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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
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51話 崩れゆく伯爵領

「はーい並んで並んでー……今日のお仕事はこれだよー」 ガラガラガラガラ


 サティが紙の貼り付けられた移動式の掲示板を人だかりの前に持ってきた


「昨日は北区の掃除をやったし今度は南区の掃除に行こうかな?」「おっ積み荷の上げ下ろしの仕事があるじゃねぇか……これしんどいけど割が良いんだよな~」「私達ができそうなのは……この刺繍作業か店内清掃くらいかな?まだまだ私達みたいな女向けの仕事は少ないけど今は仕事があるだけましだね……」


 人だかりはそれぞれ紙を持って奥のカウンターに並んでいく

 そのカウンターでは剝がされた紙を受け取って別の紙を渡す受付が並んでいた

 そして掲示板に貼ってあった仕事のほとんどが捌かれていった

 割の悪い仕事や過酷な仕事が残ったが、それは犯罪奴隷として売られたものが処理するので問題は無かった


 日に日に依頼の仕事の数が増えてきているので捌く人の数も増え、受付の1人が愚痴るように言った


「はぁぁぁぁ……今日もここに積まれた依頼を仕分けして捌かなきゃいけないの?日に日に増えてるし……もう少し人手が欲しいよー!!」


 それを諫めるように隣の受付が声を掛けた


「確かに仕事量は日に日に増えてるけどこうやって秘密を洩らさない人を入れるのは大変みたいだから増員は無いと思うよ。それにこんな状況でこれだけお給料貰えるところなんてあんまり無いし……もうちょっと頑張ろう?」

「うーわかってるよぉー……けど最初は依頼の数も10件とかだったのに今は一日100件以上来てるんだよ!!10倍よ10倍……それにまだまだ増えて行ってるし……うにゃぁぁぁぁぁ」

「はいはい鳴いてる暇があったら手を動かす動かす……」


 トウヤ達の人材派遣業は好調だった

 その理由として交渉事はトウヤ達商会が一手に引き受けることで仕事をする側は交渉をしなくて済む事、金銭の支払いはトウヤ達からされるので未払いの心配がない事、トウヤ達が所持する借金奴隷が大半なので責任はトウヤ達が負う事、個別の指名ができる事等が個人の日雇いを雇うより身元も信用もあると受け入れられ仕事の数が増えていた


 その分伯爵領で個人の日雇いをしていた人たちの仕事が無くなって物乞いや犯罪者として治安を悪化させるかと思いきや、トウヤ達はそういった者たちに支度金としてお金を貸して借金を負わせ、トウヤ達人材派遣の商会に所属させるという手を使い伯爵領の1/100である300人ほどがトウヤ達の商会に所属となっていた


 そしてトウヤ達はその300人をリリアムの所……ウーレイスに送ることで個人の日雇いを減らしさらに仕事の依頼を増やすそんな流れを作っていた


 無論そんなトウヤ達の邪魔をしようと大手商会が何人も刺客を送り込んで仕事を失敗させて責任を取らせようとしてきたが、デスターニャやマリア達の前ではそのような企みは丸裸同然だったので事前にそういった者たちは監視がつけられ、行動しようとすれば事前に排除されていた


 ガンッ ドサッッッ

「……ふぅ。このような有象無象でも何人も送り込まれると少し厄介ですね」

「さすがお姉さま。後はこちらで処理しておきますから愛しの……いえ何でもないです!!」

「そうですか。……それにしても飽きずに良く同じ手を使うものですね」

「それだけ人手もお金も無いって事なんでしょうね。あっそっちも終わりましたか?」


 マリアが後ろから近付いてきたトメスとミルルカの2人に声をかけた


「無事に終わった……手ごたえが無かった位だ」

「まあほとんど素人みたいな奴らだったからな」

「お疲れ様です……以前と比べて少し動きが滑らかになりましたか?」


 デスターニャの質問に2人は答えた


「ああここの警備兵達に訓練を付けて貰って私は守りの技術を磨いたんだ」

「俺は力の入れ方を教わった。ここの奴ら細身の奴でも大盾を片手で振り回してたからその技術を教えて貰ったんだ……最初は断られたけどしつこく頼んだら教えてくれたぜ」


 デスターニャは2人が成長しているのを見て少しうれしくなった

 そして今の2人をトウヤに見せたら何て言うか……なんて事を柄にもなく考えた


 …………


 4人揃って居住している建物に帰ると入り口でトウヤが4人を呼んでいると伝えられたので4人はトウヤの部屋に向かった


 コンコンコン 「どうぞ」「失礼いたします」


 4人が部屋に入るとトウヤに座るように促されたので4人は近くの応接用の椅子に腰かけた

 デスターニャはお茶を入れようとしたが、イスカルがすでに用意していたのでイスカルに任せることにした


 イスカルが入れたお茶は清涼感のあるハーブと少し辛みを感じるお茶だった

 4人は不思議な味だと思ったが、まだ寒さの残る体が温まるのを感じ美味しいと思った

 

