表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
33/49

33話 意味と理由

「さーてここが俺達の新しい拠点だな」


 俺達は一度帰った後、必要なモノを積んで再度伯爵領の領都に帰って来た


 そして俺の目の前には壁にヒビが入り色は落ち、木材がささくれて痛んでいる2階建ての建物があった


「……本当にこんな建物を購入して良かったのですか?しかも相当吹っ掛けられた値段で」


 デスターニャがあきれた表情で尋ねてきた


 それもそうだろう、目の前のオンボロ建物を金貨100枚という常識外れの値段でラムという青年から購入したからだ

 伯爵領とはいえ目の前の建物はせいぜい金貨30枚がいいところだろう

 実際購入を決めた時ラムは驚いた顔を隠しきれていなかったからな


「いいのいいの商会長が貯めこんでた金だし。それにあのまま拠点が手に入らなかった方が嫌だったからね。それに見た目はアレだけど立地は最高だよ、馬車を横づけできるし、門の入り口から馬車で5分位だし」

「トウヤ様、あのラムと言う青年ですが……」

「知ってるよ、暗部の人間なんでしょ。視線が普通の人とは違う動き方をしていたからね……嫌でも気づくよ」

「……お気づきでしたか。では何故2人をあの青年に預けるような真似を?」


 俺はデスターニャにどう答えるか悩んだ

 その時タイミングよくイスカルが声をかけて来た


「旦那様、中をさっと見て来ましたが相当ガタがきていますね。直すのに時間とお金がかかると思いますがいかがいたしましょうか?」

「んーこれから1年はお世話になるからきっちり直そうか。あっ俺達が休める部屋ある?無かったら直るまで宿取らなきゃいけなくなるから」

「幸いにも2階の2部屋、まだ使える部屋がありました」

「じゃあ俺とイスカルで1部屋、デスターニャが1部屋でいい?」


 俺がデスターニャにそう尋ねると、デスターニャは食い気味に返事を返して来た


「いけません!!!!」


 うわっびっくりした!!

 急にデスターニャが大きな声を出したから俺とイスカルは驚いて勢いよくデスターニャの方を向いてしまった


「トウヤ様のお世話は私が致します。それに今回私とトウヤ様は夫婦という役割のはず……夫婦の寝室が別では怪しまれます!!」


 ……あっはい


 俺とイスカルはあまりの勢いに押されて俺とデスターニャ、イスカルで部屋を別ける事になった


「じゃあこれから商売を始めるための準備をしようか。その前にイスカルは馬車がここにあると邪魔だから預かり場所に預けて来て。デスターニャは俺とこの中に入って掃除だね。じゃあ解散」


 俺はそう言って建物に入ろうとした


「……夜じっくりと聞かせて頂きますね」


 そんな怖い言葉が後ろから聞こえて笑い声も聞こえた気がするが気のせい気のせい



 ~夜~



「さて、デスターニャ」「はい」


 デスターニャが音魔法を使い周囲の音を消した


 日中頑張って掃除したから何とか寝床ができた

 まだ家具は揃えていないから今は持ち込んだ毛布を丸めて地面に座っている


「じゃあこれからの話をしようか」


 俺の言葉にデスターニャとイスカルの纏う空気が一段冷え込んだ


「これから俺達は伯爵が戦争を仕掛けたくなるように1年かけて仕向けます。途中何度か補給に帰りますが、ほとんどこちらで過ごすと考えてください。質問のある人~?」


 デスターニャがスッと手をあげた


「1年で伯爵家との兵力差がそこまで縮まると思わないのですが、1年後には戦争で勝てる…そう言った理由を聞きたいです」

「なんと!伯爵家の重装魔法兵団相手に1年で勝てると!?私も聞きたいですね」

「じゃあ質問に質問で返して悪いけど、2人は戦争に勝つってどういう事だと思う?」


 俺は戦争の勝ち方について2人に聞いた


「それはもちろん相手が負けを認めたらですかね」

「相手の戦力を削りきってしまうのも勝つ方法ではないでしょうか?」

「じゃあどうやって相手に負けを認めさせる?相手の戦力を削りきる?相手が最後の1人まで抵抗すれば勝ったとしてもこちらの被害は大きいだろ。戦力を削りきるのもそうだ、こちらの被害が大きいと今度は別の相手に狙われる……それで負けたら戦争に勝ったとは言えないだろ」


 2人は考え込むように黙ってしまった


「そもそも戦争なんてしない方がお互いの為なんだよ。戦争に必要な食料、金、人、資源……上手く使えば戦争をする以上の利益を生み出せる。その利益を捨ててまで戦争をする理由は?勝って何が欲しい?何を得る為に戦う?それは失うモノ以上の価値があるのか?その答えが無い戦争は無意味なんだよ」

「……では先の戦争もトウヤ様は無意味だったと?」


 デスターニャは声を少し震えさせながら聞いてきた


「ああ無意味だった……領主とその娘を手に入れたいからなんてふざけた理由だからな。その2人を手に入れた所で戦争になったら自分の兵も資源も食料も減らすんだぞ。その価値が2人にあるか?冷静に考えてみろ」


 その価値が2人にあるかと言った時点でデスターニャは睨んできたが、冷静にデスターニャは答えを返してきた


「……お2人を手に入れれば領地も手に入るのでは?」

「戦争で働き手が減って人も金も資源も減った領地をか?それを元に戻すのに何年かかる?いや戻るならいい、戻らなかったら?自らの資源も利益も減らしただけのただのバカだぞ」


