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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
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37話EX 伯爵の誤算

「全員殺せぇぇぇぇ!!!!」


 隊長の声が響き渡ると同時に男達は身近な相手に切りかかった


 相手は椅子に座っていて初動が遅れた…確実に殺れる!!


 男の振る剣が座っている少女を切り裂こうとした時……「設置!!」


 少女を切り裂こうとした男の目の前にテーブルが現れ、剣がテーブルに刺さり視界が防がれてしまった


「チッ」 ガンッ


 男はテーブルを蹴って剣から外し再度攻撃をしようと構えた……がその時ナイフが2本飛んできて男の革の鎧に刺さった

 だが男は気にせず体制を整え再度少女に向かって今度は突きを放った


 ギィィンッ 「はぁ……面倒だけど2度もやらせる訳にはいかないのよ」


 男の剣は横から出てきた男に剣で弾かれ、体制を戻そうと踏ん張った時……足元が滑って男は床に身を叩きつけてしまった


 すぐに男は持っていた剣で足払いをかけながら体制を戻したが、滑った足元を見ても滑るようなモノは何も無かった


 男は滑ったことが気になったが、他の現状を把握しようと横目で全体を見た


 隊長とベテランの2人が鎌を持った女を、別のベテラン2人が大剣の男を、新入りと指導係の2人がメイド服を着た女と長い黒髪の女を、そして残った俺達4人が目の前の剣を持った男と目標の青年、執事服を着た男と銀髪と褐色の少女を相手にしていた


 戦力はこちらの方が多い……だが先ほど急にテーブルが目の前に現れたので、この中の誰かが転移魔法使いだ……そう言えば聞こえた声は男の声だったな


 男は敵全体を見渡した……そしてにやにやと笑っている執事服の男に目がいった

 こいつだ!!男ははっとした顔で仲間達に叫んだ


「そこの執事服を着た男が転移魔法を使うぞ!!気を付けろ!!」


 男がそう叫ぶと目標の青年はとても驚いた顔をしていた


 その顔を見て俺はよしっ当たりだ!!と思い、執事服の男を目線から外さないよう注視した

 そして仲間に合図を送り、仲間達3人は目の前の転移魔法使いの男と他の者達に切りかかった……瞬間仲間たちの首が飛んでいた


 は?今何が?「ぐぅぅぅぅぅ!!」「隊長!!うぁっ……」「グヘッ」「…………」「あぁぁぁぁぁぁ!!」「あ……あ……あぁぁ」


 気が付けば傷を負っていないのは男だけだった


 鎌を持った女を相手にしていた隊長は右腕が切られて飛ばされ、それに気を取られたベテランは胴体から鎌で真っ二つにされていた


 大剣の男を相手にしていたベテラン2人は1人は潰されて床で悶えて、もう1人は首の骨が折れたのか泡を吹いて死んでいる


 新人はメイドの女に両手両足をナイフで串刺しにされて床に転がっているし、黒髪ロングの女を相手にした指導係は、膝を床に着き白目をむいて口から涎を垂らしながら、上を向いて言葉にならない言葉を呟いている


 そして目の前には首無しの3人の死体……動けるのは男と隊長だけだった


 男はこの時初めて恐怖を感じた……必ず死ぬという未来が見えたからである


 男も暗部として任務に就いて長い、そして今回も油断をしていたわけでは無かった

 ただ圧倒的な実力差で殺られた……それが余計男の心を蝕んでいった


 男は考えた、そして現状取りえる最善の方法を思いつき、行動に移した


「隊長……ご武運を!!」


 男は自らの首に剣を突き刺して勢いよく横に引き、血しぶきをトウヤ達に飛ばした

 その行為は、血しぶきはほんの僅かな隙を作った。そしてその隙をついて隊長は全力で逃げ出した


 男は倒れながら隊長の背中を見送り、笑った

 情報を持ち帰ってくれれば別の誰かが仇を取ってくれる……そう思ったからだ


 こうして1人の名も無き暗部の男の命の鼓動が止まった



 ~伯爵領 執務室~



「まったく……面倒な事を起こしてくれたね」


 そう言ったのは伯爵であるベルカインだ

 ベルカインは自分の膝元も膝元で起きた聖女襲撃事件をどのように収めるかで頭を悩ませていた


「責任は全てこの私にあります。この老いぼれの首一つで済むなら幾らでも差し出しましょう」

「……ドルネーザル参謀閣下、今回の件は私の監督不行き届きにあります。今回の作戦の隊長を務めた者は私が処理します。その後私が今回の件の首謀者として名乗り出るつもりです」

「ラム……そなたはまだ若い、それに将来性もある……死ぬのは年老いた者からでいい」


 ドルネーザルはラムを諫め伯爵に1つ申し出をした


「此度の件私が伯爵様の名誉を落とし、その座を奪うため画策したということで私の公開処刑を行って頂けませんか?身内の争いとなれば教会もそこまで介入できぬでしょう。その上で1つお願いしたい事がございます。残された一族の者が不自由しない程度で構いませんので、面倒を見て貰えないでしょうか?」


