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異世界戦論  作者: kiruke
2章 争乱の時
30/38

30話 伯爵領

 ガラガラガラ ガラガラガラ


 馬車は軽やかな音をたてながら道を走って行く


「んぅぅぅぅぅん…偶にはこうして馬車に乗るのも悪くないですね」


 先日スカウトした暗殺者のイスカルが馬車の窓を開け、気持ちよさそうにあくびをしている


 ガクガクガク「…何でこの人がここに?」

「どうしたミルルカ?顔色が悪いし汗もひどいぞ」

「トメス…【線の死神】って名前聞いたこと無いか?」

「【線の死神】と言えば目を付けられた奴は線が走るように斬殺されるって噂の暗殺者だろ。それがどうした?」

「ここに居るこの人がその線の死神だ」


 ミルルカがイスカルの方を向くのと同時にイスカルは笑いながら手を振っている

 その姿からは考えられない話だが、元とは言え総大将を務めた男…トメスはイスカルを全体視しその雰囲気に見合わない底知れなさを感じ取った


「んふっふ…トウヤ隊長、貴方の部隊はなかなか面白い人達が集まっていますねぇ」

「その面白いの枠にイスカルも入るんだけどな。それより【線の死神】なんて呼ばれ方してたのか」

「私の武器(えもの)はこれですから」


 そう言ってイスカルは懐から黒い糸を束ねたものを取り出した


「私のスキルは【糸操作】このように糸状の物なら好きなように動かす事ができます。こんな感じで」 ヒュン


 イスカルが手を軽く振るとトウヤが手に持っていた木のカップが真っ二つに切断された

 それと同時にデスターニャがナイフをイスカルに向けようとしていたが、その手は糸に捕らわれイスカルに届かなかった


「おおっさすが暗部に居た方だ…こわいこわい」

「…貶されているようにしか聞こえませんよ」


 デスターニャとイスカルの仲が険悪になりそうだったのでトウヤは間に入った


「はいはい喧嘩しないの。デスターニャ伯爵領には後どれくらいで着く?」

「見える景色からですと残り3分の1といった所でしょうか。門が閉まる時間までに入るのは厳しそうですので今日は門の外で1泊することになると思います」

「そうか。だったら門に着いたら明日からの行動の打ち合わせをしよう。それまで体を休めておけよ…後デスターニャとイスカルは思う所があるだろうけど今は同じ部隊なんだから怪我するような事するなよ」


「「はっ承知しました!!」」「…承知致しました」「ふっふ…かしこまりました隊長」


 …返事は素直なんだけどな~


 俺は少し不安を覚えながら全員を見ていた

 これといった問題が起こることは無かったがやはり全員個性が強いので寄せ集めた感じが強く、今後どう改善するか考えているうちに伯爵領の門の前に着いた


「着いたか…かなり警備が多いな。これが通常の警備なのか?」

「いえ、以前リリアム様と来た際にはもう少し少なかったように思いますが…」

「私が来た時もここまででは無かったぞ」


 デスターニャとミルルカがそう言うなら警戒レベルが上がっているんだろうな

 …俺、いや転移魔法使いを警戒してるってわけか


 伯爵領に入るための門は俺達の目の前に3つあり、門の上では見張りが弛みなく見張っていて、門の前には10人前後の衛兵が待機している


 俺達は商会長の馬車に乗ってきたので、同じような馬車が集まっている場所に移動し馬車を停めた

 周りを見渡すと商人たちが露店を開いており、他の入場待ちの者に商売をしていた


「デスターニャ…頼む」

「はい…これで音は外に漏れません」

「おおっさすが音魔法を使うと右に出る者は居ないと言われるだけありますね。発動が一切わからなかったです」

「…ありがとうございます」

「よし、じゃあ打ち合わせを始めるぞ。まずは伯爵領についてだ…トメスきちんと覚えて来たか?」


 俺がトメスを指名するとトメスは一瞬ビクついたが伯爵領についての説明を始めた


【ノープレス】

 人口 約3万人

 徴収可能人数 1万(そのうち軍8千) 内訳 重装歩兵5千 長槍兵2千500 補給部隊2千 魔法士500

 主な種族割合 人8 土小人(ドワーフ)


