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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
31/38

31話 下準備

 ザワザワザワ ザワザワザワ


「次……次……次……」


 俺達は今、伯爵領に入るための入領審査の列に並んでいる

 商業で成り立っている領地だけあってか、商人が数多く並んでいる

 昨日門の外で商売をしていた商人達の話では、ここ1月程警備が厳重になっているそうだ


 少しして俺達の審査の番がやって来た


「次……今回の入領目的は?それと登録証も出してくれ」

「登録証はこれだ。目的?……家の若旦那が伯爵様の下で商売がしたいって言ってな……登録証を見て貰って分かる通りもうすぐ商売をしていた場所が無くなりそうなんで大旦那様もそれに賛同してな。今回は移転先を探すための下見に来たんだよ」


 トメスがそう言うと受付をしていた兵士は後ろに居た兵士に何かを告げ、後ろの兵士は何処かに行ってしまった


「そうか、それは災難だったな。少し確認するから待って貰ってもいいか?」

「……ああ。若旦那様にそう伝えるよ」


 トメスは馬車をノックして入って来たので、馬車のドアを少し開けて俺達は演技を始めた


「若様、受付の者から確認するので少し待つように言われました」

「おい!他の奴らはすんなり通ってるのに俺を待たせるなんてどういう事だ!?待つ理由は聞いたのか!?」

「……すみません、聞いていないです」

「このグズがっっ!それだからお前は何時も使えないんだよ!!」

「申し訳ございません!!」

「何時も謝ってばっかりだが謝るしかできないのか?少しは頭を使ったらどうだ?」

「……受付の者に確認してきます」


 トメスはそう言って受付に戻った


「すまないが時間がかかる理由を教えてくれないか?うちの若旦那が不満らしくってな。適当な理由があれば納得してくれると思うんだ」


 先程の俺の剣幕が聞こえていた受付はトメスを不憫そうな目で見て、確認の理由を話してくれた


「噂には聞いてるかもしれんが家の領主様がそっちの領主が雇った賊に襲われたらしくてな……その警戒の為にお前達が来た方面からの警備が最近厳重になったんだ。……領主のせいでとばっちりを受けてるとでも言ってくれ」

「そうか、手を止めてすまないな」

「いやいいぜ……それにしてもあんなのって言ったら悪いが、あれが後継ぎじゃ大変だろ。お前体格も良いし根性もありそうだ、うちの警備隊に来ないか?」

「そう言ってくれてありがとうよ。けど俺は大旦那様に恩があってな……すまんが今回は断らせて貰うよ」

「そうか……まあなんかあったら言ってくれ。力になるぜ」


 トメスは受付から離れて馬車に戻った

 その道中トウヤが言っていた、人は哀れみを感じると油断する、とはこの事かと学ぶトメスだった


「失礼します。若様、うちの領主様がしでかした事が原因で時間がかかっているそうです」

「あの女が原因か……クソっ本当に碌な事をしないな!!……わかった、お前は外で待って連絡が来たらすぐに動けるようにしとけっこのグズが!!」

「承知しました!!」


 そう言ってトメスは馬車を出て行った


 ……デスターニャさん、演技ですよ演技

 だからあの女って言った時にさりげなくナイフをこちらに向けるの止めて貰えませんかお願いします!!


 ……ふぅ許されたって声を消しながら爆笑するって器用な事するなイスカル

 だがかなり警戒度は上がってるみたいだな……ならこの後起こることは……


 俺達が門を通れたのは1時間程経った頃だった

 待っている間何度かトメスを呼びつけ叱責する姿を見せたので、受付や他の警備兵が俺を見る目は冷たかった


 門を通ってすぐに俺はデスターニャにハンドサインを送り、デスターニャは音を消した


「何人だ?」


 俺が聞くとデスターニャが答えた


「1人……と後ろに馬車が」

「ならこれから領都に着くまでは演技をし続ける。音を戻すから気を抜くなよ」


 いきなりの俺の言葉にトメスとミルルカは戸惑っていたが、すぐに意図を察したのか演技に切り替えた


「まったく……あの女のせいでこんな手間を掛けなくちゃいけなくなったじゃないか!!本当にあの領主は余計な事をしてくれたな!!」

「ええっ本当ですわ。また1から商売を始めなければいけないなんて……本当に面倒な事をしてくれましたわね!!」

「おいっ、伯爵様へのお目通りの予定はどうなっている?」

「申し訳ございません、伯爵様は今誰にも会われないとのお触れを出しているそうで……」

「そこを会えるようにしておくのがお前達がいる理由だろ!!使えないなっ!!」

「「申し訳ございません!!」」


 俺達は領都に着くまでトメスとミルルカを責める演技をした


 ~領都~


「次……次……次……通っていいぞ」


 俺達は無事領都内に入った

 それと同時に馬車に張り付いていた気配が1人消えた

 俺は再度ハンドサインを送り、デスターニャは音を消した


「……行ったか」

「はい、先ほどの確認の時に離れていきましたね」

「おい……それってやっぱり?」


 ミルルカが心配そうに尋ねてきた


「ああ、暗部の人間が馬車の下に張り付いていたんだよ。さっき待たされている時に下に張り付いたんだろうな」


 俺があっけらかんと言うとトメスもミルルカも驚いた顔をしていた


「隊長……どうやってわかったんですか?」

「音……だな。馬車が走りだした時さっきまでと違い少し沈んだ音がした。つまりこの馬車に何か重量がかかっているって事だろ。デスターニャは魂の色で数が増えたのを見分けたんだろうが、イスカルはどうしてわかったんだ?」

