4話 決意
ピピッ…こちらトウヤ、現在馬車の車内で美女と美少女が正面に座っていてとても気まずいです。対処法を願います…どうぞ。
こちらからできるアドバイスはない、その場で対処してくれ。幸運を祈る。
…ですよねー
そもそもマキシウスさんあんたなんで俺をリリアム様とリリアスちゃんの3人だけにするの? 普通護衛としてマキシウスさんも乗るよね!
しかも馬車に乗る際にごゆっくりって、絶対にさっき巻き込んだことを根に持っていますよね!
俺の心の仕返しリストにメモメモっと。
そうやって美女+美少女の前で何とか平静を保とうと頑張っているのを知ってか知らずかリリアム様が話しかけてきた。
「先ほど大きな爆発音がしていたのですが、何かされたのですか?」
「ああ、それなら山肌を崩して敵がこっちに来るのを足止めできないかなって爆破して道をふさいだだけですよ」
まあそれ以外にも、死体を置いた場所の山肌を崩して土砂崩れに巻き込まれた風の工作も兼ねているんだけどな。
さっきの爆発の土砂崩れで死体が奇麗に埋まっているといいなー。
「それよりもリリアム様、私たちは現在どこに向かっているのでしょうか?」
「そういえば行き先を伝えておりませんでしたね。私たちが向かっているのは館があるウーレイスという町です」
【ウーレイス】
人口 約5000人
税収 日本円にして約10億
面積 新宿区と同じくらい
主な種族割合 人:5 淫魔:3 土小人:1 森人;1 その他
領地概要;ガード・アーテルが納めていた町。現在領主死亡のため領主夫人が代理で治めている。特徴は農作物で、近隣領地の中で随一の穀倉地帯である。そのため近隣領主から狙われている。鉱山や森林もあり資源が豊かな点も狙われる要因である。人の数が人口の半分を占めるが、淫魔の人口が3割を占めているのは近隣ではここだけである。また土小人や森人といった種族がいるのは近隣地域ではここだけである。
ウーレイスの町の特徴を挙げるとこんな感じ。
ここで俺は気になったことをリリアム様に質問した。
「こういうことを聞くと失礼かもしれませんが、リリアム様は人属ですよね?
ガード様が淫魔だったのですか?」
「いいえ主人は人属です。私が淫魔なので娘のリリアスも淫魔の血が現れたのです。私には羽も耳も尻尾もないように見えますけど、大人になると自然と隠すことができるようになるので隠しているだけです。リリアスに羽や耳が出ているので気になったのでしょう?」
そう言いながらリリアム様は尻尾を見せてくれた。
リリアスちゃんは少し恥ずかしそうだ。
金髪美人なだけじゃなくて淫魔でもあるとか最高かよ!後リリアスちゃんの恥じらっている姿とってもかわいい‼
なんて心の中で思っていたら、リリアスちゃんが話しかけてきた。
「トウヤ様は相手の兵士3人と魔法使いを一瞬で倒してしまったとマキシウスが言っていましたが、とてもお強いのですね。見かけから戦士の方には見えないのですがトウヤ様は魔法使いなのでしょうか?」
魔法使いという単語がすぐに出てきたということは、魔法は一般的なものなんだなと思いつつリリアスちゃんに答えた。
「ご期待に沿えず申し訳ございませんが、私は魔法使いではございません。魔法の使い方を一切知らないのですよ。今回相手を倒せたのは道具を使ったからで、期待させてしまったのならすみません」
そう言うと場がすごく凍ってしまったかのように静かになった。
「魔法を知らない?」
リリアム様が怪しげに聞いてくる。
「はい、私が生まれ育った場所では魔法を使う人がいなかったので先ほど魔法を見たのが初めてです。もし使えるのなら使ってみたいですね」
そう答えるとリリアム様が驚きの事を言い出した。
「魔法を使えるかどうかは才能次第ですが、トウヤ様は才能を測っていないのですか?私の知るどの種族も15歳になるのと同時に導きの水鏡という魔道具を使って自らの才能を測っています。ましてや人属ならば辺境の地であろうと、教会が才能のあるものを探すために巡礼しているはずです。
…あなたは何処から来たのですか?」
…やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!
