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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
42/51

42話 飛び散る火花

 ギィィィィン ザァァァァッッッ


 アリーの鎌の刃とキーリウスの両刀の刃がぶつかり合い火花が飛び散った


 アリーの方が体重が軽いので衝撃で後ろに飛ばされたが、アリーがキーリウスの両刀を下に流すように鎌をぶつけた事で剣先が地面に当たりキーリウスは追撃をかけられなかった


「つぅぅぅ……やっぱり全身鎧と正面からぶつかるのは手が痺れますわ」

「……力で上から剣筋を抑えておいてよくそんな事を言えたな」


 2人はお互いに対してそう文句をぶつけ合った


 今の攻防で2人の距離は成人男性の歩幅5歩分ほど空いた

 キーリウスは両刀を体の正面に構え少しずつ距離を詰めていく

 逆にアリーは鎌を自分の腰に巻きつかせるかのように構え、近づけば薙ぎ払う姿勢を見せた


 キーリウスはアリーまでの距離を半分に詰めた時、大きなタメを作り一気に距離を詰めて刺突を放った!!


 ブゥゥゥンヒュンッ ガスッ ズシャァァァァァ ガンッ


 距離を詰めるキーリウスに対してアリーは薙ぎ払いを仕掛けたが、キーリウスは2歩目を地面に突き刺さるくらい強く地面を踏み込み、体の勢いを止めて薙ぎ払いを躱し地面すれすれまで落ちていた剣を上に切り上げた……がアリーも鎌にある石突を地面に突き立てて勢いを殺しながらしゃがみ込み、そのままキーリウスに対して足払いをかけ、キーリウスの足から物がぶつかる鈍い音がしキーリウスは片膝をついた!!


「ッッッ……蹴った足が痛いですわ!!」

「グッ……全身鎧相手に生身で足払いを仕掛けたくせに文句を言うな!!」


 2人は再度距離を取ったがアリーは蹴った右足が、キーリウスは蹴られた左足が痛むのかその動きは先ほどより少し鈍かった


「全身鎧を蹴るなんて……」


 アリーの行動を見てリリアムは驚きの声を漏らしていた


「確かに全身鎧相手に肉弾戦を仕掛けるなんて正気とは思えませんね」


 デスターニャもリリアムの感想には同意だった


「…………はぁ……教会のイメージが…………」

「それは団長殿の噂の時点ですでに無いと思うが……いや教会のイメージまで変えてしまう団長殿はやっぱり肩書に捕らわれない男として尊敬に値すると思うのだが!?」


 クリューリュの意見に同意も反対もできず黙り込むノージだった


 そんな外の騒ぎなど2人にはただの雑音でしかなく、2人は再度距離を詰めに行った

 今度の距離は成人男性の歩幅10歩分……今度はアリーが距離を詰めてキーリウスが迎え撃つ体制だ


 アリーは鎌をグルグルと回しながら距離を詰めていく

 遠心力で鎌の回転がどんどん上がっているのかアリーの鎌から聞こえてくる風切り音が次第に強くなっていく


 キーリウスは両刀を左上段に構え全力で切り落とそうと力を貯めている


 2人の距離はどんどん近づき、お互いの距離が歩幅4つ分になった所でアリーは回していた鎌を思いっきりキーリウスに向かって投げた!!


