27話 教会の性騎士団長と聖女
「ふんふふ~ん♪」
俺はこの町に来てから機嫌が良かった
何故なら誰の目も気にすることなく夜の街に繰り出せるからだ!!
「今日もあの子を指名かな…いや偶には趣向を変えて全身モフモフを可愛がるか?」
この男…紛れもなく性騎士である
「決めた!今日もあの子を可愛がろう!」
こうして男はすでに馴染みとなった店に向かった
~ 待合酒場 一夜城 ~
「いらっしゃいませ。あら連日のご来店ありがとうございます」
黒髪ロングでスリットの入ったドレスを着た淫魔が俺を出迎えてくれた
「今日もレオラちゃん空いてる?」
「レオラですね。確認しますので少々お待ちくださいませ」
そう言って受付の淫魔は確認しに奥に入って行った
「お待たせ致しました。レオラでしたら今日は予定が入っていないので案内できますよ」
「じゃあ案内して貰っていい?あっ先払いだったよな」
そう言って俺は金貨1枚を取り出した
この金貨1枚で一般的な庶民1人が半年食べ物に困らない
それを一晩で使おうと言うのである
「ありがとうございます。ではこちらにどうぞ」
そう言って俺は奥の部屋に通された
…………
「…連日通ってよく飽きないわ」
部屋に入るなりそう声をかけられた
「それだけ君が魅力的って事さ」
俺が返した言葉が気に入らなかったのかレオラちゃんはご機嫌ナナメだ
「連日負け続ける淫魔を笑いに来てるようにしか思えないわね」
「そんな事ないぜ。そんな君も魅力的だと思ってる…うぉっ」
俺はいつの間にか手を引かれソファに押し倒されていた
「今日こそ淫魔としての威厳を見せてあげるわ」
「ははは…そりゃ怖いな…」
そう言いながら俺はレオラちゃんを迎え撃つ体制を整えた
………
「あら、今日もお見送りできないみたいですね。申し訳ございません」
受付の淫魔がそう俺に頭を下げた
「いやいや…結構無理させたかもしれないのでゆっくり休ませてあげてください」
「いえ、淫魔がお客様を最後までおもてなしできないのは威厳に関わりますから。そうですわ!連日来て頂いてますのでこちらをどうぞ。またあの子に会いに来てあげてください」
そう言って受付の淫魔は封筒を俺に手渡し、深々と頭を下げた
店に入った時は夜だったがもう朝だ
時間が経つのが早く感じる
「くぅぅぅ…朝日が目に来るぜ。といっけね、こんなに女の匂いを付けてたらまた小言を言われちまう。清掃っと…これで良し。後はこの封筒を処分したら…」
俺は封筒を開けて中身を確認した
「…やっとかい。なかなか遅かったじゃねぇか」
俺は封筒を手のひらで燃やし、根城にしている宿に戻った
~領主の館 謁見の間~
「此度はご足労頂きありがとうございます」
リリアム様が迎え入れた客人に頭を下げた
「いや、勝手に来て何の挨拶もしてなかったのはこっちだ。気にせんでくれ」
そう言ったのは何処か軽薄そうな…しかし油断できない空気を纏った中年位の男だった
あれが聖騎士団の団長か…
俺は聖騎士団団長がこの部屋に入って来た時から警戒の度合いを1段階引き上げていた
その風貌は軽く見えるが、その目は俺達と同類…人殺しの目をしていたからだ
そしてもう1人…聖騎士団長の後ろに居る少女にも俺は恐怖を感じていた
そう、この感じは新兵が狙撃手に出会ってしまった…そんな勝ち目がない感覚だ
「そして貴方様程のお方の前でこのようにお話させて頂く事をお許しください…聖女様」
「問題ない。勝手に来たのは私達」
…なるほど。あれが聖女か
何て言うか…すごく幼いな
聖女は銀髪の短い髪がうっすらと目元にかかった華奢な少女だった
俺が聖女を眺めていると聖女がこちらを向いて目が合った
その瞬間…俺の時が止まった
『トウヤ…聞こえる?』
ッッッ!!