 ドルネーザルは自分が汚名を着る事で一族の者が路頭に迷う事だけは避けたいと思った

 だから伯爵に残った者達の面倒を見て貰えることを条件に出した


 その申し出を受けて伯爵は悩み……一つの答えを出した


「……ドルネーザル、貴方程この領地に貢献して頂いた方を死なせたとなると、私が死んだときに先人に合わせる顔が無い。だから金で解決……と周りからは言われるかもしれないし教会にも受け入れて貰えるかはわからないが、教会に金貨10万枚寄付をしようと思う」


 金貨10万枚と聞いてラムとドルネーザルは驚愕した

 その額は伯爵領の税収の2年分にあたり、伯爵の資産の3分の1にあたる金額だからだ


「伯爵様私の命にそのような価値はございません!!どうかお考え直しをっっ!」

「ドルネーザル……金はまた稼げばいい。だが貴方程の人とこの領地に対する貢献と金貨10万枚どちらが大切かと言われれば私は貴方だと言いたい。それだけの働きをしてきてくれたのだ」


 伯爵にそう言われドルネーザルは涙した

 そしてドルネーザルは最後の最後まで自らの命を伯爵に捧げようと誓った


「ラム、書をしたためる。これを教皇陛下の下に持って行ってくれないか?」

「そのような任務を今の私が承るのは恐れ多くてできかねます」

「ラム、君だから頼みたいのだ。それだけ私は君の事も信用している……それではダメか?」

「……この身に余る思いです。その任務この身にかけて成し遂げます」


 ラムは膝を着き頭を下げながらそう返した


「私は2人のように忠に熱い家臣を持てて良かったと思う。……それと襲撃をかけた店にいた者達だが今後監視だけで良い。これ以上聖女様の顔に泥を塗るような真似をしてしまえば、今度こそ私達の首だけでは済まなくなる。忌々しいが今は静観するしかない……」


 そう言う伯爵の顔は苦麦のアクを抜かずに食べたかのような顔をしていた


「それではそのように配下の者達に周知させます」

「……これも奴らの企てだったのですかな」


 こうしてトウヤ達は思わぬ形で妨害を受けなくなった

 だが当の本人たちがその事に気づくのはまだ先である



 ~???~



「……ずいぶんなやられようだね。その感じだと失敗した?それでそんな姿で戻って来て何の用?」


 ラムは右腕を失い今にも意識を失いそうな隊長にそう声をかけた


「転移魔法使いが……居たので……その情報を……」


 転移魔法使いと聞いてラムの表情が変わった


「わかった聞こう」

「ありがとう……ございます。転移魔法使いは……目標のせいねん……の……側に居る執事でした……」

「へぇ……それで?」


 隊長は伯爵が知りたがっていた転移魔法使いの情報を、命からがら持って帰ったというのに冷たい対応を取られ、また部下に対するねぎらいも無い事に少し腹を立てた


「仲間達が……命を懸けて得た情報を何だと思っているのですか!!」

「お前達が盛大なやらかしをしてくれたおかげでこっちはもっと大変なんだけど」


 ラムは淡々と、しかし声は冷たく吐き捨てた


「……やらかし?」

「そう、君達が襲った場所に銀髪の少女が居なかった?あれ教会の聖女様だったって……伯爵領内で教会の聖女様が襲われたって事がどれだけ重大かわかる?」

「ッッッ!!」


 隊長の顔はみるみるうちに曇って行った


「あそこで君が死んでくれてたらただの物取りで片づけられたんだけどね……君が逃げたおかげで伯爵領総出で君を探さなきゃいけなくなったんだよ。そのせいで伯爵様はもうカンカンだよ。見つけ出したら四肢をもぎ取って家畜小屋に放り込むって……あっもう右腕無いんだっけ。そういう事で君の仲間達は無駄死にだったて訳」

「無駄死にだと!!その言葉……いくら貴方様と言えど許せん!!」


 隊長は最後の力を振り絞ってラムに切りかかった……が簡単に躱されそのまま掴まれて地面に叩きつけられた


「ガハッッッッ」

「手間かけさせないでくれない?そうそうもう1つあるんだけど、今回聖女様を守った店って事で伯爵様もこれ以上あの店と人に手出しする訳にはいかなくなったから。つまり敵討ちもできないって事……だから転移魔法使いの情報も要らなくなったんだ……本当に無駄死にになったね」


 自分達の持ち帰った情報が無駄になったと聞き隊長は絶望した

 そして敵討ちもできない事に、仲間の無念を想い涙を流した


「じゃあそういう事だからさっさと死んでくれない?最後の優しさとして死んでから見つけた事にしてあげるから」


 そう言うとラムは足を持ち上げ、地面に倒れる隊長の首を踏み抜いてへし折った


 後日領都の側を流れる川辺で首が折れた右腕の無い死体が見つかったが、その死体の表情は見た者を恐怖させる程怒りの表情を浮かべていたのであった

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