9話 波乱の幕開け
…さて私は今軍議に参加中です。
えっ、穴は埋めれたのかって?マキシウスが魔法で直してくれました。
おかげで借りが増えました…チクショウ。
「私はこの戦争に反対ですぞ!」
宰相のローネっておっさんが軍議の最初にそう言って以来戦争に賛成派と反対派で対立してやがる。
相手はリリアム様とリリアムちゃんが手に入らなかった時点で攻めてくるのは確定しているのにこっちの世界でもお花畑な奴はいるんだなー。
「大体リリアム様がアダムスの話を断ったことが問題なのです。あの時にリリアス様をアダムスに嫁がせておけばこんな話にはならなかったのです!」
あ゛? リリアスちゃんを嫁がせておけばだと…何言ってんだこいつ。
「大体あのトウヤとかいう得体のしれないのをこの大事な軍議に参加させているのも私には理解いたしかねます。どこからどう見ても歴戦の戦士には見えないではないですか。リリアム様は騙されているのではありませんか?」
…だめだこりゃ。百歩譲って戦争に反対するのは仕方ない。けど領主の判断を否定するのはやりすぎだ。
おっさんの発言でデスターニャさんとマキシウスがイラついてヤバイオーラを出してるせいで他の部隊長や商会長、工房長なんて怯えちまってるじゃないか。
一旦止めに入るか
「おいおっさん、俺の事を悪く言うのはいいけどよ自分の主を悪く言うのはまずいんじゃないのか?」
「おっおっっさんだと?礼儀もわきまえないガキがっ。そもそもお前のようなものがどうしてこの場にいるのじゃ!誰かこの者をつまみ出せ!」
おっさんがそう言うが、部隊長達や警備の人はマキシウスが命令を出さないのでどう動いていいのかわからずうろたえている。
場が騒然としてざわめきが止まらなくなった時、今まで言葉を発しなかったリリアム様が立ち上がりこういった。
「皆の者沈まれ!ローネっ私の命の恩人に対してそのような態度恥を知れ!」
リリアム様が一喝すると場は静まり返った。
「ローネ、先ほどリリアスをアダムスに嫁がせればと言いいましたね。確かにそうしていれば一時の平穏は得られたでしょう。ですがあの男がそれで満足するとお思いですか?あの男はリリアスを盾に私と領地も要求してくるでしょう。リリアスを人質に取られたままあの男と戦えますか?」
ローネのおっさんは体を震わせて険しい顔をしているが何も答えない。
「戦えずこの領地を明け渡すとどうなるか想像するのは難しくないはずです。あの男はこの領地の食料を糧に次の領地に戦争を仕掛けるでしょう。そうなればもうあの男を止める方法はなくなります。その際に苦しむのは名もなき民達なのです」
この場にいる誰も言葉を発せない。
皆がリリアム様の言葉に納得させられてしまった。
「この地に住む私の領民を、私達が守ってきた領地を、あの人が愛したこの場所を守るために私はこの戦争をすることを決めたのです!この地を守る気がないものが居たらこの場から即刻去りなさい!」
さすがにこう言われてはローネのおっさんも反対はできないだろう。
これで話はまとま「ならば好きになさってくださいっ、私は私のやり方でやらせて頂きます!」
そう叫ぶとローネのおっさんはこの場から去って行った。
ローネのおっさんが去るとき4人ほどその後をついて出ていった。
嘘だろ…この状況で出ていくってことは反逆罪と取られても仕方ないぞ!
ローネのおっさんが出ていくことはリリアム様も驚いたようで固まってしまい、何も言い出せなさそうだった。
「リリアム様、ローネ殿の件は後で話すとして今はどのように侵攻を防ぐか話し合いましょう」
マキシウスがそう促してくれたことで軍議は再開した。
「まず戦場になる場所についてですが、私はこの町とアダムスの町の中間地点であるレイス平原に部隊を展開するのが良いかと思います。そこでなら万が一敗北したとしてもリリアム様をこの領地に逃すことで籠城戦に持ち込めますので」
「マキシウス殿、それでは最悪の場合領民たちに被害が出てしまいます。また相手が今すでに侵攻中の場合レイス平原に部隊が到着するのは同時になりその場合数で劣るこちらの軍が圧倒的に不利になってしまいます」
第一部隊長を務めるモーンの指摘は確かだ。ついてすぐに総力戦となると数が少ないこちらの方が不利だ。それに最悪の場合に籠城戦を考えているが籠城は援軍が来ることが前提で援軍が来ないのなら効果が薄い作戦だからな。
「少量の部隊を展開しながら撤退戦をシールズ峠で行うのはどうでしょうか。あそこなら大人数で通れないので少しずつ相手を削ることができると思います」
第二部隊長のレダスがそう提案した。
「だが削り切れなかったときは多くの兵を通してしまうことになるぞ。そうなってしまうとそのまま領地に近い場所での戦いになってしまう。そうなればリリアム様を逃がすことができなくなるぞ」
