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嘆きの天使  作者: 山河はんこ
3/8

使命―Team up―

第3話です。説明が多くなりました。多分これからも多くなります。

 『ホエールⅣ』の撃退から数時間後、『守護天使(エクシード)』一行は予定より遅れてイギリス本部へと到着した。電子機器の張り巡らされた門をくぐると、巨大な基地がその姿を現した。

「『守護天使(エクシード)』隊長、クロト・フェイドです。日本での要人回収任務、完了しました」

「ID承認完了。司令より『守護天使(エクシード)』5名の招集命令が下されています。問題がなければ司令室へ」

基地に入った後、クロトが無線に声をかけると、女性の事務的な声が返ってきた。それにしてもいきなり司令室に招集とは。

「よし、では望。司令に挨拶しに行くとしよう。」

 基地内は年齢、性別問わず様々な隊員が駐在していた。中でも自分たちは特別な部隊だからか、道行く隊員から注目を浴びている。視線を受けながらエレベーターに乗り込み、長い廊下を進むと、ようやく司令室に到着した。

「司令、フェイドです」

「入室を許可する」

基地に入った直後聞こえた女性の声だった。司令が女性だとは知っていたが、思っていたより若い…20代後半から30代手前ほどの声だった。

「失礼いたします」

5人揃って司令室に入ると、椅子は外側に向けられており、きっちりとしたスーツを着た女性が机の横に立っていた。この人が司令だろうか…?

「司令、5人とも無事に帰還しました」

女性が机側に向かって声を発する。スーツの女性は秘書らしく、本当の司令は別にいた。

「うーん、はいはい」

直後、高級そうな椅子が回転して自分たちに向き合う。「司令」と呼ばれた人物が姿を現した。

「はじめまして鮮谷望君。『G.S.W』司令、ネイン・ルキシオンが歓迎するよ」

―――司令と呼ばれた人物は、声も見た目も10代にも満たない少女だった。


 「あっはっはっは。驚いたかな?まさか司令が私のような子どもだなんてさ。でも司令なのは本当なんだよ?勇吉から聞いてないかい?」

桃色の髪をツーサイドアップにした少女は、ケラケラ笑いながら問いかける。いきなりの出来事に少し面食らったが、彼女の言葉に思考を巡らせる。なぜ年端もいかない少女が『G.S.W』司令という立場にいるのか。

「…察するに、『継承天使(Generator)』。今のあなたの姿そのものが、あなた自身の『奇跡』、でしょうか」

父の資料に書かれていた『天使』の1人。『継承天使(Generator)』。自分自身の記憶、感情、思考を『天使』の力と共に次世代へと受け継がせる『奇跡』。300年前より彼女は、肉体的には滅んでいても実質生き続けている存在。この世界で唯一、300年前の戦いを知る者。

「正解。ふむ、やはりある程度の知識は持っているようだね。こちらとしても手間が省けるよ」

「最低限必要な知識は共有しています。『天使』の存在、力、『悪魔』への対抗策…」

「うんうん。それだけでも知っていたら大体は問題ないかな。じゃここからは我々の目的について話そうか」

司令はそう言うと、隣の女性に声をかけた。

「ソーラ、モニターを出してくれ」

ソーラ、と呼ばれた女性は「承知しました」と返事をすると、手元の端末を操作した。

「我々『G.S.W』はこの世界で唯一『悪魔』に対抗できる機関として各国から援助をしてもらっている。その代わりに『エンジェニウム』を生産し、エネルギー源として供給している」

『エンジェニウム』。300年前『悪魔』を退けた光の正体。空気中に見えない粒子として存在し、集まって固着することで結晶化する。クリーンエネルギーとして50年ほど前からインフラが整備され、現在では世界全体の70%が『エンジェニウム』によるエネルギーを利用しており、『G.S.W』ではエネルギー活用以外に装備や建材に使われている。『天使』はこの『エンジェニウム』を自ら生み出すことが可能であり、『女神』は空気中に漂う『エンジェニウム』すら知覚し自らの手足のように扱えるという。

