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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
35/51

35話 それぞれの強さ

 ガヤガヤ おーいこっち麦酒2つ  こっちはスープと肉串5本で!!


「はーい……おっお兄さん達お酒強いんだ。……お酒が強い男の人ってかっこいいよね!!」


 サティが呼ばれたテーブルに座っている男達を褒めると、あちこちからさらに声が飛び交った


 サティちゃん!!こっちも麦酒追加……この兜に注いでくれ!!

 そっちが兜ならこっちは樽ごと持って来てくれ!!


「はいはーい……けど皆飲みすぎて明日のお仕事中に倒れないでね。もし倒れてるところ見ちゃったら……サティ……」


 サティちゃん俺明日休みだから大丈夫だよ!! 俺も明日休むから……イテッ……親方すみません程々にしときます


 夜も遅いというのに店には明々と灯りが灯り、テーブル席は埋め尽くされていた


 テーブルの間を動き回って給仕するのはサティ、このテーブル席に居るほとんどがサティ目当てのお客さんだ

 職人や兵士と言った見た目の恰好をした人が多く、料理やお酒を豪快に頼んで飲み食いしている


「こちら特性のハーブ酒とヤジリリキリスの燻製です」

「ありがとう……少し苦みのあるハーブ酒と辛みが効いた燻製の組み合わせか……今の気分にピッタリだ」


 テーブル席から少し離れたカウンターに立っているのはマリアだ

 マリアの前には(あつら)えた服を着た初老の男性が座っていた


「騒がしいお店でくつろいで頂けないかと心配でしたが、楽しんで頂けているようで幸いです」

「……君程の人がどうしてあのような噂のある者に使えているか気になって来てみたが、噂というモノは当てにならないみたいだ……」


 初老の男性は再度ハーブ酒を口に含み、その味を楽しみながら店内を見渡し頷くと席を立った


「今手持ちがこれしかなくてな、取っておいてくれ」


 初老の男性は金貨を1枚取り出した


「いえ、今回は私が招待いたしましたのでお支払いは頂けません。もしこのお店を気に入ってくださったのならまた来て頂けましたら最高のおもてなしを致します。その時にお代を頂ければ幸いです」


 初老の男性はマリアを見つめ……微笑みながら言葉を返した


「ならばまた来よう。その時には君の主にも会いたいものだね」

「そう言って頂けて嬉しいです。主にもそうお伝えしておきます」


 側に控えていたデスターニャが初老の男性を入口まで案内した時、テーブル席から2人席を立って男性の後ろに付いた


 そして初老の男性は店を出て馬車に乗り込み去っていった


 初老の男性が店を去るのをきっかけにテーブル席に居たお客さんも少しずつ帰っていき、マリアとサティ、デスターニャは最後のお客さんを見送って店を閉めた



 ………………………



「それでは報告します。本日は昼18人、夜41人、計59人の売り上げが、昼が銀貨2枚銅貨2枚鉄貨4枚、夜が銀貨20枚銅貨2枚、計銀貨23枚枚鉄貨4枚、市販の食材費や人件費を考えますと1日の支出は銀貨40枚なので差し引き銀貨16枚銅貨3枚鉄貨1枚の損ですね……一般的な家庭なら3ヶ月は暮らせる金額ですね」


 デスターニャが今日の収支報告を読み上げた


「……1週間で50人以上もお客さんが来るようになるなんて凄いじゃないか!!どんな方法でお客さんを集めたんだ!?」


 トウヤはこんなに早くお客さんが来ると思っていなかったので少し驚いて興奮気味に尋ね、マリアさんを褒めた

 デスターニャやイスカルもとても聞きたげな顔をしている


「少し挨拶回りをサティとしただけです。他のお店が混んでいる時間に」


 サティも同じように頷いた


 トウヤとデスターニャ、イスカルの3人は返って来た答えが3人もした挨拶回りだったので顔を見合わせた

 3人が挨拶回りをした時にはとても冷ややかな視線が帰って来たからだ


「色々なお店で言われましたが、3人はかなり評判が悪いです。そんな中私達が挨拶に回り、多くの人に見られてどう思われたと思いますか?可哀そうに、俺達が見張ってやる、あわよくばお近づきに……弱い存在を演じる事で同情を誘い、人の欲を刺激する事で彼らは優越感を感じる為にお金を払うようになったのです。その心の動きを私達淫魔は見る事が出来ますので、後は刺激して欲しい欲を刺激するだけでほいほいお金を払ってくれますね」


