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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
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48話 弱き者達の嘆き

「なあ何であそこの店で食料を買ったんだ?あそこはこんな状況を作ったウーレイスの奴が商売している店だぞ!!」「じゃあ飢えて死ねと言うの!?それともあんたが食料を持ってきてくれるの?無理なら黙って働いてよ!!」

「ママ……お腹すいた……」「ごめんなさい。ママが働いていたお店が潰れて食料を買えるだけのお金が無くて……明日も教会の炊き出しに頑張って並ぶから、今度はちゃんと貰えるように頑張るから明日まで我慢して……ね」


 冬の寒さが厳しくなり、雪も降りだした頃伯爵領ノープレスは悲惨な事になっていた

 領民の1/3がその日食べるものが無く、1/3は何とかその日食べるものは確保できているが冬を越せるか怪しく、残った1/3は例年より質素だが問題なく暮らしていける……そのせいで日々食料を巡って争いが起こり、治安は悪化していた


 伯爵は治安維持のために軍を動かし対応しているが、それは金を持った1/3を守るためであり残りの2/3はそのしわ寄せを受けていた

 そのせいで日に日に伯爵に対する不満の声は強くなり、また伯爵に付いている商家も治安の悪化で商売が滞りがちになり伯爵に不満を表だって言うようになった


 一部の商家や軍部はウーレイスの食料を販売している店……トウヤ達の店やトウヤ達が食料を卸している店から食料を強制的に徴収すべきと伯爵に提案したが、伯爵は首を縦に振らなかった


 トウヤ達の店は教会に食料を寄付していてその食料が炊き出しという形で領民に配られている事。トウヤ達が卸している店から有力者に食料が流れ有力者の腹を満たしている事。そして……


「はーい。今日の仕事は町中に積もった雪を外に捨てる作業だよー……ほらこれを食べて頑張ってきてね!!お昼は私が腕によりをかけたスープだから頑張ってお腹を空かせてっきてね♪」

   「「「「「はーいサティちゃん!!頑張ってきまーす!!」」」」」


 トウヤ達は食料の高騰で潰れた飲食店や宿屋の人たちを積極的に雇用し、食事と給料を出すことで町中の雑務や汚れ仕事を引き受け、飢える人が少しでも減るように仕事を提供していた

 そして雇った人達が使う道具を食料と金銭の支払いとすることで職人たちの仕事や生活を安定させていた

 それでもウーレイスが食料を納めなかった事で食糧難が起こったとトウヤ達を恨む者はいるが、トウヤを害する=トウヤに雇われている人と職人たちを敵に回すと言う事なので直接的な行動にでるものは事前に周りの者によって止められている


 つまり今トウヤ達に何かすれば領民たちの歯止めが利かなくなる可能性があるので伯爵は手が出せなくなっていた



 ~伯爵領 領主の館 協議の間~



「ルーフス伯爵……一体どうするおつもりですか!?」


 協議場の最前列で恰幅の良いひげを蓄えた男がそう伯爵に尋ねた


「エンロス商会長殿、私は何もしないと言ったはずですが?」

「だが奴らは日に日に勢力を拡大している!!それにこのままでは我々が持っている食料は売れず腐って損が膨らむでは無いか!!」「そうだそうだ!!」「何のために売り惜しみしたと思っているんだ!!」


 ベルカインは勝手な言い分にいら立ちを覚えたが、教会に多額の寄付をした今彼らを敵に回すと領地の運営が困難になる位には彼らは領地に貢献しているので強く言えなかった


「ウーレイスから運び込まれる食料にだけ税金を3倍にして、払えなければ食料を徴収すれば領民に食べ物が行き渡るではありませんか。何故それをしないのです!?」

「……以前も言ったようにウーレイスから持ち込まれている食料は教会への寄付と言う事になっているのです。もしその寄付に3倍の税をかけて徴収してしまえばそれこそ教会と完全に敵対してしまう……そうなれば領民どころかこの国の民からの信用を失うと説明したではないですか」

「では教会や見ず知らずの者の信用のためにこの領地に住む領民を見捨てると言うのだな!!領民を見捨てる領主など領主とは言えぬ!!」「そうだそうだ!!」「その座を降りろ!!」


 エンロス達の声が部屋中に響き渡った


 無論エンロスもこのような事でルーフス伯爵が伯爵を辞めるとは思っていない

 だが力が落ちている今こそその力をさらに落とし、自らの発言力を高める好機だと思って行動したのである


 それに対しベルカインから返答が返ってきた


「……領民のための食料は今確保している。少し待ってくれ」


 エンロスは食料の確保と聞き少し考え、さらに追及をした


「さらに領民から集めたお金をバラまこうと言うのか!!食料の確保にだけ金を使うなど今後の運営を考えていないのか?」


 それに対してルーフス伯爵から短く、だがはっきりと言葉が放たれた


「食料は元子爵領から調達した」


 ザワ……ザワ「子爵領からだと?」「確かにあそこはここよりも食料があるが……」「だがあそこは先の戦争で物資が……」


 協議の間は喧騒に包まれた


「今元子爵領は戦争の後始末でそこまで物資は残っていない!!それでどうやって領民を食べさせると言うのだ。不利になったからと言って適当なことを言う出ないわ!!」


 エンロスはこれで主導権を握ったと思った……だが帰ってきたのは伯爵の笑い声だった


「……何が可笑しいのだ?」

「いや、元子爵領に対して追加の税を8割かけたんだよ。おかげでほぼすべての子爵領の領民が資産を差し出すことになってね……食料を買えるだけのお金も集まったし食料も集まった。これで領民は飢えなくて済むだろ?」