 『G.S.W』はこの世界で『エンジェニウム』の産出を認められている唯一の機関であり、他の機関、それこそ国が『エンジェニウム』を作ることはできない。基本的な情報は全て隠匿されており、一般には再生可能エネルギーとして認知されている。政界でも一部の要人―――首脳クラスしかその実態を把握していないと、資料には記載されていた。しかし、疑問はある。何故『G.S.W』以外では産出できず、その方法も知られていないのか。

「疑問がある、といった顔だね。いいとも。答えてしんぜよう」

「私は『G.S.W』を創設し、運営するにあたって、無限に溢れる『悪魔』への対抗策として、300年前の希望に縋った。あの時人類が生き残れたのは、世界そのものが『エンジェニウム』を呼び起こしたからこそ。『悪魔』に対抗するには、あの時のように『エンジェニウム』を無限に用意する必要があった」

「そこで私は、『天使』は自力で『エンジェニウム』を生み出せることに目を付けた。『エンジェニウム』の結晶を媒体として、自分の翼を分割し供給機関に組み込んだ。『継承天使(Generator)』の力で『エンジェニウム』を生産する…いわば電池みたいな感じでね。そうして現在の『エンジェニウム』供給システムは完成した。結果として、私は個体としての稼働時間が短くなった代わりに翼から新しい私を生み出せるようになった。言ってしまえば、クローンに近いかな。今の私がこんなちんちくりんなのはそのせいだよ」

眼前の光景に目を見張る。モニターには巨大な『エンジェニウム』の結晶と、人体ほどの大きさのカプセルに入ったネイン・ルキシオンが()()()()()()()()()()()

「それは…」

人道に反した行動だ、と感じた。個人としては1人としても、多数の人間の命を使いつぶす行為だ。

「私はこの世界を守るのに必死だからね。自分の体くらい捧げて見せるさ。この体も使い心地は良いしね」

そう呟く彼女の目には揺るがぬ信念が見て取れた。子孫に継承したことで子どもの姿なのかと思っていたが、今の彼女は()()()の数ある1つに過ぎない。彼女は倫理すら飛び越えてこの世界を守る覚悟だ。それは生半可な覚悟ではない。人道に反した道なれど、自分が何か言っても、彼女自身は「それでも」と答えるだろう。他4人も誰1人として口を出すことはなかった。彼女はそうしないといけなかった。改めて自分の居る世界の過酷さを痛感する。

 「…脱線したな。では本題だ。『悪魔』はこの『エンジェニウム』を狙ってこの世界に侵攻している。何故自分たちの弱点である『エンジェニウム』を狙うかは分からないが、300年間奴らはこの侵攻を続けている。だが最近は妙な動きが多い」

日本での1件と数時間前の奇襲を思い浮かべる。本来ならあり得ない出来事であると、『G.S.W』全体でも認知しているようだ。

「『悪魔』全体が進化して侵攻が容易になったとか…?」

アルゥルが意見を述べる。『悪魔』全体の特徴として、何よりも進化のスピードが早いことが挙げられる。似た個体は『ホエールⅣ』のように数字を割り振って区別している。

「いいや、いくら『悪魔』の進化でも、『エンジェニウム』の溢れるこの世界に適応はできない。『悪魔』にとって『エンジェニウム』は絶対に克服できない物質だからね」

モニターを動かしながらネイン司令は話を続ける。300年間の実感のこもった回答だった。

「この異常の原因は―――()()にある」

ネイン司令はそう言うとソーラに合図をした。ソーラは小箱を取り出すと、中身を開いて見せた。全員で確認すると、不思議な模様の入った黒い鍵がいくつか収められていた。

「これはここ最近、『悪魔』発生地点の近くに放棄されていた物体です。今回の『ホエールⅣ』襲撃でも、200㎞離れた地点で発見されました」

「情報班による解析では、これは闇の世界とアクセスするための儀式が、簡略化されてインプットされた呪物の可能性が高いそうです」

ソーラは鍵を1つ取ってクロトに渡す。クロトはそれをまじまじと見つめると、ある推測を語った。

「儀式を簡略化した鍵、ということは、これは人間の命を捧げるだけで世界をつなげる代物、というわけか」

…その言葉に、エルトとアルゥルが苦い顔をしたのが気になった。

「まず間違いないと思ってもらっていいよ。この呪物を作成しばらまいている黒幕は『悪魔』信仰者に違いないだろう。『悪魔』の習性から考えて、このイギリスに潜んでいるはずだ」