 デスターニャは黙った


「ふむふむ、トウヤ隊長……誇りや名誉を得られるというのはいかがですか?」


 今度はイスカルが口を開いた


「誇りは戦争を受ける側の意味だな。領主とその娘を守るために戦う……自分達が住む領地を治める人、つまり自分の生活と自分、家族を守るために戦う……十分な理由だと思うぞ。だが名誉は違う……確かに名誉は後世まで語り継がれる事もある。それが誇りとなることもある。けど名誉があっても人は死ぬんだよ。どれだけの戦いを勝って名を遺した英雄や王ですら死んだ後その功績を消される事は珍しくない。死ねばその後の保証がされないモノに意味はあるか?名誉を胸に死ぬくらいなら汚名を着ようとも生きる方がいい。生きていればその汚名を(すす)ぐ事もできるけど、死んだらそれすらできないからな」

「……トウヤ隊長貴方はいったい今まで何と戦ってこられたのですか?」


 イスカルは少し困惑した表情を浮かべていた


 俺が戦って来たもの?(お偉いさん)()ペン(思想)だよ

 俺は昔を思い返し……少し寂しさを思い出したが話を続けた


「さて話がそれちまったけど、戦争を始めました勝ちましたけどこちらも消耗しましたは勝ったとは言えないんだ。いかにこちらの消耗を抑えて勝つか、その為に1年かけて伯爵領を弱体化し伯爵が焦って戦争を仕掛けなければいけないようにする……その為に俺はこうしたいと思っている」


 俺はそう言って1枚の紙を取り出し広げた


 ①伯爵領の食料を少なくしよう

 ②移民を増やして治安を悪化させよう

 ③伯爵が原因で暮らしが悪化したと広めよう



 ………………おい何とか言ってくれよ

 デスターニャとイスカルの顔は何とも言えない渋い顔をしていた


「もしかしてできそうに無いとか思ってる?」

「いえ……ただこれで戦争に勝てるようになるのか?と思いまして」コクコク


 ……そうか忘れてたよ。この世界経済戦争って概念が無いんだ

 それに移民侵略って概念もな


 俺はどう説明するか悩んで……実際やって見せて体験してもらった方が理解が深まるかと思い、まあ任せてくれとだけ伝えた


 その後俺達は解散して部屋に俺とデスターニャの2人きりになった


 俺は床に皮の敷物を敷いて毛布を丸めて寝転び、デスターニャは荷物を仕分けている


 ……なんだか2人きりになるとあの時の夢を思い出して落ち着かないな


 俺は夢を思い出してデスターニャの方を向けなかった

 すると荷物の仕分けをしているデスターニャかがこちらを向き話しかけてきた


「トウヤ様「ビクッ」……何を考えておられたのですか?」

「ははは……ちょっと深く考え事してて。それよりどうしたの?」

「……2人を何故敵の暗部に預けたのか聞かせて頂くと言っておいたはずですが、トウヤ様の頭は鳥のように空っぽですか?」


 ……あーいや忘れてた訳じゃないけどね。うん本当だよ……本当本当


 俺はデスターニャから視線を少し逸らしながら言葉を返した


「その件ね……んーぶっちゃけるとあのラムって青年からそこまで悪意を感じなかったから、そこまで悪い扱いをしないだろうって思ったんだよ。情報を取れればよし、取れなくても別の暗部の動きを見る事で暗部の経験が積める……今の2人のまま国の暗部を相手にしたら2人ともすぐに死んじゃうだろうから、ここで経験を積んどいて貰おうって思っただけだよ」

「……それだけじゃないですよね」


 ……本当に心が読めるってずるいな


「……そうだよ。もし俺が失敗したら2人にはこのまま伯爵領で暮らして貰うつもりだよ。イスカルは適当に何とかするだろうし、俺とデスターニャはリリアム様と最後まで共にする。けど2人は元々そこまでリリアム様に肩入れするほどでもないし、イスカル程の実力もない。それにミルルカのトメスへの気持ちは薄々気づいていたからね~……辛い思いした分幸せになって欲しいじゃん」


 俺は頭をかきながらそう答えた


「本当に面倒くさい人ですね」

「酷くない!?」

「酷くないです。他人の幸せは考えられるくせに自分の幸せは考えない人には丁度いい言葉です」


 そう言うとデスターニャは俺の寝具に座ったので、俺も座ってデスターニャを見た

 デスターニャは何時ものメイド服姿だったが、唇に少し朱を差していた


 ……珍しいな

 俺の視線に気がついたのか、デスターニャは少し顔を俯かせ、こちらを下から見上げ、言葉を紡いだ


「貴方にも幸せになってほしい……そう思う人もいるんですよ」


 そう言うとデスターニャは近くにあった蝋燭に手を向けると、蠟燭の火が消えた

 そして俺は皮の敷物の上に押し倒されていた


「ちょっデスターニャ!?」

「……夢だと言われて少し怒っています」


 ……えっ!?……じゃああの時のアレは全部……


 俺は顔が一気に赤くなるのを感じた


「……今度は忘れられないようにしますから覚悟してください」


 ……………デスターニャの言葉の通り、俺は今日の夜の事を一生忘れられなくなった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