 ……エンロスは固まってしまった

 ルーフス伯爵の言っていることが理解できなかったからだ


 頭が言葉を理解したときエンロスはベルカインに食い気味に話しかけた


「そっそれでは子爵領の領民は暮らせないではないか!!そうなれば他の領主にどう思われるか……」

「子爵領の領民は私の領民だろう。だったら好きにしても良いではないか」

「子爵領を納めると契約したなら子爵領の領民もまた伯爵の領民ではないのか!?」

「それは契約上そうなっただけであって元子爵領の領民とは縁が無い。私は教会と揉めて信用を失うのが嫌だと言っただけで縁の薄い領民からの信用など知った事ではない。そもそも領主として大を生かすために小を切り捨てるのは当然の事だろ?」


 エンロスは何も言えなくなった

 なぜなら伯爵の目は狂人の目をしているように感じたからである


「それにこんな事になるのは今年が最後だ。今王都では今回の件を受けてウーレイスの領主を自分達にとって聞き分けのいい領主を派遣する話が進んでいる。つまり今をしのげればいいのだ」


 その声に驚きと歓声が漏れ出た声が議場を包んだ


「おお!それならば今後は安泰だ!!」「うむ、やはり伯爵様を信用して良かった」「少しばかり元子爵領に犠牲は出るであろうが仕方ないな」


 ベルカインはエンロスに対して興味を失った目をしながら話しかけた


「エンロス商会長殿……これで良いかな?」

「……異議はありません」

「なら良かった……引き続き領地の発展のために力を貸してくれると嬉しいな」

「……承知いたしました。微力ながら最善を尽くさせて頂きます」


 エンロスはその手腕と狂気にただただ頷く事しかできなかった


 こうして伯爵領の危機は回避されたように皆が感じた

 そして少しの間でもこうして伯爵領を苦難に合わせたウーレイスの領主代理であるアーテル家にどうやって落とし前を付けさせようか考えるものもいた


 だがその裏では……



 ~元子爵領スプレイス 領都~



「……はははハハハハハ全部持ってかれちまったよ!!」「ごめんね……ごめんね……こうするしかできない母さんを許して……」「近所の奴がお前が食料を隠してるの見たって言ってたぞ!寄越せよその食料ぉぉぉぉ!!」


 その光景はまさに地獄絵図だった

 皆伯爵がかけた重税によって財産を奪われ、税を払えなかった男は農奴や鉱山といった労働奴隷に、女は各領地に向かう馬車に乗せられていた


 何とか税を払うことができた者たちも、そもそも食料を優先的に徴収されたため明日食べるものもなく、餓死するかこの雪の中外で食料を何とか探さなければならない……運良く食料を見つけても奪い合いが始まるそんな状況になっていた


「……ふむ、なかなか惨い事をしますねぇ……やはりあの時に首を取っておいた方が良かったのでは?」

「……ああ、この光景を見るとそう思うよ。だが時計の針は巻き戻らない……今は作戦のためにできることをしよう」

「ほぅ珍しいですね、隊長がそこまで怒っていらっしゃるのは」

「……行くぞ」

「承知しました。まずはあの馬車から行きましょうか」


 イスカルとトウヤの2人は広場に集まっている馬車に向かった

 そして話がついたのか馬車の主は馬車ごとトウヤ達に渡し、トウヤ達は自分の馬車から袋を10袋程その主が持っている別の馬車に積み込んだ


 トウヤ達は他の馬車の主にも同じことを数度くり返し、帰るころには馬車が3台増えていた


 スタスタスタ ガチャ「少し窮屈かもしれないが少しの間我慢してくれ」 ガチャ


「……行くぞ」

「隊長、ご存じだと思いますが私たちは神ではありません人です。全てうまくいく事など滅多に無いのです……それをお忘れなきよう」


 トウヤはイスカルの方を勢いよく向いた

 そして向いた時に頬を一筋の線が走った


 糸が張られていたのだった


「今の隊長はこんなことすら気づけぬ程視野が狭くなっています。焦りや怒りは力となることもありますが、大抵は判断を鈍らせるだけです……私はこの程度の些事で隊長が死ぬのを見たくない。もしこのまま隊長が進まれるならこれ以上つまらなくなる前に私がその首を落としますよ」


 イスカルの口は笑っているがその目は本当にトウヤを殺る……そんな目をしていた


 それに対してトウヤは自分が熱くなって冷静さを失っていることに気づいた

 だから何度か深呼吸してその事に気づかせてくれたイスカルに謝罪と礼を言った


「……すまない、そしてありがとう。確かに俺は今判断を間違えるところだった。伯爵領に戻ったら頼みたい事がある。引き受けてくれるか?」

「承知しました。何なりとお申し付けください隊長」

「ああ、後そう言いながらもう一本糸を張るのは辞めてくれ」

「おや?手が滑りましたククク……まだまだ心配ですが先ほどよりはましですね」


 2人は馬車を走らせて伯爵領に戻った


 こうしてトウヤ達は少しずつだが着実に伯爵を追い込むための準備を進めて行く


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