39話 導きの儀
ガヤガヤガヤ 「今年もこの時期が来たね~」「ほら胸を張りな!!……今日から大人の仲間入りなんだからね」「……うん。俺絶対良い才能を引いて稼げる男になるから!!」
町の広場には町中の子供達が集まっている
その子供達を取り囲むように大人達は広場に集まり、その時が来るのを待っている
広場には水が張られた台……水鏡が3台置かれ、そこには教会の人間が1人ずつ側に付いていた
水鏡のある場所の少し後ろには簡易的な机と椅子が置かれていて、そこには聖騎士5剣のアリーと右目に眼帯をした男とその護衛、そして白い祭服をきた老齢の男性が腰かけていた
アリーと祭服の男性は眼帯の男を警戒しているのか顔が強張っている
それを察してか眼帯の男は2人に軽い口調で話しかけた
「聖騎士5剣のアリー様と司教ノージ様……そんなに警戒しなくても何もしませんよ」
「……監察官ペスエロー様、お噂はかねがね伺っておりますわ」
「いやーそちらまで噂が流れるとは……影に徹する監察官としては失格ですね」
アリーはその返し方に嫌悪感を隠さなかった
それもそうだろう、ペスエローについて流れている噂は良い噂ではないからだ
税金を納められなかった商家に火を放ち、私財を無くしてから奴隷に堕としたや、反乱を起こそうとした農家の首謀者の、家族の切り落とした首だけを縄で結んで自らの首にかけ街中を歩いた等、その残虐性を示すような話ばかりだったからだ
「おっとこれは失礼、軽口が過ぎましたな。いやいや何時も気を付けようと思っているのですが何せ口から産まれたと言われるほど話すのが好きでして」
ペスエローは延々としゃべり続けているがアリーは聞き流す事にした
話に付きあわされている司教には申し訳ないが、これ以上話を聞いていたらその首を撥ねてしまいそうだと思ったからだ
そうして話を聞き流し続けて少しの時間が経った時、この町の領主代理リリアム・アーテルが姿を見せた
リリアムは広場の中心……集まっている子供達の前まで進むと話を始めた
「皆さん、今日こうして導きの儀を迎えられた事を大変喜ばしく思っております。皆さんはこの後自らの才能を知ることになります。それが望んでいたモノ、望んでいないモノに関わらず生涯付き合って行かなければいけません。その才能が夢を叶える事も、夢を壊す事もあるかもしれません。ですが周りの人やお父さん、お母さんを見てください。皆その才能に向き合って皆さんをここまで育ててきました。そんな背中を見て少しずつ大人としての道を歩んでいき、この領地の繁栄に力を貸して頂けますと幸いです。私事ですが、私の1人娘も今日導きの儀を迎えます。娘が大きくなった時に皆さんに支えて頂けるように私も良い背中を見せられるよう、領主代理としての務めを果たしていきます」
リリアムの挨拶に広場は歓声と声援に包まれた
アリーはリリアムの話を聞いてこれほど民に寄り添う事ができる人格者が居たのかと感心し評価を改め、ふと気になって監察官であるペスエローがどんな反応をしているのかその顔を見た
ペスエローの顔はとても笑顔だった
だがその口から「うーん、素晴らしい領主代理だ。これは吊るした時に良い反応が見れそうだ」とつぶやいたのが聞こえ、アリーは益々嫌悪感を募らせるのであった
リリアムの挨拶が終わり導きの儀が始まった
今広場にいる子供達は150人程で50人程に別れて3台の水鏡の前に並んでいる
水鏡に付いている教会の人間が最初の子供達を呼び、子供達は水鏡をのぞき込んだ
すると水鏡から光が放たれ文字が浮かび上がり、子供達はその内容を教会の人間に告げた
「俺【剣技LV.1】だった」「私は【裁縫LV.1】~」「……僕【農業LV.1】です」
最初に水鏡を覗いた子供達の才能は至って普通だった
よくある才能……それゆえに仕事も多いがあまり稼げない才能だ
教会の人間は最初の子達を下がらせ次の子供達を呼んだ
そして次々子供達の才能が分かっていく
自分の才能を聞いて喜ぶ子、悲しむ子、その才能の活かし方が分かっていない子と反応は様々だった
「おおっっ君はあそこに居る司教様の所に行きなさい!!」
真ん中の水鏡に付いている教会の人間が突然声をあげ、短髪の男の子にこちらに行くように促した
短髪の男の子はおどおどした様子でゆっくりとこちらに向かい、司教の前で止まった
「怖がらせてしまって申し訳ない。一度は何処かで会った事があるかもしれないが、私が司教のノージだ。早速ですまないが君の才能を教えてくれないか?」
司教が穏やかな表情で短髪の男の子に話しかけると男の子はおずおずと自分の才能を話した
「僕の才能は【軍師LV.1】です」
「採用。この後君のご両親とお話がしたいから連れて行ってくれるかな?」
「ペスエロー様!?」
突然ペスエロー監察官が口を開いたかと思うと、教会にとって横取りともいえる行為を堂々としだした
その行為に対しアリーは諫めるようにペスエローに話しかけた
「ペスエロー様、導きの儀で最初に交渉をするのは儀を取り仕切る教会との暗黙の了解がございますわ。それを破られるおつもりですか?」