 領地概要:領主 ベルカイン・ルーフス

 特徴はその立地で南部から王都に行くには伯爵領を通るしかない。また付近の公爵侯爵領とも繋がっているため交通の要である。そのため商売人と職人が多い。

 自前の軍は重装魔法兵団で、重装兵に防御魔法をかけ続け行進するという単純なものだが、それゆえ隙が少なく防御面では王国最強とも言われている。


「よし、ちゃんと覚えてるな。戦いってのはただ正面から殴り合うだけじゃない、情報戦や商業戦も戦いだ。俺の国の言葉に、【彼を知り、己を知れば百戦殆からず】という言葉がある。敵を知らずに戦う事ほど怖いものは無いから俺は下調べに時間をかける」

「おぉ!【彼を知り、己を知れば百戦殆からず】ですか!!その言葉が出るまでにどれだけの経験を重ねればこのような言葉が出るのか…そしてこのような言葉がある国から来られた隊長…実に興味深い!!」


 俺は少ししまったと思ったが顔に出さなかった

 事情を知っているデスターニャ、何も気づかないミルルカやトメスと違いイスカルは気づく可能性が高い相手である


 イスカルは確かに部隊に所属しているがその本質は楽しいか楽しくないかの快楽で動く

 そんな相手の興味を引く内容をうかつに話してしまった

 だが話してしまったものは仕方ない…俺はそのまま進める事にした


「さて本題に戻るけど、今回の俺達の目的は情報収集…これが最優先事項だ。滞在期間は1週間。1週間がたったら一度領地に戻って準備してから今度は工作の長期任務となる」

「ふむ…私が伯爵の首を持ってくれば直ぐに終わるのでは?」


 イスカルが気軽に言ったのでトメスとミルルカは目を丸く見開いていた


「それは一番ダメだな。暗殺は確かに手軽に成果をあげられるけど、相手に口実を与えるきっかけにもなる。今回考えられる一番最悪の事態は国、若しくは商人連合が本腰を入れて介入してくる事だ。たとえ教会が後ろ盾についたとはいえ領主を暗殺した容疑のある相手を庇う事はできない。そうなったら終わりだから時間をかけて相手が動かざるを得ない…相手に非を作ってこちらに大義名分を作る必要があるんだ」


 俺の説明にイスカルは不満げな…しかし楽しそうな表情をし、デスターニャやトメス、ミルルカは感心と納得の混じった顔をしていた


「じゃあ今回は2手に別れて行動するからその組み合わせだけど、俺、デスターニャ、イスカルの3人とトメスとミルルカの2人で別ける…ってそんな捨て駒にされたみたいな顔をするなよミルルカ。ちゃんと事情があるんだ」


 ミルルカが捨てられた子犬のような顔をしだしたので慌てて説明をした


「俺とデスターニャ、イスカルは商会のバカ息子とその嫁と執事を演じて次回の拠点となる場所を借りに行く…つまり派手に動くから目を付けられやすく戦闘能力が必要だからこの組み合わせにしたんだ。そしてミルルカとトメスはバカ息子に振り回されて不満の溜まった護衛を演じて欲しい」

「護衛はわかるんだがどうして不満が溜まった護衛何だ?」

「その方がお前達が同情をかって受け入れて貰えるからだな。人は相手が哀れだと思うと下に見て油断してくれる。そうして油断した相手から情報を仕入れて欲しい。何なら伯爵の領地で雇われてそのまま裏切ってもいいぞ笑」

「「隊長を敵に回したくないので裏切りません!!」」


 冗談で言ったのに真剣に返されちゃったよ…と言うよりどれだけ怖がられてるんだ俺


 まあいっか…とりあえず目標は伝えられたし後は任せよう。部下を信じるのも大事だからな


「よしじゃあこれより作戦に取り掛かる。行動期間は1週間。その間戦闘行為はこちらから仕掛ける事の無いように…特にイスカル」

「承知しました隊長♪」

「……それと緊急事態の時の行動だが、作戦が失敗したと思い次第伯爵領を迅速に撤退する。俺が陽動をかけるからデスターニャかイスカルがミルルカとトメスを連れて脱出してくれ」

「隊長自らが陽動なんて!!捨て駒になるなら俺が…」

「俺で良いんだよ。トメスやミルルカだと無駄死にになりかねないし、デスターニャとイスカルは陽動できる程の範囲技を持っていない。俺が一番適任だし生存率が高い…全員に言っておくが俺は作戦行動に関しては適任で選ぶ。そこに例外はないからそれは覚えておいてくれ」


 ミルルカとトメスは驚きながら返事を返し、デスターニャは嫌々、イスカルはウキウキで返事を返して来た


 デスターニャが感情で動くかもしれないのが心配だな


 俺はそう思ったがデスターニャならわかってくれるだろうと何も言わなかった


 打ち合わせを終え、俺達は他の商人達と交流を図りながら情報を集め門が開くのを待った


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