「私が気づいていた前提で話をされていますが……私も走り出した時に警備隊の一部が馬車の下を見る視線を感じたのですよ。人は気になったモノを目で追いますから」

「そんな感じで人それぞれ見分け方があるってわけだ。また今度尾行に気づく方法とか視線の逸らし方とか教えるから自分に合った方法を使えるようにしような」


 そう、この部隊の目的は生きて任務を果たす事。その為にできる事なら何でも教えるさ

 俺は昔そうやって教えてくれた戦場の仲間達をふと思い出した


「よし、次に音を戻した時から作戦行動を開始する。目的は次回の為の拠点の確保と情報収集、活動期間は1週間、戦闘は無し……全員無事に帰るぞ」

「わかった」「了解です!!」「承知しました」「ふふ、かしこまりました隊長」


 音が戻り、俺達の作戦は開始した……


 ~1週間後~


 俺とイスカル、デスターニャの3人は馬車に揺られてウーレイスに帰っていた

 ん?トメスとミルルカ?置いてきたよ

 あいつ等領都の警備兵からスカウトされたからそのまま就職させてきた

 ミルルカはまた捨てられる子犬のような目をしていたけど、内部事情を知れるのは都合が良いって言ったら納得してたよ

 まあトメスが一緒なら大丈夫だろ……あいつらデキてるし


 ……?何で知ってるのかって?

 ……いやーあんな告白見たらこっちも妬けそうになるわ!!

 デスターニャがあきれた顔でこっちを見てくる位の告白だったからな……イスカルは声を出さず爆笑してたし


 まあ拠点となる物件は借りれたし、町の配置も大まかにわかった

 一旦報告に帰って商売の為の品物を積んだら今度は領都で工作活動だな……忙しいな


 俺は今後の活動について、帰ったらさらに詳細を詰めようと思った


 まあその前にやることがあるんだけど


「設置」 …………ガンッッッ ガシャーン!!

「こちらはお任せを」 ガスッ 「ギャァァァァァァ!!」 ゴロゴロゴロ


 俺達の後ろを走る馬車が横転し、何かが後ろに転がっていく音が聞こえた

 転がったのは馬車の床裏に張り付いていた人で、イスカルが針状にした糸を刺して落としたのだ

 

 俺達は馬車を停めて転がっていた人を素早く回収し、横転した馬車に向かった


「大丈夫ですか!?助けは必要ですか!?」


 横転した馬車に呼びかけると、中から商人らしき服装をした恰幅の良い人が転がり出てきた


「いててて……すみません馬車が何かに躓いて横転してしまったみたいで。ああっ、この状態では馬車を起こすのは無理そうですね……申し訳ないですが最寄りの村まで乗せて貰えませんか?」

「あっ、ここの大きな石に乗り上げたみたいですね……災難でしたね。構いませんよ、お1人ですか?」

「いえ、護衛が2人いるのですが……ああっ出てきました。2人とも、こちらの方々が近くの村まで乗せてくれるそうだ。礼を言いなさい」


 恰幅の良い商人がそう言うと、護衛の2人は口々にお礼を言った


 俺達は3人を連れて馬車に向かい、ドアを開けて3人に中を見せた途端……馬車に張り付いていた人が縛られて転がされているのを見て顔色を変えたのを見逃さず、3人を気絶させ縛り上げた


「手を出して良かったのですか隊長殿?」

「付いてこられて隠れられたら探すのがめんどくさいからね」

「それにしても同じ手口を使うとは伯爵の暗部もあまり楽しめなさそうです」

「……何か言いたいことがあるのですか?イスカル」

「いえいえ♪」

「はいはい2人ともじゃれあわないじゃれあわない……1週間気づいても気づかないふりしてきたんだから油断してたんでしょ。それにこれが暗部の上澄みとは思わないしね」


 それにはイスカルもデスターニャも同意だった


 そうトウヤたちは伯爵の領都に入ってから1週間この暗部の者達に見張られていたのだった

 だが領都に着いた日の夜には見張っている暗部の人の数をトウヤたちは把握していた

 また伯爵領から帰る際に、後ろから馬車で追いかけてきているのと、床下に張り付いているのも気づいていた

 気づいていてタイミングを見計らっていたのである


「まあ下っ端だと思うからあんまり情報持ってないと思うけど、帰ったら色々吐いて貰おうか。1人余るけど誰が担当する?」

「イスカルに」「デスターニャ殿に」「「任せたいと思います」」「……」「おやおや」

「……実は2人とも仲良い「「違います」」……だろ。じゃあ俺がこの恰幅が良い奴で、デスターニャがそこの護衛っぽいの、で残り2人をイスカルな」

「承知しました」「おやおやっ……承知しました隊長」


 こうして俺達は思わぬお土産を手に入れ、ウーレイスに帰るのであった


 ミルルカとトメス上手くやってくれるといいな~


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