急に俺の頭の中で声がしたので俺は驚いて声が出そうになったが何とか堪えた
『聞こえるなら返事』
『これでいいのか?』
『それでいい』
返事をしろと言われたので適当にやってみたのだがこれで良かったみたいだ
『どうして俺の名前を知っている?』
『女神様から聞いた。トウヤに女神様から言伝』
『女神様?それに言伝?』
『そう。言伝はこう。『何時か貴方に会えるのをお待ちしております』…終了』
『待ってくれ…それだけか?』
『それだけ』
『わかった、ありがとう』
『ん。そろそろ大詰め』
俺はそう聖女に言われて意識をリリアム様と聖騎士団長に戻した
「んーーーそう言われてもな、俺だけの判断で回答することはできないんだよな」
「…教皇様の承諾が必要なのは理解しております。ですがこれ以上争いの火種を大きくしたくないのです」
「…それはそちらさんの都合だろ。教会には関係ない話だ」
話し合いはこちらが終始不利で進んでいる
それもそうだ、こちらから声をかけると言うことはかなりまずい状況だという事。わざわざ自分から火種を抱え込もうとする奴はいない
そんな状況でも相手を引き付けようとするならば、デメリットを大きく上回るメリットを相手に見せるしか方法は無い…と思うだろうが、交渉の方法はそれだけじゃない
「では我々がそちらの派閥を支援するという話は教皇様のお伺いを得てからでも構いません…そちらの聖女様に我が家臣を見て頂く…という件はいかがでしょうか?」
そう、最初に相手が飲みにくい要求をして次に飲みやすい要求をする…ドアインザフェイスって奴だな
「それも無しだ」
…ちっやっぱり食えない男だぜ
「理由をお伺いしてもよろしいですか?」
リリアム様が聖騎士団長にそう尋ねた
「そこの家臣さんについては色んな話が聞こえてきてね…絶賛渦中の人物だ。大方聖女様に見て貰って転移魔法使いじゃないって言わせたいんだろうが、それをしちまうと俺達が完全に巻き込まれちまう。そんな真似はできねぇよ」
そこまで調べがついていたか
侮っては居なかったが、そんな情報を仕入れている素振りは見えなかった
つまりこの領内に俺達が知らない情報源が隠れているって事か…無事に切り抜けられたら探してみるか
俺がリリアム様を見るとリリアム様は最後の望みも無くなったかと肩を落としている
周りの家臣も同じ気持ちを隠せないみたいだ
聖騎士団長からはもう話は終わりか?と言いたそうな顔が見て取れる
何か逆転の一手を…聖女でも人質に取るか?
俺はそう思って聖女を見た…ら目が合った
聖女はこくんと頷くと口を開いた
「2割、余剰食糧の2割」
その声はこの場の空気を一変するような、そんな声が響き渡った
「聖女ッッ!それは!!」
どうやら予想外のようで聖騎士団長も焦っている
「どうする?」
「余剰食糧の2割で家臣を見て頂けるのですね」
リリアム様がネリウスにアイコンタクトを取り、ネリウスも答えた
「成立。じゃあ見る」
「まて!聖女タリア…その勝手な行動がどうなるのかわかって言ってるのか!?」
「理解。けど今冬厳しい。死者たくさん。…寒くて満たされないのは辛い」
…つまり今年の冬が厳しくて死者が増えるから食料が必要って事か
「…神託か。だがその結果貴族の争いに巻き込まれて国王一派と敵対したらどうなる?王国からの支援が無ければそれこそ死者が増えるぞ!」
「国王大丈夫。手出し不可」
「なっ…」
聖騎士団長と俺達は聖女の言葉に驚きを隠せなかった
「トウヤ、来て」
俺は聖女に呼ばれるまま聖女の前に出た
【我見るはその者の魂 我聞くはその者の心の声 この目に映りし者の魂の力を 我が前に表し給え】
聖女の前に導きの水鏡で見る俺の内容が表示された
【トラップエンジニアLV.2】
【LV.2 設置 時限 解除 発動が可能。 使用可能距離3㎞ 設置後起動最大時間1時間 最大設置数10】
【死神】
【その者は魂を集め力を増す】
さっき水鏡で見た内容とは違う能力が増えていた
「トウヤ転移魔法使い、違う」
その言葉にこの場に居た一同から歓声のような声があがった
「トウヤ…これで…これで」
リリアム様は歓喜がこみ上げてくるのか声が震えている
「はぁ…聖女ちゃん。まぁやっちまったものは仕方ないか。教皇様にフォローしてよ」
聖騎士団長は何処か諦めた様子だ
「トウヤ神託、やっぱり」
聖女様は神託と言っているが何のことかわからない
けど、これで最初の関門クリア…だな
俺はどこかほっとした気分になった
これで伯爵に対してやり返せる目途が立ったからである
「…さて、反撃と行こうか」
俺はこの領地に、大切な人達に敵意を向けた事を後悔させてやると心の火をたぎらせた