「『悪魔』信仰…?」

馴染みのない概念だ。何故この世界を脅かす『悪魔』を信仰するのか。『悪魔』がこの世界に蔓延れば、飽和した闇によって人類は絶滅する。人間は闇の世界で生き残ることはできない。父もそうして死んだと聞いた。

そもそも、こんな呪物を使った時点で自らの命を捨てることに他ならない。考えれば考えるほど、利の無い行為としか思えない。

「あぁ、日本では馴染みない文化かもな。だが、いつの時代もそういった破滅主義者は必ず現れるんだ。力を持った組織は、度々俺が壊滅させてきたが…」

幼少より部隊にいたクロトはそういった不穏分子の対処にあたっていたようだ。―――「人の善性を信じろ」―――父がいつか語った言葉を思い出す。破滅主義者の善性とは、一体何なのか。

 「それでは、ようやく5人揃った『守護天使(エクシード)』に命令を下す」

会話を戻すための咳払いをして、ネイン司令は告げる。

「君たちはこれからチーム一丸となって活動し、不穏分子である『悪魔』信仰者を突き止め、これを撃滅。『悪魔』の侵攻を阻止してくれ」


 命令が下され、退室しようとした時、部屋の外から声がした。

「衛生班のオーラムです~。呪物の引き取りに来ました~」

入室したのは若い長身の男性だった。衛生班が呪物の保管をしているのか。

「うむ。あぁそうだ。もし呪物を見つけたら、彼ら衛生班に渡すようにしてくれ」

ネイン司令は指示を出した後、少し間を開けてから言葉を紡いだ。

「時に鮮谷隊員。怪我は問題ないかな?」

「えっ!?ノゾム怪我してんの?オーラムさん診察!」

ゼータが慌ててオーラムの袖を引っ張っている。だが、別に怪我はしていない。質問の意図はおそらく…

「いや、今は怪我してないよ。その質問はおそらく、俺の幼少期のことですよね。だったら問題はありません」

「な、なにかあったんですか?」

アルゥルが心配そうに聞いてくる。エルトも一応聞き耳は立てているようだ。

「確か6歳くらいの時に事故に遭ったらしい。生死の境を彷徨ったとかなんとか。まったくもって覚えていないけど」

まだ未来視の力が発現していない頃の話だ。父が死んでからはそういった不運は事前に予知できるようになったので、それ以来大きな怪我はしていない。『奇跡』は自分から発動する以外に、防衛本能によっても発動する。まぁ自発的に使えるようになったのは、ここ最近のことだが。

「そうか。いやなに、当時は君の父もかなり取り乱していたから、君が今生きているのは奇跡のようなことだと言っていたよ。不躾な質問だった。気にしないでくれ」

「あの~そろそろ呪物持って行ってもいいですか?」

オーラムが申し訳なさそうに切り出す。袖を掴んでいたゼータが静かに手を離す。

「オーラムです~。これからよろしくお願いしますね~」

オーラムは小箱を受け取ると、軽く会釈しながら挨拶する。その時、彼が受け取った小箱に軽く触れてしまった。

「いつか会いに行く」

目の奥に電撃が奔った。またあの虹色。だがいつもより心地の良い、どこか親しみのある声だったように感じる。

「どうした望?」

ふらついたのかクロトが背中を支えてくれていた。

「――――『女神』」

「えっ?」

不意に口をついて出た言葉。

「―――あれは『女神』なのか…?」










 


『G.S.W』―――Guardian of the Shining World

ネイン・ルキシオンが創設した「対『悪魔』用防衛機関」。『エンジェニウム』の供給の対価として人材、費用、技術の援助を受けている。様々な班に分かれており、戦闘班が全体の8割を占める。戦闘班の基本的な装備として、ライフル、拳銃、折り畳み式のブレードが支給されている。

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