5話 つかの間の休息
ガラガラガラッ キー トンッ
「リリアム様、リリアスお嬢様、トウヤ様。城門につきました」
馬車が止まってしばらく後にマキシウスさんがそう声をかけてきた。
さっきまで馬車の中は騒々しかったのにマキシウスさんはまったく気にしていない。
内容的にはかなり聞き逃せない内容もあったと思うのだが。
「トウヤ様…先ほどの話が外に聞こえていないか心配ですか?」
リリアム様がそう話しかけてきてドキッとしたがそういえば心の動きが見えるんだよな。
「ええ、特に大声で叫んでしまったり泣いてしまったので聞こえていないか心配ですが、その様子ですと何かされたのですか?」
リリアム様は優しく微笑みながら質問に答えてくれた。
「先ほど説明した種族スキルに【防音】というスキルがあるのでそれを使っていたのですよ。私が部屋と認識した場所の音を消してくれる便利なスキルです」
種族スキルに防音?と考えているとリリアム様が恥ずかしそうに説明してくれた。
「私たちは夜に活動することが多い種族ですので…声とか…ぁ」
ああっそれってつまり…
「トウヤ様は意地悪ですね…」
リリアム様の恥じらった顔がすごくかわいい
リリアスちゃんも顔を赤くしているけどなんでだろうなー。
「ところで城門についたということは何かあるんですか?」
「普通なら荷物検査や犯罪歴の有無を調べますが、今回は私が一緒なので大丈夫です。私は領主なのでこれから領民に挨拶をしないといけないのですが、トウヤ様が私と同じ馬車に乗っていることを見られるといらぬ勘ぐりをする人もいるのでマキシウスが気を利かせたのでしょう」
「でしたら私はここで降りた方がいいですね」
そう言って降りようとすると馬車のドアがノックされリリアム様がどうぞと答えた。
「失礼します。リリアム様トウヤ様の事ですが…」
「ええ、領民にいらぬ勘ぐりをさせぬようここで馬車から降りて貴方と一緒に従事として街に入るという話でしょうか?」
マキシウスさんは首を振って違うとアピールしてきた。
「その逆です、リリアム様と一緒に領民に挨拶をしていただこうと思っているのですよ。リリアム様の命が狙われてそれを救った異国の戦士が私たちに力を貸すというストーリーを作ることでトウヤ様の信頼度を上げ、こちらの士気を上げつつトウヤ様に行動していただきやすくしようと考えています」
やっぱり策士だなこいつ。リリアム様の評判を落とさないように逃げるなよと暗に脅してやがる。この二人と馬車を一緒にしたのはここで縁を作らせるためか。
「マキシウス、それではいきなりすぎてトウヤ様が困ってしまうではないですか。一度館に行ってから後日お披露目ではだめなのですか?」
「それでは遅いと思います。相手は先の部隊が帰ってこなかったことで援軍を出していると思います。そちらのトウヤ様が何か細工をされていたようですが、その細工も見る人が見たらすぐに気づきます。そうなると隣の領主は攻める準備を始めます。その前に領民に此度の事を伝え、敵対心を隣の領主に向け、士気を上げようと思います。」
マキシウスさんちゃんとした指揮官なんだなやっぱり。
敵と戦うときに一番必要なのは大義名分と正義だからな。大義名分があって自分が正義だと思ったときに人は何処までも残虐になれる。そしてその残虐性も士気をあげる上で大事だ。士気だけで戦争に勝った例もあれば士気が足りなくて負けた例もたくさんある。
現代戦になって士気よりも兵器の強さが大事だと思われがちだが、それは短期決戦の場合であって長期戦では士気の低さは致命傷に繋がる。士気が低いと長期化しやすく戦争の長期化はお互いの国力を削ることになり戦争に勝っても内政がガタついてしまってクーデターで政権交代なんて例はザラにあるからな。
「マキシウス殿の言う通りです。今は領地内の士気を上げるのが先決です。そのために私がお役にたてるのでしたらいくらでも協力しましょう」
そう力強く答えるとリリアム様は不安そうな顔から領主としての顔に代わった。
「トウヤ様ありがとうございます。マキシウス、3時間後に街の広場に集まるよう領民に伝えてください。」
「はっ、承知しました。確実に領民が集まるよう部隊も動かします」
そう言うとマキシウスさんは走って城門の中に入って行ってしまった。
「トウヤ様私たちは一度館に戻って支度しましょう。申し訳ございませんが街中では馬車から顔を見せないで頂きたいです」
リリアム様に促されたので俺は馬車に戻り、館まで馬車で揺られた。
~城門から30分後~
ガラガラガラッ キー トンッ
馬車が止まったし着いたかな。城門から30分位か、案外近かったな。
これだけ近いと攻め込まれたときに敵がすぐに館までたどり着くんじゃないかと気になったが、今は街中を見れないので後で確認することにしよう。
なんて考えていたら馬車のドアをノックする音がして声をかける人がきた。
「領主様、リリアスお嬢様…よく無事に戻られました。お疲れでしょう。湯あみの準備をしておりま…! ヒュッ ヒュッ カンッ」
…あっぶねえなぁぁぁぁぁ 嫌な予感がしてドアから離れていてよかったぜ。
いきなり無言でナイフを首元めがけて2回振って外したと思ったらすぐに投擲に切り替えるなんて、この人ただもんじゃないな。
「デスターニャ!この方は客人ですっ、いきなり何をしているのですか!」
「リリアム様、マキシウスから命を狙われたと聞きました。そのため二人の馬車に忍び込んだ曲者かと思い排除しようとしました。お二人に近づく男は害獣なので駆除してもよろしいですよね?」
…デスターニャさん怖えええええええええええぇ
今さらっと害獣とか駆除するって言ってなかった? 俺駆除されちゃうの?