リリアム様が逃げられないのはまずいと思ったのかレダスは黙ってしまった。
「トウヤ様はどうお考えになられていますか?」
リリアム様がこちらに話を振ってきた。
「…素人の発言で申し訳ないのだが相手の戦力やこちらが動員できる戦力が分からないので何も考えつかないといった所だな」
そう言うとマキシウスがあっという表情を一瞬したがすぐに答えてくれた。
【ウーレイス】
動員可能人数 1.500人 (そのうち軍隊700人)
部隊内訳 第一部隊 150人 (魔法士) 第二部隊 550人 (騎兵250人 弓兵300人)
徴兵部隊 約800人 (歩兵)
魔法が使える種族が多いため開戦時に一気に魔法で攻勢をかけるのが得意。
【スプレイス】
動員可能人数 8.000人 (そのうち軍隊約3.000人)
敵内訳 魔法士約50人 騎兵約2000人 弓兵約1000人
徴兵部隊 約5000人
騎兵での速攻で陣形を崩した後歩兵で詰めていくのが得意。
「そもそも正規兵だけでこれだけの差があるのか…」
俺がそうつぶやくとリリアム様が尋ねてきた。
「トウヤ様、戦力差があるのは分かっていますがこの戦いどうしても負けたくないのです。どのような命令でも出す覚悟は決まっています。何か策があればおっしゃってください」
「リリアム様…では一つ案があります」
そうして俺は一つ思いついた戦術を伝えた。
なんでもするって言ったよね!((なんでもするとは言ってない!))
~その頃アダムスの館にて~
「アダムス様報告がございます!」
リリアムとリリアスを手に入れるために派遣した部隊が帰ってこなかったのでミルルカに追加の部隊を引き連れさせて様子を見に行かせたがやっと帰ってきおったか。
「遅いぞミルルカ。だがお前が帰ったということはリリアムとリリアスを連れて帰ったのだろうな?」
「いえ、その件でご報告したいことがあり至急戻った次第でございます」
ワシは手に持っていた杯をミルルカに向けて投げつけていた。
杯はミルルカの額に当たりミルルカの額が切れて血が出ていた。
「ワシはあの二人を連れて来いと言ったはずだっ!役目も果たさず何をしに戻ってきたのだっ!」
「申し訳ございません!ですが一刻でも早くお伝えしないといけないことがございましたので役目を果たせぬ身なれど戻ってまいりました」
くそっ本当に使えん奴だ! たかだか女子供の2人位連れてこれないとは。
先に追わせた部隊長ともども後できつく罰せんといかんな。
こいつ顔と体は悪くないから奴隷にでも落として奉仕させるのも良いな。
「で、役目を放棄して何を伝えに戻ったのだ?」
「…先に派遣した部隊が全滅しておりました」
「…なんじゃと?全滅?それは本当か?」
「はい、そのうえ道を崩して馬では通れなくされておりましたので至急戻ってきた次第です。」
…全滅か。本当に使えん奴ばっかりじゃの!あの部隊長には5人も兵士を貸してやったのだぞ。それを無駄にしおって!
確かあいつには嫁と娘がおったな…そ奴らに責任を取らせるか。
しかし道が崩れた位で引き返してくるとかこいつワシの命令を何だと思っているのじゃ!
やはりこいつは後できつく罰せなければいかんの。
「道が崩れた原因を探っておりました所大きな爆発跡がありました。相手にそのレベルの魔法使いがいるとの話は聞いたことが無かったので我々が知らぬ勢力が介入した恐れがあります」
「それでおめおめと引き下がってきたのかこのたわけがぁぁ!」
ツカツカツカ ドカッ バキッ ブチブチブチ
「お前に与えた命令はあの二人を連れてくることじゃ。ワシの命令には命を懸けてでも答えんか!」
ミルルカの顔は先ほどの杯と髪を掴んで殴ったことで真っ赤に腫れあがっている。
こうなったらどんな美人でも台無しじゃな。
「ハンニール!ワシはもう我慢できん!全軍を率いて奴らの領地ごとあの2人を連れてこい!」
ワシは軍の総大将のハンニールにそう告げた。
「はっ、かしこまりました。これより全軍をもってアダムス様の命に答えたく思います!」
さすがはワシの一番の腹心よ。自分のすべきことを分かっておる。
「そうじゃ…こいつも最前線で戦わせてやれ。矢の一本でも消費させるのに使えるじゃろ」
そういってワシは足元に転がるミルルカを指さした。
ハンニールは一言返事するとミルルカを担ぎ出陣の用意をしに部屋を出て行ってしまった。
「はっはっは、最初から面倒なことをせずにこうしておけば良かったのじゃ。欲しいものは奪う。これこそが高貴な者に許された特権よ!」
ミルルカを戦地に送ったのは勿体なかったが、リリアムとリリアスが手に入るならどうでもよい事かと思い、ハンニールが勝利の凱旋を行えるよう準備するようにと、死んだ部隊長の家族を連れてくるように従者に伝えた。