 ……マリアさんってやっぱりおっかない


 穏やかな顔とは裏腹に笑顔でドス黒い事を言うマリアさんを見て少し淫魔不振になりかけたが、デスターニャを見て俺は心の平穏を取り戻した……うおっ カッ


「申し訳ございません、手が滑りました」


 俺の顔の横をナイフが通り過ぎて行った


 俺は気にしたら負けだと思い、マリアさんに話題をふった


「……このまま行くとすぐに利益が出るようになりそうだな!」

「いえ、なりません」


 ………………「「「「えっ?」」」」


 俺達は驚いて声が揃ってしまった


「まず1度に入れるお客さんの量がカウンター・テーブル合わせて16人では、満席だとして滞在時間1時間、平均単価鉄貨6枚、営業時間が昼の11時から2時までの3時間と、夕方5時から10時までの5時間合わせて8時間……1時間当たり鉄貨96枚の8時間で最大鉄貨768枚。1日の支出の銀貨40枚……鉄貨800枚には常に満席でも届きません」

「じゃあお客さんの単価を……はできないな。それだと周りと同じか少し高くなって本来の目的の周囲の飲食店から客を奪って廃業が出来なくなる」

「はい。一部高級品で……という案もありますが、そもそも新しい店に高級品が置かれていても、その高級品を求める人はすでにそれ相応の店で買っているのでそもそも買いに来る人がいないですね」


 俺とマリアさんは話が通じているが、他の3人は頭に?が浮かんでいた

 それもそうだろう、デスターニャとサティちゃんはそもそもお店を経営した事が無いし、イスカルは古道具と、自分で値段を付けられるのと趣味でお店を開いていただけなのでそこまで考えていなかった


「ならやっぱり冬を越えるまでは現状維持か……」


 思っていた以上の速さで客足が増えたので少し期待したが、そこまで甘くないかと肩を落とすと


「いえ、そうでもありません。1月ほどお待ち頂けますか?」


 そう自信満々にマリアさんが言ったのでそのまま任せる事にした



 ~???~



「それであのお店に行かれたのでしょ?いかがでした?」


 ラムは初老の男性に最近オープンした店の感想を聞いた

 その店とはもちろんトウヤ達の店の事だ


「……かなりの手練ればっかりだったの。やはりあの店の店主は例のあの男か」


 初老の男性はカウンターに立っていた女と自分を案内した女を思い出しながらそう言った


「彼らを追ったうちの者達が帰って来なかったので何かしらの繋がりがあると思っているのですが……なかなか尻尾を掴ませてくれませんので」


 ラムは首を横に振りながらそう言った


「元スプレイス領の2人はどうなのだ?」

「そちらも全然。ただ元総大将の体に魔法具が仕込まれていたので魔法士に取り外させましたが、なかなかな魔法具が使われていましたね。おかげでこっちの魔法士が1人減りました」

「……後で見舞金をはずむように言っておく。だがそれだと敗戦奴隷の噂は本当だったのか?」

「……いえ、彼等から私達と同じ匂いを感じました。かなり薄いのですが、暗部に関わったもしくは暗部の者に何かを教わった可能性があります。ですのでただただ敗戦奴隷に落ちたとは言い切れません」


 ラムの言葉を聞いて初老の男性は少し考え込んだ

 敵がすぐそこに来ているかもしれない……だがそれだと何故動かない?

 敵は転移魔法使い……以前彼等がここに来てから下調べを終えるには十分な時間が経っている。なら伯爵様の命を狙ってもおかしくない……なのにラムから相場以上の金額で物件を買い、それを改装して飲食店を開いている


 何が目的だ?


 初老の男性は答えが出なかったのでラムに1つ命令を出した


「そちらの配下の者を使ってあの店を襲え。そうすれば尻尾を出すだろう」


 ラムは驚いた顔をしたが頷きながら答えた


「承知しましたドルネーザル参謀閣下。物取りを装って襲わせます……また結果を報告に来ますね」


 そう言うとラムは暗闇に消えて行った


 参謀閣下と呼ばれた初老の男性は重い腰を上げ水差しを手に取りカップに水を注ぎ、手に持ったカップを見つめながら1人呟いた


「…………災いの芽は摘まねばならん」


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