まさかこんなところからぼろが出ると思わないじゃん。
リリアム様すっごく怖い目で見てきてリリアスちゃんを自分の後ろに隠そうとしてるし。
リリアスちゃんは何が何だかわからないって感じでオロオロしてるし。
…これはもう終わったかな。しょうがない一度正直に話してみて無理だったら逃げよ。
「リリアム様、今から話すことはとても信じられる内容ではないかもしれません。ですがこれからを考えると隠しているわけにもいきません。聞いていただけますか?」
そうして俺は今まで起こったことを素直にリリアム様に話した。
リリアム様は俺の話を遮ることなく聞いてくれた。
リリアスちゃんは…すごく表情をころころ変えていた。 かわいい
「…これが私に起こった出来事です。信じられる内容ではないと思います。
ですのでリリアム様が私に今すぐ立ち去れと言うのでしたら立ち去ろうと思います。
その際には申し訳ないのですが少し食料と水を分けていただけると嬉しいです。」
リリアム様は何かを考えている様子だったが、こちらを見つめこう尋ねてきた。
「今の話が本当だとするなら、どうして異世界の住人の争いに巻き込まれるようなことをしたのですか?」
「最初は見過ごすつもりでした。ただ馬車からリリアム様が出てきたときに凄く好みの女性だったので気がついたら体が動いていました。」
…本当だよ。金髪美人のGが困っているのをみて助けなきゃいけないって勢いで突っ込んじゃったもん。
ほら、やっぱり俺のことを見る目が冷たい。
「貴方は美人の女性なら誰でも助けるのですか?」
「いえ、貴方を見たときにこの人とお近づきになりたいと思い助けました!」
…何言ってんだ俺。勢いでも言っていいことと悪いことがあるだろ。
ほらリリアスちゃんがすごい勢いでおどおどしだしたじゃん。
リリアム様も恥ずかしいのか俯いちゃってるし。
「…わかりました、貴方の事を信じましょう。あとそんな素直な目で見ないで貰えますか、恥ずかしいです。」
信じてくれるの⁉ なんで?
「なぜ信じるのかと言いたげな顔をしていますね。言うつもりはなかったですが貴方が隠さずに話してくれたので私も話しましょう。私は種族スキルとして【心眼】という相手の心の動きが見える魔眼を持っています。心の動きが見えるのですから嘘をついていた場合すぐにわかるということです。貴方がこれまでの事を話すとき嘘をついていなかった、だから信じようと思ったのです。」
えっ…てことは今まで隠していたアレコレやリリアム様に感じていたアレコレも分かっていたってこと?
「はい、何かを隠していて裏があるって気づいていました」
リリアム様は笑ってそう答えたが俺からすると笑えなかった。
だって利用しようとか美人だなーとかGってすっげーとか全部バレてたってことじゃん!
リリアム様の笑顔が怖いぜ…
「後言っておきますがGではないです」
そこまでバレてた⁉ えっじゃあいったいどれだけの大きさなんだ!
「内緒です♪」
そう言ったリリアム様の微笑みに俺はますます心を奪われてしまった。
隣のリリアスちゃんのジト目は気にしないでおこう。 大丈夫リリアスちゃんには将来性があるさ!
そうやってリリアスちゃんのジト目から目をそらし続けていると、リリアム様が驚くことを言い出した。
「トウヤ様、私たちはあなたに命を助けていただきました。そのことに変わりはありません。そして私たちの事情に巻き込んでしまったのも申し訳ございません。
しかしこの世界の事情を何も知らないトウヤ様の事をこれ以上巻き込むことは私にはできません。大した恩返しもできないことは申し訳ございませんが、領地につきましたら水と食料、後幾分かの路銀をお渡しいたしますのでこの領地から離れてください」
そう言ったリリアム様の目は戦場に行く前の仲間の目と同じ目をしていた。
ああ、あの目は自分が犠牲になっても大事なものを守りたい奴がしていた目だ。
そしてそういうやつほど残される側の気持ちも考えず満足そうに先に逝っちまうんだよな。
本当にむかつく
だから俺はリリアム様に言葉荒く言ってしまった。
「リリアム様…あなたはバカですか?相手に勝つ見込みがあるんですか?もしかして自分が犠牲になったら丸く収まるなんて思ってないですか?あんたが犠牲になったらリリアスちゃんはどうするんだよ‼ああ大事なものを守れたって自己満足で死んでいくのかよ‼
なあ、リリアム・アーテル。本当に大事なものを守りたいんだったら、神でも悪魔でも異世界人でも力を借りれるもんは借りて最後まであがけよ‼」
そう言った俺の目からなぜか涙がこぼれていた。
戦場で散った仲間の事は戦争だから仕方ないとわりきっていたはずなのに。
俺の心の何処かで諦めきれなかったのだろう。
涙目になりながら二人のほうを見るとリリアスちゃんの目からも涙がこぼれていた。
リリアム様は目を見開いてそれでも何かを諦めがちに言葉を吐き出した。
「貴方は助けてくれるのですか?こんな状況の中自分の命を犠牲にしてまで助けてくれるのですか?希望を持たせるだけ持たせて、置いて行かれた側の気持ちを考えてもそう言えますか?」
リリアム様の諦めたような、でも何処か期待するような言葉に俺は答えた。
「生きたいと思うなら、守りたいと思うなら助ける!ただし最後の最後まで諦めるな!生き抜くために手段を選ぶな!
死ぬんだったら最後まであがいてもがいてそれでも無理なら相手が悔しいって思うようなことをしてざまーみろって笑って死のうぜ!その時は俺も一緒に死んでやるよ!」
リリアム様は俺の目を見つめ、何かを見たのか微笑みながら答えた。
「貴方は本当にあの人そっくりですね。だから私も信じたくなってしまう。
トウヤ様、私と…私達とともに死んでくれますか?」
俺は笑いながら深くうなずいた。
こうして俺の、異世界での戦争の参加が決まった。
今はまだこの人物の戦争の参加が大きな流れになり、世界全体を巻き込むことを誰も知らない。