 ブゥゥゥゥゥゥン「くっ出鱈目な事をっっっ!?」 ガガガンッッッ


 キーリウスは飛んできた鎌を上段から切り落とす事で何とか攻撃を凌いだが、石突の部分がキーリウスの横腹を打ち付け全身鎧の脇腹にヒビが入り片膝を付いた


「……ぐっっっっはぁ……はぁはぁ残念だったな、これでお前は武器を失った。無防備な女を切る趣味はない、降伏しろ」

「……本当にそれで勝ったとお思いですか?もしそうなら騎士団の質も落ちましたわね」

「……騎士団を愚弄するか!!!なら女とて容赦はせん!!【完全開放(リベルターテ)】」


 キーリウスを覆う全身鎧からミチミチと中から押される音が聞こえた

 それと同時にキーリウスの全身が膨れ一回り大きくなった


「……デスターニャ。あれはどんな才能かわかるか?」

「……推測でしかありませんが、【身体強化】それもLV.4~5といった所でしょうか。流石騎士団の副団長としか言えませんね」


 全身がはちきれんばかりに膨れ上がったキーリウスは剣を頭上に掲げそのまま振り下ろした


 ゴッッッッッッッッッ ドカッッッッッッッ


 剣が地面に当たった時地面が大きくえぐられ、まるで爆発があったかのように地面がえぐれた


「……降伏しなかったことを後悔しろ」


 グッ ドォォォォォン バシャァァァァァァァァァ「???!」

「……はぁ……才能を使っていなかったのは私もですわ」


 地面がえぐれる力で踏み込み、矢のように飛んだキーリウスが剣を突き出そうとした瞬間、目の前に現れた水の塊に突っ込みそのまま水に捕らわれてしまった


「……!?……!!!………ッッッッ!!!」

「あら?私の2つ名を知りませんでしたの?【水魔】のアリー……私もまだまだ精進が必要ですわね」


 キーリウスは水の中で必死にもがいているが、水は掴みどころがないため抜け出す事ができない

 そしてキーリウスの動きに合わせて水は形を変えるのでキーリウスは逃れることができず、ついには酸欠で意識を失うのだった


バシャァァァァァ…………パシャッパシャッ


「……これで飲み込んだ水も回収できましたし命までは落とさないでしょ。それにしても何もない場所にこれだけの水を集めるとしんどいですわね……お風呂にゆっくり浸かりたいですわ…………あぁぁぁ!!鎌が折れてる……」


 アリーは真ん中で折れた鎌を見て悲しそうな声をあげた


「おいっ……何を寝ている!!立て!!立て!!この役立たずがぁぁぁぁぁぁ!!」


 反対側に座っていた監察官のペスエローが叫ぶが、キーリウスが意識を取り戻す気配は無い


 それを見てノージは訓練場内に響き渡る声で結果を告げた


【この決闘の勝者はアリー、よって彼の無実が神に示された!!】


 その宣言を聞き涙を浮かべながらトウヤに抱き着いたリリアム、それを冷たい目で見つめるデスターニャ、抱き着かれて動揺しているが顔に出すと刺されるので出せないトウヤ、それをあきれ顔で見つめるアリーと忌々し気に見るペスエロー


 こうして神明裁判は幕を閉じた



 ~領主の館 謁見の間~



「ではこれで容疑は晴れましたねペスエロー監察官殿」


 リリアムがペスエローにそう言うとペスエローは忌々し気な顔をしながら「これで終わったと思わない事ですね」と吐き捨てた


「ええ、もちろんです。貴方のした事は王都に報告させて頂きます……何も変わらないでしょうが」

「ええ、どうにかなるならすでになっていますよ。私がここに居る……それが答えです」


 ペスエローは以前のように高笑いをしながらリリアムにそう返した

 そしてトウヤの方を向きトウヤに近づいてきたので周りは警戒を強めた


「……どうやって私の蟲を欺いたのかを聞きたいところですが教えては頂けないでしょうね。まあまた何か動きがあればすぐに来ますよ……必ず」

「……そうならない事を祈っておくよ」

「ふふっ貴方とはまた会う気がしていますよ。……私が殺すまで誰にも殺されないでくださいね」


 そう言うとペスエローは謁見の間の入り口に向かい、一度立ち止まると仰々しく一礼をして去っていった


 ペスエローが去った事で緊張の糸が切れたのかトウヤは意識を失い崩れ落ちた

 そして次に目覚めた時は自室のベッドだった


「……また数日寝てたのか」


 体の固まり具合から3日程寝ていたそんな感じがした

 そして体を起こそうとして感覚が消えっぱなしな事に気づき、トウヤは耳の後ろを強く押し込んだ

 するとグニュっとした感触と共に体内に何か入っていく感覚がした


「……反動が怖いがこのままの状態だったら次に元に戻った時に廃人まっしぐらだからな」


 トウヤが蟲の尋問を耐えることができたのは薬……合成オピオイドで脳に伝わる間隔を遮断していたからだ

 もちろんそれだけでは思考力も無くなってしまうのでドーパミンを放出する成分も入っている

 そしてこの薬は拮抗性の薬を使わない限り効果が消えない……つまりドーパミンの放出が限界を迎えると同時に廃人になる……だから助けが来るまで薬を使えず耐えるしかなかったのだ


 ペスエローの蟲が息絶えたと勘違いしたのは、薬が作用する時に一時的に心臓の鼓動が止まったからである


「ふぅ……今回は何とかなったけど後1回しか同じ手は使えないから何かしら手段を考えておかないとな。それにしても魔法を使った尋問は俺達の世界より凶悪だな……イテッ」


 だんだん拮抗性の薬が効いて来て感覚が戻ってきた

 それと同時に脂汗と頭痛、めまいがトウヤを襲う


「デスターニャごめん、また数日寝る事になるけどその間頼んだよ」

「……何時も無茶をして……承知しました。ごゆっくりお休みくださいませ」


 トウヤはその声に安堵しながら意識を失った


 ……………………………………

 

 トウヤが意識を失ってしばらくして部屋に入って来る者がいた

 その者は真っ直ぐトウヤに向かって行きトウヤの側に腰掛け、少し悩んだ後その頬にキスをした

 そしてその者は天井の方を一瞥した後そそくさと部屋を出て行った


 トウヤが目覚めた時、その頬に熱がこもった事を知っているのは2人だけだった


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