのは信頼があるからこそ単独も連携も行えるものだと、自分は認識している。そう考えると自分はまだ、仲間からの信頼も、仲間への信頼も足りていない。
「あの、ノゾムさん居ますか?」
ゼータのおしゃべりを聞いていると、ノックの後アルゥルの声がした。先ほどのこともあって気を引き締める。
「あ、ああ。居るよ」
ドアが開くとアルゥルは普段着に着替えて廊下に立っていた。隊服の時とは違った、年相応の少女といった印象を受ける。
「アルゥル、さっきの件はすまなかった。俺の軽率な行動が招いた失態だ。申し訳ない」
先んじて、深々と頭を下げて謝罪を述べる。いきなり信頼性に欠ける行動をとってしまった反省だ。
「い、いいえ、私もゴメンナサイ。取り乱して殴ったりしちゃって…」
アルゥルからの返答は自分と同じく謝罪であり、気を遣ったのか一部日本語を交えていた。しかし今回の件の原因は自分だ、アルゥルが謝る必要はないだろう。
「いや、いきなりあんな目に遭えばアルゥルの行動は正しい。謝るのは俺だけでいいんだ」
もう一度先ほどよりも深く頭を下げる。だがアルゥルもそれに連なってさらに頭を下げて謝罪の言葉を口にする。当事者同士が謝りあう光景に、後ろで聞いていたゼータは「ジャ、ジャパニーズドゲザまでいっちゃうんじゃないか?」と困惑と期待が入り混じった声で呟いた。
「えっと、それよりもノゾムさん。私の部屋に入った時のことなんですけど…」
謝罪合戦を終えて、恥ずかしそうにアルゥルが切り出した。それを見て、彼女がここに来た意味を考える。・・・おそらく彼女は『忘れてくれないか』とお願いしに来たのではないか?
「悪い、天使としての特性なのか、一度見た出来事は忘れられないんだ」
と先に伝える。少なくとも、10年前父が死んで以降の記憶は予知を含め全て覚えている。無論、先ほどのアルゥルの光景も、一瞬とはいえ記憶してしまった。年頃の少女にとっては耐え難い事実だと思う。だが、彼女の反応は想定とは少し違っていた。
「いいえ、それよりも私は…」
そう言う彼女の表情からは羞恥、不安、そして、なにか強大な何かへの恐怖が感じ取れた。
「ごめんなさい。やっぱり言葉がまとまらない。また、明日でもいいですか?」
「…ああ。話したくなったら言ってくれ」
彼女はなにか言いたげだったが、結局何も言わず会話を切り上げた。疑問が残るものの、このまま彼女を引き留める必要はない。
「アリガトウ。じゃあ、おやすみなさいノゾムさん」
時計をちらりと確認したアルゥルは、淑女らしく一礼した後隣の自室へと戻った。カタコトの日本語のあとは時差を気遣っての言葉だろう。ゼータも気づいたようで彼もまた部屋を後にした。
一人きりになった部屋の中、外は太陽が沈みかけていたが、どうにも電気を点けるつもりにはなれなった。静かな空間で頭は勝手に疑問を整理しだす。彼女は何を言おうとしていたのか?自分が感じ取ったあの恐怖の表情は何だったのか?…申し訳ないと思いつつも最初に部屋を間違えた時のことを思い浮かべる。あの一瞬の彼女のことを――
「―――傷・・・?―――」
彼女の身体に特に大きな外傷はなかった。たった一つ、ちらりと見えた刺青のような傷が異質に映った。
アルゥル・コールハート
性別:女性 年齢:13歳 誕生日:2月5日 血液型:A型 身長:155㎝ 髪色:淡いクリーム色
好きな食べ物:和菓子・ドーナッツ 嫌いな食べ物:ピザ
趣味:散歩・風呂 性格:引っ込み思案