 4人が一息ついたのを見てトウヤは4人に話しかけた


「お疲れ様。まだまだ寒いね……マリアさん商会の運営状況はどんな感じ?」

「はい、現状こちらに来る仕事の数は日に日に増加していてこちらに連れてきた200人では回しきれないくらいの仕事の依頼が来ています。ですが今の伯爵領の状況的にさらに人を連れてくるのは危険かと思い追加の人員を呼ぶのを保留しています」

「うーん……そうだね。だったらもっと借金奴隷の数を増やしてその人達に働いて貰おうか。資金は当分潤沢にあるから進めてくれる?」

「承知しました」


 次にトウヤはデスターニャに話しかけた


「デスターニャ、伯爵領の暗部の動きはどう?」

「はい、ほとんど動いていないですね。少し監視の目はありますがそれもただ見ているという感じです」


 トウヤはデスターニャの言葉が少しひっかかった

 確かに伯爵が手を出せないように釘を刺したが、伯爵の後ろには商人連合が居る

 商人連合が伯爵領の大手商会……エンロス商会とカルぺ商会を隠れ蓑に行動してくると思っていたので何もしてこないのが意外だったからだ


 ……伯爵領にいるうちに何か問題が起これば面倒だと考えているなら、次に戻ろうとするときに狙ってくるか


「イスカル……デスターニャが気づいていない刺客の存在はある?」


 トウヤの言葉にデスターニャは少しムッとした顔をしたが、すぐに普段の顔に戻った


「無いですね。いやいやそちらのお嬢さんもなかなかに腕を上げられましたので……私達以外でしたら感知できると思います」

「そうか……ありがとう」

「いえいえ。楽しみが増えるのは何よりですから」


 トウヤはイスカルの目を見て、イスカルはトウヤの目を見つめ返した


 トウヤは目をトメスとミルルカの2人に向け2人に話しかけた


「戻ってきて貰ったのにあんまり話す時間が取れなくてごめんね……それで伯爵領と伯爵領の暗部の彼はどうだった?なかなか癖が強そうな人だったけど」


 トウヤの問いにミルルカが答えた


「警備部隊の人達は気のいい奴が多かった……それにラム隊長も色々気にかけてくれたからな……あまり戦いたくないと思ったよ」


 それに続くようにトメスも答えた


「あいつら最初は何しに来たんだ……って感じでしたが一緒に訓練していくうちに酒を飲む仲になって……ミルルカと同じでこれから戦争する相手なんだよなと思いました」


 デスターニャは少し冷たげな眼で、マリアさんは微笑ましいものを見る目で、イスカルはやれやれといった目で2人を見ていた


「そうか……2人がそう感じたんならそうなんだろうな。けど直接的では無いにしろ俺たちの店の人間が攫われて殺された。そして今王都ではリリアム様を領主から降ろす動きが出ている……そこで2人に聞きたい。2人は今後も俺の部隊に居たいか?」


 トウヤのその問いにその場にいた全員が驚いた


「……これから先王国や商人連合とぶつかる。そうなったら2人のどちらか……いや両方死ぬかもしれない。せっかくお互いの気持ちが通じたのに死地に連れて行くのもな……なんて思ってな。あれだったらリリアム様の所で働けるようにするから部隊を抜けたらどうだ?」


 トウヤの問いに2人は悩んだ

 確かにこのままトウヤの近くで活動すれば死地は何度もくるだろう

 それにミルルカはこれ以上トメスが傷つくのが嫌だったし、トメスも同じ気持ちだ


 けど……懲罰部隊を助けてくれて2人に生き残るすべを教えてくれたトウヤ隊長や、そんな隊長が好きでけどどこか一歩引いたデスターニャさん……それに元々は敵なのにそう言った事を気にせず接してくれたリリアム様……この人達を死地に送って自分達は安全な場所に居る?


 この人達が死んだときにその場に居ればと後悔しないのか?


 そう考えて2人がだした答えは


「トメスを」「ミルルカを」「守るから隊長の部隊で今後もご指導の程よろしくお願いします」「守りますので今後もよろしくお願いします!!」


 トウヤは少し驚いた……そしてにやりと笑いながら


「……そうか。だったら一緒に付いてきてくれ。背中は任せたぞ」

「「はい!!」」


 こうしてトウヤの部隊に正式に2人が戻る事になった


 そして幾何の時が過ぎて冬の寒さが和らいで春の訪れを感じ始めたころ……


 伯爵領は崩壊した


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