「デスターニャ!こちらのトウヤ様は命の恩人ですっ。恩人に刃物を向けるなんて…トウヤ様、本当に何度も家臣が申し訳ございません!」
リリアム様凄く申し訳なさそうだな。まあそれもそうか、他のお偉いさんにこんなことしたら一発で領地がなくなる案件だろうからな。
…普通はそうだよな。こんなことしないよな。
さっきなんて言ってた?マキシウスがリリアム様の命が狙われたって言ってたって。
…マキシウスおまえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何吹き込んだんだ?
デスターニャさん気づいたのかって顔してるじゃねーか。やっぱり正解か!
マキシウス、後で覚えておけよ。この借りは必ず返すからな!
とりあえずマキシウスは後でこき使うとして、今は場を治めるか。
「リリアム様、領主思いの良い家臣をお持ちで羨ましいです。デスターニャさんとおっしゃるのですか?良いナイフ捌きでした、今度ご教授願いたいものです。ですが美しい女性があまりお転婆するものではないですよ。棘は最後まで隠しておかないと気づかれたら棘を切られてしまいますからね」
ふふ、紳士的な返しをすることでリリアム様の好感度を上げに行く…あれ?リリアム様?
「はぁ…トウヤ様。トウヤ様は女性なら誰でも良いのですか?下心が丸見えですよ。
デスターニャ、トウヤ様を浴場に案内した後客室に案内してあげて、この後領民を集めて演説するからそれに合った服をガードの服から選んであげて頂戴。リリアス、行きましょう」
そういってリリアム様はリリアスちゃんを連れて館の中に入って行った。
リリアスちゃんもジト目で見た後リリアム様を追って館に入って行った。
俺そんなに下心出てた?
「トウヤ様、先ほどは失礼いたしました。私護衛件メイドをしておりますデスターニャと申します。好みの男性のタイプではないのであまり関わらないと思いますがよろしくお願いいします。あとリリアム様の好感度を稼ぎたいという下心でしたら丸見えでしたので抑えることをお勧めします」
デスターニャさん辛辣!
けどリアルメイドさんって良いよね!
「はぁ、浴場に案内します。ついてきてください」
ため息交じりにそう言われたので素直に俺はついていくことにした。
~お風呂で30分ほど~
久々のお風呂で体を癒した後、客間に案内され着替えることになった。
「こちらが着替えです。先ほど着ていらした服は洗濯させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あっ服の中の物を抜くのでその後でも良いですか?」
「服に仕込まれていました武器や道具は全て抜いて本日お泊り頂く部屋に置いておきました。洗濯してもいいですね」
…嘘だろ。俺が仕込んだの全て見つけたの?
「はい、かなり仕込んでおられたのでお風呂の時間いっぱい使ってしまいましたが全部見つけました。特にボタンを留める糸を鋼糸にされていたのは気づくのが遅れてしまいました」
本当に全部見つけてるよこのメイドさん。
自信作だっただけにへこむわ。
「先に言っておきますが、私はリリアム様程貴方を信用しておりませんのでそのことはくれぐれもお忘れなきようお願いします」
マキシウスさんといいデスターニャさんといいここは人材の宝庫だな。
俺の国もこんな人材ばっかりだったらもう少し早く戦争も終わったかもしれないのにな。
「お着替えを手伝わせて頂きます。そのバスローブを脱いでください」
…いやこの下全裸なんですけど。
「下着も用意させて頂きましたので脱いでください。それとも粗末なものを見られるのが恥ずかしいのですか?大丈夫です、粗末だったら鼻で笑いますから」
そう言ってバスローブを脱がされてしまった。
デスターニャさんの反応は…無反応だった。死にたい。
~着替え中~
「これで着替え終わりました。リリアム様の所に案内します」
こうして着替え終わった俺はリリアム様のもとに向かった。
~向かう道中~
「なかなか良いお人ですね。楽しめそうです」
そんな声が途中聞こえた気がするが気のせいだろ。気のせいであってくれと思いながら皆が待つ場所についた。