アリーがそう言うとペスエローは
「アリー様、教会は王国に対して謀反を企てておられるのですか?【軍師】という才能は多数の軍を運用するのに必要な才能です。まさか教会が多数の軍を動かす日が来ると?これは国王様に報告せねばなりませんな」
「ッッッ……教会にそのような意思はございませんわ」
「でしたら何の問題もない……そうですね?」
「…………はい」
ペスエローの言にアリーはやり込められてしまった
それを見ていたノージもアリーが認めてしまったので何も言えなくなった
その後は特別な才能が見つかることはなく淡々と導きの儀は進んでいく
先程の男の子はペスエローが親と交渉し、王都に行く事が決定した
親は王都で働ける事を大変喜んでいたが、アリーはペスエローの下に付くという点で喜べなかった
そして導きの儀も最後の1人……リリアムの一人娘リリアスの番となった
皆が見守る中リリアスは水鏡に近づいて行く
他の水鏡に付いていた教会の者も気になるのかリリアスの水鏡に集まっていた
リリアスは水鏡の前で一度止まり教会の者達に礼をし、意を決したように水鏡を覗きこんだ
すると先ほどの子供達の時とは違い、まばゆい光が水鏡から放たれた
水鏡から放たれる光が収まり文字が浮かび上がる
リリアスは自分の才能を教会の者達に告げた
「私の才能は【淫魔の王女】です」
その声は本来なら広場中に聞こえるはずがない声だが、何故か広場中に響き渡った
そしてその内容を聞いて反応する者達が居た
ガタガタッッッ 「王の才能だと!?」
「……貴方がそうなのですね」
1人はペスエロー……座っていた椅子から勢いよく立ち上がりリリアスを睨みつけている
もう1人はリリアム……とても悲しそうな顔をして娘を見つめている
他の者達はその才能がどういったモノか知らなかったので反応することができなかった……いやアリーはペスエローの反応を見て嫌な予感がした
その顔は憎悪を一切隠していなかったからだ
「……殺れ」
ペスエローが小さく呟いた
その声は小さすぎてアリーは聞こえなかった
だが何を命じたのかすぐにわかった
水鏡の側に居るリリアスに対してナイフが5本飛んでいくのが見えたからだ
導きの儀は子供が主役の為大人は離れて見守る。それは領主とて例外ではない
今リリアスの側には教会の者達しか居ないがその者達は飛んでくるナイフに気がついていない
守るものが無いリリアスをナイフが襲おうとした時
「12時の方向距離30m高さ1.2mの所に設置!!」 ガスッガスッガスッ
「失礼します」キキンッ
トウヤが椅子をリリアスの前に設置し、リリアスの影から飛び出したデスターニャが椅子で防ぎきれなかったナイフを弾いた
「……ひぃっ……トウヤ……デスターニャ……」
「大丈夫ですよリリアス様、トウヤももうすぐ来ます」
デスターニャの言葉通りトウヤは関係者席からものの数秒でリリアスの下に駆け付け、リリアスを背にデスターニャと挟むように隠し警戒を強めた
「きゃぁぁぁぁぁ」「リリアス様が襲われたぞ!!」「敵だ……敵が居るぞ!!」
領主の一人娘であるリリアスが襲われた
その事を広場を囲んでいた衆人は遅れて理解し、悲鳴と怒声が響き渡り広場はパニック状態に陥った
「警備兵達に命じます!!領民を速やかに安全な場所に避難させなさい!!」
「「「「「「「「はっ承知しました!!」」」」」」」」
リリアムが警備兵達に命令を出し警備兵達はそれに答えて領民の誘導を行うのだった
トウヤは直接襲ってくるかと思い身構えているが第2波が来る気配は無い
デスターニャにアイコンタクトを送ると、デスターニャは少しの間何処かを見たかと思うと小声で答えた
「どうやら逃げられたようです。痕跡を追いますか?」
「いやいい。失敗した時点ですぐさま撤退を選ぶ相手だ……痕跡は途中で途切れるさ」
トウヤは敵が居なくなったと聞いてリリアスに話しかけた
「リリアスお嬢様……お怪我はありませんか?」
「……はい。…………また守ってくださってありがとうございます」
「いえ、それが仕事ですから」
デスターニャに睨まれた……また何かやらかしたのか?
俺は心当たりが無かったが、心当たりを考える暇は無かった
こちらに近づいて来る足音が聞こえたからだ
足音の方を見るとそこには右目に眼帯をした男と、護衛と思われる男達が立っていた
眼帯の男は愉快そうに笑いながら急に真顔になり言葉を発した
「こいつが伯爵を襲った容疑の男だ、連れていけ」
眼帯の男がそう言うと護衛の男達がトウヤを捕まえようと襲い掛かった
トウヤは抵抗しようとした……その時
「下手に動けばこの領地を潰す権限を私は持っているが?」
「ッッッッ!!」
そう言われてしまいトウヤはなすすべもなく護衛達に地面に取り押さえられてしまった
「そうだ、それでいい。連れていけ」
護衛の男の1人が取り押さえたトウヤの両方のこめかみを両掌で頭を包むように叩いた
「カハッ……」
「トウヤァァァァァァァァ!!」
リリアスの悲鳴を最後にトウヤの意識は落ちていった
次回は尋問のため過激シーンが入ります